【東本貢司のFCUK!】ささやかに・・・・祝1000回

2015.04.16 14:14 Thu
▽本連載も今回で区切りの「1000回」。「いつのまにか」と「とうとう」が入り混じった、よくある感慨もあるにせよ、スタートから数えてほぼ12年間という月日にはやはり、途方もない時の流れを感じざるを得ません。素直に「自分を褒めさせて」ください。とはいえ、それもこれももちろん、とみに我慢強く拙文におつきあいしてきていただいた読者の皆さん、および『超ワールドサッカー』編集部諸兄のおかげです。この場を借りて心よりお礼を申し上げると同時に、引き続き今後とも、この“筆と心”が折れない限りのささやかな仕事を、折に触れて温かく、ときには首をかしげてでも、見守り続けていただければこれ以上の喜びはありません。その意味で今こそ新たな出発の時と位置づけたいと思うのです。

▽この12年間、筆者の私的環境などもさることながら、イングランド周辺のプロフットボール事情も、陰に陽に、さまざまな意味で変貌を遂げた感があります。まだ十代の頃、かの国にて出会った「UK印のフットボールと、その、えも言えぬ個性、また、文化のにおい」は、無論、今もそこかしこで垣間見ることは可能なれど、まるで昨今の政治経済事情と歩を合わせるかのような、加速度を増すフットボール的グローバリズムの浸食度には、つい、ため息をついてしまうことも多々。その間、他のヨーロッパ“列強”リーグに先駆けて超のつく多国籍化に走ったプレミアリーグは、一時的にせよヨーロッパチャンピオンズリーグを席巻しながら、その反動よろしくナショナルチームの確固たるオーラを薄める一方に。結果、この連載でも「バブルとその弊害」の愚痴をこぼすことも何度か―――。願わくば決して消えることのない「独自のスピリット/カラー」を、何かと言えば“裏テーマ”に埋め込んできた(つもりの)所以です。が―――。

▽現在、プレミアリーグのみならず、イングランドのプロを名乗る全92クラブの、実に三分の一が、異邦のオーナーシップ下に委ねられ・・・・いや、あけすけに言うなら、ブームだと自らに言い聞かせているかのように「救済を求めて」いる始末。例えば、株価上昇に頼るどこかの国の官製相場が、結局は多くの外国投資家による草刈り場と化しているように、そこにはいつ弾けてもおかしくはない“負のポテンシャル”が見え隠れする。そして、迫り来るリスクに備え、いや、必死に回避するかのごとく、プレミアの相場師(=外資オーナーシップ)は、さらなる錬金術を模索し続け、それがまた国内にとどまらないグルーバルスタンダード化しつつある現状すらも・・・・。しかし、そんな札束にものを言わせる自暴自棄的(?)風潮に対して、無意識に抵抗するかのような“内部告発”の類も頭をもたげ始めてはいないか? 例えば、再頻発する人種差別問題、つとに聞こえてくる破産申告?
▽それらはとりもなおさず、何よりもこのスポーツを支えているはずのファンの苛立ちとやるせなさ―――これほどに“満員盛況”を標榜、謳歌しているはずにもかかわらず、年来の地元サポーターの多くが毎試合のチケットを買えていないという現実、いや、矛盾。ゆえに、その怒りと戸惑いの刃が、埒もない人種差別的言動、即物的で思慮の浅い指導陣批判を誘い、そこにまたSNSの普及が無益で表層的な騒動のタネを蒔く―――。おや、これでは、特に今世紀に入って以降から“外郭ファン”になった方々には、あまりにネガティヴに過ぎると言われそうだ。が、ウン十年前からとりわけ文化的な側面により感化されて、この国のフットボールを見つめ続けてきた身としては、心配が絶えなくて―――。何事も何らかの事情と時代の要請のもとに「進化」する。でもでも、どこかであえて後戻りする勇気も、そろそろ必要な、そんな時期に差し掛かっているのかもしれない・・・・。

▽なんてことを(この際だから)改めて噛みしめながら、可能な限りポジティヴに、また冷静に、時には熱く、拙いながらも「FCUKの精神」を語り続けていきたいと思うのです。どうぞよろしく。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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