【東本貢司のFCUK!】プライド、プライド、プライド

2015.11.05 13:00 Thu
▽チェルシーは踏みとどまった。もしくは「胸をなでおろした」。いや、モウリーニョが、と言うべきか。チャンピオンズリーグ・グループGの第4戦。ここでのドローと勝利には雲泥の差があった。なにしろ舞台は“聖地”スタンフォード・ブリッジなのだ。おそらく、もし仮に星を落とすような事態を迎えていたら、アブラモヴィッチ・オーナーの心の支柱もさすがにぐらっと揺れていたことだろう。そして、もしもこの週末のリーグ戦・対ストークが、スタンドのどこかで「スペシャル・ワン」が見守る中、再び(リーグカップ戦に続いて)好まざる結果に堕してしまおうものなら、ジョゼ・モウリーニョの姿をブルーズベンチで見ることは二度と叶わなくなっていた……かもしれない。このディナモ・キエフ戦直前まで、“暗黙の必然”がブリッジ周辺を飛び交っていたのだ。「あと2試合の命」。

▽もちろん、それが単なる噂、風聞だとしても、針のむしろの、綱渡りの日々はまだまだ終わらないだろう。「あと2試合」の十字架は(多分)今後もしばらくは下ろされそうにない。やや干され気味で来たジョン・テリーでさえ、遠く大西洋の彼方にいるフランク・ランパードですら「モウリーニョの他に(チェルシーの、ディフェンディングチャンピオンの威厳を守り、指揮し得る者が)誰がいる?」と主張する。ほぼすべての“同業者”および元プレーヤーの評論筋からも、同じ意見しか聞こえてこない。例えば「チェルシーのプレーヤーたちが監督のために戦っている気が感じられない」という一部メディアの“感想”ごときを真に受ける者がどこにいるというのか。「火のない所に……」とは言えど、ファブレガスが反モウリーニョの旗を振っているというストーリー(本人は否定)も(愚痴の一つや二つは垂れたとしても)真実味は薄い。生命線は唯一“本人”のプライドなのだ。

▽“傍観者”たちが無責任で気軽に“一線を越える”のは世の常。それも“彼ら”が自任する仕事の一部なのだから。肝心なのは、そういう減らず口(あえてこの表現を使う)に、内実を知る由もない人々が引きずられないこと。むしろ感じ入るべきは、ロビー・サヴェイジの揶揄に真っ向から怒りを表明したテリーのハートだ。繰り返すが、モウリーニョからはもはや絶対戦力に数えられていない節が見えるテリーの、だ。彼はサヴェイジに対してこう呼びかけた。「大昔のリーグカップ(レスター時代)一つっきりしかないあんたに言われたってそれが一体どうした。これがリオ(ファーディナンド)やジェイミー(カラガー)やギャリー(ネヴィル)の言葉なら、わたしだって少しは耳を傾けるだろうよ。大きなお世話だ」。正直、テリーを見直したね。個人的にサヴェイジの忌憚の無さは好ましく思うことも多いのだが、今回は少々心情的にも一線を越えてしまった。反省すべし。
▽ともあれ、今はプライドとプライドが燃え尽きそうなほど熱く戦っている―――それがチェルシーの現状だと理解したい。モウリーニョのプライド、テリー以下ベテランたちのプライド、それに負けてはならじと目の色を変えている(はずの)アザールやファブレガスらのプライド。そんなの、今時流行らないよな、とあらぬ方角にそっぽを向く者は(そんな輩がいるとしたらだが)とっとと去ればよい。むしろ、かつてなく団結に向かういい機会だ。ディナモ・キエフ戦では特にウィランがプライドを見せつけた。逆境の最中だからこそ、プロのプライドはメラメラと燃え上がり、何等かの成果をもたらすのだ。自ら「わたし以外に誰がいる?」と豪語するモウリーニョは、紛れもなく「それ」を待っている。お断りしておくが、筆者はどちらかというとチェルシーに“肩入れしない派”の一人。そんな輩が、なぜか今のモウリーニョ・チェルシーに大逆襲を期待したくなってしまうのだ。ひねくれた判官びいき? う~ん、ラグビーのワールドカップに少々はまりすぎたせいか?

▽それに引き換え、アーセナルには少々がっかりした。アウェイだからこその意地の見せどころを期待していたのに負け方がひどすぎやしないか。ガナーズファンの中には、久方ぶりのリーグ優勝が見えてきたからには、リーグカップに続いてこの際チャンピオンズも捨てた方が、とか何とかの考え方もあるというが、さすがにいかがなものか。おっと、こんなことを言うと、それこそ無責任だ何だのお咎めを返されれちゃうかも? でも、妙な計算ずくだけはよした方がいい。好事魔多し。歴史は繰り返す。捨て試合気分(?)がその後徐々に歯車を狂わせ、結局何も得られず終いってことは、過去に嫌と言うほど見て来た。過酷なスケジュールという根本的な問題もあるとはいえ、ゆめゆめ手抜きなど無きように。プライドの在り方を忘れちゃ、ファンの心もいずれは深いところで傷つきかねない……。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly