浦和レッズ・スチュワードが30周年記念イベントを開催。スポーツボランティアの未来を創る存在に
2025.12.05 20:00 Fri
近年、多くのスポーツイベントにボランティアの協力は欠かせないものとなっている。今でこそJリーグの試合運営でもボランティアが携わっているクラブは多いが、浦和レッズの「スチュワード」は、日本のスポーツボランティアの先駆けだ。
単発のビッグイベントではなく年間を通して、そのクラブのファン・サポーターや地元市民がボランティアとして試合で活動する姿には、我が地域へ、あるいは我がクラブへ寄せる気持ちが原動力になっているだろう。そのレッズのスチュワードが今年30周年を迎えた。
■スチュワード30周年記念イベントを開催
浦和レッズのホームゲームでボランティアが活動し始めたのは1995年からだ。Jリーグのスタート時にレッズのホームスタジアムとして使用されていた約1万人収容の浦和市駒場競技場が、2倍以上の収容力を持つ浦和市駒場スタジアムにその年、生まれ変わった。これに際し、浦和レッズ後援会(当時の名称は「レッドダイヤモンズ後援会」)が会員から希望者を募り、1試合あたり数十人のボランティアスタッフを派遣するようになったのだ。
さる11月15日、スチュワード誕生30周年を記念するイベントが、埼玉スタジアムのクラブハウスで行われ、スチュワードら約60人のほか、母体である浦和レッズ後援会の役員、浦和レッズの田口誠代表をはじめとする多くのクラブスタッフが出席した。
イベントでは30年の活動を写真やエピソードで振り返り、初年度から30年間にわたって活動を続けてきたスチュワード、富沢日佐夫さんが表彰された。
また、法政大学の山本浩名誉教授(元NHKアナウンサー)の記念講演が行われ、同氏が過去に大きなインパクトを受けたスポーツ関連の事例を紹介した。さらにレッズ・ブランドアンバサダーの岡野雅行さんと今年からスタッフとして活動している興梠慎三さんのトークショーなど、盛りだくさんの内容で、楽しい3時間を過ごした。
■スチュワード登録者減少に危機感
スチュワードの活動は、男子、女子のホームゲームだけではなく、後援会やクラブが主催するイベントでの運営補助もあり、年間のべ40回を超える業務がある。その活動管理や、スキルアップのための研修会などは後援会運営委員会と事務局が行ってきたが、スチュワードも経験を積んできたことから、2017年から自主管理・運営する体制へ移行し、その後、運営を司る「スチュワード委員会」も選出された。15日のイベントもスチュワード委員会が主催したものだった。
スチュワード活動は多くの仲間ができ、苦労もありながら楽しく活動し、研修で見聞や知識も広げられ、大好きなレッズの支えになることができるが、スチュワード委員会の中村寛委員長は危機感も隠さない。
「コロナ禍前ですが、2019年にJクラブの55クラブを調査した資料では、ボランティア登録者数は最多が330人で平均99人。1試合での参加者は平均で30人なんですね。レッズのボランティアの参加者数も他クラブの平均と同じなんですが、入場者の数から言えば圧倒的に少ないんです。例えばFC東京では1試合あたりレッズの2倍以上、約80名が活動しています」
他クラブの現状と比較して、規模で言えばレッズも最盛期には300人近くのスチュワード登録があり、毎試合約70人が活動していたが、現在は100人あまりの登録で、試合時に業務にあたるのは約30名となっている。
「この数字は、中期的な課題として取り組むきっかけになりました。最盛期の300人ぐらいの登録者がいて毎回50~60人来られるような状況を目指したいということです」(中村さん)
とはいえ、人数が増えたら増えたで別の課題もある。現在、埼スタでの試合時にはインフォメーション(総合案内)と指定席の席案内がスチュワードの業務になっている。
「スチュワード内で話し合ったりアンケートを取ったりすると、『もう少し業務の幅を広げられないか』という声が必ず出てきます。それには、スチュワードの数が増えないと難しいので、まずは登録者数の増加を当面の目標にしようということになっていますが、同時にどういう業務をするか、ということも考えなくてはなりません」(中村さん)
以前は「チケットのもぎり」「配布物の手渡し」などもスチュワードの業務だったが、現在それはイベント会社のスタッフが行っている。
多少スチュワードの人数が増えて、その業務にも派遣する程度ではイベント会社のスタッフと混在した状況になる。他クラブではイベント会社の下にボランティアが組み込まれる形になっているところが多いというが、レッズでもそれを可とするのか。あるいは以前のように業務全体を完全に任せてもらえるまでに態勢を整えられるのか、議論や準備が必要になりそうだ。
■スチュワード委員会設置の効果
一方、減少傾向にあったスチュワードの登録者数に歯止めがかかったという朗報もある。
「去年から試合時に大型ビジョンでスチュワードの活動風景を流してもらっているのですが、ふだんファン・サポーターが接している我々のことを知ってもらうのにすごく良いなと思っています。しかし、いきなりスチュワードに登録してもらう、というのもハードルが高いですから、今は『体験スチュワード』という“お試し”の制度があって、気軽に参加してみる、ということができるようになっています」(中村さん)
もう一つ。これまでスチュワードの募集は後援会の会員に限っていたが、その垣根を取り払って後援会員でなくてもスチュワードに応募できるようにしたのも大きいという。これも「スチュワード委員会」という組織ができて、スチュワード自身が活動の管理・運営を行うようになり、それが軌道に乗っているからだろう。
中村さん自身がスチュワードになった過程はこうだ。
「私は1996年に浦和に住み始めました。サッカーは好きでレッズも見始めたのですが、2000年からスチュワードを始めました。家族は浦和に友達がたくさんできていましたが、自分は仕事場が東京で、家には寝に帰るだけ。地域とのつながりはほとんどありませんでした。何とかネットワークを自分で作りたいという動機でスチュワードに応募したんです」
ボランティアの体験はそれが初めてで、仕事とは全く別の世界でリフレッシュになると感じた。仕事で疲れていても、スチュワードで試合に行けば気分転換になり、元気ももらえるということが、長く続けられた要因だったと中村さんは言う。特にスチュワード委員会で委員長を務めてからは、会合で熱を持った話し合いがあったり、後援会との連絡や会議などにも参加するなど、ネットワークがさらに広がった。
■30周年を機にどんな未来を創るか
冒頭のスチュワード30周年記念イベントのテーマは「故きを温ね、未来を創る」。新しい仲間も含めて、スチュワードの未来をどう創っていくか。それを考え、実行していく契機にしたいというものだった。中村さんは言う。
「私の場合、知らない世界を知ることができるというのがスチュワードをやって一番の喜びでした。年齢が上がってくると、だんだん初めての場に行くのがおっくうになってしまいがちです。また今の若い人も自分の世界にこもってしまう人が多いようですが、それじゃ人生は面白くないですよね。もっともっと、いろんなチャンスがそこに転がっていますし、レッズが好きだったら、ピッチの上だけではない、レッズの違う場面を見ることもできますし、何よりレッズに対する貢献になります。新しく埼玉県に住んで地域とのつながりが欲しい方、あるいは今とは違うネットワークも探している方にはもってこいの活動です。一緒にやりませんかということをもっともっと発信して、仲間を増やしたいと思っています」
前述した、試合での業務の幅を増やす、ということも「未来を創る」一環となるだろうし、すでに行っているという他のJクラブのボランティア組織や、サッカー以外のボランティア組織との交流なども、新しい何かを生み出す原動力になりそうだ。
浦和レッズと言えば、多くのサポーターによる熱い応援で知られるが、スチュワード活動の30年の積み重ねもまたクラブを支えてきたことは間違いない。地域とクラブをつなぎ、ボランティア文化そのものの未来を照らす存在————浦和レッズ・スチュワードの未来に注目していきたい。
文=清尾 淳
単発のビッグイベントではなく年間を通して、そのクラブのファン・サポーターや地元市民がボランティアとして試合で活動する姿には、我が地域へ、あるいは我がクラブへ寄せる気持ちが原動力になっているだろう。そのレッズのスチュワードが今年30周年を迎えた。
■スチュワード30周年記念イベントを開催
そして1998年に十数名で行ったヨーロッパ研修において、サッカーの本場、イングランドでは試合のボランティアスタッフが執事を意味する「スチュワード」と呼ばれていることを知り、翌年から後援会でも呼称をそう改め、現在に至る。
さる11月15日、スチュワード誕生30周年を記念するイベントが、埼玉スタジアムのクラブハウスで行われ、スチュワードら約60人のほか、母体である浦和レッズ後援会の役員、浦和レッズの田口誠代表をはじめとする多くのクラブスタッフが出席した。
イベントでは30年の活動を写真やエピソードで振り返り、初年度から30年間にわたって活動を続けてきたスチュワード、富沢日佐夫さんが表彰された。
また、法政大学の山本浩名誉教授(元NHKアナウンサー)の記念講演が行われ、同氏が過去に大きなインパクトを受けたスポーツ関連の事例を紹介した。さらにレッズ・ブランドアンバサダーの岡野雅行さんと今年からスタッフとして活動している興梠慎三さんのトークショーなど、盛りだくさんの内容で、楽しい3時間を過ごした。
■スチュワード登録者減少に危機感
スチュワードの活動は、男子、女子のホームゲームだけではなく、後援会やクラブが主催するイベントでの運営補助もあり、年間のべ40回を超える業務がある。その活動管理や、スキルアップのための研修会などは後援会運営委員会と事務局が行ってきたが、スチュワードも経験を積んできたことから、2017年から自主管理・運営する体制へ移行し、その後、運営を司る「スチュワード委員会」も選出された。15日のイベントもスチュワード委員会が主催したものだった。
スチュワード活動は多くの仲間ができ、苦労もありながら楽しく活動し、研修で見聞や知識も広げられ、大好きなレッズの支えになることができるが、スチュワード委員会の中村寛委員長は危機感も隠さない。
「コロナ禍前ですが、2019年にJクラブの55クラブを調査した資料では、ボランティア登録者数は最多が330人で平均99人。1試合での参加者は平均で30人なんですね。レッズのボランティアの参加者数も他クラブの平均と同じなんですが、入場者の数から言えば圧倒的に少ないんです。例えばFC東京では1試合あたりレッズの2倍以上、約80名が活動しています」
他クラブの現状と比較して、規模で言えばレッズも最盛期には300人近くのスチュワード登録があり、毎試合約70人が活動していたが、現在は100人あまりの登録で、試合時に業務にあたるのは約30名となっている。
「この数字は、中期的な課題として取り組むきっかけになりました。最盛期の300人ぐらいの登録者がいて毎回50~60人来られるような状況を目指したいということです」(中村さん)
とはいえ、人数が増えたら増えたで別の課題もある。現在、埼スタでの試合時にはインフォメーション(総合案内)と指定席の席案内がスチュワードの業務になっている。
「スチュワード内で話し合ったりアンケートを取ったりすると、『もう少し業務の幅を広げられないか』という声が必ず出てきます。それには、スチュワードの数が増えないと難しいので、まずは登録者数の増加を当面の目標にしようということになっていますが、同時にどういう業務をするか、ということも考えなくてはなりません」(中村さん)
以前は「チケットのもぎり」「配布物の手渡し」などもスチュワードの業務だったが、現在それはイベント会社のスタッフが行っている。
多少スチュワードの人数が増えて、その業務にも派遣する程度ではイベント会社のスタッフと混在した状況になる。他クラブではイベント会社の下にボランティアが組み込まれる形になっているところが多いというが、レッズでもそれを可とするのか。あるいは以前のように業務全体を完全に任せてもらえるまでに態勢を整えられるのか、議論や準備が必要になりそうだ。
■スチュワード委員会設置の効果
一方、減少傾向にあったスチュワードの登録者数に歯止めがかかったという朗報もある。
「去年から試合時に大型ビジョンでスチュワードの活動風景を流してもらっているのですが、ふだんファン・サポーターが接している我々のことを知ってもらうのにすごく良いなと思っています。しかし、いきなりスチュワードに登録してもらう、というのもハードルが高いですから、今は『体験スチュワード』という“お試し”の制度があって、気軽に参加してみる、ということができるようになっています」(中村さん)
もう一つ。これまでスチュワードの募集は後援会の会員に限っていたが、その垣根を取り払って後援会員でなくてもスチュワードに応募できるようにしたのも大きいという。これも「スチュワード委員会」という組織ができて、スチュワード自身が活動の管理・運営を行うようになり、それが軌道に乗っているからだろう。
中村さん自身がスチュワードになった過程はこうだ。
「私は1996年に浦和に住み始めました。サッカーは好きでレッズも見始めたのですが、2000年からスチュワードを始めました。家族は浦和に友達がたくさんできていましたが、自分は仕事場が東京で、家には寝に帰るだけ。地域とのつながりはほとんどありませんでした。何とかネットワークを自分で作りたいという動機でスチュワードに応募したんです」
ボランティアの体験はそれが初めてで、仕事とは全く別の世界でリフレッシュになると感じた。仕事で疲れていても、スチュワードで試合に行けば気分転換になり、元気ももらえるということが、長く続けられた要因だったと中村さんは言う。特にスチュワード委員会で委員長を務めてからは、会合で熱を持った話し合いがあったり、後援会との連絡や会議などにも参加するなど、ネットワークがさらに広がった。
■30周年を機にどんな未来を創るか
冒頭のスチュワード30周年記念イベントのテーマは「故きを温ね、未来を創る」。新しい仲間も含めて、スチュワードの未来をどう創っていくか。それを考え、実行していく契機にしたいというものだった。中村さんは言う。
「私の場合、知らない世界を知ることができるというのがスチュワードをやって一番の喜びでした。年齢が上がってくると、だんだん初めての場に行くのがおっくうになってしまいがちです。また今の若い人も自分の世界にこもってしまう人が多いようですが、それじゃ人生は面白くないですよね。もっともっと、いろんなチャンスがそこに転がっていますし、レッズが好きだったら、ピッチの上だけではない、レッズの違う場面を見ることもできますし、何よりレッズに対する貢献になります。新しく埼玉県に住んで地域とのつながりが欲しい方、あるいは今とは違うネットワークも探している方にはもってこいの活動です。一緒にやりませんかということをもっともっと発信して、仲間を増やしたいと思っています」
前述した、試合での業務の幅を増やす、ということも「未来を創る」一環となるだろうし、すでに行っているという他のJクラブのボランティア組織や、サッカー以外のボランティア組織との交流なども、新しい何かを生み出す原動力になりそうだ。
浦和レッズと言えば、多くのサポーターによる熱い応援で知られるが、スチュワード活動の30年の積み重ねもまたクラブを支えてきたことは間違いない。地域とクラブをつなぎ、ボランティア文化そのものの未来を照らす存在————浦和レッズ・スチュワードの未来に注目していきたい。
文=清尾 淳
出典:https://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20251205/2095169.html
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