【東本貢司のFCUK!】アンフィールド、幻滅の嵐
2015.05.21 10:39 Thu
▽第37節のラストマッチ―――5月20日のアーセナルvsサンダランドは双方にとって実に重要なゲームだった。ホームのアーセナルにとっては「順当」に勝ち、最終戦の前に「4位転落の可能性」を打消す(4位で終了するとチャンピオンズの予備戦に臨まねばならない)。対するブラックキャッツ(サンダランドの通称)は勝てば(引き分けでも)残留確定、負ければ降格の可能性を残すことになってしまう(最終戦の相手はチェルシーで、しかもアウェイ)。果たして結果は見せ場の少ない消化不良のドロー・・・・“使命上”両者に利のある“お手打ち収支”と相成った。そんなこんなで、改めて順位表を睨んでみると、奇しくもノースイーストの3チームが降格阻止の激闘の最中にあったことがわかる。サンダランドが首尾よく抜けた今、それぞれホームで迎える最終戦の相手は、ニューカッスルがウェスト・ハム、ハルがマン・ユナイテッド。順当なら前者が有利に見えるが・・・・?
▽いずれにせよ、最終戦にかかる差し迫った問題はその「降格の最後の椅子」のみになった。ユナイテッドが7点差以上でハルを粉砕し、アーセナルがよもやホームでWBAに敗れることはまず考えにくい。ただ、ヨーロッパリーグ入りには若干の紛れが生じる可能性を残している。もし仮にFAカップ決勝でアーセナルがアストン・ヴィラに屈した場合、7位の権利が消滅してしまうからだ(リーグ7位の代わりにヴィラの参戦となる)。そこで現時点で勝ち点差2にひしめく5〜7位の最終戦展望をおさらいしてみると、リヴァプールがストーク、スパーズはエヴァートン、サウサンプトンはマン・シティーと、いずれもアウェイ。う〜む、これはやはりセインツ(サウサンプトンの通称)が辛いか? いやいや、いつの世も予断は禁物。よって、以上3チームのモチヴェーションも相当に高い。ヨーロッパカップで戦うか否かは、来季戦力補強の点で重要な要素になってくるからだ。
▽来季といえば、今現地で最も熱いディベートテーマとなっているのが、リヴァプールの20歳、ラヒーム・スターリングの「去就」問題だ。シティーを筆頭に、アーセナル、チェルシー、さらにはレアル・マドリード、バイエルンまでが「獲得検討」の意志を示しているといわれるが、イングランドの元プレーヤーたち識者連はこぞって「出るな」の大合唱。理由はごくシンプル―――以上の5競合のどこに入ろうがレギュラーの保証はよく見積もって五分以下、要するに、取れそうにない。「まだまだこれから」の年齢で、本人がつぶやく「チャンピオンズリーグでプレーできるかもしれない」夢を引き換えに控え暮らしに甘んじることになっては「終わってしまいかねない」=才能の持ち腐れになる、というわけだ。そう、まだ早い。“専門家”たちならずとも誰が考えてもそうなる。ところが、これも昨今の「拙速」な風潮とでもいおうか、“うっとうしい事情”が浮かび上がっている。
▽まず、リヴァプールのお家事情。スアレス、ジェラードに続いて、今度はとっておきのライジングスターを放出ではもはや破滅的な痛手・・・・と思いきや、「それほどでもない」という空気が漂い始めている。一番の根拠は、名にしおう熱いファンがスターリングに対して幻滅しているらしいこと。現に、クラブ年間優秀プレーヤー賞を授与されたラヒームを迎えたのはファンの大ブーイングだった(シーズン最優秀賞はコウティーニョ)。また、先日スターリングはBBCのインタヴューに答えるTV番組に出演したが、これがクラブに断りなしだったことが判明、ファンは言うまでもなく、内部関係者の中にも態度を硬化させている様子があるという。例えば、インタヴューの内容が「カネではない。あくまでも、世界的プレーヤーたちと肩を並べてプレーしたいという意味では、移籍もあり得る」だった点が、スアレスとジェラードの放出への不満、不信とも受け取れるとされるからだ。
▽“怒り”の向かう先は「思い上がり、背信」―――端的に言い換えるなら、荒削りな十代のぽっと出新人をレギュラーで使い続けた“比類なき恩師”ブレンダン・ロジャーズへの裏切りである。ロジャーズ本人は今も熱心に残留説得を続けてきて、それは今後も変わらないようではあっても、もはや「改めてチャンピオンズ参戦が遠のいた」チームにいてもなぁ、と言わんばかりのスターリングの言動は、そろそろ限界に達しかけている。これじゃ、仮に残留したところでもはや多くは期待できまいと、諦めモードのファンの気持ちもわかろうというもの。こうなれば、最後はオーナーのアメリカ人、ジョン・W・ヘンリーの腹一つということになりそうだが、ヘンリーはロジャーズと“心技”一体ともいわれ、簡単に決着がつきそうにない。それに加えて急務の補強問題もある。この夏、どこよりも鬱屈したストレスの坩堝と化すのは、マージーサイドのアンフィールドでほぼ間違いない。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽いずれにせよ、最終戦にかかる差し迫った問題はその「降格の最後の椅子」のみになった。ユナイテッドが7点差以上でハルを粉砕し、アーセナルがよもやホームでWBAに敗れることはまず考えにくい。ただ、ヨーロッパリーグ入りには若干の紛れが生じる可能性を残している。もし仮にFAカップ決勝でアーセナルがアストン・ヴィラに屈した場合、7位の権利が消滅してしまうからだ(リーグ7位の代わりにヴィラの参戦となる)。そこで現時点で勝ち点差2にひしめく5〜7位の最終戦展望をおさらいしてみると、リヴァプールがストーク、スパーズはエヴァートン、サウサンプトンはマン・シティーと、いずれもアウェイ。う〜む、これはやはりセインツ(サウサンプトンの通称)が辛いか? いやいや、いつの世も予断は禁物。よって、以上3チームのモチヴェーションも相当に高い。ヨーロッパカップで戦うか否かは、来季戦力補強の点で重要な要素になってくるからだ。
▽来季といえば、今現地で最も熱いディベートテーマとなっているのが、リヴァプールの20歳、ラヒーム・スターリングの「去就」問題だ。シティーを筆頭に、アーセナル、チェルシー、さらにはレアル・マドリード、バイエルンまでが「獲得検討」の意志を示しているといわれるが、イングランドの元プレーヤーたち識者連はこぞって「出るな」の大合唱。理由はごくシンプル―――以上の5競合のどこに入ろうがレギュラーの保証はよく見積もって五分以下、要するに、取れそうにない。「まだまだこれから」の年齢で、本人がつぶやく「チャンピオンズリーグでプレーできるかもしれない」夢を引き換えに控え暮らしに甘んじることになっては「終わってしまいかねない」=才能の持ち腐れになる、というわけだ。そう、まだ早い。“専門家”たちならずとも誰が考えてもそうなる。ところが、これも昨今の「拙速」な風潮とでもいおうか、“うっとうしい事情”が浮かび上がっている。
▽“怒り”の向かう先は「思い上がり、背信」―――端的に言い換えるなら、荒削りな十代のぽっと出新人をレギュラーで使い続けた“比類なき恩師”ブレンダン・ロジャーズへの裏切りである。ロジャーズ本人は今も熱心に残留説得を続けてきて、それは今後も変わらないようではあっても、もはや「改めてチャンピオンズ参戦が遠のいた」チームにいてもなぁ、と言わんばかりのスターリングの言動は、そろそろ限界に達しかけている。これじゃ、仮に残留したところでもはや多くは期待できまいと、諦めモードのファンの気持ちもわかろうというもの。こうなれば、最後はオーナーのアメリカ人、ジョン・W・ヘンリーの腹一つということになりそうだが、ヘンリーはロジャーズと“心技”一体ともいわれ、簡単に決着がつきそうにない。それに加えて急務の補強問題もある。この夏、どこよりも鬱屈したストレスの坩堝と化すのは、マージーサイドのアンフィールドでほぼ間違いない。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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