【カルチョのたしなみ】捨てられないプライドと現実

2015.05.05 13:20 Tue
▽結果は0-3だった。だが、ナポリ戦は悪くなかった。強敵相手に10人で70分間耐えたミランは、最近の試合では奮闘していた部類に入る。決して恥じるような戦いではなかったはずだ。

▽セリエA史上最速となるデ・シリオの退場劇で、ミランはこの日もダメだとほとんどの人が開始直後に思ったことだろう。タブレットで『スカイ』の映像を流しつつ観戦する記者は、映像でキックオフになる前に退場者が出る珍事にあきれ顔だった。

▽だが、10人で守りを固めたミランは、ナポリにスペースを与えずに耐えた。前半の終盤にはナポリサポーターからブーイングが聞こえるほど、ホームチームは攻めあぐねている。
▽シーズン序盤、本田圭佑がゴールを量産していたときをふと思い出した。本田の得点と言えば、速攻で抜け出してゴール前で合わせるものが多かったはずだ。彼の得点に限らず、いつしか、ミランの攻撃からそういったパターンが消えていった。相手が対策を始めたというよりは、ミランがそれを放棄した気がしてならない。

▽序盤戦で結果を残した後でインザーギはポゼッションを気にするようになった。さらに、名誉会長から恒例の“注文”も入ったと言われている。「名門ミランはこうでなければ」というプライドが高いのだろう。エレガントにゲームを支配した上で勝ち点3を手にするという欲が見えた。
▽だが、今のミランにバルセロナのような技術がないことは一目瞭然。セリエAに舞台を限定しても、そこまで圧倒的な力がないことは、もはや隠しようがない。それは誰もが気づいているはずなのに、泥臭い勝ち方は弱小チームがすることだという傲慢さが見え隠れして、機能しない戦術をチョイス。結果、迷走のあげくメネーズ依存の攻撃になっていった。

▽守備の駒が足りないと言っても、守ることを意識すれば、ナポリを相手にしてもそれなりに耐えられることは証明された。しかし、その戦術を敷くためには、数的不利という言い訳がいる現状だ。

▽ウディネーゼ戦では、インザーギが選手に「ミランのユニフォームにふさわしくない」と激怒し、ある選手が「あなたもミランの監督にふさわしくないでしょ」と反論したと報じられていた。内紛についてインザーギは否定したが、不穏な空気があることは確かである。

▽ミランにふさわしいプレーをする前に、ミランにふさわしい結果を手にする必要がある。結果が出ないことには、悪循環が始まり、ついには態度がミランにふさわしくないものになってしまった。泥臭い敗北は胸を張れるかもしれないが、エレガントな敗北ほどファンの怒りを買うものはない。

▽何を言っても、いまさらだ。それでも、自分たちの立ち位置を把握しなければ、同じ過ちを繰り返しかねない。ミランが「名門」だからこそ、通常では考えられない選手補強も可能になる。ミランブランドが生きているうちに、復権の土台をつくってほしいものだ。


【著者紹介】
ペッピーノ伊藤
1984年生まれ。埼玉出身。イタリアはミラノを拠点とし、インテル&ミランを中心に現地で取材や執筆を行っている。もはやジュゼッペ・メアッツァの住人と言っても過言ではない。その献身性には定評があり、ミラノでは彼が寝ている姿を見たものはいないとまで言われている。その鉄人ぶりはハビエル・サネッティと双璧を成す。

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