【コパ・アメリカ総括】開催国チリが初の戴冠、消化不良も南米らしさ満載のコパ・アメリカ2015
2015.07.07 19:00 Tue
▽6月11日から7月4日までの約1カ月の間、開催されていたコパ・アメリカ2015は、優勝候補筆頭のアルゼンチンをPK戦の末に破った開催国チリの初優勝で幕を閉じた。
▽2007年に代表監督に就任した鬼才・ビエルサ監督の下、マンマーク主体のハードな守備と、後方から丁寧にショートパスを繋ぐ能動的なフットボールスタイルを追求していったチリ。さらに、2012年に新指揮官に就任したサンパオリ監督の下で、より現実的な戦い方にシフトすると、今大会では熱狂的な国民の後ろ盾と、対戦相手の自滅にも助けられて初めての国際タイトル獲得に成功した。
▽グループステージではやや硬さの見えたチリだったが、試合を経るごとに持ち味のアグレッシブなフットボールの片鱗を見せ始めた。この間にMFビダルの飲酒運転事故問題、辛くも勝利したウルグアイ戦後には相手FWカバーニに不適切な挑発行為を行ったDFハラに数試合の出場停止処分が科されるなど、チームに2つの大きな激震が走った。だが、ピッチ内で抜群の距離感と連携を見せるチリは、ピッチ外でも一丸となって難しい時期を乗り越えた。
▽下馬評では不利と思われたアルゼンチンとの決勝では、タレント頼みの単調な戦いを見せた優勝候補を相手に、MFアランギスやMFディアスといった、質と量を兼ね備える選手たちが躍動。決着こそPK戦に委ねられたものの、今大会最高の内容で相手を圧倒し、王者に相応しい戦いを披露した。エースのFWサンチェスとビダル、今大会のラッキーボーイとなったFWバルガスに加え、MFバルディビア、GKブラーボという頼れるベテランを揃えた“最強世代”は、様々な逆境を撥ね退けて国民の期待に見事に応えた。
▽今大会では強豪国の主軸を担うスターたちの低調なパフォーマンスが、大会結果に大きな影響を及ぼした。
▽今大会の主役候補の筆頭だったアルゼンチンのエースであるFWメッシは、大会全体を通しては世界最高のフットボーラーという称号に相応しいパフォーマンスを見せたものの、ブラジル・ワールドカップの決勝と同様にチリとの決勝ではチームを勝利に導くエースの仕事ができなかった。同様に、世界屈指の攻撃ユニットを担うFWアグエロやFWイグアイン、MFディ・マリア、FWテベスらもその実力を考えれば、もの足りない出来だった。
▽アルゼンチンと並ぶ優勝候補のブラジルはFWネイマールに始まり、ネイマールに終わったという印象だ。大会前に主力数名が負傷離脱したことで、よりネイマールへの依存度を増したチームは、エースの個の力でグループ初戦を制すも、2戦目のコロンビア戦では試合中からフラストレーションを溜めていたエースが、試合終了後に相手選手に向けてボールをぶつける暴力行為で4試合の出場停止処分を科された。絶対的エース不在の中で何とかグループステージ突破を決めたセレソンだったが、準々決勝ではパラグアイにPK戦で敗れ、ブラジル・ワールドカップに続いて屈辱を味わった。
▽また、前大会王者のウルグアイもエースのFWスアレスの不在が大きく響いた。ワールドカップでの噛み付き行為に対する処分で、スアレスが不在となったウルグアイは、FWカバーニを新エースに据えるも、大舞台での勝負強さを欠くカバーニは、今大会でノーゴール。さらに、準々決勝でチリDFハラの挑発行為に乗ってしまったカバーニは、この試合で退場処分を受け、やや不運ながら戦犯の1人となった。
▽今大会の本命の一角に挙げられていたコロンビアでは、FWファルカオとMFハメス・ロドリゲスの2大エースの不振が目立った。とりわけ、2014年にヒザを手術して以降、本来のパフォーマンスを取り戻せていないファルカオは存在感が希薄で、場合によってはチームの足を引っ張っているようにも見えた。
◆大会を盛り上げたマイナー国
▽不振を極めた強豪国に代わって大会を盛り上げたのが、ペルーやパラグアイ、ボリビアといったマイナー国だ。とりわけ、前回大会でも3位に入ったペルーのアグレッシブなフットボールは魅力的だった。強豪国との対戦では、やや全体の重心を下げて受ける場面が目立ったものの、前線できっちりボールを収めるFWゲレーロのキープ力を生かしたコレクティブなカウンターのキレ味は抜群。また、玄人好みのするMFロバトンとMFバジョンのボランチコンビの質の高いプレーも見事だった。
▽また、大会を通して安定したパフォーマンスを見せることはできなかったが、グループステージ初戦のコロンビア戦で組織的な守備と個々のアイデアを融合させた秀逸なフットボールでコロンビアを破ったベネズエラ。そして、招待国ながら勝負へのこだわりを最後まで見せたメキシコとジャマイカの健闘も光った。
◆大会に影を落とした様々な事件
▽先のブラジル・ワールドカップでも露呈したように南米では、相変わらずコンプライアンス整備が進んでいない。今大会中にも日本やヨーロッパであれば、大きな問題となる出来事が数多く起きた。
▽まず初めにケチが付いたのは、5月に発覚したFIFAの大規模な汚職事件だ。この事件で逮捕されたFIFA幹部のほとんどが南米出身者だった。この影響で、本来であれば決勝戦には多くの連盟の幹部たちが顔を出すはずだったが、公の場でいらぬ詮索を受けたくない彼らのほとんどが現地入りをキャンセルした。
▽チリの大黒柱であるビダルが起こした飲酒運転による事故と、カバーニの実父による飲酒運転死亡事故も大きな騒動を巻き起こした。特に、警察に逮捕された後に謝罪会見を行ったものの、そのまま代表チームに合流してプレーを続け、チリの初優勝に大きく貢献したビダルに関しては、そのメンタルの強靭さもさることながら、多くの国民が何事もなく応援を続けていたことに驚きを感じさせられた。
▽また、チリvsアルゼンチンの決勝が行われたエスタディオ・ナシオナル・デ・チリでは、試合観戦に訪れていたメッシの家族がチリ人サポーターから激しい罵倒や暴行を受ける事件が発生。せっかくの初優勝に水を差すことになった。
▽前述したもの以外にも各グループの最終節が一斉開催で行われないという不公平なレギュレーションや高圧的なレフェリングで退場者を誘発してゲームを壊した怪しい主審、行き過ぎた“マリーシア”など、いかにも南米らしさ満載の今大会だった。
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▽南米の大会らしくピッチ内外で様々な事件が起きた今大会をいくつかのトピックに分けて振り返りたい。◆様々な逆境を撥ね退けた“最強世代”が初タイトルをもたらす▽2007年に代表監督に就任した鬼才・ビエルサ監督の下、マンマーク主体のハードな守備と、後方から丁寧にショートパスを繋ぐ能動的なフットボールスタイルを追求していったチリ。さらに、2012年に新指揮官に就任したサンパオリ監督の下で、より現実的な戦い方にシフトすると、今大会では熱狂的な国民の後ろ盾と、対戦相手の自滅にも助けられて初めての国際タイトル獲得に成功した。
▽下馬評では不利と思われたアルゼンチンとの決勝では、タレント頼みの単調な戦いを見せた優勝候補を相手に、MFアランギスやMFディアスといった、質と量を兼ね備える選手たちが躍動。決着こそPK戦に委ねられたものの、今大会最高の内容で相手を圧倒し、王者に相応しい戦いを披露した。エースのFWサンチェスとビダル、今大会のラッキーボーイとなったFWバルガスに加え、MFバルディビア、GKブラーボという頼れるベテランを揃えた“最強世代”は、様々な逆境を撥ね退けて国民の期待に見事に応えた。
◆輝きを放てなかったスター
▽今大会では強豪国の主軸を担うスターたちの低調なパフォーマンスが、大会結果に大きな影響を及ぼした。
▽今大会の主役候補の筆頭だったアルゼンチンのエースであるFWメッシは、大会全体を通しては世界最高のフットボーラーという称号に相応しいパフォーマンスを見せたものの、ブラジル・ワールドカップの決勝と同様にチリとの決勝ではチームを勝利に導くエースの仕事ができなかった。同様に、世界屈指の攻撃ユニットを担うFWアグエロやFWイグアイン、MFディ・マリア、FWテベスらもその実力を考えれば、もの足りない出来だった。
▽アルゼンチンと並ぶ優勝候補のブラジルはFWネイマールに始まり、ネイマールに終わったという印象だ。大会前に主力数名が負傷離脱したことで、よりネイマールへの依存度を増したチームは、エースの個の力でグループ初戦を制すも、2戦目のコロンビア戦では試合中からフラストレーションを溜めていたエースが、試合終了後に相手選手に向けてボールをぶつける暴力行為で4試合の出場停止処分を科された。絶対的エース不在の中で何とかグループステージ突破を決めたセレソンだったが、準々決勝ではパラグアイにPK戦で敗れ、ブラジル・ワールドカップに続いて屈辱を味わった。
▽また、前大会王者のウルグアイもエースのFWスアレスの不在が大きく響いた。ワールドカップでの噛み付き行為に対する処分で、スアレスが不在となったウルグアイは、FWカバーニを新エースに据えるも、大舞台での勝負強さを欠くカバーニは、今大会でノーゴール。さらに、準々決勝でチリDFハラの挑発行為に乗ってしまったカバーニは、この試合で退場処分を受け、やや不運ながら戦犯の1人となった。
▽今大会の本命の一角に挙げられていたコロンビアでは、FWファルカオとMFハメス・ロドリゲスの2大エースの不振が目立った。とりわけ、2014年にヒザを手術して以降、本来のパフォーマンスを取り戻せていないファルカオは存在感が希薄で、場合によってはチームの足を引っ張っているようにも見えた。
◆大会を盛り上げたマイナー国
▽不振を極めた強豪国に代わって大会を盛り上げたのが、ペルーやパラグアイ、ボリビアといったマイナー国だ。とりわけ、前回大会でも3位に入ったペルーのアグレッシブなフットボールは魅力的だった。強豪国との対戦では、やや全体の重心を下げて受ける場面が目立ったものの、前線できっちりボールを収めるFWゲレーロのキープ力を生かしたコレクティブなカウンターのキレ味は抜群。また、玄人好みのするMFロバトンとMFバジョンのボランチコンビの質の高いプレーも見事だった。
▽また、大会を通して安定したパフォーマンスを見せることはできなかったが、グループステージ初戦のコロンビア戦で組織的な守備と個々のアイデアを融合させた秀逸なフットボールでコロンビアを破ったベネズエラ。そして、招待国ながら勝負へのこだわりを最後まで見せたメキシコとジャマイカの健闘も光った。
◆大会に影を落とした様々な事件
▽先のブラジル・ワールドカップでも露呈したように南米では、相変わらずコンプライアンス整備が進んでいない。今大会中にも日本やヨーロッパであれば、大きな問題となる出来事が数多く起きた。
▽まず初めにケチが付いたのは、5月に発覚したFIFAの大規模な汚職事件だ。この事件で逮捕されたFIFA幹部のほとんどが南米出身者だった。この影響で、本来であれば決勝戦には多くの連盟の幹部たちが顔を出すはずだったが、公の場でいらぬ詮索を受けたくない彼らのほとんどが現地入りをキャンセルした。
▽チリの大黒柱であるビダルが起こした飲酒運転による事故と、カバーニの実父による飲酒運転死亡事故も大きな騒動を巻き起こした。特に、警察に逮捕された後に謝罪会見を行ったものの、そのまま代表チームに合流してプレーを続け、チリの初優勝に大きく貢献したビダルに関しては、そのメンタルの強靭さもさることながら、多くの国民が何事もなく応援を続けていたことに驚きを感じさせられた。
▽また、チリvsアルゼンチンの決勝が行われたエスタディオ・ナシオナル・デ・チリでは、試合観戦に訪れていたメッシの家族がチリ人サポーターから激しい罵倒や暴行を受ける事件が発生。せっかくの初優勝に水を差すことになった。
▽前述したもの以外にも各グループの最終節が一斉開催で行われないという不公平なレギュレーションや高圧的なレフェリングで退場者を誘発してゲームを壊した怪しい主審、行き過ぎた“マリーシア”など、いかにも南米らしさ満載の今大会だった。
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