創部3年目の快進撃。“新しい風”FC琉球高等学院が目指す、沖縄の頂点と高校サッカー選手権
2025.11.04 20:00 Tue
                創部3年目で、全国高校サッカー選手権・沖縄県大会の決勝に駒を進めたFC琉球高等学院サッカー部。2018年に沖縄県のJリーグクラブF C琉球によってJリーグクラブが運営する初の高校として誕生し、2022年にわずか5人から始まったサッカー部は、2023年に高体連加盟を実現し、今や沖縄を代表する存在へと成長した。立ち上げから関わる石川けん総監督と、現場を率いる岡根直哉監督。ふたりの言葉から浮かび上がるのは、“教育”と“挑戦”が交差する、沖縄発の新しい育成のかたちだった。
■「5人からのスタート」。無名校の挑戦が始まった日
2018年、沖縄県内で「FC琉球が高校を開校する」と聞いても、当初は多くが半信半疑だった。通信制の鹿島朝日学園を母体に、技能連携校として高体連加盟を実現するという仕組みそのものが、前例のない挑戦だったからだ。
「最初の練習は2人しかいませんでした。ボール回しもできないほどでしたね」(石川けん総監督)
創部当時は部員5人。サッカーにならない日も多かった。それでも石川はあきらめず、全国から選手を探し、2023年度には17名の新入生が入学。沖縄県リーグ(波布リーグ)3部からスタートし、2024年には県リーグ2部→1部まで破竹の勢いで昇格を果たすと、2025年新人戦では県3位に入賞、現在28名規模のチームにまで急成長した。彼らが、今大会でベスト4を突破し、決勝の舞台に立つ。
■指導者ふたりが描く、“サッカーで再生する学校”
2025年から正式に現場を任されたのが、清水エスパルスなどでプレーした元Jリーガーで、沖縄SVで現役キャリアを終えた岡根直哉監督だ。プレーヤーから指導者へ──彼にとっても転機の年だった。
「コーチの時とは違う責任感を感じました。でも、プレッシャーがあるほうが楽しいんです。期待に応えたいし、自分自身もこの場所で成長したいと思いました」(岡根)
彼が率いるチームには、さまざまな背景を持つ選手が集まる。中学時代に不登校だった選手、他県で挫折を経験し沖縄へ戻ってきた選手──彼らに共通するのは、“もう一度、サッカーで立ち上がりたい”という思いだ。
「ヤンチャな子も多いです。でも、そういう子ほど魅力的。どうやってそのエネルギーをサッカーに向けるか、それを考えるのが面白い」(岡根)
学園では、午前に練習、午後に授業を行う二部制。対面授業とレポート提出が義務づけられ、欠席が続けば単位を失う厳しさもある。石川はこう語る。
「“通信制だから自由”ではありません。むしろ、規律を守れない子は淘汰されます。残った生徒たちは本気で変わろうとしている。サッカーを通して再び学校に通えるようになった子もいます」
教育と競技が両輪で進むこの学校は今、沖縄の新しい“再生の場”として注目を集めている。
■少人数で挑む決勝。沖縄の常識を変えるために
沖縄の高校サッカー界は、公立の強豪校が中心だ。今年の決勝で対戦する那覇西高校は、部員240名を誇る“王者”。対するFC琉球高等学院は、わずか28名──人数だけ見れば、まさに挑戦者だ。
「リーグ戦では1-7、そして1-2で敗れています。でも、恐怖心を与えるような試合運びができれば勝機はある。失うものは何もありません」(岡根)
準決勝までの戦いぶりは、まさに“快進撃”だった。初戦(2回戦)で26-0の大勝を飾り、3回戦では苦手意識のあった那覇高校を延長戦で撃破。さらに準々決勝で豊見城高校を2-0で下し、初のベスト4入り。準決勝も八重山商工高校に2-0で勝ち切った。ついに決勝の舞台へ──創部3年目のチームが、沖縄の歴史を塗り替えようとしている。
「3年間でここまで来るとは想定以上です。でも、それを加速させたのは岡根監督の情熱と、選手の変化を引き出す力。彼の言葉には不思議な説得力がある」(石川)
■“FC琉球”の名を背負う意味と、次のステージへ
高体連の規定上、大会では「鹿島朝日高等学校・沖縄」として出場している。「営利団体名の使用が不可」という理由からだ。だが、選手もスタッフも、その胸に刻まれた“FC琉球”の名に誇りを持っている。
「ルールがあるのは理解しています。でも、僕らは“FC琉球高等学院”として胸を張って戦いたい。前例を覆して、全国にこの仕組みを知ってもらいたい」(石川)
将来的には、FC琉球ユースとの往来や合同練習の実現も視野に入れている。岡根監督はその関係を「柏レイソルU-18と日体大柏高校のように」と表現する。
「高校をハブにすれば、ユースと学校の往来がスムーズになる。そういう関係性を築きたい」
さらに、全国からの“流入”も進んでいる。関東や九州の強豪校で挫折した選手が再び集う場として、沖縄の地に新しい循環が生まれ始めている。
■「沖縄でゲームチェンジを」。決勝に挑む覚悟
創部3年目、初の決勝戦。部員たちは“勝利”だけでなく、“存在を証明する戦い”に挑む。
「勝っても負けても、ここまで関わってきた全員が誇れる試合をしたい。戦う姿を通じて、沖縄だけでなく全国に強い印象を残したい」(石川)
「沖縄の高校サッカーはまだ伸びしろがある。僕らが結果を出せば、ゲームチェンジが起こせる。選手たちには、この決勝で“何かをつかみ取る経験”をしてほしい」(岡根)
FC琉球のエンブレムを胸に、挑戦者たちが立つ。11月8日、沖縄の新しい風が、那覇西に吹き荒れる。
取材・文=北健一郎
全国大会を目指して沖縄でプレーしたい選手はこちら
                    
                                            
                                        
                                        
                                        
                                        
                    ■「5人からのスタート」。無名校の挑戦が始まった日
2018年、沖縄県内で「FC琉球が高校を開校する」と聞いても、当初は多くが半信半疑だった。通信制の鹿島朝日学園を母体に、技能連携校として高体連加盟を実現するという仕組みそのものが、前例のない挑戦だったからだ。
創部当時は部員5人。サッカーにならない日も多かった。それでも石川はあきらめず、全国から選手を探し、2023年度には17名の新入生が入学。沖縄県リーグ(波布リーグ)3部からスタートし、2024年には県リーグ2部→1部まで破竹の勢いで昇格を果たすと、2025年新人戦では県3位に入賞、現在28名規模のチームにまで急成長した。彼らが、今大会でベスト4を突破し、決勝の舞台に立つ。
「最初はルールも守れず、授業に出ない子もいました。でも、残った子たちは本当に強い気持ちでここまで来た。彼らがいなければ、今のチームはありません」(石川)
■指導者ふたりが描く、“サッカーで再生する学校”
2025年から正式に現場を任されたのが、清水エスパルスなどでプレーした元Jリーガーで、沖縄SVで現役キャリアを終えた岡根直哉監督だ。プレーヤーから指導者へ──彼にとっても転機の年だった。
「コーチの時とは違う責任感を感じました。でも、プレッシャーがあるほうが楽しいんです。期待に応えたいし、自分自身もこの場所で成長したいと思いました」(岡根)
彼が率いるチームには、さまざまな背景を持つ選手が集まる。中学時代に不登校だった選手、他県で挫折を経験し沖縄へ戻ってきた選手──彼らに共通するのは、“もう一度、サッカーで立ち上がりたい”という思いだ。
「ヤンチャな子も多いです。でも、そういう子ほど魅力的。どうやってそのエネルギーをサッカーに向けるか、それを考えるのが面白い」(岡根)
学園では、午前に練習、午後に授業を行う二部制。対面授業とレポート提出が義務づけられ、欠席が続けば単位を失う厳しさもある。石川はこう語る。
「“通信制だから自由”ではありません。むしろ、規律を守れない子は淘汰されます。残った生徒たちは本気で変わろうとしている。サッカーを通して再び学校に通えるようになった子もいます」
教育と競技が両輪で進むこの学校は今、沖縄の新しい“再生の場”として注目を集めている。
■少人数で挑む決勝。沖縄の常識を変えるために
沖縄の高校サッカー界は、公立の強豪校が中心だ。今年の決勝で対戦する那覇西高校は、部員240名を誇る“王者”。対するFC琉球高等学院は、わずか28名──人数だけ見れば、まさに挑戦者だ。
「リーグ戦では1-7、そして1-2で敗れています。でも、恐怖心を与えるような試合運びができれば勝機はある。失うものは何もありません」(岡根)
準決勝までの戦いぶりは、まさに“快進撃”だった。初戦(2回戦)で26-0の大勝を飾り、3回戦では苦手意識のあった那覇高校を延長戦で撃破。さらに準々決勝で豊見城高校を2-0で下し、初のベスト4入り。準決勝も八重山商工高校に2-0で勝ち切った。ついに決勝の舞台へ──創部3年目のチームが、沖縄の歴史を塗り替えようとしている。
「3年間でここまで来るとは想定以上です。でも、それを加速させたのは岡根監督の情熱と、選手の変化を引き出す力。彼の言葉には不思議な説得力がある」(石川)
■“FC琉球”の名を背負う意味と、次のステージへ
高体連の規定上、大会では「鹿島朝日高等学校・沖縄」として出場している。「営利団体名の使用が不可」という理由からだ。だが、選手もスタッフも、その胸に刻まれた“FC琉球”の名に誇りを持っている。
「ルールがあるのは理解しています。でも、僕らは“FC琉球高等学院”として胸を張って戦いたい。前例を覆して、全国にこの仕組みを知ってもらいたい」(石川)
将来的には、FC琉球ユースとの往来や合同練習の実現も視野に入れている。岡根監督はその関係を「柏レイソルU-18と日体大柏高校のように」と表現する。
「高校をハブにすれば、ユースと学校の往来がスムーズになる。そういう関係性を築きたい」
さらに、全国からの“流入”も進んでいる。関東や九州の強豪校で挫折した選手が再び集う場として、沖縄の地に新しい循環が生まれ始めている。
■「沖縄でゲームチェンジを」。決勝に挑む覚悟
創部3年目、初の決勝戦。部員たちは“勝利”だけでなく、“存在を証明する戦い”に挑む。
「勝っても負けても、ここまで関わってきた全員が誇れる試合をしたい。戦う姿を通じて、沖縄だけでなく全国に強い印象を残したい」(石川)
「沖縄の高校サッカーはまだ伸びしろがある。僕らが結果を出せば、ゲームチェンジが起こせる。選手たちには、この決勝で“何かをつかみ取る経験”をしてほしい」(岡根)
FC琉球のエンブレムを胸に、挑戦者たちが立つ。11月8日、沖縄の新しい風が、那覇西に吹き荒れる。
取材・文=北健一郎
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