【東本貢司のFCUK!】求む!ノーブランドのオトコ達
2015.08.20 13:30 Thu
▽スターリング、シュネダルリン、デルフ、ベンテケ。それぞれ、事情や動機などに差異はあれど、元所属クラブに強い「not for sale」の意志があった点で共通している。しかし、その思いはことごとくくじかれた。ならば、ジョン・ストーンズ(エヴァートン→チェルシー?)とサイード・ベラヒーノ(ウェスト・ブロム→スパーズ?)もきっと同じ運命をたどるはず・・・・“中立”のメディア、および通ぶったファンの“見識”もまた共通していたに違いない。が、現時点で事態は進展せず、凍り付いたままだ。ロベルト・マルティネス、トニー・ピューリス両マネージャーは揃って、「金額の多少にかかわらず(移籍は)無い」と体を張っている。マン・シティーがしきりと綱を引くケヴィン・デ・ブライネについても、ヴォルフスブルク側は申し入れ以前にメディアにリークして交渉を有利に運ぼうとしたシティーの「道義にもとる身勝手な横暴と計略」を非難、態度を硬化させている。
▽正直に言って、こんな移籍“サーカス(=お祭り騒ぎ)”がどうのこうのにはうんざりし始めている。しかも、今年の夏はとりわけ節操を欠く、ドッグレース模様を呈しているときては・・・・例えば、しばらく前からユナイテッドが盛んに秋波を送り続け、大方も「そういうことに落ち着く」と見ていたてバルセロナのペドロが、突如割り込んできたチェルシーの名乗りにあっさり落ちた。マタよりファブレガスの“よしみ”が効いたのか、デパイ、シュヴァインシュタイガー、シュネダルリンが加わったユナイテッドではバルサ以上に出番が限られると本人が決め込んだのかは・・・・わからない。いや、どうでもいい。根本的な問題は、海外の代表レギュラークラスが「前向きになる行先」、チャンピオンズ出場権がほぼ確実なチームに限られてしまっている鬱陶しい“常識”だ。資金面などのやむを得ない背景もあるとはいえ、端的な話、ペドロの新天地はチェルシーでもユナイテッドでも、シティー、アーセナル、あるいはリヴァプールの、どこでもいいというファジーな現実。
▽これは言い換えれば、味もそっけもない(あえてこういう表現をする)ブランド志向、つまり“短絡的”な「ブランド価値信仰」とも言えまいか。ペドロは今を時めくバルサのレギュラー格であり、少々落ち目とはいえ前々回世界チャンピオン(スペイン)メンバーのひとり。一方、まさに今日(8月28日)、レスターの獲得が内定したトルコ系スイス人のギョクハン・インラーは、W杯のグループリーグ突破も怪しいスイス代表(の現キャプテン)で、所属なナポリは一時の勢いが衰えかけている。無論、インラーほどのクラスの実力者が、ひょっとしたらヨーロッパリーグ争いに割り込む可能性もなくはないレスターと結びついたのは単純に喜ばしい。しかし、この両人の(近年の)バックグラウンドがもしも逆だったら、各々の運命、あるいは価値評価基準も逆になっていたはずだ。この辺りの議論は、他にもさまざまな要因が絡んできて単純にはいかないのだが、趣旨の一端程度はご理解いただけると思う。が、そこをどうにかならないかという“提議”なのだ。
▽「どうにかならないか」―――例えば、もしペドロが、どうせバルサを出るなら他国の中堅クラブに飛び込んで己が真価をヨーロッパ中に再認識させてやるぜ、と“おとこを見せる”意気に燃えたとしたら? ペドロ・ファンであろうとなかろうと、わくわくドキドキしてこないか? それが、チェルシー?(ユナイテッドでも同様)。どう考えても、とっかえひっかえの“ローテーション・キャスト”の一人に納まってしまうのがオチで、たぶんアンドレ・シューレ辺りの二の舞に…? いや、もちろん、そうはならないかもしれない。多士済済、曲者揃いのブルーズにあって、チャヴィやイニエスタの露払い役に甘んじるしかなかったバルサ時代とは打って変わって、絶大なプレーメイカーとして大成する・・・・と(個人的には)期待しないでもない。だが、他の誰かならまだしも、ジョゼ・モウリーニョの下でそんな夢が花開く図は、どうやっても想像できない。もしそんな一皮剥けたペドロが現出するとすれば、そう、ストーク、ニューカッスル、そしてレスター…?
▽その点、インラーは面白い。バーゼル・ユースからアアラウ、チューリヒ、ウディネーゼ、ナポリを経て、ヨーロッパきっての激戦区リーグ、プレミアの、それも台風の目になり得るチームで、退団したカンビアッソの後継者として期待を一身に背負う。遣り甲斐、オトコの見せ所たっぷり、キャリアピークの31歳にしてみれば最高の舞台を与えられるのだから―――。それは、我らがオカザキにも当てはまる意義でもある。「締切」まで残りあと10日強。チャンピオンズ常連組にばかり目が行き、話題も偏る中、同挑戦組、あるいは“その下”で牙を研ぐチームに、インラーに続けと“ノーブランドのオトコたち”が馳せ参じれば、ますますプレミアは面白くなる。そして願わくば、彼らには「次代のイングランド代表候補」を刺激し、何もチェルシー、シティー、アーセナル、ユナイテッドにいなくても、入らなくても、オトコになれる喜びと意気に感じる、願ってもないカンフル剤にもなって欲しい。それは同時に彼らのキャリアの意義深い糧、ひいては遺産ともなるはずだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽正直に言って、こんな移籍“サーカス(=お祭り騒ぎ)”がどうのこうのにはうんざりし始めている。しかも、今年の夏はとりわけ節操を欠く、ドッグレース模様を呈しているときては・・・・例えば、しばらく前からユナイテッドが盛んに秋波を送り続け、大方も「そういうことに落ち着く」と見ていたてバルセロナのペドロが、突如割り込んできたチェルシーの名乗りにあっさり落ちた。マタよりファブレガスの“よしみ”が効いたのか、デパイ、シュヴァインシュタイガー、シュネダルリンが加わったユナイテッドではバルサ以上に出番が限られると本人が決め込んだのかは・・・・わからない。いや、どうでもいい。根本的な問題は、海外の代表レギュラークラスが「前向きになる行先」、チャンピオンズ出場権がほぼ確実なチームに限られてしまっている鬱陶しい“常識”だ。資金面などのやむを得ない背景もあるとはいえ、端的な話、ペドロの新天地はチェルシーでもユナイテッドでも、シティー、アーセナル、あるいはリヴァプールの、どこでもいいというファジーな現実。
▽これは言い換えれば、味もそっけもない(あえてこういう表現をする)ブランド志向、つまり“短絡的”な「ブランド価値信仰」とも言えまいか。ペドロは今を時めくバルサのレギュラー格であり、少々落ち目とはいえ前々回世界チャンピオン(スペイン)メンバーのひとり。一方、まさに今日(8月28日)、レスターの獲得が内定したトルコ系スイス人のギョクハン・インラーは、W杯のグループリーグ突破も怪しいスイス代表(の現キャプテン)で、所属なナポリは一時の勢いが衰えかけている。無論、インラーほどのクラスの実力者が、ひょっとしたらヨーロッパリーグ争いに割り込む可能性もなくはないレスターと結びついたのは単純に喜ばしい。しかし、この両人の(近年の)バックグラウンドがもしも逆だったら、各々の運命、あるいは価値評価基準も逆になっていたはずだ。この辺りの議論は、他にもさまざまな要因が絡んできて単純にはいかないのだが、趣旨の一端程度はご理解いただけると思う。が、そこをどうにかならないかという“提議”なのだ。
▽その点、インラーは面白い。バーゼル・ユースからアアラウ、チューリヒ、ウディネーゼ、ナポリを経て、ヨーロッパきっての激戦区リーグ、プレミアの、それも台風の目になり得るチームで、退団したカンビアッソの後継者として期待を一身に背負う。遣り甲斐、オトコの見せ所たっぷり、キャリアピークの31歳にしてみれば最高の舞台を与えられるのだから―――。それは、我らがオカザキにも当てはまる意義でもある。「締切」まで残りあと10日強。チャンピオンズ常連組にばかり目が行き、話題も偏る中、同挑戦組、あるいは“その下”で牙を研ぐチームに、インラーに続けと“ノーブランドのオトコたち”が馳せ参じれば、ますますプレミアは面白くなる。そして願わくば、彼らには「次代のイングランド代表候補」を刺激し、何もチェルシー、シティー、アーセナル、ユナイテッドにいなくても、入らなくても、オトコになれる喜びと意気に感じる、願ってもないカンフル剤にもなって欲しい。それは同時に彼らのキャリアの意義深い糧、ひいては遺産ともなるはずだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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