【東本貢司のFCUK!】信頼、チケット代、リーズ
2015.10.22 13:30 Thu
▽プレミア勢、チャンピオンズで相変わらずの苦戦中・・・・その中でアーセナルの快勝ぶりがひときわ目立つ。しかも相手は12連勝中のバイエルン。アーセン・ヴェンゲル曰く「この勝ちは信頼につながる。ファンもそう思ってくれただろう」。気持ちはわかるが、ちょっと待った。やっと3戦目での初勝利。先日のマン・ユナイテッドに快勝したことと併せ、のっていけると自信を深めたのだろうが、(あくまでも中立の観点から)手放しで有頂天にはなれない。なるほど、ウォルコットのワントップが当たり、調子を若干落としているといわれるジルーがサブで貴重な働きをする。シーズン前までは予想だにしなかったこの新機軸が確かにはまっているように見える。しかし、それ以上のオプションがない。「ストライカー補強をしなくて正解だった」とのヴァンゲル発言が場当たり的に、そして言い方は悪いが強がりにしか聞こえないとしたら? 「これからが正念場」こそ正解だろう。
▽それよりも気になるのが、エミレイツのチケット代に対するバイエルンファンのあからさまな“抗議”だ。わざとらしく「5分遅れ」でスタンドに入り、試合中も「Football is not worth a penny 」のバナーを掲げ続ける始末。直訳すれば「サッカーなんて一銭の価値もない」、穿って受け取れば「ファンをコケにするな」、ひいては「カネにあかせてチームを作るわりには勝てないくせに」? 少し前から、昨今のプレミアのチケット代高騰に新たな批判が集中している中、アーセナルの運営陣はどう思っただろうか。昨シーズン途中でもこのコラムで触れたが、エミレイツの入場料金はプレミア一、つまり世界一高い。ガナーズファンですら悲鳴を上げている。ふと、どこかの国の「株価高水準維持でリッチ層は潤うが庶民の生活は逆に苦しく・・・・」が頭をよぎる。庶民のための税政策、ファンのためのサービス観念を忘れたままでは「信頼」も何も絵に描いた餅になってしまわないか―――という問題提起を、図らずもアウェイの外国人ファンに突きつけられた格好である。
▽一方、ユナイテッドはアウェイでドロー、シティーはホームで終了間際の決勝ゴール。損得は微妙、心象はシティーに軍配―――だが、この両チーム、すぐの週末に今シーズン初のダービーマッチを控えている。移動無しのシティーとモスクワ帰りのユナイテッド。この図式は、ここで勝つか負けるかでちょっとした論議に発展すること必定。そのせいだろう、ファン・ハールは「これに勝ってこそ(我々は)真にタイトルコンテンダーとなる」と宣わった。それも、わざわざモスクワ遠征の前に。穿った見方をすれば、ファン・ハールはCSKA戦よりも「その先」に気持ちが向いていた・・・・あるいは、ホームにセヴィージャを迎えるシティーに“マインドゲーム”を仕掛けた、とも考えられる。だが、結果は終了間際のデ・ブルイネのゴールでシティーの劇的な勝利、一方のユナイテッドはまたも勝ち運に恵まれず・・・・。確かに“この状況”をひっくり返せば「ユナイテッドに利」だが?
▽ところで、引き続きはっきりしないチェルシー。攻めても攻めてもゴールが遠い。業を煮やしたか、モウリーニョはラグビーのオーストラリア-スコットランド戦まで引き合いに出した。「レフェリーのクレイグ・ジュベールはたった一つミスを犯した。それがスコットランドに苦杯を呑ませた。(ディナモ・キエフ戦の)レフェリーも同じだ。たった一つ、我が軍の明らかなPK獲得を見過ごすというミスを犯してくれた」―――つまり、ツキみ見放されていると言わんばかり。とはいえ、これはむしろモウリーニョ流の自信回復とも受け止められている。実際、内容は悪くなかった。パス回しは上々、ほとんど危なげなく、不安が絶えないディフェンスも安定(もっとも、キエフに“牙”が乏しかったという現実もあったが)。リーグ、チャンピオンズともに、今後取りこぼしが許されない厳しい状況ながら、上昇機運のふり幅では“楽観気味(?)”のアーセナルよりも上かもしれない。
▽話はガラリと変わって、ウーヴェ・ロスラー解任後の新監督スティーヴ・エヴァンズ率いるリーズ・ユナイテッドが、アウェイのフルアム戦でドロー・・・・のニューズが、ひときわフィーチャーされている。腐っても鯛、リーズは依然として“アイコン級”クラブとしてのステイタスを発散させているらしい。このエヴァンズ、実にアクの強い性格として知られる男で、元カリアリの持ち主でイタリア人オーナーのマッシモ・チェリーニがいかにも好みそうな破天荒タイプ。このフルアム戦前もプレーヤーたちに「おれは金曜日までの契約だ。おれが嫌ならとっとと出て行くがいい」とまで宣ったとか。果たして、クレイヴン・コテージに馳せ参じたリーズファンの数、5千強。それはもう恐ろしく盛り上がってやんやの大喝采だったという。わずか2年弱のチェリーニ体制下で6人目の監督となった“荒くれ”エヴァンズ閣下。大口だけの食わせ者だったな、で終わることだけはないように。間違って(?)リーズがプレミアに昇格した日にはモウリーニョとの舌戦が楽しみだぜよ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽それよりも気になるのが、エミレイツのチケット代に対するバイエルンファンのあからさまな“抗議”だ。わざとらしく「5分遅れ」でスタンドに入り、試合中も「Football is not worth a penny 」のバナーを掲げ続ける始末。直訳すれば「サッカーなんて一銭の価値もない」、穿って受け取れば「ファンをコケにするな」、ひいては「カネにあかせてチームを作るわりには勝てないくせに」? 少し前から、昨今のプレミアのチケット代高騰に新たな批判が集中している中、アーセナルの運営陣はどう思っただろうか。昨シーズン途中でもこのコラムで触れたが、エミレイツの入場料金はプレミア一、つまり世界一高い。ガナーズファンですら悲鳴を上げている。ふと、どこかの国の「株価高水準維持でリッチ層は潤うが庶民の生活は逆に苦しく・・・・」が頭をよぎる。庶民のための税政策、ファンのためのサービス観念を忘れたままでは「信頼」も何も絵に描いた餅になってしまわないか―――という問題提起を、図らずもアウェイの外国人ファンに突きつけられた格好である。
▽一方、ユナイテッドはアウェイでドロー、シティーはホームで終了間際の決勝ゴール。損得は微妙、心象はシティーに軍配―――だが、この両チーム、すぐの週末に今シーズン初のダービーマッチを控えている。移動無しのシティーとモスクワ帰りのユナイテッド。この図式は、ここで勝つか負けるかでちょっとした論議に発展すること必定。そのせいだろう、ファン・ハールは「これに勝ってこそ(我々は)真にタイトルコンテンダーとなる」と宣わった。それも、わざわざモスクワ遠征の前に。穿った見方をすれば、ファン・ハールはCSKA戦よりも「その先」に気持ちが向いていた・・・・あるいは、ホームにセヴィージャを迎えるシティーに“マインドゲーム”を仕掛けた、とも考えられる。だが、結果は終了間際のデ・ブルイネのゴールでシティーの劇的な勝利、一方のユナイテッドはまたも勝ち運に恵まれず・・・・。確かに“この状況”をひっくり返せば「ユナイテッドに利」だが?
▽話はガラリと変わって、ウーヴェ・ロスラー解任後の新監督スティーヴ・エヴァンズ率いるリーズ・ユナイテッドが、アウェイのフルアム戦でドロー・・・・のニューズが、ひときわフィーチャーされている。腐っても鯛、リーズは依然として“アイコン級”クラブとしてのステイタスを発散させているらしい。このエヴァンズ、実にアクの強い性格として知られる男で、元カリアリの持ち主でイタリア人オーナーのマッシモ・チェリーニがいかにも好みそうな破天荒タイプ。このフルアム戦前もプレーヤーたちに「おれは金曜日までの契約だ。おれが嫌ならとっとと出て行くがいい」とまで宣ったとか。果たして、クレイヴン・コテージに馳せ参じたリーズファンの数、5千強。それはもう恐ろしく盛り上がってやんやの大喝采だったという。わずか2年弱のチェリーニ体制下で6人目の監督となった“荒くれ”エヴァンズ閣下。大口だけの食わせ者だったな、で終わることだけはないように。間違って(?)リーズがプレミアに昇格した日にはモウリーニョとの舌戦が楽しみだぜよ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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