【日本サッカー見聞録】ストロングヘッダーの育成が急務~カンボジア戦レビュー~

2015.09.04 12:00 Fri
▽6月のシンガポール戦に続き、ホームにカンボジアを迎えたW杯アジア2次予選は、守備を固める相手に手こずったものの、28分の本田の先制点に続き、後半には吉田と香川が追加点を決めて粘る相手を振り切った。ゴール前に人数をかけて守るカンボジアに対し、日本は立ち上がりから酒井宏と長友の両サイドDFが攻撃参加してラストパスを送る。しかしゴール前で待ち構える岡崎や武藤がヘッドで競り勝つシーンはほとんどなかった。

▽岡崎や武藤の特長は、ダイアゴナルランなどからDFの裏へ抜け出してのワンタッチシュートである。しかし日本はサイド突破を試みながら難しいと判断すると、本田らは山なりのクロスを送っていた。ゴール前で待ち構える岡崎や武藤は、カンボジア・ゴールを背にしてのプレーが多くなる。これでは2人の特長も生きるはずがない。

▽ハリルホジッチ監督自身も試合後の会見で「最後の16mで相手は引き過ぎていたので日本のスピードが止まった。岡崎や武藤が待つ形になったので、自分で動いてスペースを作れ。2人が同じ動きをしている」と指示したことを明かしていた。
▽恐らくハーフタイムに指示があったのだろう。後半開始直後は日本もサイドからのクロスのタイミングが速くなり、岡崎や武藤がゴールに向いて飛び込むシーンが増えた。ただ、この日の2人は疲労の影響か終始精彩を欠いていたのも否めない。武藤は力んだのか当たり損ねのシュートが多く、岡崎もボールが収まらないため満足にポストプレーができなかった。

▽ただ、苦戦の原因としてカンボジアの粘り強い守備も称賛すべきだろう。フィールドプレーヤーは身体を張ったシュートブロックを繰り返し、GKソウ・ヤティーも香川や岡崎、宇佐美らの決定的なシュートに驚異的な反応を見せた。
▽とはいえ、公式記録によると34本も放ったシュートのうちゴールにつながったのは3本、枠内に飛びながら味方選手に当たったのが2本、そしてGKやFP(フィールドプレーヤー)に防がれたのが11本。残る18本は枠外へのシュートと、相変わらずシュートの精度は低い。それでも勝ったから、納得するべきかもしれない。

▽この日の教訓として、UAEやバーレーンなど中東勢の第2勢力だけでなく、東南アジアの後進国も着実にレベルアップしていることを認識した方がいい。これまで中東勢は日本対策として守備を固めてカウンターを狙ってきた。まだシンガポールやカンボジアは守るだけで精いっぱいで、反撃にでる余裕はない。しかし、90分間守り通そうとする体力と集中力はある。

▽本来なら、カンボジアのような相手に対して最も有効なのはパワープレーである。それは万国の共通言語だろう。残念ながら東アジアカップで川又は、空中戦で存在価値を発揮することができなかった。ゴール前ではスタンディングジャンプが多いため、競り合いに勝てず、ほとんどシュートを打てなかった。

▽今回の招集で川又は外れ、負傷明けの豊田も招集は見送られた。ハリルホジッチ監督自身は杉本健勇の名前をメンバー発表の際に上げたが、川崎Fでのパフォーマンス=遠慮勝ちのプレー(と感じる)では代表招集はないだろう。今後のW杯予選を戦う上で必要になるパーツ、ストロングヘッダーをいかに発掘するか。

▽指宿? ハーフナー・マイク? 金園? 金崎? なかなか難しいと思いながら原稿を書いているところ、ネットをチェックしたらW杯予選はUAE、オーストラリア、イラン、イラク、韓国が大勝したことを確認した。日本は、まずは2次予選を突破することだが、ストロングヘッダーの育成はどの年代層でも急務と感じた日本代表の試合だった。


【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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