【東本貢司のFCUK!】ユナイテッドという名の“魔界”

2015.03.11 13:40 Wed
▽FAカップ準々決勝でアーセナルに敗れたマンチェスター・ユナイテッド。これで事実上、ユナイテッドに今シーズンのタイトル奪取の可能性は消えた。ただし、このこと自体は誤算というほどでもない。おりしもこのゲーム直前にファン・ハールが述べたように、最大の目標はリーグ・トップ4フィニッシュ、つまり来季のチャンピオンズリーグ入り。前半戦、ややもたついたガナーズに追い越され、脱落模様だったリヴァプール、スパーズの追い上げも急で、予断を許さず、まだリヴァプールとチェルシー(ともにアウェイ)、マン・シティー、アーセナルとの対戦を残していて、この先楽ではないが、一応は好位につけている事実は評価すべきだろう。陣容のほぼ半数が新加入だという“ハンディ”を乗り越えての戦績は決して悪いとは言えないはず。しかしながら、どうにも気になることがある。

▽ファン・ハールの采配についてだ。挙げていけばキリがないが、直近のアーセナル戦を例に取ってみると、首をかしげざるを得ないいくつかのポイントについ思い当たってしまう。まず、ハーフタイムを区切りの交代。パッとしないプレーぶりで、どうやらマイナーな故障を負ったと思われるショーをジョーンズと入れ替えたのはともかく、特に悪くもなかったエレーラを下げて故障明け間もないキャリックを投入したのはどうだったか。せめて、もう少し様子を見た上で、例えば70分前後目安でも良かったのではないか。その時点でスコアは1-1。ショー→ジョーンズ、エレーラ→キャリックが必ずしも「守備寄り」とは言わないとしても、ブリントがいる以上、公平に見てバランスに難があると見たのだが・・・・? いやさ、百戦錬磨の名将に素人がどうこう言えるものでもない。ファン・ハールなりの思惑、戦術眼、深謀遠慮が働いたに違いなく、単に結果が伴わなかっただけ・・・・?

▽しかし、以後、傍目にはユナイテッドの総体的なパフォーマンスが単調になってしまったのは、観戦中のOBフィル・ネヴィルの言を俟たずとも明らかではなかったか。エレーラに代えるなら(アーセナル戦にツキのある)マタではだめだったのか。それに、70分過ぎにロホに代えてヤヌザイを出したが、せっかくならファルカオに賭けてみてもよかったのでは? とにかく、ファン・ハール流には素人の予測をあっさり裏切ってしまう要素がどうも目について仕方がないのだ。実戦であれこれ試す、あえて悪い言い方をすると“いじる”のがファン・ハール独特の“癖”、もとい、強化策なのかもしれないが、少なくとも今のところ、ユナイテッドにおいて、この戦略は着実に実を結びつつあるようには見えない。それも、ここぞという、是非勝っておきたいゲームでは・・・・。あるいは「マタとファルカオを信頼していないようだ」と見る向きもあるが、果たして本当にそうなのだろうか。
▽とはいえ、腐っても(?)一年目である。特にファン・ハールの流儀を考慮すれば「試行錯誤」のままで終わったところで「(ある程度は)想定内」。筆者は、モイーズを一年足らずで見限らざるを得なくなった(ビジネス上の必要という要因が否めない)ことに、ユナイテッド上層部が忸怩たる思いだったと信じてやまない一人だが、つまり「その教訓」が生きていないわけがない。なにしろ(繰り返すが)チーム自体が半ば一新した状態である。モウリーニョ帰還時のチェルシーは若干の補強を施しただけだったし、それに“やはり”リーグ優勝には届かなかった。ネヴィルやシュマイケル、特にロイ・キーンなども、そこそこケチはつけても「(覇権奪回には)時間が必要」との意見で一致している。ただ、この後も“試行錯誤”を繰り返すようでは、最低ノルマのトップ4も怪しくなってくる。FAカップで敗退したここは、可能な限り“ベストイレヴン”固定に注力すべきだと思う。

▽なぜなら、仮にも「トップ4・フィニッシュさえ果たせればそれで良し」だろうと、実際にピッチに立つプレーヤーの心理は多分に“よろめく”に違いないからだ。どう“いじられ”ようと、勝ち続けていれば、もしくは勝てなくても納得がいくならば、チームはまとまり、地力をアップさせていける。実に穿ちすぎた印象ではあるが、ディ・マリアのあの“粗相”は、どこかに漠とした(采配への)疑問が揺らめいていたゆえの苛立ちが底にあったからではないか。無論、だとしても、チームメイトに迷惑をかけた点で決して許される行為ではないが・・・・。そして、これにはずっと確信めいたものが過るのだが、十歳未満からユナイテッドで育ち、自らの決勝ゴールがその愛着と裏腹の結果をもたらしたことに心を憂うウェルベックこそ、“その辺りのよろめき”をまるで自分のことのように感じてたのではないか、と。キーノは言う。「そうなってみて初めて、誰もが思い知ることになる。ユナイテッドというチームを率い、転がしていくことの、底知れないむずかしさを」。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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