【東本貢司のFCUK!】ロジャーズ解任の「裏」を撃つ

2015.10.07 12:00 Wed
▽勇退からおよそ2年半、サー・アレックス・ファーガソンが裏話を漏らし始めた。「デイヴィッド・モイーズ招へいは間違ってはいなかった。戦力が落ちていたとも思わない」・・・・。しかし「ではなぜモイーズはわずか10カ月で解任されなければならなかったのか」という疑問については「そもそもの(後任監督)指名自体、わたし独りで決められるはずがないじゃないか」とはぐらかす。今もユナイテッドのダイレクターを肩書に持つ立場ではめったなことは言えない。が、「間違っていなかった・・・・」の言葉に暗に込められた本音は、やはり「気の毒なことをしてしまった。せめてあと1シーズンは任せて捲土重来のチャンスを与えてしかるべきだった」辺りだろう。それに関連してこんなことも―――「ライアン・ギグスが一年早く引退を決意していたら、彼を副官にしてから後任に据えるプランもあった。しかし、わたしが誰かに引退を勧めるなんてあり得ないし、実際に一度もない」

▽ファーギーはまた、モイーズ指名決定に先立って、モウリーニョ、ファン・ハールを含む数名の大物指導者に“リサーチ”をかけた事実を明かし、グアルディオラには「(バルセロナを)辞める気になったときは連絡してくれよ」と声をかけたことまで告白している。以上から類推する限り、誰が自分の後を引き継ぐにせよ、それは「ギグス監督の実現」に向けたつなぎ人事だと(少なくともファーガソン自身は)考えていたようだ。真意というもの、所詮は他人が突き止められるはずもないのだが、結果的にモイーズに決めた時点で、御大サー・ボビー・チャールトンともども「これならユナイテッド監督のブリティッシュレガシー(~ファーガソン~モイーズ~ギグス)を守る道筋ができた。それはそれで望ましいに違いない」だったのではあるまいか。つまり、本命はやはりモイーズで、グアルディオラ以下はあくまでも“すべり止め”だった・・・・無論あくまでも筆者の“憶測”である。

▽とはいえ、たとえ「独断の権限はない」とファーガソンがどれだけ“謙遜”しようと、その発言権がとみに別格なのは異論のないところだろう。ところが、年来の宿敵リヴァプールの場合はそうはいかない。アンフィールドの「ブーツルームの伝統」―――ビル・シャンクリーに始まる「副監督昇格」の禅譲システムは、事実上形骸化した後だったとしても、前世紀末のジェラール・ウリエ招へいで途絶え、またリーグタイトルからも見放されて、もはや絶対的な“鶴の一声”たる拠り所を喪ってしまったまま。つまりは“なし崩し”の合議制。そのメンバーも、ラファ・ベニテス時代前後から、リーグでの不振続きで入れ代わり立ち代わり・・・・そして、アメリカ資本(フェンウェイ・スポーツグループ)に身売りして以降、責任の所在はさらに「非スポーツ的な体質」を伴うようになった感がしてならない。かくしてブレンダン・ロジャーズ追放指令は「いずこからともなく」やってきた?!
▽ロジャーズ解任が不自然で中途半端な印象を与えるのは誰しも同じだろう。たかがリーグ戦8試合消化時点、引導を渡す引き金になったゲームが「グディソン・パークで引き分けた」マージーサイドダービー。試合内容はいざ知らず、納得し辛い周辺事情とタイミングではないか。誰がゴングを叩いたのか。言うまでもなくフェンウェイSG(以下FSG)。最終承認はその総帥、ジョン・ヘンリー。だが、彼も上級幹部たちもアメリカの執務室から腰を上げようとはしない。現時点で後任候補の最右翼は前ドルトムント監督のユルゲン・クロップであり、本人も(元レッズのディートマー・ハマンに肩を押されて)前向きと言われているが、その交渉に大西洋を渡ってくる様子も今のところないという。アンフィールドの理事会に送り込んだ代理人に任せておけばいい? 確かに。だとしてもビジネスライク過ぎやしないか? 熟考した節が感じられるか? もっと早く、例えば前季最終戦でストークに大敗した時点、あるいはラヒーム・スターリングの“造反(=マン・シティー移籍)”が決まった時点でだったなら、まだ分かる。それならロジャーズも納得したろう。

▽では何故に? 「非スポーツ的な体質」と言った。「いずこからともなく」という言い方もした。つまりこういうことだ。大西洋の向こう側で“憂観”中のFSG経営陣は「今後のクラブ株式の急落を恐れて」未然に手を打った。TPPの合意結果が動機の要因になったかどうかは知らない。だが「今が動くタイミング」と見る何等かの事情があった・・・・深読みが過ぎる? そうかな? モイーズ解任の決定的理由は何だったか。チャンピオンズ不出場でクラブの株価ががた落ち必至。そこで監督解任で少しでもそれを緩和しようとした・・・・確証はない。が、わざわざ発表することでもない。当たらずとも遠からず。翻って90年代、イタリアのビッグクラブはW杯の異邦人スター狩りに勤しんだものだが、そのココロはひとえにクラブの株価を上げるためだった。金融大主導の時代になった今、オーナーがアメリカの大資本ときては何をかいわんやだ。クロップは就任条件の一つに「補強の最終決済権」を要求している。オーナーサイドの勝手にはさせない、ということだ。そう、クロップは知っている。機を見て敏に気づいているのだ。ロジャーズ解任の真の理由を。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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