【東本貢司のFCUK!】グレグ・ダイクの使命感
2015.03.26 18:36 Thu
▽今週月曜日(3月23日)、興味深い発表がFAチェアマン、グレグ・ダイクからもたらされた。プレミアリーグが「母国出身の有能な若いプレーヤーを事実上ないがしろにしつつある」状況を憂い、「外国人プレーヤーが世界一多くプレーする」同リーグの状況を“改善”すべく、新たなメスを入れようとするものだという。具体的には、まず「所属する非EUプレーヤーの数に制限を設ける。そして、これを促進する具体案として、2013年より導入されたいわゆるホームグローウン制度の「“グレードアップ”修正」する。すなわち、「ホームグローウン」制度の年齢定義を現行の「18~21歳(で所属)」から「15~18歳」に変更し、かつ、その資格を満たすプレーヤーを各クラブ・ファーストチームが確保する数を、現行の8名から12名に増やす。これで、イングランド出身プレーヤーが陽の目を見る割合もなしくずしに増加するはずだ・・・・なるほど、方策としては理屈は通って見える。
▽これは、前回の本コラムでも指摘したように、チャンピオンズリーグ・ラスト16でイングランド勢が全滅したことと、その3つのクラブが揃って大半を異邦の助っ人プレーヤーに依存している事実を受けたものと考えられなくもない。もっとも、ダイクは特にそのことには触れていないし、仮にイングランド人主体のチームが参戦したところで結果に大きな違いはなかったろう。ただ、あくまでも“話を俎上にのせる口実”くらいにはなるはずだ。あえて「その含み」があるとして、ダイクはより「前向きで説得力のある」根拠をヴィジョンに示す。ハリー・ケインの「大プレイク」だ。スパーズ所属の21歳は今シーズンここまで、リーグ・カップ戦合計で29ゴールを計上。やや拙速気味ながら不振続きのイングランド代表を背負って立つ救世主候補として大きくクロースアップされているが、ダイクは彼の存在がここまで一気に浮上した「経緯」に注目して、警鐘を打ち鳴らしているのだ。
▽それこそが、ファーストチーム入り前後から有望視されていたケインが、都合5度にわたって下位ディヴィジョンのクラブに貸し出されてきた事実。そして、もしもアンドレ・ヴィラス=ボアス解任後のつなぎとしてティム・シャーウッドが指揮を執っていなければ、ケインのスパーズ復帰はなかったかもしれないと考えられる、昨今のプレミア外国人監督ブームに言及している。確かに、新参の「クラブ事情に疎い」外国人指導者が、たとえ残留コーチ陣の薦めがあったところで、ローンで出入りの激しい、よくわからない若いプレーヤーに目を向ける可能性は心許ない。当該監督の資質や性格にもよるが、現存のファーストチーム立て直しをほぼ唯一の使命としてやってきた“部外者”に、自らの眼でじっくり“フリンジ(=一軍当落線上、ないしはそれ以下)”プレーヤーを検分している余裕もなければ、少なくとも就任一年目ならその必要もない。現実に“彼ら”のほとんどは即戦力補強にあくせくする。その結果、さらに外国人プレーヤーの数が増える現実が加速する。
▽つまり、ダイク改革案とは、表面的には「プレーヤーの数(出身/年齢)」を標的にしていながら、その裏で「外国人監督の規制」を示唆しているのだとも考えられそうだ。因果は明白である。ヴェンゲルが、モウリーニョが、そしてアンチェロッティ、マンチーニ、ペジェグリーニが、ほぼインスタントな成功を収めたことが、トップクラブのオーナーサイド(これ自体が多国籍化している“重い”事情もある)に「外の“経験値”に目を向ける」意識を植え付けてしまった感がある。事情からしてさして不成績とも思えなかったシャーウッドをあっさり見限ったスパーズも、“ドメスティック”にこだわってモイーズに託したはずがライバルに追従した形のユナイテッドも同類だ。こうして、母国周辺出身の指導者は、何とかヨーロッパリーグ入りくらいは目指そうかならまだしも、ほぼ残留争いで生き残るためのピンチヒッター専門に“しいたげられて”しまっている。唯一、リヴァプールのブレンダン・ロジャーズが孤軍奮闘中だが、今シーズン残り9試合、結局チャンピオンズ圏内に届かずで終わったとき、続投に赤信号が点る可能性は否めないだろう。
▽ダイクはきっとそこまで見通しているのではないか。このままではいずれプレミアリーグのアイデンティティーが訳の分からないものになってしまう・・・・。さて、このダイクプランに対するリアクションは? 現時点ではごく一部のプレーヤーからしか声が上がっていない。そして、そのいずれもが(主に外国人)批判的だ。フィル・ジャギエルカのように「方針そのものは賛同」しても「現実はむずかしい。それに、どこまで効果があるか」と概ね懐疑的・・・・。クラブサイドが沈黙を守っているのも「理屈はわかるが、今それを言われても」といったところだろう。ただ、筆者の琴線には「せめて、(このところのスパーズのように)若手の有望株を上げる意識を高める」意識につながれば、というダイクの切なる願いが震えて聞こえてくるのだ。お忘れなきよう。ダイクこそは、今日のプレミアリーグ創設に向けて、誰よりもいの一番に呼びかけ、その礎を築くべく行動した人物なのである。彼にはおそらく強い責任感、使命感のようなものが働いているに違いない。(本テーマは今後も見守り、続編としてお伝えしていきたい)
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽これは、前回の本コラムでも指摘したように、チャンピオンズリーグ・ラスト16でイングランド勢が全滅したことと、その3つのクラブが揃って大半を異邦の助っ人プレーヤーに依存している事実を受けたものと考えられなくもない。もっとも、ダイクは特にそのことには触れていないし、仮にイングランド人主体のチームが参戦したところで結果に大きな違いはなかったろう。ただ、あくまでも“話を俎上にのせる口実”くらいにはなるはずだ。あえて「その含み」があるとして、ダイクはより「前向きで説得力のある」根拠をヴィジョンに示す。ハリー・ケインの「大プレイク」だ。スパーズ所属の21歳は今シーズンここまで、リーグ・カップ戦合計で29ゴールを計上。やや拙速気味ながら不振続きのイングランド代表を背負って立つ救世主候補として大きくクロースアップされているが、ダイクは彼の存在がここまで一気に浮上した「経緯」に注目して、警鐘を打ち鳴らしているのだ。
▽それこそが、ファーストチーム入り前後から有望視されていたケインが、都合5度にわたって下位ディヴィジョンのクラブに貸し出されてきた事実。そして、もしもアンドレ・ヴィラス=ボアス解任後のつなぎとしてティム・シャーウッドが指揮を執っていなければ、ケインのスパーズ復帰はなかったかもしれないと考えられる、昨今のプレミア外国人監督ブームに言及している。確かに、新参の「クラブ事情に疎い」外国人指導者が、たとえ残留コーチ陣の薦めがあったところで、ローンで出入りの激しい、よくわからない若いプレーヤーに目を向ける可能性は心許ない。当該監督の資質や性格にもよるが、現存のファーストチーム立て直しをほぼ唯一の使命としてやってきた“部外者”に、自らの眼でじっくり“フリンジ(=一軍当落線上、ないしはそれ以下)”プレーヤーを検分している余裕もなければ、少なくとも就任一年目ならその必要もない。現実に“彼ら”のほとんどは即戦力補強にあくせくする。その結果、さらに外国人プレーヤーの数が増える現実が加速する。
▽ダイクはきっとそこまで見通しているのではないか。このままではいずれプレミアリーグのアイデンティティーが訳の分からないものになってしまう・・・・。さて、このダイクプランに対するリアクションは? 現時点ではごく一部のプレーヤーからしか声が上がっていない。そして、そのいずれもが(主に外国人)批判的だ。フィル・ジャギエルカのように「方針そのものは賛同」しても「現実はむずかしい。それに、どこまで効果があるか」と概ね懐疑的・・・・。クラブサイドが沈黙を守っているのも「理屈はわかるが、今それを言われても」といったところだろう。ただ、筆者の琴線には「せめて、(このところのスパーズのように)若手の有望株を上げる意識を高める」意識につながれば、というダイクの切なる願いが震えて聞こえてくるのだ。お忘れなきよう。ダイクこそは、今日のプレミアリーグ創設に向けて、誰よりもいの一番に呼びかけ、その礎を築くべく行動した人物なのである。彼にはおそらく強い責任感、使命感のようなものが働いているに違いない。(本テーマは今後も見守り、続編としてお伝えしていきたい)
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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