【東本貢司のFCUK!】ブラッター辞任の“謎を解く”
2015.06.04 13:00 Thu
▽まるで謀略サスペンス小説のごとく、事態は予測を上回る筋書をたどった。青天の霹靂(へきれき)というべきアメリカFBIによる「大量検挙」から、新会長選挙の「予定路線の結末」、そして首尾よく再選成った現職ブラッター氏による「突然の辞任会見」――これらがわずか一週間のスパンで劇的に演じられたのだ。無論、ストーリーはまだまだ二転三転するトゥイストの予感をはらんでいる。が、ここで一旦立ち止まって考えてみよう。“側近”たちの一斉逮捕劇にもかかわらず、何故ブラッターはあれほど余裕綽々と会長選挙に臨み、“必然の結果”に満を持して自らを祝福できたのか。また、そのわずか4日後、一転して沈鬱な面持ちで「辞任の意向」を発表するに至ったのか。当然、そこには“予期せぬ誤算”の存在がなければならない。5月29日からの4日間、舞台裏でいったい何があったのか。
▽その“謎解き”については、例えば「FBIの捜査がブラッター本人にも及んでいるらしい」とか、「UEFA会長ミシェル・プラティニが直近予定のW杯ボイコットを検討しているらしい」などなどの、まるで埒(らち)もないワイドショウで埒もないレギュラーコメンテイターたちが(自らそそくさにネットなどから仕入れたか、それとも番組スタッフがそれを“肩代わり”してまとめた関連資料に目を通した上で?)勿体つけてひねり出す“受け売り見解”の類以上のものは、どうやら今のところ引き出せそうにない。いや、多分それらも「答えとその要因」の一部ではあるのだろう。だが、この「激動の一週間」を今一度振り返ってみたとき、ふと、ひょっとしたら、これまで考え違いをしていたのかもしれない「ブラッターという人物像とその真実」への“疑惑”が浮かび上がってはこないだろうか。
▽“結論”から言おう。FIFA(上層部の一部)は腐り切っていたとしても、ブラッター自身はそうではなかったのかもしれない――ということだ。そんなバカな? 反論はごもっとも。それに、仮にそうだとしても、脇で権力の甘い汁を思う存分、当然のように享受してきたと見られる側近(副会長以下の重職)を“制御”してこれなかった責任は免れない。しかしである。もしブラッター個人は“清廉潔白”だ(った)としたら、「激動の一週間」の経緯を“解明”する糸口が見えてはこないだろうか。例えば…自分には一切恥じ、また後ろ指を指されるところはない、むしろ厄介な膿(権力の傘の下でやりたい放題に私腹を肥やしてきた輩ども)が出た(逮捕/排除された)ことで、やっと真の改革に取り組める…。だからこそ、晴れ晴れとした笑顔で会長選に臨んだのではなかったか。そもそも、彼が勇退表明から一転再選を目指した理由は「やり残したことがある」だった。
▽すると、本稿冒頭に「まるで…小説のごとく」と書いたからには、その線に則ってこんな大胆な推理も可能だ。「激動の一週間」の端緒となったFBIの電撃大量逮捕劇、その糸を引いた人物こそ、誰あろう、ミスター・ジョーゼフ・ブラッターその人ではなかったか?! そうでも考えないと、長年苦心の末に築き上げてきた自分の城(FIFA)の、まさに本丸周辺が業火で燃え上がっている最中にもかかわらず、まるで他人事のような屈託のない余裕と笑顔で振る舞うなどいったい誰にできるだろうか――。そう、「やり残したこと」とは、我が城FIFAの腐敗を一掃し、汚名を雪(そそ)ぐこと。このままでは辞めるに辞められない! いや、あくまで仮説だ。自分で言っておきながら恐縮の至りだが、この仮説が当たっているかどうかはつとに心許ない。ただし、もしも当たっているとすれば、わずか4日後の無念の辞任表明にも“筋道”がつく気がするのだが、さていかがだろうか。
▽会長選の翌日、プラティニや、FA(イングランド協会)のチェアマン、グレグ・ダイクらは口をそろえて「ブラッター再選」を呪い、W杯ボイコット示唆にまで及んだ。世界もほぼそれに同調し、彼に一票を投じた人々は口を閉ざした。そんな中、ブラッターの愛娘コリーンだけが父を擁護した。「父は不正な金銭など一切受け取っていない。そんな人では断じてない」。身内の証言ほど当てにならないものはないというが、裏を返せば真の人柄を誰より熟知するのも身内ではなかろうか。思わず、我が国の某家具販売チェーンを舞台にした“父娘・骨肉の闘争”を思い出してしまうのだが…。余談はさておき、問題は今後だ。新会長は誰になるのか、誰がふさわしいのか。あるいは、誰がなろうと腐敗の城FIFAの改革は本当に果たせるのだろうか。ロシア、カタールの開催に「不正」の余波が及ぶのではないか。こぞってブラッター辞任に快哉(かいさい)を叫ぶオフィシャルスポンサーたちに“何らか”の後ろめたさはないのか――ブラッター辞任が、実はFBIでも炙り出せないFIFAの深い闇の系譜に“幸便”に蓋をしてしまったのではないことを祈るのみだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽その“謎解き”については、例えば「FBIの捜査がブラッター本人にも及んでいるらしい」とか、「UEFA会長ミシェル・プラティニが直近予定のW杯ボイコットを検討しているらしい」などなどの、まるで埒(らち)もないワイドショウで埒もないレギュラーコメンテイターたちが(自らそそくさにネットなどから仕入れたか、それとも番組スタッフがそれを“肩代わり”してまとめた関連資料に目を通した上で?)勿体つけてひねり出す“受け売り見解”の類以上のものは、どうやら今のところ引き出せそうにない。いや、多分それらも「答えとその要因」の一部ではあるのだろう。だが、この「激動の一週間」を今一度振り返ってみたとき、ふと、ひょっとしたら、これまで考え違いをしていたのかもしれない「ブラッターという人物像とその真実」への“疑惑”が浮かび上がってはこないだろうか。
▽“結論”から言おう。FIFA(上層部の一部)は腐り切っていたとしても、ブラッター自身はそうではなかったのかもしれない――ということだ。そんなバカな? 反論はごもっとも。それに、仮にそうだとしても、脇で権力の甘い汁を思う存分、当然のように享受してきたと見られる側近(副会長以下の重職)を“制御”してこれなかった責任は免れない。しかしである。もしブラッター個人は“清廉潔白”だ(った)としたら、「激動の一週間」の経緯を“解明”する糸口が見えてはこないだろうか。例えば…自分には一切恥じ、また後ろ指を指されるところはない、むしろ厄介な膿(権力の傘の下でやりたい放題に私腹を肥やしてきた輩ども)が出た(逮捕/排除された)ことで、やっと真の改革に取り組める…。だからこそ、晴れ晴れとした笑顔で会長選に臨んだのではなかったか。そもそも、彼が勇退表明から一転再選を目指した理由は「やり残したことがある」だった。
▽会長選の翌日、プラティニや、FA(イングランド協会)のチェアマン、グレグ・ダイクらは口をそろえて「ブラッター再選」を呪い、W杯ボイコット示唆にまで及んだ。世界もほぼそれに同調し、彼に一票を投じた人々は口を閉ざした。そんな中、ブラッターの愛娘コリーンだけが父を擁護した。「父は不正な金銭など一切受け取っていない。そんな人では断じてない」。身内の証言ほど当てにならないものはないというが、裏を返せば真の人柄を誰より熟知するのも身内ではなかろうか。思わず、我が国の某家具販売チェーンを舞台にした“父娘・骨肉の闘争”を思い出してしまうのだが…。余談はさておき、問題は今後だ。新会長は誰になるのか、誰がふさわしいのか。あるいは、誰がなろうと腐敗の城FIFAの改革は本当に果たせるのだろうか。ロシア、カタールの開催に「不正」の余波が及ぶのではないか。こぞってブラッター辞任に快哉(かいさい)を叫ぶオフィシャルスポンサーたちに“何らか”の後ろめたさはないのか――ブラッター辞任が、実はFBIでも炙り出せないFIFAの深い闇の系譜に“幸便”に蓋をしてしまったのではないことを祈るのみだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
|