【東本貢司のFCUK!】何てたってウェールズが熱い

2015.10.15 12:44 Thu
▽明年フランスで行われるユーロ(ヨーロッパ選手権)本大会の予選が(プレーオフを除く)全日程が終了、アイスランド、アルバニア、北アイルランド、スロヴァキア、ウェールズの本大会初出場が確定した。この事実からしても今予選は接戦続きで、かつてなく各国代表チームの“格差”がはっきり縮まりつつあることを実感させた。例えばグループB。各チーム残り1試合となった時点で、ベルギーとウェールズの自動通過こそ決まっていたものの、最下位で勝ち点ゼロのアンドラ以外の3位ボスニア以下、イスラエル、キプロスまでプレーオフ出場の可能性を残していた。グループDではワールドチャンピオンのドイツがやっと最終戦でトップ通過にこぎ着けたが、グルジア改めジョージアに大苦戦した。グループAのオランダは、アイスランドに2敗するなどしてプレーオフ出場権すら逸した。

▽いや、そもそもいかなる“定番”の強豪とて額面通りの結果を残せるという保証はどこにもない。主力の故障、想定外の不振、自国リーグ/カップ戦およびチャンピオンズまで抱える過密日程など、不確定要素は常に存在し、ときに運をもたらし、ときに災いする。が、どうやらそんなサブテキストを抜きにしても、もはや「組合せの幸運」という言葉には現実感が伴わなくなりつつあるようだ。だとすればどうだろうか―――例えば、ヨーロッパフットボール全体のカレンダーを見直すべき頃合いなのかもしれない、あるいはもっと踏み込んで、クラブ間移籍システムの有意義な規制というものを真剣に考慮してしかるべきなのかも・・・・おっと、そこまでは代表戦レベルでの議論ではさすがに「オーヴァー・ザ・トップ(=行き過ぎ)」か。いずれにせよ“地殻変動”の兆しを感じずにはいられない。

▽さて、“我らが”ウェールズが史上、主要国際大会の本大会出場を果たしたのはこれで記録上「2度目」ということになる。しかし「予選を通過」しての出場は今回が「初めて」なのだと言ったら? 1958年のワールドカップ・スウェーデン大会、ウェールズは準々決勝にて後に優勝するブラジルに大善戦、惜しくも0-1で敗れたとはいえ、世界のファンをも騒がせた。それほどの話題の主になったのには訳がある。本大会に先立つ同予選グループにおいて、ウェールズはチェコスロヴァキア(当時)に次ぐ成績に終わり「落選」していた。それが一転“覆される”ことになったのには、当時のあるのっぴきならない国際情勢が絡んでいた。世にいう「スエズ紛争」である。すなわち、この動乱の影響でイスラエルと同じ組に入ったアラブ諸国代表などが試合をボイコット、イスラエルは「すべて不戦勝」で本大会出場を決めたのだったが・・・・そこで、FIFAが待ったをかけた。
▽「さすがに1試合も戦わずワールドカップ本大会出場とはいかがなものか」というわけで、FIFAはイスラエルに対して特例のプレーオフを申付けることにし、その相手に選ばれたのが他ならぬウェールズだったのだ。当初指名された(くじ引きで当たったという)のは奇しくも今予選でグループ首位を争ったベルギーだったが、なぜか辞退したという“強運”もあった。かくて、ジミー・マーフィー監督率いる誇り高きドラゴンズはホーム&アウェイともにイスラエルに完勝、史上初の晴れ舞台に名乗りを上げた。それは決して強運のなせる業でもなく、フロックでもなかった。本番では後に準優勝する開催国スウェーデン、ハンガリー、メキシコと引き分け、次いで同プレーオフで4年前に世界にその名をとどろかせた「マジック・マジャール」ことハンガリーを2-1で撃破している。そんなウェールズの快進撃を止めたのが、同大会で鮮烈な世界デビューを果たした若きペレの一撃だったというのも改めて感慨深い。まさにドラマ満載のウェールズ世界初見参だったのだ。

▽ならば、それから57年もの月日を経て悲願を果たした今回も、単なるユーロ初出場云々などをはるかに超越した“胸騒ぎ”のようなものを感じないか? いや、期待したくなってはこないか? 半世紀以上前のあの頃、ファンを沸かせたのは当時イングランドリーグ有数のスター、ジョン・チャールズに、新星アイヴァー・オールチャーチの溌剌たる登場だったが、タレントの質量にかけてならほぼ「ゴールデンエイジ」と呼んで憚らない現チームの前には色褪せるか。ご存じギャレス・ベイルとアーロン・ラムジーに加えて、ジョー・アレン、ベン・デイヴィス、ジョナサン・ウィルアムズ。そして何よりもDFの要で歴戦の大黒柱、アシュリー・ウィリアムズ。ひょっとしたら21歳のストライカー、トム・ロレンス(ブラックバーン)辺りもでっかい仕事をしてくれるかもしれない。同じく堂々の初出場を決めた北アイルランドとともに、来年のフランスで台風の目となって欲しいものだ。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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