【日本サッカー見聞録】なでしこ決勝総括
2015.07.09 19:20 Thu
▽日本が2-5と大敗した女子ワールドカップ(W杯)決勝、何に驚いたかというと、アメリカがしっかりと日本を研究してきた点だ。開始早々のCKとFKから日本は失点したが、グラウンダーのクロスは想定外だった。悔やまれるのは2点目で、最初の失点からグラウンダーのクロスを想定できずに対応が遅れた。
▽ただ、アメリカのエリス監督が「すべて完璧にはまった」と語った通り、セットプレーからの得点に加え、日本のポゼッションに対し、守から攻への素早い切り換えからカウンターを狙うなど、日本対策をしっかり立てて実行しての優勝は称賛すべきだろう。日本は「なでしこらしさ」で決勝まで勝ち上がったものの、最後は「自分たちのサッカー」を研究され尽くして負けた。
▽前回W杯で優勝を飾った翌年4月、日本は仙台でアメリカと対戦した。当時のスンドハーゲ監督は、「日本が一度ボールを保持すれば、奪うのは簡単なことではない。そのためロングパスは相手ボールになる確率が高いので、我々もできるだけパスをつなぎたい。それがドイツやフランス、イングランドと対戦するときの違いだ」と言っていた。
▽しかし実際の試合では俊足のモーガンにボールを集め、彼女を走らせるサッカーで日本を苦しめ1-1のドローに持ち込んだ。日本のパスサッカーは先進国に影響を与えたものの、対日本戦となるとロングパスとフィジカル勝負が彼女たちの常套手段となった。
▽カナダ・バンクーバーでの決勝も、日本はアメリカのロングパスとモーガンの俊足をケアしたことだろう。しかしエリス監督はその裏をかいて、セットプレーは高さで勝負するのではなく、あえて足元勝負を挑んだ。さらにモーガンを囮にして、もともと2列目から飛び出すのを得意としていたロイドで勝負をかけた。これも日本にとっては想定外だっただろう。ペナルティエリア中央にぽっかりと空いたスペースに走り込んだロイドに対し、岩清水は2度とも対応が遅れてしまった。
▽エリス監督は、長らくスンドハーゲ前監督の下でコーチを務めてきた。このため日本の成長を間近で見聞きしてきた指導者の一人である。ドイツW杯での屈辱も、ロンドン五輪での雪辱も経験している。それらを踏まえて、W杯で再び世界一になるために選択した日本対策だった。「指導と戦略の継続性」がしっかりと受け継がれ、なおかつ、しっかりと日本を研究したからこその優勝だ。
▽それに対し日本はどうか。今回は決勝まで進出したことで、佐々木監督は来夏のリオ五輪まで指揮を執ることだろう。問題はその後で、澤が引退し、宮間、大野、安藤、近賀もすでに30歳を超えている。選手の若返りはここ数年の持越し課題だが、同時に指導者の育成は進んでいるのかどうか。いつまでも佐々木監督に頼ることはできないだけに、こちらの方が心配である。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽ただ、アメリカのエリス監督が「すべて完璧にはまった」と語った通り、セットプレーからの得点に加え、日本のポゼッションに対し、守から攻への素早い切り換えからカウンターを狙うなど、日本対策をしっかり立てて実行しての優勝は称賛すべきだろう。日本は「なでしこらしさ」で決勝まで勝ち上がったものの、最後は「自分たちのサッカー」を研究され尽くして負けた。
▽前回W杯で優勝を飾った翌年4月、日本は仙台でアメリカと対戦した。当時のスンドハーゲ監督は、「日本が一度ボールを保持すれば、奪うのは簡単なことではない。そのためロングパスは相手ボールになる確率が高いので、我々もできるだけパスをつなぎたい。それがドイツやフランス、イングランドと対戦するときの違いだ」と言っていた。
▽カナダ・バンクーバーでの決勝も、日本はアメリカのロングパスとモーガンの俊足をケアしたことだろう。しかしエリス監督はその裏をかいて、セットプレーは高さで勝負するのではなく、あえて足元勝負を挑んだ。さらにモーガンを囮にして、もともと2列目から飛び出すのを得意としていたロイドで勝負をかけた。これも日本にとっては想定外だっただろう。ペナルティエリア中央にぽっかりと空いたスペースに走り込んだロイドに対し、岩清水は2度とも対応が遅れてしまった。
▽そして日本の反撃に対しても慌てることなく、自陣からの素早いカウンターで3、4点目を奪う。日本に攻めさせることでDF陣の背後にスペースを作っておくあたり、真っ向勝負を挑んできたイングランドやオーストラリアに比べ、やはりアメリカはしたたかだった。
▽エリス監督は、長らくスンドハーゲ前監督の下でコーチを務めてきた。このため日本の成長を間近で見聞きしてきた指導者の一人である。ドイツW杯での屈辱も、ロンドン五輪での雪辱も経験している。それらを踏まえて、W杯で再び世界一になるために選択した日本対策だった。「指導と戦略の継続性」がしっかりと受け継がれ、なおかつ、しっかりと日本を研究したからこその優勝だ。
▽それに対し日本はどうか。今回は決勝まで進出したことで、佐々木監督は来夏のリオ五輪まで指揮を執ることだろう。問題はその後で、澤が引退し、宮間、大野、安藤、近賀もすでに30歳を超えている。選手の若返りはここ数年の持越し課題だが、同時に指導者の育成は進んでいるのかどうか。いつまでも佐々木監督に頼ることはできないだけに、こちらの方が心配である。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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