【日本サッカー見聞録】女子W杯準決勝レビュー
2015.07.02 20:55 Thu
▽4年前のドイツW杯で、日本は献身的なサポートによるパスサッカーと、屈強な相手に倒されてもすぐに起き上がり、ボールに食らいつく“ひた向き”な姿が観る見る者の感動を呼んだ。あれから4年、カナダでも日本のパスサッカーは健在だった。
▽準々決勝のオーストラリア戦、中3日の日本に対しオーストラリアは中5日。しかし前半の40分過ぎより足が止まり出したのはオーストラリアの方だった。日本は得点こそ奪えなかったが、DF有吉と鮫島が効果的なオーバーラップを仕掛けて両サイドから攻め立てる。オーストラリアのスルーパスはセンターバック(CB)の岩清水と熊谷がしっかりコースを読んで対処しているため、失点の気遣いはない。
▽0-0ではあるが負ける気のしない相手、それがオーストラリアだった。そして72分、大野に代えて投入した岩渕が、得意のドリブルでリズムを作り出すと、87分に右CKのこぼれ球を岩清水から-岩渕へとつないで決勝点を奪った。岩渕にとってはW杯初ゴールで、オランダ戦以上の完勝だった。
▽こうしてた迎えた準決勝のイングランド戦は、過去2分け2敗と相性の悪い相手だが、意外だったのは攻撃にかつての迫力がないこと。得点源のホワイトとカーニーをベンチに置いたせいかもしれないが、自陣からのロングパスではなく、一度サイドへ開いてのクロスのため、守備陣も前を向いて空中戦を戦うことができたため、危ないシーンはほとんどなかった。
▽前半は互いにPKから1点を取り合い1-1で終了したが、有吉へのプッシングはペナルティエリアの外に見えた。大儀見がホートンを倒したプレーも、足がかかとに触れたとはいえ、ホートンはシュートや突破の体勢に入っていたわけではなく、自らバランスを崩して倒れたように見えた。主審の帳尻合わせのようなPKという印象だ。
▽そんな日本を見てイングランドはホワイトとカーニーを投入して勝負に出る。90分で決着をつけるつもりだったのだろう。64分にホワイトが放ったコースを狙った巧シュートが決まっていれば、狙い通りだったかもしれない。しかしこのシュートはGK海堀がファインセーブでCKに逃れる。海堀はこの試合の隠れたヒロインと言っていいだろう。
▽佐々木監督は延長戦を想定したのか、70分に岩渕を投入した後は動こうとしない。指揮官だけでなく、試合を見ていた全世界のファンがアディショナルタイム3分の表示を見た時は同じ思いだったはずだ。しかし残り1分となったところで日本は熊谷から右サイドに張っていた川澄にパスが通る。川澄はドリブルで攻め上がりながら早目のアーリークロスを送った。
▽自陣に戻りながらクリアしようと足を伸ばしたバセットは、パスカットには成功したものの、無情にもボールはクロスバーを叩きゴール内にバウンドする。土壇場での劇的決勝点。4年前の決勝もアメリカのモーガンに先制されながら宮間のゴールで追いつき、延長後半にはワンバックにヘッドを決められながら、左CKから澤が値千金の同点弾を奪った。
▽ひた向きな姿は4年前と変わらない。その“ひた向きさ”に加え、4年前は“耐えて”サッカー大国アメリカをPK戦で倒した。ドラマチックな試合に日本のファンも感動したはずだ。そして今大会、天敵のイングランドに内容では押されながらもアディショナルタイムでのOGという想定外の決勝点でハードルをクリアした。 「ラッキー」の一言では片づけられない強運を“なでしこ”は自ら引き寄せているとしか思えない。それだけ汗をかいた証拠だろう。
▽さて決勝は、ドイツとの予想が外れてアメリカになった。ベテラン揃いだけに日本同様、したたかな相手だが、ロンドン五輪のリベンジを果たすには絶好の舞台だ。モーガンのスピードを封じ、ワンバックに引導を渡すことができるか。きっと今回の勝利で日本中が注目しているだけに、好勝負を期待したい。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽準々決勝のオーストラリア戦、中3日の日本に対しオーストラリアは中5日。しかし前半の40分過ぎより足が止まり出したのはオーストラリアの方だった。日本は得点こそ奪えなかったが、DF有吉と鮫島が効果的なオーバーラップを仕掛けて両サイドから攻め立てる。オーストラリアのスルーパスはセンターバック(CB)の岩清水と熊谷がしっかりコースを読んで対処しているため、失点の気遣いはない。
▽0-0ではあるが負ける気のしない相手、それがオーストラリアだった。そして72分、大野に代えて投入した岩渕が、得意のドリブルでリズムを作り出すと、87分に右CKのこぼれ球を岩清水から-岩渕へとつないで決勝点を奪った。岩渕にとってはW杯初ゴールで、オランダ戦以上の完勝だった。
▽前半は互いにPKから1点を取り合い1-1で終了したが、有吉へのプッシングはペナルティエリアの外に見えた。大儀見がホートンを倒したプレーも、足がかかとに触れたとはいえ、ホートンはシュートや突破の体勢に入っていたわけではなく、自らバランスを崩して倒れたように見えた。主審の帳尻合わせのようなPKという印象だ。
▽勝負の後半戦、攻勢を強めたのはイングランドだった。日本はフォローの動きがないため選手間の距離が遠く、得意とする1タッチ、2タッチのパス回しができない。岩清水や熊谷がパスの出しどころがなく戸惑っていたのを見るのは今大会で初めて。さらに両サイドDFの攻め上がりもかなり遅れていたので、スペースへのパスは簡単にカットされていた。
▽そんな日本を見てイングランドはホワイトとカーニーを投入して勝負に出る。90分で決着をつけるつもりだったのだろう。64分にホワイトが放ったコースを狙った巧シュートが決まっていれば、狙い通りだったかもしれない。しかしこのシュートはGK海堀がファインセーブでCKに逃れる。海堀はこの試合の隠れたヒロインと言っていいだろう。
▽佐々木監督は延長戦を想定したのか、70分に岩渕を投入した後は動こうとしない。指揮官だけでなく、試合を見ていた全世界のファンがアディショナルタイム3分の表示を見た時は同じ思いだったはずだ。しかし残り1分となったところで日本は熊谷から右サイドに張っていた川澄にパスが通る。川澄はドリブルで攻め上がりながら早目のアーリークロスを送った。
▽自陣に戻りながらクリアしようと足を伸ばしたバセットは、パスカットには成功したものの、無情にもボールはクロスバーを叩きゴール内にバウンドする。土壇場での劇的決勝点。4年前の決勝もアメリカのモーガンに先制されながら宮間のゴールで追いつき、延長後半にはワンバックにヘッドを決められながら、左CKから澤が値千金の同点弾を奪った。
▽ひた向きな姿は4年前と変わらない。その“ひた向きさ”に加え、4年前は“耐えて”サッカー大国アメリカをPK戦で倒した。ドラマチックな試合に日本のファンも感動したはずだ。そして今大会、天敵のイングランドに内容では押されながらもアディショナルタイムでのOGという想定外の決勝点でハードルをクリアした。 「ラッキー」の一言では片づけられない強運を“なでしこ”は自ら引き寄せているとしか思えない。それだけ汗をかいた証拠だろう。
▽さて決勝は、ドイツとの予想が外れてアメリカになった。ベテラン揃いだけに日本同様、したたかな相手だが、ロンドン五輪のリベンジを果たすには絶好の舞台だ。モーガンのスピードを封じ、ワンバックに引導を渡すことができるか。きっと今回の勝利で日本中が注目しているだけに、好勝負を期待したい。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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