【東本貢司のFCUK!】[番外]時代が動く“金曜日”
2015.05.27 10:47 Wed
▽今週金曜日(29日)、スイスはチューリヒで開かれるFIFA総会にて重大なイベントが行われる。同組織の新会長選出投票だ。候補者は現職で連続5期再選を目指す“独裁者”ジョーゼフ・“ゼップ”・ブラッターと、前ヨルダン協会会長で同国王子のアリ・ビン・アル・フセイン。当初、名乗り出た立候補者は都合6名を数えたが、資格条件を満たせないとみた元フランス代表のダヴィド・ジノーラがまず脱落、今年2月には元FIFA幹部職員のジェローム・シャンパーニュも断念を表明した。しばらくして現オランダ協会のボス、ミカエル・ファン・プラーク、さらには元ポルトガル代表で“対抗馬一番手”のルイス・フィーゴも立候補を取り下げるに至って、前記2名の一騎打ちとなってしまったわけだが、その際、ファン・プラークとフィーゴがアリ王子支援に回ることを確認したように、辞退の真意は票が分散することを避けてのことだったと受け止めてまず間違いないだろう。
▽そもそも、対抗に立った5名のマニフェストは揃って「FIFAの“悪名”を拭い去るための改革」であり、言い換えれば、1998年以来の長期独裁政権を敷くブラッターの下で不正汚職の噂が絶えない巨大組織の暗部にメスを入れる「一致団結の心」が、アリ王子に集約される恰好になったと考えられる。ならば、ついに独裁者も年貢の納め時・・・・と思いきや、見通しはまるで甘くない。いや、むしろ悲観的という意見が大勢を占めている。なぜなら、FIFAの区分けによる「6大陸」のうち5大陸の各協会代表がこぞってブラッター支持に回ると見られているからだ。つまり、「反ブラッター」の旗を上げているのは世界のフットボール界をリードするヨーロッパのみ。ここにも「一票の格差」が壁となって立ちはだかる。ドイツ、イングランドの一票も、シェラレオネやスリランカ、ドミニカの一票と重みの点で等しく扱われるという“壁”。民主主義の一つの矛盾とでも言うべきか。
▽そして、この「ヨーロッパ対他の5大陸」の対比こそが、「FIFAの闇」の実態を暗に示唆しているとも言えるのだ。すなわち、16年に及ぶブラッターの在任期間中、FIFAは「フットボールの世界戦略」を旗印に、“後進国”にあの手この手のアメ・バラマキ戦術を展開し、その過程で怪しいカネの流れも時に炙り出されるなど、要するに「恩を売ってきた」。直近では、大本命だったはずのイングランドが袖にされてW杯未開地のロシア、カタールが選ばれたのが何よりの証明ではあるまいか。カタール開催の「炎暑と開催時期変更」問題の裏でいったい何が進行してきたのか。時期変更案には、ひょっとして“水面下のどこか”で将来のホスト権について密約を受け取っているのかもしれないオーストラリアですら反発した。が、そのオーストラリア一国(協会)が仮に背を向けたとしたところで、オセアニアの盟主にしろ今や便宜上のアジアの一員にしろ、一票は一票でしかない。
▽そんな中、この月曜日(25日)、UEFA会長職の再選が決まったばかりのミシェル・プラティニが、レキップ紙のインタヴューに答えて重大な発言をした。「ブラッター氏再選はFIFA(の威厳)を汚し、(存在意義に)重大な影を落とすことになるだろう」。そして「アリ王子の人柄と手腕はよく認識している。新会長として立派な仕事をしてくれるはずだ」と、はっきり反ブラッターの旗を掲げたのだ。すでに、イングランド、スコットランドは早くからアリ王子支持を鮮明にし、昨日にはそこにアイルランドも加わった。プラティニこそ対抗馬に相応しいと熱望していたドイツも、当然ブラッター続投に疑問を投じているし、態度を明確にしていないイタリア、スペインも概ね“同じ穴”。ところが、これらフットボール強国がアンチ現職を叫び、あるいは匂わせれば匂わせるほど、その他世界数多の“小国”はむしろ反発の態度を硬化させることに・・・・着々と蒔いてきた“種”がしてやったりの実を結ぶ情勢に自信満々なのか、ゼップは「ひたすら我が道を前進あるのみ」。その耳に、盟友プラティニの「FIFAを愛するのであれば、たとえあなたに“やり残したこと”があろうとここは身を引くべきでは? 」という懇願の声も響かない・・・・。
▽さて、では現在の“必然の流れ”に従う結末を迎えたそのとき、プラティニとUEFA諸国はどう出るか。やむなく、「粛々と」(あゝ、改めて嫌な響きではないか! )現実を受け容れるのか、それとも・・・・。まさか、ひょっとして、FIFA脱退、独自の道を選ぶ?・・・・そんな可能性は絶対にないと言えるだろうか。さもなくば、一つの(しかし、大変な)抵抗/報復プラン―――「カタール大会の開催期間変更は認めない。ゆえに・・・・」ボイコット決議に向かう・・・・とか? 乱暴にすぎる“仮定”なのは百も承知。しかし、金曜日の投票結果は、この先、何がしかの“時代のうねり”をもたらす火種、きっかけ、始まり(終わりの? )になる可能性を秘めているのかもしれない。それがいずれは良き流れに収斂することを祈るばかりだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽そもそも、対抗に立った5名のマニフェストは揃って「FIFAの“悪名”を拭い去るための改革」であり、言い換えれば、1998年以来の長期独裁政権を敷くブラッターの下で不正汚職の噂が絶えない巨大組織の暗部にメスを入れる「一致団結の心」が、アリ王子に集約される恰好になったと考えられる。ならば、ついに独裁者も年貢の納め時・・・・と思いきや、見通しはまるで甘くない。いや、むしろ悲観的という意見が大勢を占めている。なぜなら、FIFAの区分けによる「6大陸」のうち5大陸の各協会代表がこぞってブラッター支持に回ると見られているからだ。つまり、「反ブラッター」の旗を上げているのは世界のフットボール界をリードするヨーロッパのみ。ここにも「一票の格差」が壁となって立ちはだかる。ドイツ、イングランドの一票も、シェラレオネやスリランカ、ドミニカの一票と重みの点で等しく扱われるという“壁”。民主主義の一つの矛盾とでも言うべきか。
▽そして、この「ヨーロッパ対他の5大陸」の対比こそが、「FIFAの闇」の実態を暗に示唆しているとも言えるのだ。すなわち、16年に及ぶブラッターの在任期間中、FIFAは「フットボールの世界戦略」を旗印に、“後進国”にあの手この手のアメ・バラマキ戦術を展開し、その過程で怪しいカネの流れも時に炙り出されるなど、要するに「恩を売ってきた」。直近では、大本命だったはずのイングランドが袖にされてW杯未開地のロシア、カタールが選ばれたのが何よりの証明ではあるまいか。カタール開催の「炎暑と開催時期変更」問題の裏でいったい何が進行してきたのか。時期変更案には、ひょっとして“水面下のどこか”で将来のホスト権について密約を受け取っているのかもしれないオーストラリアですら反発した。が、そのオーストラリア一国(協会)が仮に背を向けたとしたところで、オセアニアの盟主にしろ今や便宜上のアジアの一員にしろ、一票は一票でしかない。
▽さて、では現在の“必然の流れ”に従う結末を迎えたそのとき、プラティニとUEFA諸国はどう出るか。やむなく、「粛々と」(あゝ、改めて嫌な響きではないか! )現実を受け容れるのか、それとも・・・・。まさか、ひょっとして、FIFA脱退、独自の道を選ぶ?・・・・そんな可能性は絶対にないと言えるだろうか。さもなくば、一つの(しかし、大変な)抵抗/報復プラン―――「カタール大会の開催期間変更は認めない。ゆえに・・・・」ボイコット決議に向かう・・・・とか? 乱暴にすぎる“仮定”なのは百も承知。しかし、金曜日の投票結果は、この先、何がしかの“時代のうねり”をもたらす火種、きっかけ、始まり(終わりの? )になる可能性を秘めているのかもしれない。それがいずれは良き流れに収斂することを祈るばかりだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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