【超ジュニアサッカーガイド】「足立区から世界へ」FCオーパスワンが描く、“三者で育む”強化型クラブのかたち
2025.12.04 20:00 Thu
東京都足立区を拠点に活動する強豪ジュニアクラブ、FCオーパスワン。22歳の若さで代表に就任した長田積樹は、「選手・コーチ・保護者の三者による育成」を掲げ、地域に根ざした強化型クラブを山崎オーナーと共につくり上げてきた。Tリーグ上位で戦いながらも、練習時間はわずか1時間20分、土日の活動はどちらか1日。「やらせすぎない」育成方針の先には、足立区から世界へ羽ばたく人材を生み出すための、確かなビジョンがある。
■少年団からクラブチームへ
足立区の少年団「FC栗島オーパスワン」を母体に、2016年に新たなスタートを切ったのがFCオーパスワンだ。その転換期に、22歳の若さで代表の座に就いたのが長田だった。長田はもともと駿台学園中学・高校でプレーした後、社会人として就職。休日に地元のグラウンドでボールを蹴る“お兄さんコーチ”としてチームを手伝っていた。しかし代表が辞めることになり、クラブの存続が危ぶまれた。現オーナーの山崎の助けもあり、そこで彼は迷わず仕事を辞め、サッカー一本で生きる道を選んだ。
「もうやるしかないと思って、勤めていた仕事を辞めたんです。このクラブを続けたい、そして強くしたい。それだけでした」
地域の少年団から始まったクラブは、今ではTリーグで戦う関東屈指の強豪へ。「かつては区外への遠征にも抵抗があった時代から、今では横浜など他県からも選手が通うクラブに」と長田は振り返る。
オーパスワンを語る上で欠かせないのが、「三者の関係」だ。選手、コーチ、保護者――この三者が同じ方向を向くことを育成の核としている。
「選手を伸ばすためには、指導者だけではなく保護者のサポートも欠かせません。保護者の不安を解消し、同じ目標を共有することで選手の成長を支える。だから僕らは年に2~3回、全選手と三者面談を行っています」
個別面談では「AチームからBチームに下がった理由」まで丁寧に説明する。ただ結果を伝えるのではなく、「どうすれば戻れるか、Bチームでやる狙いは何か?」を具体的に話すことで、クラブ全体の信頼関係を築いてきた。
「負けても“オーパスワンでよかった”と思ってもらえるクラブでありたい」
その理念を全スタッフが共有しており、退会者はほとんどいないという。
■「後出しジャンケンサッカー」で考える力を養う
オーパスワンが掲げるスタイルは、「後出しジャンケンサッカー」。ポゼッションでもカウンターでもない、相手を“見て出す”サッカーだ。
「相手の出方を見て後出しする、というより“相手に出させる”。こちらがあえてグーを出して、相手にチョキを出させるようなイメージです。分析や想定を踏まえて、選手自身が相手を動かしながら試合を作る」
創意工夫を求める理由は、立ち上げ当初から“身体的に抜けた選手がいなかった”という現実にあった。
「体格やスピードで勝てない分、どうすれば相手を困らせられるかを考え続けた。その積み重ねが“考える力”を育てたと思います」
小学生年代での勝敗よりも、“体が伸びたときに逆転できる選手”を育てること。長田が語る“強化”とは、まさに長期的な視点に立った育成そのものだ。
■「1時間20分の練習」と“やりたい”を生み出す設計
意外にも、オーパスワンの練習はわずか1時間10〜20分。土日もどちらか一方のみ試合を行うという。
「やらせすぎないようにしています。もっとやりたいという気持ちを残すこと。サッカー以外に時間を使うことが大事。それが“自分からボールを触る”原動力になる」
短時間でも集中して高い強度を保つ。試合中の映像を切り取って個別にフィードバックを送るなど、指導は極めて密度が高い。
「時間が限られているからこそ、どうやって他より上手くなるかを選手自身に考えさせる」
“量より質”を重視するスタンス。その背景には、選手一人ひとりの「やりたい」を引き出したいという願いがある。
■「選手・保護者・指導者」が同じ方向を向く
三者面談や練習方針だけでなく、クラブには保護者ガイドラインまで存在する。熱くなりすぎる保護者にもルールを明確にし、チーム全体の成長を優先する仕組みを整えている。
「セレクションはしませんが、入会時にクラブの理念を読んでもらいます。納得して入ってくれる人と一緒にやりたい」
その理念は「関わる家族の幸せにつなげる」という一文に集約される。勝敗だけでなく、「このチームでよかった」と思える経験を提供する――。それがオーパスワンスタイルだ。
■ジュニアからジュニアユースへ、そしてその先へ
6年前には中学生年代のジュニアユースも設立。1学年24人限定の少数精鋭で、ジュニアとの連携を強化している。
「ジュニアで見てきた選手の“続きを見たい”と思ったのがきっかけです。内部昇格もセレクションを設けていますが、入れない子にも全員進路サポートを行います」
クラブの卒業生はJリーグ下部組織、帝京や堀越など全国強豪校に進み、選手権得点王やU-15代表に選出された選手も誕生した。
「足立から世界へ」――その言葉が少しずつ現実のものになりつつある。
■“やらされるサッカー”から、“やりたいサッカー”へ
長田が22歳で代表を継いでから10年。足立区の一クラブは、今や全国大会の常連へと成長した。だが、その根底にあるのは常に“人”を大切にする姿勢だ。
「サッカーで強くなることも大事だけど、オーパスワンに関わった人が幸せになってほしい。たとえ試合に出られなくても、“ここでよかった”と思ってもらえるようにしたい」
勝つことより、選手を育てること。育てることより、関わる人を幸せにすること。その先にこそ、本当の“強さ”がある――。
■プロフィール
長田積樹(おさだ・つみき)
1993年、東京都足立区出身。KSC加平でサッカーを始め、駿台学園中学・高校へ進学。
高校卒業後に社会人として働きながら、地元クラブでコーチとして活動を開始。
2016年、22歳でFCオーパスワン代表に就任。
現在はジュニア・ジュニアユースを統括し、足立区から世界を目指す育成型クラブを牽引する。
■クラブプロフィール
チーム名:FCオーパスワン
活動拠点:東京都足立区
代表:長田積樹
創立:2016年
部員数:約200名
所属リーグ:三井のリハウスTリーグ「T2」(2025年時点)
大会実績:全日本U-12サッカー選手権東京都中央大会(ベスト8/2024年)、JA東京カップ(ベスト4/2024年)
主なOB選手:三鴨奏太(堀越高校)、貞清亜門(柏レイソルU-15)、米倉和心(日テレ・東京ヴェルディメニーナ)など
公式HP
公式Instagram
取材・文=北健一郎
■少年団からクラブチームへ
足立区の少年団「FC栗島オーパスワン」を母体に、2016年に新たなスタートを切ったのがFCオーパスワンだ。その転換期に、22歳の若さで代表の座に就いたのが長田だった。長田はもともと駿台学園中学・高校でプレーした後、社会人として就職。休日に地元のグラウンドでボールを蹴る“お兄さんコーチ”としてチームを手伝っていた。しかし代表が辞めることになり、クラブの存続が危ぶまれた。現オーナーの山崎の助けもあり、そこで彼は迷わず仕事を辞め、サッカー一本で生きる道を選んだ。
地域の少年団から始まったクラブは、今ではTリーグで戦う関東屈指の強豪へ。「かつては区外への遠征にも抵抗があった時代から、今では横浜など他県からも選手が通うクラブに」と長田は振り返る。
■「三者の関係」で選手を伸ばす
オーパスワンを語る上で欠かせないのが、「三者の関係」だ。選手、コーチ、保護者――この三者が同じ方向を向くことを育成の核としている。
「選手を伸ばすためには、指導者だけではなく保護者のサポートも欠かせません。保護者の不安を解消し、同じ目標を共有することで選手の成長を支える。だから僕らは年に2~3回、全選手と三者面談を行っています」
個別面談では「AチームからBチームに下がった理由」まで丁寧に説明する。ただ結果を伝えるのではなく、「どうすれば戻れるか、Bチームでやる狙いは何か?」を具体的に話すことで、クラブ全体の信頼関係を築いてきた。
「負けても“オーパスワンでよかった”と思ってもらえるクラブでありたい」
その理念を全スタッフが共有しており、退会者はほとんどいないという。
■「後出しジャンケンサッカー」で考える力を養う
オーパスワンが掲げるスタイルは、「後出しジャンケンサッカー」。ポゼッションでもカウンターでもない、相手を“見て出す”サッカーだ。
「相手の出方を見て後出しする、というより“相手に出させる”。こちらがあえてグーを出して、相手にチョキを出させるようなイメージです。分析や想定を踏まえて、選手自身が相手を動かしながら試合を作る」
創意工夫を求める理由は、立ち上げ当初から“身体的に抜けた選手がいなかった”という現実にあった。
「体格やスピードで勝てない分、どうすれば相手を困らせられるかを考え続けた。その積み重ねが“考える力”を育てたと思います」
小学生年代での勝敗よりも、“体が伸びたときに逆転できる選手”を育てること。長田が語る“強化”とは、まさに長期的な視点に立った育成そのものだ。
■「1時間20分の練習」と“やりたい”を生み出す設計
意外にも、オーパスワンの練習はわずか1時間10〜20分。土日もどちらか一方のみ試合を行うという。
「やらせすぎないようにしています。もっとやりたいという気持ちを残すこと。サッカー以外に時間を使うことが大事。それが“自分からボールを触る”原動力になる」
短時間でも集中して高い強度を保つ。試合中の映像を切り取って個別にフィードバックを送るなど、指導は極めて密度が高い。
「時間が限られているからこそ、どうやって他より上手くなるかを選手自身に考えさせる」
“量より質”を重視するスタンス。その背景には、選手一人ひとりの「やりたい」を引き出したいという願いがある。
■「選手・保護者・指導者」が同じ方向を向く
三者面談や練習方針だけでなく、クラブには保護者ガイドラインまで存在する。熱くなりすぎる保護者にもルールを明確にし、チーム全体の成長を優先する仕組みを整えている。
「セレクションはしませんが、入会時にクラブの理念を読んでもらいます。納得して入ってくれる人と一緒にやりたい」
その理念は「関わる家族の幸せにつなげる」という一文に集約される。勝敗だけでなく、「このチームでよかった」と思える経験を提供する――。それがオーパスワンスタイルだ。
■ジュニアからジュニアユースへ、そしてその先へ
6年前には中学生年代のジュニアユースも設立。1学年24人限定の少数精鋭で、ジュニアとの連携を強化している。
「ジュニアで見てきた選手の“続きを見たい”と思ったのがきっかけです。内部昇格もセレクションを設けていますが、入れない子にも全員進路サポートを行います」
クラブの卒業生はJリーグ下部組織、帝京や堀越など全国強豪校に進み、選手権得点王やU-15代表に選出された選手も誕生した。
「足立から世界へ」――その言葉が少しずつ現実のものになりつつある。
■“やらされるサッカー”から、“やりたいサッカー”へ
長田が22歳で代表を継いでから10年。足立区の一クラブは、今や全国大会の常連へと成長した。だが、その根底にあるのは常に“人”を大切にする姿勢だ。
「サッカーで強くなることも大事だけど、オーパスワンに関わった人が幸せになってほしい。たとえ試合に出られなくても、“ここでよかった”と思ってもらえるようにしたい」
勝つことより、選手を育てること。育てることより、関わる人を幸せにすること。その先にこそ、本当の“強さ”がある――。
■プロフィール
長田積樹(おさだ・つみき)
1993年、東京都足立区出身。KSC加平でサッカーを始め、駿台学園中学・高校へ進学。
高校卒業後に社会人として働きながら、地元クラブでコーチとして活動を開始。
2016年、22歳でFCオーパスワン代表に就任。
現在はジュニア・ジュニアユースを統括し、足立区から世界を目指す育成型クラブを牽引する。
■クラブプロフィール
チーム名:FCオーパスワン
活動拠点:東京都足立区
代表:長田積樹
創立:2016年
部員数:約200名
所属リーグ:三井のリハウスTリーグ「T2」(2025年時点)
大会実績:全日本U-12サッカー選手権東京都中央大会(ベスト8/2024年)、JA東京カップ(ベスト4/2024年)
主なOB選手:三鴨奏太(堀越高校)、貞清亜門(柏レイソルU-15)、米倉和心(日テレ・東京ヴェルディメニーナ)など
公式HP
公式Instagram
取材・文=北健一郎
|
|
