【東本貢司のFCUK!】リーグカップ異変、それよりも
2015.10.29 12:50 Thu
▽昨シーズンのトップ4+リヴァプールがここまで勝ち残っていた“異変”も、準々決勝前であえなくメッキが剥げてしまった。最近絶好調のはずのアーセナルが2部シェフィールド・ウェンズデイによもやの完敗、ディフェンディングチャンピオンのチェルシーも昨今の不振を引きずるようにPK戦でストークに敗退・・・・。さらに翌日、マンチェスター・ユナイテッドもミドゥルズブラの頑強な抵抗に遭い、同じくPK戦を強いられて姿を消してしまうとは・・・・。レスターもスティーヴ・ブルース率いるハルの前にPK戦負け。お馴染み「(岡崎と代わり後半半ば登場の)ヴァーディー・マジック」もここでは不発に終わった。これで、現プレミア・ランキング上位7チーム中、残ったのは阿漕なほど(?)クリスタル・パレスを一蹴した首位マン・シティーのみ。ちなみにウェンズデイとミドゥルズブラは昨季のカップ戦でも波乱を演出した“常連”。改めて存在感を示した。
▽リーグカップ(正式名はスポンサー名を戴いて「キャピタル・ワン・カップ」)が生半では行かない状況はもはや定番となった感がある。もっとも考えようによっては、ここ数シーズンのプレミア昇格組の顕著な活躍ぶりからしてそれも必然と言うべきかもしれない。プレミア上位陣が若干なりとも「戦力を落として賄う」という目論見は、どうやらギャンブル同然になってしまったようだ。つまり“ジャイアントキリング”なる決まり文句も、もはや取ってつけの修飾語に落ちぶれたわけだ。言い換えれば、日ごろの準レギュラーに実戦のチャンスを、などという生ぬるい発想では立ち行かない。言い換えれば、少なくとも2部のレベルはそれを越えたものになっている。おそらくは、ただでさえ「冬休み」がない過酷なスケジュールへの是正案がまたぞろ飛び交うだろうし、突き詰めればチャンピオンズも抱える上位陣が「戦力を蓄えすぎる」いびつな実状にもメスが入る可能性も?
▽だがここでは、そんなことよりも、折しも来年2月末に行われるFIFA会長選挙出馬が締め切られたこの週半ば、ゆゆしき“事実”が公になった問題に触れておかねばならないだろう。すなわち(一応は現職の)FIFA会長ジョーゼフ・ブラッターの口から明らかにされた爆弾告白―――「2018年のロシア開催は投票前から決まっていた」! 要するに、そうなるべく根回しは済んでいたというのである。さらにブラッター曰く「その次(の2022年)はアメリカ開催で事実上了解済み」だったという。それが後に「ヨーロッパの4協会が考え直した」結果、カタールに行ったのだ、と。そう、やはり、限りなく出来レースだったということだ。改めて此度のブラッター暴露語録をおさらいしておくと「ロシアの2018年は“鉄板”事項だった」「イングランドの落選は同国メディアのFIFA批判が仇となった」・・・・。しかし、それにしてもなぜ今になって? という疑問についてのヒントは「UEFAが推すジャンニ・インファンティーノはほとんどの国から嫌われている」!
▽インファンティーノ氏とは現FIFA倫理委員会の事実上のボスで、今回の立候補者の一人であり、ブラッターの示唆によると「UEFAのスパイ」なのだという。このままではFIFAはUEFAに乗っ取られてしまう―――という危機感が、主に非ヨーロッパ協会の間で膨れ上がっているんだとか。そんな辺りから、ブラッターがUEFA会長ミシェル・プラティニに(アドバイザー料の名目で)贈与したという巨額も、牽制のワイロの意味があったのではという声もある。さて一方、「ロシアで申し合わせ済み」の話を聞いたFA(イングランド協会)は当然、激怒して公訴まで視野に入れている。投票前に「それなりにカネをかければ(イングランドの)当選確率は“当確”クラスまでぐんと上がる」と、FIFA運営筋の数名から耳打ちされていた“事実”を盾に取って「そのカネ(国民の血税250万を含む、公称2100万ポンド)の返還請求を訴える」(現FAチェアマン、グレグ・ダイク)ことまで考えているらしい。
▽もう一度整理してみよう。一連の“陰謀”というよりも“暗闘”の経緯には、三つの対立構造があった。イングランド対ロシア、アメリカ対カタール、そして最も深刻で、かつすべての混乱を引き起こした元凶―――FIFA対UEFA。ブラッターは言う。「UEFAはFIFAを蝕むウィルス」なのだ、と。だとすれば、FBIの捜査に拍車がかかったその過程で、誰が何を目論んだ上での「リーク」があったのかという想像がにわかに現実味を帯びてくる。そして、ここまでの事態になってしまうほどのスキがそこかしこにあり、結果的に、多くのワルどもが(事が露見してにっちもさっちも行かなくなる前に)自分たちの懐を潤わせるだけのために勝手気ままに跋扈した―――ということなのだろう。恐ろしい腐敗、信じがたいほどのフットボールファンへの背信。さて、来年2月末に決まるFIFA新チェアマンの肩にかかる使命はさても重く、厄介この上ないことになるのだが・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽リーグカップ(正式名はスポンサー名を戴いて「キャピタル・ワン・カップ」)が生半では行かない状況はもはや定番となった感がある。もっとも考えようによっては、ここ数シーズンのプレミア昇格組の顕著な活躍ぶりからしてそれも必然と言うべきかもしれない。プレミア上位陣が若干なりとも「戦力を落として賄う」という目論見は、どうやらギャンブル同然になってしまったようだ。つまり“ジャイアントキリング”なる決まり文句も、もはや取ってつけの修飾語に落ちぶれたわけだ。言い換えれば、日ごろの準レギュラーに実戦のチャンスを、などという生ぬるい発想では立ち行かない。言い換えれば、少なくとも2部のレベルはそれを越えたものになっている。おそらくは、ただでさえ「冬休み」がない過酷なスケジュールへの是正案がまたぞろ飛び交うだろうし、突き詰めればチャンピオンズも抱える上位陣が「戦力を蓄えすぎる」いびつな実状にもメスが入る可能性も?
▽だがここでは、そんなことよりも、折しも来年2月末に行われるFIFA会長選挙出馬が締め切られたこの週半ば、ゆゆしき“事実”が公になった問題に触れておかねばならないだろう。すなわち(一応は現職の)FIFA会長ジョーゼフ・ブラッターの口から明らかにされた爆弾告白―――「2018年のロシア開催は投票前から決まっていた」! 要するに、そうなるべく根回しは済んでいたというのである。さらにブラッター曰く「その次(の2022年)はアメリカ開催で事実上了解済み」だったという。それが後に「ヨーロッパの4協会が考え直した」結果、カタールに行ったのだ、と。そう、やはり、限りなく出来レースだったということだ。改めて此度のブラッター暴露語録をおさらいしておくと「ロシアの2018年は“鉄板”事項だった」「イングランドの落選は同国メディアのFIFA批判が仇となった」・・・・。しかし、それにしてもなぜ今になって? という疑問についてのヒントは「UEFAが推すジャンニ・インファンティーノはほとんどの国から嫌われている」!
▽もう一度整理してみよう。一連の“陰謀”というよりも“暗闘”の経緯には、三つの対立構造があった。イングランド対ロシア、アメリカ対カタール、そして最も深刻で、かつすべての混乱を引き起こした元凶―――FIFA対UEFA。ブラッターは言う。「UEFAはFIFAを蝕むウィルス」なのだ、と。だとすれば、FBIの捜査に拍車がかかったその過程で、誰が何を目論んだ上での「リーク」があったのかという想像がにわかに現実味を帯びてくる。そして、ここまでの事態になってしまうほどのスキがそこかしこにあり、結果的に、多くのワルどもが(事が露見してにっちもさっちも行かなくなる前に)自分たちの懐を潤わせるだけのために勝手気ままに跋扈した―――ということなのだろう。恐ろしい腐敗、信じがたいほどのフットボールファンへの背信。さて、来年2月末に決まるFIFA新チェアマンの肩にかかる使命はさても重く、厄介この上ないことになるのだが・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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