【超ジュニアサッカーガイド】FC大泉学園|守って、学んで、強くなる。練馬発・街クラブの挑戦
2025.11.20 20:00 Thu
夕方の練馬・大泉学園希望が丘グラウンド。17時の練習開始に合わせ、サッカーウェア姿の子どもたちが次々と集まってくる。
グラウンドに足を踏み入れると、口々に「コーチ、こんにちはー!」と元気な声が響く。
その様子を見守りながら、小嶋快代表は穏やかに笑う。
「挨拶は強制しているわけじゃないんです。でも、いつの間にか子どもたちが自然にやるようになりました」
FC大泉学園では、挨拶が単なる礼儀を超えて“クラブ文化”として根づいている。
創設期からクラブを率いる小嶋代表は、“守備を軸に成長するチームづくり”という哲学を貫きながら、地域に根ざした指導を重ねてきた。
「自立した選手を育むこと」を信念に、20年以上にわたる試行錯誤と街クラブならではの誇りを積み上げている。
■全学年20人から始まったクラブ
「最初は6学年合わせても20人もいませんでした。コーチもいなくて、全部自分でやるしかなかったんです」
小嶋快がFC大泉学園に関わり始めたのは、日本体育大学の1年生だった2001年のこと。
石神井高校時代の恩師・有坂哲コーチの影響で指導者の道を志した。
当初は友人の手伝いから始まったが、気づけばクラブの存続を一身に背負っていた。
「在学中に保護者会を開いて、『クラブチームにして責任を持って続けたい』とお願いしました。反対する人がいたら辞める覚悟でしたが、皆さんが受け入れてくれた。それが本格スタートでした」
その後、部員は50~60人へ拡大。地域の大泉学園小学校を中心に活動しながら、幼稚園クラスを設けて裾野を広げた。
「このままじゃ子どもが少なくなって存続できなくなると思ったんです。幼児から育てることで、クラブの未来をつくれると感じました」
■「まず守る」。大量失点からの転換
創設期のチームは、10失点以上の大敗が当たり前だった。
「5点6点取られて、6点7点は取り返せない。じゃあまず守ろう、と。そこから守備の指導を始めました」
1対1、2対2、3対3の守備基礎を全学年で徹底する。その結果、都大会初出場を果たした7年目以降、全日本U-12選手権東京都大会予選では2度の準優勝を経験するまでに。
「うちは守備のチームです。2024年の全日本都大会予選では決勝まで2失点しかせず、Tリーグでも失点数は常に最少クラス。時代に逆行しているかもしれませんが、それがうちらしさです」と小嶋氏は笑う。
守備の徹底こそが、街クラブがJクラブと渡り合うための生命線だった。
「攻撃は型にはめません。子どもの特徴を生かすのが一番」
守備に明確な共通基準を設ける一方、攻撃は学年ごとに色が出る。
「ドリブルが得意ならとことん伸ばす。ロングキックが得意ならそれを磨かせる。チームとしての原則は持ちつつ、制限はしない」
戦術的には、6年生でのT1リーグでは全試合を撮影・分析し、相手別のスカウティングを行った。
「“戦術メモリー”を積み上げる感覚ですね。対人・対組織の守備は共通項として全員が共有しています」
■TリーグT1に7年連続残留。街クラブの誇り
Tリーグ参戦は発足初期。T2からスタートし、5年目に無敗優勝でT1昇格を果たした。
それ以来7年連続で東京トップリーグで戦い続けている。
「楽しくないですよ(笑)。相手のほうが個の能力が高いですから。でも力関係を理解したうえで、どう勝負するか。子どもたちにはそれを学んでほしい」
守備から入る堅実な戦い方は、街クラブとしてのリアリズムでもある。
現在のクラブは1学年20人前後。
「人数が多いメリット・デメリットはありますが、メリットはチーム内の競争が生まれること。AチームとBチームの入れ替えを行ったり、スタメンを変えたりして競争させていきます」
公式戦も実力優先だが、短時間でも全員に出場機会をつくることを目指す。
「競争を経験することで気づくことがある。レギュラー落ちも成長の糧。T1リーグで前期出場機会のなかった選手が後期でスタメンになっています」
月1の自己分析シート提出、短時間面談による個別課題設定など、セルフマネジメントを育む仕組みも整える。
「自分の課題を自分で整理できる選手は伸びます。うちは“自立”を一番大事にしています」
■コーチング体制と「基準」を共有する文化
現在、チームコーチは6名。スクールやGKコーチ、OBを含めると最大10名体制となる。
平日の練習では学年を分割して指導を行う。小嶋代表は「チームの“基準”を守るため」に、全学年の公式戦に必ず帯同しているという。
「各コーチにはそれぞれのカラーがあります。でも、その中で大泉学園としての基準となるもの、守備の強度、プレーの姿勢、仲間への声かけなどを全員で共有することが大事なんです」
小嶋氏は「弱い時代を知っている自分だからこそ、どんなチームにも真摯に向き合える」と語る。
「若いコーチたちは“今の大泉”からスタートしている世代。でも、それはクラブが積み上げてきた証。だからこそ、どうやってここまで来たのかを伝えていきたいんです」
■“真面目・負けず嫌い・サッカー好き”が伸びる
卒業生たちはJリーグやWEリーグの下部組織をはじめ、多方面へ進学している。
「クラブ指定はせず、本人の希望を尊重しています。控えの子でも成長して強豪チームへの進路を勝ち取るケースが増えました」
伸びる選手の共通点を問うと、小嶋氏は即答した。
「真面目、負けず嫌い、そしてサッカーが誰よりも好き。この3つがないと伸びません」
たとえば現在U-17女子日本代表キャプテンの青木夕菜選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)も同クラブの出身だ。
「2、3年生までは試合に出てもそれほど目立ちませんでした。でも本当に真面目で、負けず嫌いで、サッカーが好きでした」
優秀な女子選手を多数輩出しているのは、大泉学園のチームカラーでもある。
「男子の中でも十分戦えます。むしろ女子のほうが根性がある(笑)。合宿では男子と部屋を分けますが『男子と同じ部屋でいい』という子もいます。女子同士のライバル関係もプラスになります」
■保護者との距離感と“街クラブの矜持”
「私は保護者とはあまりコミュニケーションを取らないようにしています。保護者の方々には日々サポートしていただいていて、とても感謝しておりますが、いろいろな話しを聞いていく中で、子どもの評価に影響が出ないようにしたいんです。こちらとしては子どもの成長や充実した活動という“結果”を出して納得していただくしかないと思っています。もちろん個別の質問などがあれば対応します」
この姿勢が代々の保護者に受け継がれ、応援も静かで落ち着いた雰囲気が定着している。
「ピッチのサイドから叫ぶようなコーチングはありません。自然と線を引いて頂いてます」
マイクロバスやハイエースを運用し、送迎負担を減らすなど運営面でも細やかな工夫を続ける。
「街クラブだからこそ、無理なく続けられる環境を整えることが大事です」
小嶋代表は最後にこう語った。
「今のクラブの状態を少しずつ成長させて継続させて行くことを目標にしています」
強豪となった今も、挑戦の姿勢は変わらない。弱かった時代に胸を借りたように、今は後進にその機会を与える。
「試合を申し込まれたら、できる限り受けます。誰かのきっかけになるなら、それが一番うれしい」
練馬から全国へ。“守備から育つ”哲学とともに、FC大泉学園の歩みはこれからも続く。
取材・文=北健一郎
【プロフィール】
小嶋快(こじま・かい)
東京都出身。都立石神井高校、日本体育大学卒。
大学在学中からFC大泉学園の指導を開始し、卒業後に代表理事へ。
「自立した選手を育てる」を信条に、街クラブとして独自のスタイルを築く。
【クラブプロフィール】
チーム名:FC大泉学園
活動拠点:東京都練馬区
練習場所:練馬区立大泉学園小学校、大泉さくら運動公園多目的運動場、大泉学園町希望が丘公園運動場
代表:小嶋快
創立:2004年
部員数:約120名
所属リーグ:三井のリハウスTリーグ「T1」(2025年時点)
大会実績:全日本U-12サッカー選手権大会 東京都予選:準優勝(2022・2024、2025)
U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ出場:2018・2020・2023・2025(第3位)
関東大会出場3回/東京都中央大会出場49回
主なOB選手:青木夕菜(U-17女子日本代表キャプテン/日テレ・東京ヴェルディベレーザ)
ほか、多くの選手がJクラブ下部組織や強豪校へ進学
クラブ公式Instagram
グラウンドに足を踏み入れると、口々に「コーチ、こんにちはー!」と元気な声が響く。
その様子を見守りながら、小嶋快代表は穏やかに笑う。
FC大泉学園では、挨拶が単なる礼儀を超えて“クラブ文化”として根づいている。
かつては全学年合わせても20人に満たなかった少年団は、いまやTリーグ最上位「T1」で7年連続残留を果たす東京屈指の強豪へと進化を遂げた。
創設期からクラブを率いる小嶋代表は、“守備を軸に成長するチームづくり”という哲学を貫きながら、地域に根ざした指導を重ねてきた。
「自立した選手を育むこと」を信念に、20年以上にわたる試行錯誤と街クラブならではの誇りを積み上げている。
■全学年20人から始まったクラブ
「最初は6学年合わせても20人もいませんでした。コーチもいなくて、全部自分でやるしかなかったんです」
小嶋快がFC大泉学園に関わり始めたのは、日本体育大学の1年生だった2001年のこと。
石神井高校時代の恩師・有坂哲コーチの影響で指導者の道を志した。
当初は友人の手伝いから始まったが、気づけばクラブの存続を一身に背負っていた。
「在学中に保護者会を開いて、『クラブチームにして責任を持って続けたい』とお願いしました。反対する人がいたら辞める覚悟でしたが、皆さんが受け入れてくれた。それが本格スタートでした」
その後、部員は50~60人へ拡大。地域の大泉学園小学校を中心に活動しながら、幼稚園クラスを設けて裾野を広げた。
「このままじゃ子どもが少なくなって存続できなくなると思ったんです。幼児から育てることで、クラブの未来をつくれると感じました」
■「まず守る」。大量失点からの転換
創設期のチームは、10失点以上の大敗が当たり前だった。
「5点6点取られて、6点7点は取り返せない。じゃあまず守ろう、と。そこから守備の指導を始めました」
1対1、2対2、3対3の守備基礎を全学年で徹底する。その結果、都大会初出場を果たした7年目以降、全日本U-12選手権東京都大会予選では2度の準優勝を経験するまでに。
「うちは守備のチームです。2024年の全日本都大会予選では決勝まで2失点しかせず、Tリーグでも失点数は常に最少クラス。時代に逆行しているかもしれませんが、それがうちらしさです」と小嶋氏は笑う。
守備の徹底こそが、街クラブがJクラブと渡り合うための生命線だった。
「攻撃は型にはめません。子どもの特徴を生かすのが一番」
守備に明確な共通基準を設ける一方、攻撃は学年ごとに色が出る。
「ドリブルが得意ならとことん伸ばす。ロングキックが得意ならそれを磨かせる。チームとしての原則は持ちつつ、制限はしない」
戦術的には、6年生でのT1リーグでは全試合を撮影・分析し、相手別のスカウティングを行った。
「“戦術メモリー”を積み上げる感覚ですね。対人・対組織の守備は共通項として全員が共有しています」
■TリーグT1に7年連続残留。街クラブの誇り
Tリーグ参戦は発足初期。T2からスタートし、5年目に無敗優勝でT1昇格を果たした。
それ以来7年連続で東京トップリーグで戦い続けている。
「楽しくないですよ(笑)。相手のほうが個の能力が高いですから。でも力関係を理解したうえで、どう勝負するか。子どもたちにはそれを学んでほしい」
守備から入る堅実な戦い方は、街クラブとしてのリアリズムでもある。
現在のクラブは1学年20人前後。
「人数が多いメリット・デメリットはありますが、メリットはチーム内の競争が生まれること。AチームとBチームの入れ替えを行ったり、スタメンを変えたりして競争させていきます」
公式戦も実力優先だが、短時間でも全員に出場機会をつくることを目指す。
「競争を経験することで気づくことがある。レギュラー落ちも成長の糧。T1リーグで前期出場機会のなかった選手が後期でスタメンになっています」
月1の自己分析シート提出、短時間面談による個別課題設定など、セルフマネジメントを育む仕組みも整える。
「自分の課題を自分で整理できる選手は伸びます。うちは“自立”を一番大事にしています」
■コーチング体制と「基準」を共有する文化
現在、チームコーチは6名。スクールやGKコーチ、OBを含めると最大10名体制となる。
平日の練習では学年を分割して指導を行う。小嶋代表は「チームの“基準”を守るため」に、全学年の公式戦に必ず帯同しているという。
「各コーチにはそれぞれのカラーがあります。でも、その中で大泉学園としての基準となるもの、守備の強度、プレーの姿勢、仲間への声かけなどを全員で共有することが大事なんです」
小嶋氏は「弱い時代を知っている自分だからこそ、どんなチームにも真摯に向き合える」と語る。
「若いコーチたちは“今の大泉”からスタートしている世代。でも、それはクラブが積み上げてきた証。だからこそ、どうやってここまで来たのかを伝えていきたいんです」
■“真面目・負けず嫌い・サッカー好き”が伸びる
卒業生たちはJリーグやWEリーグの下部組織をはじめ、多方面へ進学している。
「クラブ指定はせず、本人の希望を尊重しています。控えの子でも成長して強豪チームへの進路を勝ち取るケースが増えました」
伸びる選手の共通点を問うと、小嶋氏は即答した。
「真面目、負けず嫌い、そしてサッカーが誰よりも好き。この3つがないと伸びません」
たとえば現在U-17女子日本代表キャプテンの青木夕菜選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)も同クラブの出身だ。
「2、3年生までは試合に出てもそれほど目立ちませんでした。でも本当に真面目で、負けず嫌いで、サッカーが好きでした」
優秀な女子選手を多数輩出しているのは、大泉学園のチームカラーでもある。
「男子の中でも十分戦えます。むしろ女子のほうが根性がある(笑)。合宿では男子と部屋を分けますが『男子と同じ部屋でいい』という子もいます。女子同士のライバル関係もプラスになります」
■保護者との距離感と“街クラブの矜持”
「私は保護者とはあまりコミュニケーションを取らないようにしています。保護者の方々には日々サポートしていただいていて、とても感謝しておりますが、いろいろな話しを聞いていく中で、子どもの評価に影響が出ないようにしたいんです。こちらとしては子どもの成長や充実した活動という“結果”を出して納得していただくしかないと思っています。もちろん個別の質問などがあれば対応します」
この姿勢が代々の保護者に受け継がれ、応援も静かで落ち着いた雰囲気が定着している。
「ピッチのサイドから叫ぶようなコーチングはありません。自然と線を引いて頂いてます」
マイクロバスやハイエースを運用し、送迎負担を減らすなど運営面でも細やかな工夫を続ける。
「街クラブだからこそ、無理なく続けられる環境を整えることが大事です」
小嶋代表は最後にこう語った。
「今のクラブの状態を少しずつ成長させて継続させて行くことを目標にしています」
強豪となった今も、挑戦の姿勢は変わらない。弱かった時代に胸を借りたように、今は後進にその機会を与える。
「試合を申し込まれたら、できる限り受けます。誰かのきっかけになるなら、それが一番うれしい」
練馬から全国へ。“守備から育つ”哲学とともに、FC大泉学園の歩みはこれからも続く。
取材・文=北健一郎
【プロフィール】
小嶋快(こじま・かい)
東京都出身。都立石神井高校、日本体育大学卒。
大学在学中からFC大泉学園の指導を開始し、卒業後に代表理事へ。
「自立した選手を育てる」を信条に、街クラブとして独自のスタイルを築く。
【クラブプロフィール】
チーム名:FC大泉学園
活動拠点:東京都練馬区
練習場所:練馬区立大泉学園小学校、大泉さくら運動公園多目的運動場、大泉学園町希望が丘公園運動場
代表:小嶋快
創立:2004年
部員数:約120名
所属リーグ:三井のリハウスTリーグ「T1」(2025年時点)
大会実績:全日本U-12サッカー選手権大会 東京都予選:準優勝(2022・2024、2025)
U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ出場:2018・2020・2023・2025(第3位)
関東大会出場3回/東京都中央大会出場49回
主なOB選手:青木夕菜(U-17女子日本代表キャプテン/日テレ・東京ヴェルディベレーザ)
ほか、多くの選手がJクラブ下部組織や強豪校へ進学
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