【日本サッカー見聞録】FIFA会長選の顔ぶれと本命

2015.10.29 20:30 Thu
▽FIFA(国際サッカー連盟)は10月28日、来年の2月26日に実施する会長選挙の立候補に7人の届け出であったことを公表した。今後はFIFAの倫理委員会などの資格審査をクリアすれば、正式な立候補者として認められる。

▽立候補したのは、AFC(アジアサッカー連盟)会長(兼FIFA副会長)のサルマン氏(バーレーン/49歳)、UEFA会長のプラティニ氏(フランス/60歳)、FIFA副会長で、今年5月の会長選ではブラッター氏に敗れたアリ王子(ヨルダン/39歳)、UEFA事務局長でFIFA改革委員会のメンバーでもあるインファンティノ氏(スイス/45歳)、2002年から2005年までFIFAの副事務総長を務めたシャンパーニュ氏(フランス/57歳)、ダイヤモンド産業の実業家で反アパルトヘイトの活動家だったセシュワレイ氏(南アフリカ/62歳)、リベリアサッカー協会のビリティ会長(リベリア/48歳)の7名だ。

▽何もなければプラティニ会長が誕生していたことだろう。しかし同氏は2011年にブラッター会長から200万スイスフラン(約2億4800万円)の報酬を受け取ったことで、倫理委員会から90日間の暫定活動停止処分を受けているため、資格審査で処分が解けなければ候補者として認められない。
▽この報酬、表向きは1999年から2002年にかけて務めたFIFAのコンサルタント料ということだが、9年後に支払われたことに疑惑が持たれている。2011年はプラティニ氏がFIFAの会長選への出馬を取りやめた年でもある。その結果、ブラッター会長はUEFAの支援を受け、無投票で4選を果たした。立候補取りやめの見返りと見る方が自然だろう。

▽では、いったい誰が有力候補となるのだろうか。これまでアジア人が、国際的な主要スポーツ団体の会長になった例はない。IOC(国際オリンピック委員会)で韓国の金雲龍氏(ソウル五輪を招致した立役者)が副会長まで上り詰めたが、2001年に会長選に立候補してサマランチ会長に敗れた後は、2005年に自国での公金横領が発覚して有罪判決を受けたため、IOCは5月の総会で永久追放を決めた。
▽近いところではAFC会長でFIFA理事でもあったカタールのハマム氏が2011年の会長選に立候補したものの、2022年のW杯招致における買収疑惑を暴露されたため立候補を断念。その後は永久活動停止処分を受けている。

▽やはりIOCやFIFA、国際陸連といったスポーツ団体のトップに立つには、アジア人にはかなり高いハードルが待ち構えているのではないだろうか。極論すれば“白人優位主義”とも言える。その観点に立てば、南アのセシュワレイ氏、リベリアのビリティ氏も、過去の実績からも厳しいだろう。

▽残る候補者はインファンティノ氏とシャンパーニュ氏しかいなくなる。1980年代から90年代にかけてFIFAの広報部長にイタリア人のグィド・トニョーニという人物がいた。彼は親日家でもあったが、その理由はキヤノンやフジフィルム、JVCといった日本企業がW杯のスポンサーを務めて財政的に支えてきたことを知っていたからだった。

▽そのトニョーニ氏が当時のブラッター事務局長によってFIFAから追い出された。アベランジェFIFA会長と、ヨハンソンUEFA会長が激しく争っていたため、アベランジェ派につくことを執拗に要求されたものの、トニョーニ氏は中立を保っていたため、疑心暗鬼にかられたブラッター事務局長が追い出したのだ。

▽リベリアのビリティ氏が「サッカーを変えていくならば、ここ20~25年間でFIFAにかかわった人は無関係であるべき」という主張も、あながち的外れではない。ブラッター会長に対する“イエスマン”しか現在のFIFAには残っていない可能性もあるからだ。そうなると、1999年からFIFAの国際関係部門の理事も務めていたシャンパーニュ氏もブラッター派の可能性は捨てきれない。

▽結果として消去法で残ったのは2000年にUEFAの弁護団に加わり、2009年から事務局長を務めているインファンティノ氏ということになる。まだ45歳の若さで、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語の5カ国語を流暢に話せるというから驚きだ。


【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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