【東本貢司のFCUK!】プレミアのボス発・世紀の提案

2015.07.29 14:00 Wed
▽ディディエ・ドログバのモントリオール・インパクト入団が決まった時点で、あるUKの大手メディアが「最新MLS/ベスト11」を発表した。もちろん、皮肉と揶揄のスパイスをふりかけた“現実”を表現したもので、ロビー・キーン、ヴィジャにランパード、カカー、ジェラード、ピルロにドログバが加わる豪華絢爛(ややトウの立った)世界選抜。それも、わざわざジェラードを3バックのセンターに配してときた。とはいえ、こんなお遊びができる状況が生まれるのは元より想定内。この記事が暗に指摘する真の“ターゲット”は、他でもないお膝元の我らがプレミアリーグである。打てば響くとでも言うべきか、この数日前、舌禍すれすれの発言マニアで知られる同リーグ・エグゼキュティヴチェアマン、リチャード・スカダモアから、自嘲と苛立ち混じりの抑えた問題提起が為されていたのだ。タイトルは「はたしてイングランド代表はプレミアリーグで優勝できるだろうか?」

▽代表チームはその国のトッププレーヤーの中でも選りすぐりの精鋭で構成されるもののはず。いや、実際、我らがスリーライオンズもその通りの選定基準に基づいているのは確かなのだが、ではその20数名のうち、ビッグ4(あえてチャンピオンズ出場圏内の4強としておく)で常時レギュラーを張れている者ははたして何人いるだろうか、という問いかけだ。ただし、実際の「その数」を数えてみてどうのという議論ではない。ミスター・スカダモアが(ウィットとジョークたっぷりに?)“提案”するのは、プレミアの下位10チームとチャンピオンシップ(2部)上位12チームから選抜して代表チームを作ってみたらどうだ、というのだ。「それでも、ユーロやワールドカップで優勝する可能性はかなりある。できないって理由がどこかにあるか?」―――そんなバカな話が? 大胆きわまりない? いや、実現可能かは別にして、これは意外に一聴に値する深~い示唆なのかもしれない。

▽そう、スカダモアのトーンは至極「筋が通っていて」けっこう「真剣」なのだ。彼が引き合いに出す「もっともな根拠」の一つに、昨年のワールドカップ本大会で世界の耳目を集めたコスタ・リカの活躍がある。同代表チームはごく一部を除いて自国リーグでプレーしている“純国産”で構成されていた。スカダモアの目に、コスタ・リカ(の1部リーグ)がイングランドの2部/3部と同等のレベルにあると理解しているのはほぼ間違いなく、それは我々とて頷ける範囲にある事実だろう。「我々は長年、ユース育成に多大な投資を続け、現に成果を上げてきている。彼らがトップレベルで十分に通用するのにはほぼ異論はないはずだ」。一方、昨シーズンの代表戦10試合以上でスタメンに起用された面々といえば、その85%が昨季終了時のプレミア・トップ10でプレーし、うち60%がトップ4のクラブに所属していたというデータがある。ところが、ブラジルでは1勝もできなかった。
▽理屈は明白だ。コスタ・リカとほぼ同等(もしくは「それ以上」)と考えられる「プレミア下位10チームとチャンピオンシップ上位12チームの選抜代表チーム」に、より期待できるのではないか! そこで、これを受けてBBCのフットボール班が、考え得るそのトップ11の試案をはじき出してみたところ・・・・GK:ベン・フォスター、DF:レイトン・ベインズ、ジョリオン・レスコット、フィル・ジャギエルカ、ジョン・ストーンズ、MF:ファビアン・デルフ、ロス・バークリー、トム・クレヴァリー、FW:サイード・ベラヒーノ、ジェイミー・ヴァーディー、チャーリー・オースティン、となった。何名かは現代表レギュラー格だからそうは悪くない・・・・しかし若手中心で経験不足は否めないし・・・・いやいや、スカダモアの真意はそんな“ごく普通の感想”で済まされるようなエリアにはないと見たい。すなわち、上記の11人なら11人で「可能な限り1チーム内にまとめてしまえば(この外国人天国化した中で)大いなる打開策になる」という極め付きの問題提起!?

▽スカダモア流・根拠の領域はさらに膨らむ。賢明なる読者の中にはすでにピンときた方もいるかもしれない。コスタ・リカの大活躍を“つかみ”に、それよりももっと“説得力”のある事実と現実―――そう、バルセロナ(+一部レアル)=スペイン、バイエルン=ドイツの図式だ(ここでの「=」は「ほぼ等しい」と解釈)。それがつまり「プレミアリーグにおける(仮想)イングランド代表」のアイディアなのだ。言うまでもないが、現在優勝を争える、もしくはチャンピオンズ参戦資格を勝ち取れる4~6チームに、“そんな要望”など望むべくもない。ホーム・グロウン制度強化のせいで幾分の“積極志向”は見られるものの、現実的補強の目当てはほぼ外国人で占められているのが厳然たる実状。要するに、スカダモアは皮肉と願望を表裏一体にした“画期的提案”をぶち上げたと見るべきだろう。天晴ではないか。でも所詮そんな・・・・? 筆者は敢然とそれを夢見る一人である。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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