【東本貢司のFCUK!】“リハビリ効果”は道を開くか

2015.04.02 09:28 Thu
▽我らがスリーライオンズことイングランド代表は、現地メディアのいう“ブラジルからの惨めな帰国”以来、順調な“実戦リハビリ”をこなしてきた。最新の対イタリア・フレンドリー直前までの成績は、ユーロ予選の5戦全勝を含む7連勝。さて問題は、結果以上に中身の進歩、充実が見て取れるのかどうか、そうだとすればどの程度か、だ。ただし、その前に、ブラジルW杯の“debacle”(=瓦解、大失態)は本当にその言葉通りだったのかといえば、必ずしもそこまで悲観的ではなかったのではないか。対イタリア、ウルグァイのいずれも、総体的には互角だったと考えたい。では、何故に敗れ去ったのか―――答えは明解きわまりない「ある一点」に絞られてしかるべきだと思うが、それについては後述しよう。まずは「進歩、充実」に帰するポイント、すなわち、昨夏のイングランドと現在とでは何のどこが違うのか。あえて言うなら、その「希望の拠り所」の正体は何なのか。

▽言うまでもない。ハリー・ケイン。スリーライオンズに久しく見られなかった“ニュータイプ”の得点源。本稿執筆時点で今シーズンの通算ゴール数29を数える21歳のスーパーレヴェレイション(=ホープ)。まだ、リトアニア戦での途中出場(+デビューゴール)とイタリア戦のフル出場のみで、つまりケインは今も“開花未満”にすぎないにもかかわらず、その存在はチーム大変身のキーシンボルとして一気にクロースアップされている。いや、多分、実際にその通りなのだ。例えば、彼はギャリー・リネカーやアラン・シアラーのようなトップFWのタイプではない。あえて一言で形容するなら、実にとらえどころのないアタッカー。これが、やたらとキラキラ輝きわたる問答無用のカンフル剤の役割を、あるいはそのオーラを発散させているのだ。おかげで(故障およびフィットネスの問題で影が薄くなった)スタリッジが、もはやベンチウォーマー定位置に格下げされている始末・・・・(識者、ファンの共通した見解)。さて、これはちと騒ぎすぎ、早合点すぎなのか?

▽いや、そうではないのだ。奇妙な理屈になってしまうが、ケインの台頭そのものが(たとえこの先彼のゴールラッシュがあろうとなかろうと)チームにかつてない喝(活)を入れつつあるからだ。イタリア戦はその“浮かれよう”、もとい、効果の一端を、早くも証明してくれたと見ていい。同い年のバークリーが、ブラジル以前から期待されていた本領の才能を垣間見せた。同世代のスターリングが(まるで、元相棒のスアレスを得たように)躍動した。そして、同じく同世代のタウンゼントが目も覚めるような同点弾を決めた。何よりも兄貴分のルーニーは、その表情が力強く明るい(実際、ルーニーはケインの急成長をいたく喜び、またインスパイアされたと受け取れるコメントを残している)。これに、スパーズの同僚、メイソンまでレギュラー取りに名乗りをあげたら―――とまではさすがに気が早すぎるが、そういうドラスティックな若返りに夢を持たせるフレッシュなオーラが、ケインのケインたる所以なのだろう。無論、結果がすぐについてくるかは別の話だが。
▽要するに、ジャンピングボードとしてのメインアクター登場で、明日が頼もしくなった。と、そこで、直近の課題。少なくともブラジルでの失意を繰り返さないための、修正案件。はっきりしている。ディフェンスだ。バロテッリ(たまたま?)、カヴァーニ、スアレスのようなトップクラスの敵攻撃陣を封じるには、事実が指し示すように、現状では不安ばかりが先立つ。進境著しいケイヒルの固定はいいとして、ときにアグレッシヴさが裏目に出てしまうジャギエルカで大丈夫か。後に控えるジョーンズ、スモーリングは、実力はまあまあとしてもまだ物足りない。ベインズの年齢も気になる。が、ショーはユナイテッド移籍以来ぱっとせず、ギブズ、バートランド辺りはまだ経験不足。右サイドにはクラインという希望が見えてきたとはいえ、パワー頼り(?)のウォーカーともども、ここでも決めが見えない。例えばストーンズ、ローズ、ガーバット辺りに思い切って託してみる手はないのかどうか。王道ならそれで良し。が、結果重視だとホジソンも躊躇わざるを得まい。

▽要するに、ブラジル後のリハビリ過程が思った以上に順風満帆で来たからこそ、かえって思案のしどころなのだ。そもそも、スイスはともかくも、サンマリノ、エストニア、スロヴェニア、リトアニアでは、“確証”の足しにはならない。もっとも、だからこそこの先、ドイツ、スペイン、オランダとのお試し豪華イベントを組んだのだとも言える。それに、このざっと10年、そんな“格下”相手の予選で、イングランドはけっこう苦戦続きだった。メディアや識者はいまだどことなく懐疑的、ファンは期待と様子見の半々―――といったところだが、筆者は何よりも大黒柱ルーニーの「円熟の自覚」が“ローマへの道”を開く最大の希望だと考えている。それを支えているのがケインであり、そして、ルーニーが誰よりも信頼を寄せるキャリックの復活なのではないか。イタリア戦、キャリックの途中出場は、見るからにチーム全体に“芯”を植えつけた。筆者はほぼ確信に近い感触で、ホジソンがここに来て自信のアウトラインを見据え、かつ完了へと近づきつつある、と見たい。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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