【東本貢司のFCUK!】国産率アップとフィジオの受難

2015.08.13 13:07 Thu
▽我らがプレミアリーグの新シーズンが幕を開けた。新監督スラヴェン・ビリッチ率いるウェスト・ハムが、エミレイツでアーセナルに快勝、レスターに舞い降りたクラウディオ・ラニエリが久方ぶりの“復帰”を勝利で飾り、チェルシーはホームでスウォンジーに悔いの残るドロー・・・・いや、たかが開幕の1試合で語るべきことなど知れている。では、こちらのデータの方はどうか。全22試合の先発メンバー220名のうち、イングランド出身者の数は「73名」、つまり「33.2%」―――今更驚くほどのことでもない? だが、どうやらFA(イングランド協会)にはこの現実を改めて確認する“意図”があったようだ。なんとなれば、昨シーズンの同統計値は「35%」、わずかにせよ「“事態”はさらに深刻化している」からだ。かくして、比較的楽観派だったFAのCEO(=ナンバー2)、マーテイン・グレンですら「腹を据えて“改善”への手を打つべきだろう」と憂慮の色を示す。

▽すでにFAトップのグレグ・ダイクは、2022年までにこの数字(プレミアにおけるイングランド人の割合)を「45%」に向上させる策定路線を明確にしている。具体案の一つとして、現在各チームのファーストチーム登録25名の「8名以上」と規定されている同数を「12名」に引き上げるヴィジョン(2016年を目途に施行)を打ち出した。しかも、これには(意外にも?)リーグ20チームが賛意を示したという事実がある。つまり、FA以下、プレミアリーグ機構(+2部以下のフットボールリーグ機構)、全クラブも、「この問題」を真摯に受け止めていることになるわけだが、今シーズン幕開けのデータはその“流れ”に掉さす結果になってしまったのだ。「大丈夫なのか?」と、グレンは不安を投げかけたのである。ちなみに、ドイツの場合はほぼ50%、スペイン、フランス、イタリアではそれぞれ58%、56%、43%が母国出身者(いずれも昨シーズンのデータ)。以上の明白な“現実”は、安倍内閣の支持率どころでは到底済まない「憂慮すべき格差」なのだ?!

▽その一方で、グレンは、失意に終わったブラジルW杯後のスリーライオンズがユーロ予選で無敗を堅持している「手応え」を評価する。その真意は「ありがちな責任問題をぶち上げて監督交代に走らず」ロイ・ホジソンにこだわって正解だった、という、おそらくはプライドめいた感慨だろうか。正しい方向に向かっている、というわけだ。ならば、たとえ開幕戦22試合のデータにすぎないとしても「今、改めて警告を発しておくべき」もしくは「FAの“変わらない”意思表示を新たにすべし」ということなのだろう。あるいは、穿った見方をすれば、残り3週間を切った「移籍締め切りのデッドライン」に向けて、これ以上異邦の助っ人獲得に血道を上げないで欲しいという“願望”もそこに込められているのかもしれない。もっと踏み込んで“翻訳”するならば「可能な限り、イングランド人プレーヤーのレギュラー定着率アップに配慮、尽力してもらいたい」辺りになるだろうか。
▽そこはもう、しばらくは「今後の成り行き」を注視するしかない。例えば、バーゲン価格でマン・シティーに移ったファビアン・デルフのスタメン出場数、などなど・・・・。もちろん、体調や調子が優れないのに使えとは言えない。そこで重要視されるのが、当該プレーヤーの意識、体調管理、そして各クラブのフィジオらの的確な仕事ぶりということになるだろうが・・・・と、折しもそんな“統一気運”に水を差すような事件が発生した。ジョゼ・モウリーニョ、“空気を読めなかった”女性チームドクターに事実上の“降格人事”を発す! その顛末とは―――ホームのチェルシーはあろうことかホーム開幕戦でスウォンジーに追いつかれてしまう。すでにGKクルトワのレッドカード退場で気分は劣勢。そんなとき、残り数分の時点でアザールがファールを受けて転倒、すわドクターのエヴァ・カーネイロが出動、当然のように治療のためアザールをピッチ外に運び出したのだったが・・・・。

▽ジョゼ君はそれが気に入らなかった。ただでさえ数で劣るのにまた一人、しかも大エースのアザールを! 試合終了後まもなく、モウリーニョはクラブ広報を通じて、今後カーネイロ女史のゲームベンチ入り、および公式トレーニング中の待機を禁じる旨、ただし、トレーニンググラウンドでの仕事は猶予する方針を打ち出したのだ。果たして、抗議の声がどっと噴出・・・・例えば、元リヴァプールのスポーツ薬学チーフで現オーストラリア・クリケット代表のチームドクター、ピーター・ブルックナーは「カーネイロには一点の非もない。自分の仕事を忠実にこなしただけで、監督の頭越しに戦術変更を指示したわけでもない。カーネイロは公然と辱められた。モウリーニョは処分を撤回して謝罪すべきだ。プロに対してあまりにも非礼が過ぎる」と非難。これにはプレミアリーグのドクター組合も同調している。元プレーヤー間には「ままある(監督とドクターの)見解の相違」との声も上がっているが、昨季はドクター陣の仕事ぶりを激賞していたはずのモウリーニョが「感情的になってしまった」ことに少なからず当惑と不安の色も。大丈夫か、チェルシー?

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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