【東本貢司のFCUK!】スコットランドの“夏”が来る?
2015.06.11 11:39 Thu
▽ついにFIFAのお膝元、スイスも腰を上げた。同組織の全面協力の下、ITデータを取得したスイス官憲の眼目は、2018/2022のワールドカップ開催権の“是非”。もし仮に、ロシアとカタールがそれぞれの権利を「カネで買った」ことが証明されれば、すべてが白紙に戻される可能性が出てくる。この捜査の煽りで、予定されていた2026年開催の候補国プレゼンテーションも期日順延となった。ただ、ロシアおよびカタールの開催権「無効・差し戻し」なる事態に及んだ場合、大変なのはそれからだ。準備期間は短い。地上最大級のイベントをつつがなく執り行うのは並大抵ではない。もはや崩壊に等しいFIFAの現状などを鑑みても、引き受けるには二の足を踏むだろう。端的に、“母国”イングランドは真っ先に、代替開催に名乗りを上げることなどあり得ないと言明している。
▽というわけで先行きはまったく闇の中だが、ここで「カタールの秋~冬開催」(決定事項ではない)が現実になるとしたとき、それにどうやら“触発”されたのかもしれないと思われる、まったく斬新な計画が突如として持ち上がっている。その舞台はスコットランド。なんと、スコットランド協会が「リーグの夏季シーズン制(3月~11月)」を前向きに検討しているのだ。すでに、加盟42クラブに対して同プランについての「質問状」が回され、回答が寄せられている。結果は、過半数の28クラブが「議論する価値あり」、反対6、無回答8で、特にスコティッシュプレミア(1部)所属12の大半になる10クラブが“賛同志向”。確かにメリットはある(後述)。周知の通り、スウェーデン、ノルウェイ、アイルランドなどの先例もある。無論、その理由は冬場の気候。ややレトリック気味ながら、国土の「南端」を基準とした場合、スコットランドは世界で一番「北方」にある国なのだ。
▽実際、これまでスコットランドでは数多くのゲームが天候不順から中止/順延されてきた。現在、人工ピッチを導入しているクラブは12を数えているが、それでもすべてが予定通りに開催されたわけではない。悪天候の中、やっと会場にやってきたファンがすごすごと帰途に着いた例は少なくないともいう。そこで同協会の推進派曰く、具体的なメリットは:①冬場の日没が早い土地柄にあって、特に照明灯コストを節約できる。②より多くのサポーターを、より快適な環境でもてなすことができる。③テレビ放映権料のアップが見込める。これに加えて実に“説得力のある”メリットとして、イングリッシュプレミアへの関心を“遠ざける”ことができるというものがある。つまり“はるかに見応えのある”他国トップリーグの開催期間の“すき間”を埋めるメリットがあり、すなわち観客数増大などの盛況が見込めるいうわけだ。ひいてはスポンサー、メディアの注目度も格段に増大する。
▽もちろん、いいことずくめではない。真っ先に指摘されているのは、本当に「観客数増大につながるのか?」という疑問。欧米ではごく当たり前の「長期夏休み」とのバッティングである。そんな一般家庭の娯楽習慣を変えてしまえるほどの魅力が、スコットランドリーグにあるのか、という自虐的(?)反論。また、これまで伝統的に「寒い季節のドル箱」だったホットドリンクや“熱々フード”の商売に打撃を与える可能性もある。こういう“風物詩”的な面でのドラスティックな変換こそ、実は最も戸惑いを誘う問題になりかねないという。我々日本人の感覚で捉えてはいけない。凍り付くような厳しい気候と、数少ない「熱くなれる」余暇の楽しみとして存在するフットボールマッチ。プロリーグ創設から20年と少し、着実にフットボール人気が増大しつつあるとはいえ、日本人にはゲームを観に行くよりもずっと関心の高いレジャー、エンタテインメントの種がいくつも思い浮かぶ。
▽象徴的な例を上げると、イングランドやスコットランドではクリスマスシーズンとフットボールはほぼ密着している。いわゆる「ボクシング・デイ」の変則開催は、彼らの暮らしに長い時を経て根付いていると言える。それが、サマーシーズンに変わるとなくなってしまうのだ。予想される“ひずみ”はまだまだある。端的に、ヨーロッパを統括する「カレンダー」との戦いだ。チャンピオンズ、およびヨーロッパリーグの参戦には、それなりに現在のリーグ開催システムを“改善”する必要が出てこよう。ざっと考えて、今以上にヨーロッパの舞台での躍進を望むには、ほぼ一から出直しに近い努力と覚悟が要求されるかもしれない。さらには、プレーヤーにしてみればイングリッシュプレミアへの“出世”の道が細くなっていく恐れも・・・・。痛し痒しといったところだが、昨今の低迷・停滞に加速がつく一方のスコットランドにとっては「起死回生の妙案」になり得なくもない、このサマーシーズン転換プラン。ひょっとしたら「案ずるより産むが易し」ということにも?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽というわけで先行きはまったく闇の中だが、ここで「カタールの秋~冬開催」(決定事項ではない)が現実になるとしたとき、それにどうやら“触発”されたのかもしれないと思われる、まったく斬新な計画が突如として持ち上がっている。その舞台はスコットランド。なんと、スコットランド協会が「リーグの夏季シーズン制(3月~11月)」を前向きに検討しているのだ。すでに、加盟42クラブに対して同プランについての「質問状」が回され、回答が寄せられている。結果は、過半数の28クラブが「議論する価値あり」、反対6、無回答8で、特にスコティッシュプレミア(1部)所属12の大半になる10クラブが“賛同志向”。確かにメリットはある(後述)。周知の通り、スウェーデン、ノルウェイ、アイルランドなどの先例もある。無論、その理由は冬場の気候。ややレトリック気味ながら、国土の「南端」を基準とした場合、スコットランドは世界で一番「北方」にある国なのだ。
▽実際、これまでスコットランドでは数多くのゲームが天候不順から中止/順延されてきた。現在、人工ピッチを導入しているクラブは12を数えているが、それでもすべてが予定通りに開催されたわけではない。悪天候の中、やっと会場にやってきたファンがすごすごと帰途に着いた例は少なくないともいう。そこで同協会の推進派曰く、具体的なメリットは:①冬場の日没が早い土地柄にあって、特に照明灯コストを節約できる。②より多くのサポーターを、より快適な環境でもてなすことができる。③テレビ放映権料のアップが見込める。これに加えて実に“説得力のある”メリットとして、イングリッシュプレミアへの関心を“遠ざける”ことができるというものがある。つまり“はるかに見応えのある”他国トップリーグの開催期間の“すき間”を埋めるメリットがあり、すなわち観客数増大などの盛況が見込めるいうわけだ。ひいてはスポンサー、メディアの注目度も格段に増大する。
▽象徴的な例を上げると、イングランドやスコットランドではクリスマスシーズンとフットボールはほぼ密着している。いわゆる「ボクシング・デイ」の変則開催は、彼らの暮らしに長い時を経て根付いていると言える。それが、サマーシーズンに変わるとなくなってしまうのだ。予想される“ひずみ”はまだまだある。端的に、ヨーロッパを統括する「カレンダー」との戦いだ。チャンピオンズ、およびヨーロッパリーグの参戦には、それなりに現在のリーグ開催システムを“改善”する必要が出てこよう。ざっと考えて、今以上にヨーロッパの舞台での躍進を望むには、ほぼ一から出直しに近い努力と覚悟が要求されるかもしれない。さらには、プレーヤーにしてみればイングリッシュプレミアへの“出世”の道が細くなっていく恐れも・・・・。痛し痒しといったところだが、昨今の低迷・停滞に加速がつく一方のスコットランドにとっては「起死回生の妙案」になり得なくもない、このサマーシーズン転換プラン。ひょっとしたら「案ずるより産むが易し」ということにも?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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