【東本貢司のFCUK!】ユーロU21“惨敗”を教訓に!
2015.06.26 12:40 Fri
▽リヴァプール黄金時代のDFの要、マーク・ローレンセンはかく語りき:「ハリー・ケインとジョン・ストーンズを除く(イングランドU21代表の)全員に告ぐ。今すぐエージェントのもとに駆け込んで今後の身の振り方を相談すべし。今のままじゃ到底(プレミアの)どこのクラブでも生き残れない」―――現在進行中のユーロU21(U21ヨーロッパ選手権)で、自他共に許す本命の一角“ヤング・スリーライオンズ”が、グループ最終戦・対イタリアで惨敗を喫した直後の、およそ感情的に突き放す類のコメントの一つだ。併せて報じられた他の評論家や実地で観戦したファンの声も、類似した「失望の極み」のオンパレード。それは前回、イングランドが優勝する確率はかなり高いぞ、とばかりに持ち上げて実際大いに楽しみにしていた筆者もしかりで、それはもう実に後味の悪い負けっぷり・・・・。
▽さもありなん。これでイングランドは2大会連続のグループリーグ敗退、しかも、この10年前後、常に優勝候補の期待を背負ってきたにもかかわらずこのザマなのだ。実力云々などを語る前に、当然取り組む姿勢、目的意識、ヴァイタリティーを問われてもやむを得ない。実を言うと、イタリア戦を控えて危惧すべき空気はかなり濃密に漂っていたのである。その最大の根拠が、監督ギャレス・サウスゲイトの奇妙なほど楽観的な展望会見だった。「緒戦(対ポルトガル)を落とした危機感は(対スウェーデン勝利で)一掃できた。これでぐんと落ち着いて(イタリア戦に)臨める。そもそもうちには優勝しておかしくない力があるんだし」。賭けてもいいが、これを聞いた誰もが首をかしげたに違いなかった(筆者もその一人)。プレーヤーたちの緊張感を緩め、自信を深めさせるための“演技”―――といえばわからないでもないが、さすがに「そこまで言うか」が正直な印象だったろう。
▽イタリアがスウェーデンに敗れ、ポルトガルと引き分けて“切羽詰まって”いた状況もあった。つまり、そこに付けこむ一種のマインドゲームだったのか(サウスゲイトにそれはどう考えても似つかわしくないが・・・・)。いずれにせよ、この「普通にやれば楽勝=心理誘導作戦」は完全に裏目に出た。ごく端的に言えば、何が何でも勝つんだ(当然、相手のイタリアはその“塊”だった)という、がむしゃらな意欲がまるで見えなかった。漫然とパスを交換するだけで、それこそ“練習まがい”の気の抜けたプレーぶり・・・・予選10戦9勝1分のテングの鼻をポルトガルにへし折られた脱力感と、スウェーデンに勝ってホッとひと息ついた弛緩状態がそのまま共存するような、目標意識の欠如。結局、今となっては、監督のあの発言は指揮官が自らを鼓舞する狙いでしかなかったのかと勘繰りたくなってしまう。これではさすがに、早速サウスゲイト更迭論が吹き荒れるのも致し方ないだろう。
▽実は、こんな“負の結末”をイタリア戦前に予言していた人物が一人いる。今年早々に脚の故障でQPR監督を辞して現在“リハビリ充電中”のハリー・レドナップだ。彼はこう吐き捨てていた。「ロクなチームじゃない。なにしろ、ほとんどのメンバーがこの若さですでに億万長者だ。そこに加えて、アンダーエイジの代表に入った名誉に浮かれ気分で、ゲームどころか練習も身が入っていないだろ? それ、型どおりのメニューをささっとなぞって早々にグラウンドを引き上げるなんて、若造どもがやることじゃない。ダメだね、こいつらは何もわかってない」とバッサリ。そう言えば、大会前には現役引退を表明したリオ・ファーディナンドがこう述べていた。「プレミアは考え直す必要がある。20歳にもならない若いプレーヤーに、一生遣い切れないほどのバカ高い報酬の大盤振る舞いじゃ、もうそこで半ば終わってしまいかねない・・・・」。まるで自らの半生を振り返るがごとく?
▽もしも、レドナップとリオの指摘が的を射ているとしたら、そこには、折しもFAチェアマン、グレグ・ダイクが鳴らす警鐘にも通じるものがありそうだ。即戦力の外国人プレーヤーを各クラブが競うようにしゃかりきになって駆り集める“慣習”が、翻って虎の子の自前のユース世代を“必要以上”に肥え太らせる遠因となっている。要するに“見込み”が先走って“業界の水準”を天井知らずに引き上げる悪弊・・・・いや、この問題を噛み砕くには話が大きすぎるゆえ、別の機会に譲ろう。前回も言及したように、この大会には明日のスター発掘という視点のテーマがある。が、その「明日のスター」が、金銭的な観点においてもはや「明日の」ではなくなっている、というのがすべてのキモなのだ。いずれも移籍市場を賑わせているスターリングやウィルシャーの“不在”、ベラヒーノの“直前離脱”もその事実を物語っている。ちょうどいい。今回のヤング・スリーライオンズの失態を教訓として、イングランドのフットボール界は抜本的改革案に正面から取り組むべきだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽さもありなん。これでイングランドは2大会連続のグループリーグ敗退、しかも、この10年前後、常に優勝候補の期待を背負ってきたにもかかわらずこのザマなのだ。実力云々などを語る前に、当然取り組む姿勢、目的意識、ヴァイタリティーを問われてもやむを得ない。実を言うと、イタリア戦を控えて危惧すべき空気はかなり濃密に漂っていたのである。その最大の根拠が、監督ギャレス・サウスゲイトの奇妙なほど楽観的な展望会見だった。「緒戦(対ポルトガル)を落とした危機感は(対スウェーデン勝利で)一掃できた。これでぐんと落ち着いて(イタリア戦に)臨める。そもそもうちには優勝しておかしくない力があるんだし」。賭けてもいいが、これを聞いた誰もが首をかしげたに違いなかった(筆者もその一人)。プレーヤーたちの緊張感を緩め、自信を深めさせるための“演技”―――といえばわからないでもないが、さすがに「そこまで言うか」が正直な印象だったろう。
▽イタリアがスウェーデンに敗れ、ポルトガルと引き分けて“切羽詰まって”いた状況もあった。つまり、そこに付けこむ一種のマインドゲームだったのか(サウスゲイトにそれはどう考えても似つかわしくないが・・・・)。いずれにせよ、この「普通にやれば楽勝=心理誘導作戦」は完全に裏目に出た。ごく端的に言えば、何が何でも勝つんだ(当然、相手のイタリアはその“塊”だった)という、がむしゃらな意欲がまるで見えなかった。漫然とパスを交換するだけで、それこそ“練習まがい”の気の抜けたプレーぶり・・・・予選10戦9勝1分のテングの鼻をポルトガルにへし折られた脱力感と、スウェーデンに勝ってホッとひと息ついた弛緩状態がそのまま共存するような、目標意識の欠如。結局、今となっては、監督のあの発言は指揮官が自らを鼓舞する狙いでしかなかったのかと勘繰りたくなってしまう。これではさすがに、早速サウスゲイト更迭論が吹き荒れるのも致し方ないだろう。
▽もしも、レドナップとリオの指摘が的を射ているとしたら、そこには、折しもFAチェアマン、グレグ・ダイクが鳴らす警鐘にも通じるものがありそうだ。即戦力の外国人プレーヤーを各クラブが競うようにしゃかりきになって駆り集める“慣習”が、翻って虎の子の自前のユース世代を“必要以上”に肥え太らせる遠因となっている。要するに“見込み”が先走って“業界の水準”を天井知らずに引き上げる悪弊・・・・いや、この問題を噛み砕くには話が大きすぎるゆえ、別の機会に譲ろう。前回も言及したように、この大会には明日のスター発掘という視点のテーマがある。が、その「明日のスター」が、金銭的な観点においてもはや「明日の」ではなくなっている、というのがすべてのキモなのだ。いずれも移籍市場を賑わせているスターリングやウィルシャーの“不在”、ベラヒーノの“直前離脱”もその事実を物語っている。ちょうどいい。今回のヤング・スリーライオンズの失態を教訓として、イングランドのフットボール界は抜本的改革案に正面から取り組むべきだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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