【東本貢司のFCUK!】悪しき循環システムを撃て!
2015.10.01 18:55 Thu
▽物事の因果というものは、視点をぐっと絞り込んで考察すると理解しやすくなる―――というよりも「ストーリーを組み立てやすく」なる。例えば、アーセナルのチャンピオンズ2連敗。つまり、ホームでオリンピアコスに敗れた経緯と背景。高くついた、控えキーパー、オスピナの目を疑うようなハンドリングエラー。そんなアクシデントにもめげず追いついたその直後の失点。思わず首をひねった人も多かったろう。箍(たが)が緩んでるんじゃないのか? それにもまして何故にツェフをベンチに? 「マイナーな故障があって、それにツェフにも先日似たような粗相があった」とかばうヴェンゲルの“言い訳”が虚しくフェイドアウトする。この週末にはユナイテッド戦。そもそもホームで格下相手ならごく常識的な用兵。そう、普通であれば何ら問題はなかった。では「普通じゃない事態」なのか?
▽チェルシー方はどうか。緒戦でテル・アヴィヴを粉砕、アーセナルに快勝して復調かと思いきや、どこかピリっとしない対ポルトの接戦負け。オスピナと比べるのは筋違いなのに、なぜかここでもセカンドキーパー、ベゴヴィッチの周辺に暗黙の疑問が漂う。故障離脱のクロトゥワ恋しの声と1月のGK補強の噂。現実は総体的優位を台無しにした、ほぼ2度だけの集中力の欠如、つまり失点時のディフェンスの不安定さが敗因だったはずなのだが・・・・。要するに、どちらも「キーパーが穴っぽい」という先入観的印象とわずかな実際のミスが「取り上げられやすかった」ということなのだろうか。メディアにとって、実績もあり常勝が期待されるチームの「穴探し」は美味しい栄養源。その意味で常に「蹉跌を暗に期待する」性向がないとは言えない。そこには法外な報酬への嫉妬スパイスも含まれる。
▽いや、ゴシップ的・裏ネタ風な物言いはこのくらいにしよう。少し前から、もっと重大で考慮に値する分析が現地メディアの一部から漏れ始めている。それはプレーイングスタッフ、それも大物といわれる面々の「移動」に関する、もっともらしい傾向についてである。周知の通り、依然としてプレミアはその分野で他の追随を許さない。動く金額の総計は年々増加の一途をたどるばかり。だが、その内訳となると・・・・。結論から言えば「無駄」ないしは「賞味期限の短い」補強が目だってきているという。ここからは推測・憶測も入ってくるゆえ、そのつもりで。例えば、イングランド史上最高額で買われてきたアンヘル・ディ・マリアは、その実、レアルのリストラ候補リストに入っていた云々。ファルカオには故障の後遺症が想像以上に不安視されていた節があって厄介払いされた云々。シュヴァインシュタイガーもバイエルンでは「やり尽くした」受け止め方をされていた云々・・・・。
▽たまたま、上記三名はユナイテッド絡みばかりになっているが、これはあくまでも象徴的な例。要するに、本当の意味で掛け替えのない戦力になる(額面通り、もしくはそれ以上の)価値がある大物即戦力が、よくよく考えるとここ数年プレミアにやってきていないという、けっこう説得力のある説がある。一方、特にレアル、バルサとバイエルン、というよりもスペインとドイツのごく一握りのトップクラブに集まるプレーヤーの質と格は、およそ群を抜いている・・・・。もちろん、こんな特殊な一極集中はプロフットボール界全体のためには好ましくないはず。戦力の分散による競合性が高まれば高まるほど、ファンにとってもメディアにとっても関心度が増す。この“反スポーツ的現象”の裏に潜む元凶は、一概に言えないとしても概ね、スポンサーシップに群がる企業群のエゴと利益独占志向に基づくものと考えられる。そしてそこにコマーシャリズム周辺産業の思惑も絡んでくる。
▽端的に、いかに伝統があろうともストークやベティス、ボルシアMGなどよりも、今をときめく知名度抜群のユナイテッド、バルサ、レアル、バイエルンを広告戦略の素材として使う方がはるかに自然で効力も期待できる。一方で、FFPという収益安定規制法ができたことが、クラブをして盛んにスポンサー企業を各方面から募る「口実」が急激に顕在化させている。国内リーグ~チャンピオンズで常勝を謳うためには頻繁に大金をはたいて補強し、その補強資金の「補填」として世界中からスポンサー収入の拡大を図るという、一種の循環システムが成立しつつあるわけだ。そうなると必然的に、キャリアアップ(とそれに伴う収入アップ)を目指すプレーヤーたちは、例えば各国のCMに引っ張りだこのチームにしか気が向かなくなる。考え方はいろいろあろうが、こんな「アンチスポーツ的システム」はおよそ自分で自分のくびを締めるようなもの。事実上敵のいない強豪の人気なんて、それこそバブルそのものなのだから。言っちゃ悪いが、最近ではレアルやバイエルンのプレーヤーがゴールを決めて喜ぶ顔を見ると思わず白けてしまう。だからこそ、少しは強豪相手も豊富なプレミアは「救い」がある。その意味で、アーセナルやチェルシーはリーグで負けてもいいからチャンピオンズでは負けて欲しくない(なんて矛盾があるか)。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽チェルシー方はどうか。緒戦でテル・アヴィヴを粉砕、アーセナルに快勝して復調かと思いきや、どこかピリっとしない対ポルトの接戦負け。オスピナと比べるのは筋違いなのに、なぜかここでもセカンドキーパー、ベゴヴィッチの周辺に暗黙の疑問が漂う。故障離脱のクロトゥワ恋しの声と1月のGK補強の噂。現実は総体的優位を台無しにした、ほぼ2度だけの集中力の欠如、つまり失点時のディフェンスの不安定さが敗因だったはずなのだが・・・・。要するに、どちらも「キーパーが穴っぽい」という先入観的印象とわずかな実際のミスが「取り上げられやすかった」ということなのだろうか。メディアにとって、実績もあり常勝が期待されるチームの「穴探し」は美味しい栄養源。その意味で常に「蹉跌を暗に期待する」性向がないとは言えない。そこには法外な報酬への嫉妬スパイスも含まれる。
▽いや、ゴシップ的・裏ネタ風な物言いはこのくらいにしよう。少し前から、もっと重大で考慮に値する分析が現地メディアの一部から漏れ始めている。それはプレーイングスタッフ、それも大物といわれる面々の「移動」に関する、もっともらしい傾向についてである。周知の通り、依然としてプレミアはその分野で他の追随を許さない。動く金額の総計は年々増加の一途をたどるばかり。だが、その内訳となると・・・・。結論から言えば「無駄」ないしは「賞味期限の短い」補強が目だってきているという。ここからは推測・憶測も入ってくるゆえ、そのつもりで。例えば、イングランド史上最高額で買われてきたアンヘル・ディ・マリアは、その実、レアルのリストラ候補リストに入っていた云々。ファルカオには故障の後遺症が想像以上に不安視されていた節があって厄介払いされた云々。シュヴァインシュタイガーもバイエルンでは「やり尽くした」受け止め方をされていた云々・・・・。
▽端的に、いかに伝統があろうともストークやベティス、ボルシアMGなどよりも、今をときめく知名度抜群のユナイテッド、バルサ、レアル、バイエルンを広告戦略の素材として使う方がはるかに自然で効力も期待できる。一方で、FFPという収益安定規制法ができたことが、クラブをして盛んにスポンサー企業を各方面から募る「口実」が急激に顕在化させている。国内リーグ~チャンピオンズで常勝を謳うためには頻繁に大金をはたいて補強し、その補強資金の「補填」として世界中からスポンサー収入の拡大を図るという、一種の循環システムが成立しつつあるわけだ。そうなると必然的に、キャリアアップ(とそれに伴う収入アップ)を目指すプレーヤーたちは、例えば各国のCMに引っ張りだこのチームにしか気が向かなくなる。考え方はいろいろあろうが、こんな「アンチスポーツ的システム」はおよそ自分で自分のくびを締めるようなもの。事実上敵のいない強豪の人気なんて、それこそバブルそのものなのだから。言っちゃ悪いが、最近ではレアルやバイエルンのプレーヤーがゴールを決めて喜ぶ顔を見ると思わず白けてしまう。だからこそ、少しは強豪相手も豊富なプレミアは「救い」がある。その意味で、アーセナルやチェルシーはリーグで負けてもいいからチャンピオンズでは負けて欲しくない(なんて矛盾があるか)。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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