【東本貢司のFCUK!】蘇るか、スコットランド

2015.03.05 14:21 Thu
▽3月3日、元スパーズ、ダービー・カウンティーのミッドフィールダー、デイヴ・マッカイ[写真右]の死が報じられた。享年80。おそらく、これをお読みになっている中にこの名前を聞いてピンとくる方は決して多くないだろう。そこそこの古くからの通でも多分「はて? 」と首をかしげるかもしれない。が、50~70年代のUKフットボールシーンにあって、「デイヴ・マッカイ」の存在は、紛れもなく伝説中の伝説の一人と称してしかるべきなのだ。スパーズの追悼声明には「クラブ史上、最も影響力のあったプレーヤーの一人であり、周囲を鼓舞し、力づけ、引っ張っていく能力において、おそらく最高と言うべきだった」とあり、かのジョージ・ベストは「自分が相対した中で誰よりもタフでハードな男だった」と述べたこともある。「ハード」という言葉を誤解してはいけない。彼を知る誰もがこう讃える。「フットボールのすばらしさを体現した稀有な一人であり、素顔のデイヴはまるで礼儀正しく控えめで、地に足の着いた人格の持ち主だった」(デイヴィッド・プリート)

▽記録をたどればその辺りは容易に偲ばれるだろう。スコットランドはエディンバラ(マッカイはエディンバラ出身)の古豪、ハーツから、スパーズ、ダービーで全盛期を送ったが、そのいずれのクラブも、マッカイがいた頃に最も輝かしい一時代を築いている。ハーツでは国内タイトルのすべてを経験し、スパーズに戦後初の「ダブル(リーグ+FAカップ)」とカップウィナーズカップ制覇を、ダービーにはクラブ史上初の1部優勝(その前年、ダービーは2部で優勝、昇格したばかりだった)をもたらした。ダービー移籍は当時監督だったブライアン・クラフに説得されてのことだったが、あのクラフが臆面もなくこう述べたと報じる新聞報道を、たまたま在住していた筆者は今でもよく覚えている。「デイヴ・マッカイこそ、スパーズ史上最高のプレーヤーである」。どうせ、気を引くためのおだてだろうって? いいや、クラフはその種のお世辞を(公式に)吐くことなどめったになかった。それに何よりも同シーズン、マッカイは年間最優秀プレーヤー賞を受賞したのだ。

▽その昔、現在のプレミアリーグに当たるイングランド・ファーストディヴィジョンはスコットランド出身のスターに事欠かなかった。リーズ・ユナイテッドが史上に最も強かった頃の主力、というよりも、チームのアイデンティティーを成したのは、スコットランド人トリオのビリー・ブレムナー、ピーター・ロリマー、エディー・グレイだった。アーセナルの心臓部にはフランク・マクリントックとジョージ・グレアムがいた。時代の顔の一人、デニス・ローも無論忘れるべからず。ほんの少し時代を下ると、リヴァプールのアラン・ハンセン、ケニー・ダルグリーシュ、グレイム・スーネス・・・・名前を挙げていけばきりがない。ところが、前世紀が終わる頃から、なぜか急にその“色”が薄れてしまっている。あくまでもレギュラー級に限れば、リヴァプールは2000年退団のドミニク・マッテオ、ユナイテッドも1998年に引退したブライアン・マクレアが事実上の“最後”だ。スパーズ、アーセナル、マン・シティー・・・・さて、貴方は誰か目ぼしい名前を思いだせるだろうか?
▽もちろん、この背景にはユーロ96を境にどっと押し寄せてきた異邦の助っ人大ブームがあるだろう。某現地友人(スコットランド人)がつぶやいたごとく、旧態依然の“観念”がまだまだ支配しているかの地のフットボールが災いしているのかもしれない(筆者は必ずしも全面同意しないのだが)。他には、何ら知識やコネを持たない外国人監督の増加も見過ごせないだろうが、最も有力な要因はカネだ。90年代末以降、プレミアリーグでは何を置いてもカネが物を言う、カネが飛び交う時代になった。スコットランドは到底それについていけていない。無理をし過ぎたレインジャーズの凋落はその紛れもない象徴だ。“時代の要請”に倣い、なけなしのカネをはたき、借金をしてまで“傭兵招聘”に動いたところで、所詮はイングリッシュプレミアに入り損ねた余りもの。その一方でアカデミー(将来のスター養成)強化には当然カネを回せず、かくて“格差”は広がる一方。単純な時代比較はできるものではないとしても、かつてのローやロリマーのような「抜きんでた個性を持つ豪のスター」が生まれにくくなっているのが実状・・・・というしかない(ため息)。

▽それにしても、マッカイの訃報がいみじくもその事実を思い起こさせて、二重の寂しさを噛みしめざるを得ないとは―――。しかも、スコットランドとほぼ“同化”する土地柄のニューカッスルまでもが、チェルシーやマン・シティーの向こうを張るような“異邦化”にいそしんでいる(かなり“偏り”はあるが)。さて、何か打開策、いや、希望はないものか。単に「スター出現」にこだわるのであれば、原石のままでイングランドに連れてくる方法も頭を過ぎるが、それではスコットランドがますます地盤沈下する。アブラモヴィッチやマンスール級の億万長者が、続々とスコットランドの地を目指せば? う~ん、やはり邪道だ・・・・。当然だがすぐに妙案など浮かぶものではない。改めて、この「スコットランド再生」について考えてみるとしよう。ただし、光がないわけではない。直近のスコットランド代表の戦いぶりには見るべきものがある。こうなったら是非、ユーロやW杯本大会出場にこぎ着けて、世界に改めてスコットランドを大アピールして欲しいものだ。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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