もう代表戦は始まっている…/原ゆみこのマドリッド

2023.09.08 21:30 Fri
©Getafe C.F.
「こんな派手な入団プレゼンを見るのはいつ以来だろう」そんな風に私が郷愁を感じていたのは水曜日、セビージャに18年ぶりに復帰したセルヒオ・ラモスのプレゼンイベントが始まるとツイッターで知り、初めてセビージャTVなるYouTubeチャンネルを開いてみると、折しも選手の記者会見がスタート。ずっとチラ見していたところ、ラモスの質疑応答だけで30分、続いてホセ・カストロ会長とスポーツディレクターのビクトル・オルタ氏への質疑応答が30分と、長々やっていたのには閉口させられましたけどね。確かに夏の移籍市場が閉じた後、PSGを昨季限りで退団し、フリーになったラモスはセビージャのオファーを待っていたものの、当人のアル・イティハド入団の報が流れた翌日になって、いきなり急展開しましたからね。

クラブのフロントも夏中、「ラモスの獲得は絶対ない」と言い張っていたため、マスコミがあれこれ尋ねたがるのもわかるんですが、実はその間、サンチェス・ピスファンのスタンドではおよそ2万5000人のファンが年棒10倍のサウジアラビアのオファーを蹴って、19才の時、レアル・マドリーに移籍したカンテラーノ(下部組織出身の選手)が古巣に戻って来たのを歓迎しようと待機中。ようやく始まったプレゼンイベントではゲストとして、セビージャのトップチームにデビューした時にチームを指揮していたカパロス監督、カンテーラ責任者のブランコ氏、現キャプテンで今回は負傷でスペイン代表に呼ばれていなかったヘスス・ナバスもピッチの中央に設けられたステージに登場することに。

更にテニスのラファ・ナダルやマドリーで同僚だったモドリッチ、若きラモスと一緒にプレーしたセビージャのレジェンドCB、パブロ・アルファロやハビ・ナバロからのビデオメッセージまで流れるとは、うーん、何せここ数年、夏はサンティアゴ・ベルナベウが突貫工事態勢に入るマドリーなど、スタンドに大勢のファンが詰め掛けるメガプレゼンとは無縁になってしまいましたからね。おそらく最後は2019年のアザール(チェルシーから移籍、昨季で退団)だったかと思いますが、あのリーガ開幕から4試合で5得点と、クリスチアーノ・ロナウド(現アル・ナサル)ばりの活躍をしている久々の移籍金1憶ユーロ(約160億円)越え選手、ベリンガム(ドルトムントから移籍)ですら、バルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場で内輪のプレゼン。
記者会見をした後、エスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でユニ姿の写真撮影という淋しい扱いでしたから、最後は芸能人の奥さん、ピラルさんと4人の息子もステージに上がり、何十個ものボールのスタンドへの蹴り入れを含め、1時間近く続いたラモスのプレゼンが羨ましくなるのも仕方なかったかと。ちなみにセビージャで背番号4を着けることになった37才は会見で、「Ojalá tenga la suerte como Ivan y Navas de volver a casa y levantar títulos/オハラ・テンガ・ラ・スエルテ・コモ・イバン・イ・ナバス・デ・ボルベル・ア・カサ・イ・レバンタール・ティトゥロス(家に戻ってタイトルを掲げるという、ラキティッチやナバスの幸運が自分にもありますように)」と言っていたんですが、現在、リーガ開幕3連敗のセビージャは勝ち点0で最下位。夏の間はずっと1人でトレーニングしていたとなると、paron(パロン/リーガの停止期間)明けのラス・パルマス戦でメンディリバル監督のチームが今季初の勝ち点を稼ぐのに、ラモスが貢献できるかどうかは微妙ですよね。

え、公開入団プレゼンなら、火曜にヘタフェもやっていなかったかって?その通りで、多分、もうリーガが始まって、コリセウム・アルフォンソ・ペレスのピッチに芝があるからなんでしょうね。オフシーズン中はいつも貼り替え作業でピッチが使えず、入団プレゼンもプレスルームの中だけの簡素な形式なんですが、今年は市場最終日に加入が決まったオスカル・ロドリゲス(セビージャからレンタル)、ディエゴ・リコ(同レアル・ソシエダ)、そしてメイソン・グリーンウッド(同マンチェスター・ユナイテッド)の3人をまとめてお披露目。実はその日はDÍA AZULÓN(ディア・アスロン/ヘタフェファンの日)とクラブが銘打って、午前中の練習もコリセウムで公開していたんですが、午後7時からの合同プレゼンに私が行ってみたところ…。
メトロの接続が悪く、到着が時間ギリギリだったため、すでにコリセウム前の行列は捌けていたんですが、正面スタンドはすでに3000人程のファンで溢れかえらんばかりだったから、ビックリしたの何のって。皆、選手たちがピッチに現れるまで、クラブ歌を合唱したりして楽しんでいましたが、プレゼン自体は司会の質問に幾つか答えるぐらいで、後は写真を撮って、選手1人につき、5個ずつサインボールをスタンドに蹴り上げるぐらい。とりわけプレミアリーグのトップクラブから来た、イングランドA代表経験もある21才のグリーンウッドがファンの人気を浚っていましたが、やだなあ。奥さんとお子さんが来ていたなら、ラモスのプレゼンみたいにピッチに呼んでくれたら良かったのに。

というのもその時点で私はグリーンウッドが昨年、当時は恋人だったハリエット・ロブソンさんに暴力を振るい、当の彼女が自身のインスタグラムに唇から血がダラダラ流れている映像をポスト。裁判沙汰になるはずだったのが、いつしか訴えが取り下げられたという情報しか知りませんでしたからね。今は女子W杯で優勝したスペイン代表の表彰式でサッカー協会会長のルビアレス氏がジェニ・エルモーソ(パチューカ)にキスした件でFIFAから停職処分を喰らい、スペイン・サッカー界がとりわけセクハラや男尊女卑的な行為に敏感になっている時期だけに、よりによってDV野郎を獲得するってどういうクラブみたいに思うファンもいたはずですが、正妻となって、子供も生まれたハリエッタさんの姿を見れば、皆、そういうことかと納得できたのでは?

どちらにしろ、その事件の後、チームから隔離されていたグリーンウッドがピッチに立つにはしばらく時間がかかりそうですが、他の2人は大丈夫なよう。とりわけオスカルには、知らぬ間に入れ違いでジローナに移り、先週末のラス・パルマス戦で決勝点を挙げていたポルトゥの代わりとして、ボルハ・マジョラルやラタサがゴールを挙げるのに協力してもらいたいところですが、さて。ちなみにこの2週間、ボルダラス監督のチームで各国代表に出向しているのはロサーノ(ホンジュラス)、ジェネ(トーゴ)、マクシモビッチ(セビージャ)、アルデレテ(パラグアイ)の4人だけ。昨季は足首の故障で不在のことが多かったアランバリも後半ロスタイムにベリンガムのゴールが入るまで、引分けていた前節のマドリー戦から復帰していますし、きっと各国代表戦明けのオサスナ戦ではコリセウムのファンにより進化したヘタフェの姿を見せてくれるんじゃないでしょうか。

その一方で兄貴分たちは今週、負傷者以外にもマドリーは12人、アトレティコは10人が各国代表に行っているため、最少人数で練習を続けているんですが、それぞれメンディ、ヒメネスの復帰が代表戦明けのリーガ戦になりそうだというのは嬉しい知らせかと。それより遅れそうなのはビニシウスとコケで、前者は9月24日のマドリーダービー、後者は19日のCL1節ラツィオ戦が復帰の目標に。それよりマドリーで評判になっていたのは、クラブが公開したサンティアゴ・ベルナベウの新兵器、折り畳み式ピッチ地下格納システムの映像で、ええ、次のレアル・ソシエダ戦までは2週間ありますからね。6時間かけて、ピッチ全面をしまい込み、未だに続いている改修工事の影響を受けて、昨季のように芝がすぐ痛むことはもうなくなったよう。

先週末、勇み足の集中豪雨警報でメトロポリターノでのセビージャ戦が延期になったアトレティコでの最大のニュースは火曜にとうとう、カラスコのアル・シャバブ移籍が発表されたことで、まあ、どちらにしろ、ベルギー代表合宿があるため、当人は月曜にはマドリッドを離れ、リアドに向かっていたんですけどね。木曜まで移籍市場の開いているサウジアラビアのチームと3年契約を結んだ理由は、30才になる彼によると、「自分はまだビッグクラブでプレーする資質があるが、もし負傷したら、全てが変わってしまいうる。安全なのが一番だ」とのこと。確かにアトレティコの契約延長オファーはとても年棒1300万ユーロ(約21億円)には達しませんが、見た目に関わらず、結構、カラスコは用心深かった?

とはいえ、今回は開幕3試合、アトレティコでスタメンを務めているため、問題ないんですが、この先も彼がベルギー代表に招集してもらえるかは定かではなく、いえ、テデスコ代表監督とも話して、「自分の場所を失う恐れは抱いていない」と当人は強気だったんですけどね。フランス代表を引退したベンゼマ(アル・イティハド)はともかく、誰も彼もがクリスチアーノ・ロナウド(ポルトガル)と同じ扱いで代表招集してもらえるとはとても思えず。それとは真逆で、フランス代表での会見で「この夏、オファーの電話とかはあったけど、自分はアトレティコの歴代最多得点者になるのにあと15ゴールと迫っている。だから代理人の妹に『ボクは動かない。ここに残る』と言ったんだ」と話していたグリーズマンはきっと、来年のユーロ2024でも活躍する姿を見ることができるんじゃないでしょうか。

え、そのフランスは木曜夜のユーロ予選でアイルランドにチュアメニ(マドリー)とマルクス・テュラム(ミラン)のゴールで2-0と勝っていたけど、ということは、スペイン代表も試合が迫っているんじゃないのかって?その通りで彼らも今週月曜にはラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設で合宿入り。今回は6月に優勝したネーションズリーグ・ファイナルフォーの時より1人増えて、24人の選手が呼ばれたんですが、うちメンバー変更となったのは8名でした。

代表引退を宣言したジョルディ・アルバ(インテル・マイアミ)、ヨーロッパ外へ移籍したカナレス(モンテレイ)、ロドリゴ・モレノ(アル・ラーヤン)、その他、ヘスス・ナバス、ナチョ、フラン・ガルシア(マドリー)、ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)、アンス・ファティ(バルサからブライトンにレンタル移籍)らが外れ、代わりにアスピリクエタ(チェルシーからアトレティコに移籍)、ダビド・ガルシア(オサスナ)、パウ・トーレス(ビジャレアルからアストン・ビラに移籍)、ガジャ(バレンシア)、アベル・ルイス(スポルティング・ブラガ)、そして6月は負傷で来られなかったニコ・ウィリアムス(アスレティック)とバルデ(バルサ)に加え、アレックス・バエナ(ビジャレアル)と15才だった昨季、バルサのトップチームデビューを果たし、注目を浴びていたジャマルが初招集されることに。

ただ、この16才の新鋭FWの招集は両親の出身地であるモロッコに取られないためという側面もあって、まあ大体、ティーンエージャーでA代表に来るのはほとんどバルサ勢なんですけどね。一応、スペイン代表黄金時代の一員だったセスク(初招集は2006年、18才)を始め、ガビ(同2021年、17才)、ペドリ(同2021年、18才)などは成功例と言えますが、中にはボジャン(同2008年、17才)、ムニル(同2014年、19才)など、1試合出場で終わってしまった選手もいますからね。昨季までヘタフェにいて、今季はラス・パルマスに移ったムニルなど、FIFAの許可をもらって、ようやくモロッコ代表でプレーできるようになった程ですし、アンス・ファティ(同2020年、17才)も大きなケガをしてからは呼ばれたり、呼ばれなかったり。

それだけに今回のジャマル招集が吉と出るか、凶と出るか、ちょっと不安なところはあるものの、当人は月曜の公開練習でファンから大きな声援を受けていましたっけ。いえ、相変わらず、短い3~40分程の練習の後、サイン会状態となったスタンド前列の人気が最も高かったのはカルバハル、ホセル、ケパ(マドリー)、モラタ、アスピリクエタ(アトレティコ)ら、マドリッド勢の選手たちでしたけどね。そうそう、ルビアレス前会長の件はこの男子代表合宿にも影響を与えていて、初日の練習前にはプレスルームに全選手が集結して、キャプテンのモラタが批判声明を読み上げたり、水曜にラス・ロサスを発つまでに収録されたインタビューでも選手たちはそれに関連した質問から逃れられず。

いやあ、今、本当に大切なのは男子代表がW杯に優勝した女子に負けない結果を残せるのか、その前に3月の2試合で1勝1敗、6月はネーションズリーグ・ファイナルフォーでプレーしなかったため、グループ4位と出遅れているユーロ予選の9月の2試合で連勝することなんですけどね。水曜のセッション後、ジョージアと対戦するトリビシに移動し、翌日の前日記者会見でもデ・ラ・フエンテ監督は火曜に解任された女子代表のビルダ監督のことを訊かれている始末。

更に男子代表の災難は続き、うーん、私も20分の練習公開部分をライブストリーミングで見ていて、選手たちがセンターサークルにシートを敷いて、ゴロゴロとストレッチをやったり、コーチの合図でグループを作るゲームをやったりしただけで、恒例のロンド(輪の中に入った選手がボールを奪うゲーム)が始まらずに中継が終わってしまったのに首を傾げていたんですけどね。何と、選手たちのサッカーシューズやGKグローブなどの用具が入った荷物が現地に未到着だったとは!

その結果、貴重な前日練習でボールを蹴ることができなかった彼らは試合当日、午前中のセッションで軽く調整するだけで、金曜午後6時(日本時間翌午前1時)からのジョージア戦を迎えることになったんですが、果たしてどうなることやら。そう、相手にはGKママルダシビリ(バレンシア)を始め、クバラツヘリア(ナポリ)ら、世間に知られた選手もいますからね。とりあえず、サッカー協会総会でルビアレス前会長のスピーチの後、熱烈な拍手を送ったことにより、ビルダ監督同様、批判にさらされながら、大事な試合が近いこともあって、解任を免れたデ・ラ・フエンテ監督もこの2試合の結果次第では先行きがわからずとあって、今こそ、選手たちの忠誠心が試される機会になるかもしれませんよ。

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