【日本サッカー見聞録】側近の疑惑判明でブラッター会長が辞任?

2015.06.04 15:30 Thu
▽青天の霹靂とは、まさにこのことを言うのだろう。国際サッカー連盟(FIFA)の会長選で5選を果たしたブラッター会長が、6月2日に緊急記者会見を開き辞任を表明した。会長選でヨルダンのアリ王子を破った際は改革に意欲を見せていたものの、豹変した裏にはいったい何があったのか。

▽詳細は今後の捜査と報道を待つしかないが、側近であるバルク事務局長の賄賂送金疑惑が表面化したことが引き金になったのではないだろうか。かつてアベランジェ前会長時代に事務局長を務めていたのがブラッターで、金庫番として大番頭的な存在だった。

▽24年間の長きに渡り会長を務めたアベランジェの功罪は様々だが、“功”としてはサッカーの普及・発展のため、アジアやアフリカにはワールドカップ(W杯)の放映権を安価に設定したことや、アジアとアフリカのW杯出場枠の増加、ワールドユース(現U-20W杯)とU-17W杯の開催などが挙げられる。自身の票田でもある“第3世界”を優遇することでFIFA内での保身を図ると同時に欧州に対抗してきた。
▽そのアベランジェの大番頭として集金装置となったのがブラッターだった。会長となった1998年以降はW杯の価値をグレードアップすることでテレビ放映権やスポンサーの契約料をアップして財政的な基盤を築いた。それまでは地元の少年団が務めていたW杯のボールボーイ(ガール)を権利化して、世界的な飲料メーカーに売却したのも1998年のフランスW杯からだった。FIFAのオフィシャルスポンサーであるキヤノンに対し、大会組織委員のプラティニがローカルスポンサーにヒューレット・パッカードを選び、裁判沙汰になったのも同大会だった(その後、ブラッター会長は何度もキヤノン本社を訪れたものの、当時の御手洗会長は面会を拒絶し、スポンサーを降りる)。権利関係(利権)が細分化したW杯とも言えるだろう。

▽ブラッターが事務局長時代に振るった辣腕は、当然のことながらバルクにも受け継がれたことだろう。だからこそ、ジャック・ワーナーFIFA元副会長らが贈収賄の嫌疑をかけられながらも続投を表明していたブラッター会長が、ワーナーへの送金にバルク事務局長が関わったことが表面化したことで、逃げ切れないと辞任を表明したのではないだろうか。なぜなら、バルク事務局長個人の判断で送金が行われたとは考えにくく、指示もしくは了承した人間の関与が濃厚で、それはブラッター会長しか考えられないからだ。
▽外堀は徐々に埋まりつつある。FIFAの中枢部と南米・北中米を舞台に繰り広げられてきた腐敗の構造が、今後はどこまで飛び火するのか。過去まで遡った捜査の進展を期待したい。

▽ちなみにジャック・ワーナー氏は、1996年にチューリッヒのFIFA総会後、2002年のW杯開催地がどこになるのか記者に聞かれ、他の理事が沈黙を保ったり、「16時からの会見を待て」と言ったりしたのに対し、あっさり「コ・ホスティング(共催)」とバラした張本人である。口の軽さは昔も今も変わらないのかもしれない。


【六川亨】 1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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