ようやくトロフィーを持ち帰ってきた…/原ゆみこのマドリッド
2023.06.21 20:00 Wed
「万が一に備えて空けてあると考えるべきか」そんな風に私が思案していたのは火曜日、スペイン代表のネーションズリーグ・ファイナルフォー優勝祝いの余韻も覚めてない午前中、ホセルのレアル・マドリー入団プレゼンがバルデベバス(バラハス空港の近く)でとっくに終わっていたのに気づいた時のことでした。いやあ、リーガ閉幕から数日のバケーションはあったものの、9日にラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設で合宿入り、それから11日間のお勤めもめでたく終了。各国代表戦参加組は1週間合流が遅れるとはいえ、マドリーのプレシーズン練習開始は7月10日となっていますからね。
となれば、プレゼンなどの公用はちゃっちゃと済ませて、ホセルも早いところ南の島にでもいきたかったんでしょうが、意外だったのは、今季限りでマドリーを退団して、アル・イティハドに行ってしまったベンゼマに代わる、チーム唯一のCFとして、エスパニョールからレンタル移籍しながら、彼の背番号が9ではなく、14番だったこと。いえ、2010-12年はRMカスティージャにいて、トップチームでも2本ゴールを挙げている当人は、「creo que cualquier número es importante y estoy orgulloso de llevar cualquier número/クレオ・ケ・クアルキエル・ヌメロ・エス・インポルタンテ・イ・エストイ・オルグジョーソ・デ・ジェバール・クアルキエル・ヌメロ(どの番号も重要だし、どの番号を着けても誇りに思う)」と戻って来れただけで満足していたようでしたけどね。
一応、クラブからは各国代表戦週間前にプレゼンのあったフラン・ガルシア(ラージョから移籍)、ブライム・ディアス(ミラノへのレンタル移籍から帰還)、ベリンガム(ドルトムントから移籍)、そしてこのホセルでこの夏の補強は終わりという情報も流れてきているんですが、決して信用できないのが移籍市場。日々、コメントが変遷するエムバペ(PSG)の件もありますし、市場クローズ寸前にハリー・ケーン(トッテナム)が来るかもしれませんし、いざその段になって、立派な背番号を用意してあげられなければ、クラブの面子に関わりますからね。ただ、そうなると、せっかくスペイン代表のゴールが当てにできるFWとなってくれたホセルの役割がアザールやマリアーノとまでは行かなくても、アセンシオ(3人共、今季で退団)並に減ってしまいそうなのが、懸念の種ではあるんですが…。
まあ、そんなことはともかく、今は日曜のネーションズリーグ・ファイナルフォー決勝クロアチア戦がどうだったか、お話ししていくことにすると。フェイエノールト・スダジアムでは、恐れていたようなスタメン大ローテーションはなく、準決勝のイタリア戦から、ロドリゴ・モレノ(リーズ)をアセンシオ(レアル・マドリーを退団)に、ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)をファビアン・ルイス(PSG)に代えただけでスペインはスタート。開催国のオランダはクロアチアからの移民が多いドイツとお隣さんということもあって、スタンドがほぼ赤白チェエクをまとったファンで埋め尽くされていたのにはかなり、圧倒されたものですけどね。相変わらず、モラタ(アトレティコ)が不発だったのはそれとはまったく関係なかったかと。
いえ、「El plan era controlar el partido, minimizar a un súper equipo como es Croacia/エル・プラン・エラ・コントロラル・エル・パルティードー、ミニミサール・ア・ウン・スーペル・エキポ・コモ・エス・クロアチア(試合をコントロールして、クロアチアのようなスーパーチームを最小化するのがプランだった)」というデ・ラ・フエンテ監督の戦略のせいもあり、前半は双方共、それ程、チャンスがあった訳ではないんですけどね。それでもせっかくGKリバコビッチ(ディナモ・ザグレブ)がお手玉したボールの側にいてもオフサイドだったり、ジョルディ・アルバ(バルサを退団)のクロスを変な方向にヘッドしているモラタを見る度、やっぱりアトレティコはこの夏、もっとしっかりしたCFを獲得すべきなんじゃないかと思ってしまうのは私だけではなかった?
そして案の定、試合は0-0のまま、クロアチアの十八番、延長戦に入ったんですが、その前半、再びスペインはヘスス・ナバス(セビージャ)をケガで失うという逆境に見舞われることに。ただ後々、考えるとこのカルバハル(マドリー)への交代も含め、デ・ラ・フエンテ監督の人事起用は当たっていて、ええ、9分にクロアチアのカウンターを受け、マジェール(スタッド・レンヌ)が独走。エリア内に入ったところをナチョが決死のタックルで止め、シュートを防いでくれたなんてこともありましたしね。このプレーで当人が足を痛め、しばらく走れなかった時など、TVE(スペイン国営放送)の実況や解説者たちが、「もう交代枠がないから、10人になったらキツい」、「いざとなればW杯でCBをやったロドリ(マンチェスター・シティ)の位置を下げればいい」などと、戦々恐々して、盛り上がっていたんですが、大丈夫。
3月とは違い、今回、リーガ最終節でのダビド・ガルシア(オサスナ)の負傷を受けての追加招集となった時も、「Estoy preparado como siempre, y no me había dado tiempo a irme/エストイ・プレパラードー・コモ・シエンプレ、イ・ノー・メ・アビア・ダードー・ティエンポー・ア・イルメ(いつものようにボクは準備ができていた。バケーションに行く時間もなかったしね)」(ナチョ)というベテランは徐々に回復してくれたため、延長戦後半もスペインは無失点を保つことができたものの…そう、得点もできなかったんですよ。誰よりチャンスがあったのはアンス・ファティだったんですが、ニコ・ウィリアムス(アスレティック)の代わりに呼ばれた20才は2年前の大きな負傷から復帰して以来、持ち前のゴール運を失ってしまったようで、この日もシュートが入らなかったんですが、何せ、スペインはPK戦にトラウマがありますからね。
だってえ、彼らはここ3回の国際メジャー大会をPK戦で敗退しているんですよ。まずは2018年W杯ロシア大会では16強対決でコケ(アトレティコ)とイアゴ・アスパス(セルタ)が失敗してロシアに負け、ユーロ2020でも準決勝でオルモとモラタが失敗してイタリアに負け、昨年のW杯カタール大会16強対決では悪夢のサラビア(ウォルバーハンプトン)、カルロス・ソレル(PSG)、ブスケツ(バルサを退団)の3連続失敗でモロッコに負ける始末。よって、クロアチアのCKをクリアした後、延長戦後半がロスタイムもなく終わった時には、私の心臓もバクバクしていたんですが、いやいや、まったくの杞憂でした。
というのもクロアチアの先行で始まったPK戦では第1キッカーのブラシッチ(トリノ)が決めた後、スペインはこの日はまだゴールを挙げていなかったホセルが、実は彼は第5キッカーに指名されていたんですけどね。「No iba a tirar el primero, pero lo pedí yo porque estaba convencido/ノー・イバ・ア・ティラール・エル・プリメーロ、ペロ・ロ・ペディ・ジョ・ポルケ・エスタバ・コンベンシードー(自分は1番目じゃなかったけど、頼んだんだ。決められると確信していたからね)」と後で話していたように、今季リーガ16得点中、PKで5本を稼いでサラ(スペイン国産得点王)を獲得したFWがまずは決めてくれることに。クロアチアも2番手ブロソビッチ(インテル)、3番手モドリッチ(マドリー)がしっかり入れている間、スペインもロドリ、メリーノが成功するんですが、うーん、この頃は私もウナイ・シモンに果たして、1本でもクロアチアのPKを止められるんだろうかと疑問に思っていたところ…。
ええ、先週はW杯モロッコ戦のPK戦であんちょこメモの存在をGKボノ(セビージャ)に自分から教え、裏をかかれた話でかなり株を下げてしまった彼ですからね。それが皮肉にも今回は、「Honestamente, había estudiado a todos los lanzadores croatas excepto a Majer/オネスタメンテ、アビア・エストゥデイアードー・ア・トードス・ロス・ランサドーレス・コロアタス・エクセプト・ア・マジェール(正直言って、マジェール以外のクロアチアのキッカーは研究していた)」(ウナイ・シモン)と自身も試合後に告白。まさにその相手のPKを横っ飛びして、脚で防いでしまったから、ビックリしたの何って。
いやあ、当人によると、「どうするか決断しないといけなくて、ボールの置き方を観察していたんだけど、真ん中に蹴りそうに見えた。Por eso estaba preparado para levantar los pies y parar cuando lanzó/ポル・エソ、エスタバ・プレパラードー・パラ・レバンタール・ロス・ピエス・イ・パラール・クアンドー・ランソ(それで脚を上げて飛ぶ準備をして、彼が蹴った時に弾くことができたんだ)」というラッキーな結果に終わったんですよ。ただねえ、次のアセンシオは決めたものの、クロアチアの第5キッカー、ペリシッチ(トッテナム)が成功した後、ウナイ・シモンの「アイメがPKマークのところに歩いて行く時、考えていたんだ。Qué voy a hacer ahora si falla?/ケ・ボイ・ア・アセール・アホラ・シー・ファジャ(もし失敗したら、今度はどうしたらいい?)」という悪い予感がバッチリ当たり、まさか優勝が決まるPKをラポール(マンチェスター・シティ)がゴールバーに当ててしまうとは!
それが何とアスレティックの守護神は6番目のペトコビッチ(ディナモ・ザグレブ)も、この時は反対側に飛んで、手で弾いてしまうんですから、侮れないじゃないですか。そして次に優勝決定ゴールゲットに挑んだのは、ついぞPKを蹴るところなど見たことのないカルバハルだったんですが、それが何と、代表及びマドリーの大先輩、セルヒオ・ラモス(PSGを退団)張りのパネンカ風PKであっさり決めてしまうとは、いやはや。本人曰く、「Tenía claro cómo tirarlo. Sabía que iba a ser el sexto/テニア・クラーロ・コモ・ティラールロ。サビア・ケ・イバ・ア・セル・エル・セスト(どう蹴るかは決めていたし、6番目なのも知っていた)」そうで、デ・ラ・フエンテ監督も「Dani los tira muy bien. Ha decidido él tirar ese penalty/ダニ・ロス・ティラ・ムイ・ビエン。ア・デシデイードー・エル・ティラール・エセ・ペナルティ(カルバハルはとても上手に蹴る。キッカーをやると彼自身が決めた)」と言っていたんですけどね。
ただ、このところのPK戦の黒歴史を反省して、彼らが真剣にPK練習をして挑んだかという点については諸説分かれるところで、ええ、「Ayer no ensayamos casi nada/アジェール・ノー・エンサジャモス・カシー・ナーダ(昨日はほとんど何も練習していない)。監督がPK戦の前にウチは勝つと言っていたからね」とアセンシオは証言しているんですけどね。当のデ・ラ・フエンテ監督は「Ayer lo trabajamos, y fue divertido y relajado/アジェール・ロ・トラバハモス、イ・フエ・ディベルティードー・イ・レラハードー(昨日のPK練習は楽しくて、リラックスしたものだった)」と言っていたため、もしかして普段、マドリーの緻密なトレーニング方法に慣れているアセンシオにとっては、何もやっていない部類に入った?
それはともかく、イタリア戦に続き、この決勝でもMVPに選ばれたロドリによると、キックオフ前には感動的なスピーチでチームメートを鼓舞したという、カルバハルのPKで4-5としたスペインはとうとう11年ぶりに戴冠を果たすことに。最初と最後のキッカーの奥さん同士が双子の姉妹で、2人が義兄弟というのも不思議な縁ですが、いやあ、何と言うか。試合中はまた、ボールを後ろで回しているだけのサッカーに戻ってしまった時間帯もありましたし、同日早い時間の3位決定戦でイタリアに2-3と負けたオランダですら、2点を取れたクロアチアから、最後までゴールを奪えないというのはねえ。
もちろん、またしても優勝を逃し、傷心のモドリッチの姿を見るのも辛かったんですが、こんなスペインでは短期決戦のネーションズリーグ・ファイナルフォーでは良くても、試合がもっと多いユーロやW杯ではとても通用しないかも。大体がして、このネーションズリーグ・ファイナルフォーの開催中、他の代表はユーロ2024予選を着々と進行中で、3月に彼らに2-0と勝ってグループ首位に立ったスコットランドとは勝ち点差が12に。消化試合が2つ少ないものの、2位ジョージア、3位ノウルェイとも1差の4位になっちゃいましたからね(本大会出場は2位以上)。それでも一応、ネーションズリーグのグループ1位のおかげで、プレーオフ出場権だけはあるんですが、もしそちらに出ることになると先日、来年3月の開催が華々しく発表されたブラジルとの親善試合をキャセルするしかなくなる?
ちなみに決勝後、スタジアムのピッチ、ロッカールーム、そしてロッテンルダムのホテルでも夜を徹してお祝いしていたチームは月曜にマドリッドに帰還。サルスエラ宮殿でフェリペ6世に優勝報告した後、ユーロやW杯優勝の時とは異なり、オープンデッキバスに乗ってのパレードはせず、夕方から市内にあるバスケットボールアリーナ兼催事場のウィシンク・センターで祝勝イベントを行ったんですが、いえ、私は参加を遠慮したんですけどね。というのも実際、開場から2時間ぐらいはコンサート状態で、とても人込みの中で立ち見する体力がなかっただけでなく、ようやくチームが到着して舞台に上がっていたのも30分ぐらいでしたからね。
ネット中継で見ていたのは正解でしたが、でもホセル、いくら月曜午前中にはレンタル移籍でのマドリー入団の公式発表があったからって、スペイン代表のお祝いの場で「Hala Madrid!/アラ・マドリー(マドリー万歳)」はないんじゃない?ただ1つ、そのイベントで残念だったのは場所がマドリッドだったせいか、最年少18才のガビ(バルサ)がマイクを握った時、「Puta Barca!/プータ・バルサ(バルサの淫売)」と野次が飛んだり、デ・ラ・フエンテ監督も「Calvo! Calvo!/カルボ(ハゲ)」とはやされたりしていたことですが、礼儀を知らないファンがいるのはどこも一緒ですからね。今はとにかく、過去の黄金期とは比べものにならなくても、少しだけ、スペインの自尊心を高めてくれた選手たちにはゆっくりバケーションを楽しんでもらいものです。
となれば、プレゼンなどの公用はちゃっちゃと済ませて、ホセルも早いところ南の島にでもいきたかったんでしょうが、意外だったのは、今季限りでマドリーを退団して、アル・イティハドに行ってしまったベンゼマに代わる、チーム唯一のCFとして、エスパニョールからレンタル移籍しながら、彼の背番号が9ではなく、14番だったこと。いえ、2010-12年はRMカスティージャにいて、トップチームでも2本ゴールを挙げている当人は、「creo que cualquier número es importante y estoy orgulloso de llevar cualquier número/クレオ・ケ・クアルキエル・ヌメロ・エス・インポルタンテ・イ・エストイ・オルグジョーソ・デ・ジェバール・クアルキエル・ヌメロ(どの番号も重要だし、どの番号を着けても誇りに思う)」と戻って来れただけで満足していたようでしたけどね。
一応、クラブからは各国代表戦週間前にプレゼンのあったフラン・ガルシア(ラージョから移籍)、ブライム・ディアス(ミラノへのレンタル移籍から帰還)、ベリンガム(ドルトムントから移籍)、そしてこのホセルでこの夏の補強は終わりという情報も流れてきているんですが、決して信用できないのが移籍市場。日々、コメントが変遷するエムバペ(PSG)の件もありますし、市場クローズ寸前にハリー・ケーン(トッテナム)が来るかもしれませんし、いざその段になって、立派な背番号を用意してあげられなければ、クラブの面子に関わりますからね。ただ、そうなると、せっかくスペイン代表のゴールが当てにできるFWとなってくれたホセルの役割がアザールやマリアーノとまでは行かなくても、アセンシオ(3人共、今季で退団)並に減ってしまいそうなのが、懸念の種ではあるんですが…。
いえ、「El plan era controlar el partido, minimizar a un súper equipo como es Croacia/エル・プラン・エラ・コントロラル・エル・パルティードー、ミニミサール・ア・ウン・スーペル・エキポ・コモ・エス・クロアチア(試合をコントロールして、クロアチアのようなスーパーチームを最小化するのがプランだった)」というデ・ラ・フエンテ監督の戦略のせいもあり、前半は双方共、それ程、チャンスがあった訳ではないんですけどね。それでもせっかくGKリバコビッチ(ディナモ・ザグレブ)がお手玉したボールの側にいてもオフサイドだったり、ジョルディ・アルバ(バルサを退団)のクロスを変な方向にヘッドしているモラタを見る度、やっぱりアトレティコはこの夏、もっとしっかりしたCFを獲得すべきなんじゃないかと思ってしまうのは私だけではなかった?
といってもクロアチアも2度程、シュートをGKウナイ・シモン(アスレティック)にセーブされたぐらいに留まり、前半は0-0で終わったんですが、後半もあまり活発な展開にはならず。そうこうするうち、21分にはモラタとジェレミー・ピノ(ビジャレアル)をアンス・ファティ(バルサ)とホセルへと、デ・ラ・フエンテ監督はイタリア戦で勝ち越し点を挙げた切り札を早めに投入したものの、もしやホセルは短期決戦型?長くピッチいれば、チャンスやゴールが増えるということはなく、スコアレス状態は続きます。32分にル・ノルマン(レアル・ソシエダ)とファビアン・ルイスがダブル負傷でナチョ(レアル・マドリー)とメリーノに交代した後はもう、41分にガヒビ(バルサ)をダニ・オルモ(ライプツィヒ)を入れるぐらいしか、スペインが攻撃力アップする手は残っていなかったんですが…。
そして案の定、試合は0-0のまま、クロアチアの十八番、延長戦に入ったんですが、その前半、再びスペインはヘスス・ナバス(セビージャ)をケガで失うという逆境に見舞われることに。ただ後々、考えるとこのカルバハル(マドリー)への交代も含め、デ・ラ・フエンテ監督の人事起用は当たっていて、ええ、9分にクロアチアのカウンターを受け、マジェール(スタッド・レンヌ)が独走。エリア内に入ったところをナチョが決死のタックルで止め、シュートを防いでくれたなんてこともありましたしね。このプレーで当人が足を痛め、しばらく走れなかった時など、TVE(スペイン国営放送)の実況や解説者たちが、「もう交代枠がないから、10人になったらキツい」、「いざとなればW杯でCBをやったロドリ(マンチェスター・シティ)の位置を下げればいい」などと、戦々恐々して、盛り上がっていたんですが、大丈夫。
3月とは違い、今回、リーガ最終節でのダビド・ガルシア(オサスナ)の負傷を受けての追加招集となった時も、「Estoy preparado como siempre, y no me había dado tiempo a irme/エストイ・プレパラードー・コモ・シエンプレ、イ・ノー・メ・アビア・ダードー・ティエンポー・ア・イルメ(いつものようにボクは準備ができていた。バケーションに行く時間もなかったしね)」(ナチョ)というベテランは徐々に回復してくれたため、延長戦後半もスペインは無失点を保つことができたものの…そう、得点もできなかったんですよ。誰よりチャンスがあったのはアンス・ファティだったんですが、ニコ・ウィリアムス(アスレティック)の代わりに呼ばれた20才は2年前の大きな負傷から復帰して以来、持ち前のゴール運を失ってしまったようで、この日もシュートが入らなかったんですが、何せ、スペインはPK戦にトラウマがありますからね。
だってえ、彼らはここ3回の国際メジャー大会をPK戦で敗退しているんですよ。まずは2018年W杯ロシア大会では16強対決でコケ(アトレティコ)とイアゴ・アスパス(セルタ)が失敗してロシアに負け、ユーロ2020でも準決勝でオルモとモラタが失敗してイタリアに負け、昨年のW杯カタール大会16強対決では悪夢のサラビア(ウォルバーハンプトン)、カルロス・ソレル(PSG)、ブスケツ(バルサを退団)の3連続失敗でモロッコに負ける始末。よって、クロアチアのCKをクリアした後、延長戦後半がロスタイムもなく終わった時には、私の心臓もバクバクしていたんですが、いやいや、まったくの杞憂でした。
というのもクロアチアの先行で始まったPK戦では第1キッカーのブラシッチ(トリノ)が決めた後、スペインはこの日はまだゴールを挙げていなかったホセルが、実は彼は第5キッカーに指名されていたんですけどね。「No iba a tirar el primero, pero lo pedí yo porque estaba convencido/ノー・イバ・ア・ティラール・エル・プリメーロ、ペロ・ロ・ペディ・ジョ・ポルケ・エスタバ・コンベンシードー(自分は1番目じゃなかったけど、頼んだんだ。決められると確信していたからね)」と後で話していたように、今季リーガ16得点中、PKで5本を稼いでサラ(スペイン国産得点王)を獲得したFWがまずは決めてくれることに。クロアチアも2番手ブロソビッチ(インテル)、3番手モドリッチ(マドリー)がしっかり入れている間、スペインもロドリ、メリーノが成功するんですが、うーん、この頃は私もウナイ・シモンに果たして、1本でもクロアチアのPKを止められるんだろうかと疑問に思っていたところ…。
ええ、先週はW杯モロッコ戦のPK戦であんちょこメモの存在をGKボノ(セビージャ)に自分から教え、裏をかかれた話でかなり株を下げてしまった彼ですからね。それが皮肉にも今回は、「Honestamente, había estudiado a todos los lanzadores croatas excepto a Majer/オネスタメンテ、アビア・エストゥデイアードー・ア・トードス・ロス・ランサドーレス・コロアタス・エクセプト・ア・マジェール(正直言って、マジェール以外のクロアチアのキッカーは研究していた)」(ウナイ・シモン)と自身も試合後に告白。まさにその相手のPKを横っ飛びして、脚で防いでしまったから、ビックリしたの何って。
いやあ、当人によると、「どうするか決断しないといけなくて、ボールの置き方を観察していたんだけど、真ん中に蹴りそうに見えた。Por eso estaba preparado para levantar los pies y parar cuando lanzó/ポル・エソ、エスタバ・プレパラードー・パラ・レバンタール・ロス・ピエス・イ・パラール・クアンドー・ランソ(それで脚を上げて飛ぶ準備をして、彼が蹴った時に弾くことができたんだ)」というラッキーな結果に終わったんですよ。ただねえ、次のアセンシオは決めたものの、クロアチアの第5キッカー、ペリシッチ(トッテナム)が成功した後、ウナイ・シモンの「アイメがPKマークのところに歩いて行く時、考えていたんだ。Qué voy a hacer ahora si falla?/ケ・ボイ・ア・アセール・アホラ・シー・ファジャ(もし失敗したら、今度はどうしたらいい?)」という悪い予感がバッチリ当たり、まさか優勝が決まるPKをラポール(マンチェスター・シティ)がゴールバーに当ててしまうとは!
それが何とアスレティックの守護神は6番目のペトコビッチ(ディナモ・ザグレブ)も、この時は反対側に飛んで、手で弾いてしまうんですから、侮れないじゃないですか。そして次に優勝決定ゴールゲットに挑んだのは、ついぞPKを蹴るところなど見たことのないカルバハルだったんですが、それが何と、代表及びマドリーの大先輩、セルヒオ・ラモス(PSGを退団)張りのパネンカ風PKであっさり決めてしまうとは、いやはや。本人曰く、「Tenía claro cómo tirarlo. Sabía que iba a ser el sexto/テニア・クラーロ・コモ・ティラールロ。サビア・ケ・イバ・ア・セル・エル・セスト(どう蹴るかは決めていたし、6番目なのも知っていた)」そうで、デ・ラ・フエンテ監督も「Dani los tira muy bien. Ha decidido él tirar ese penalty/ダニ・ロス・ティラ・ムイ・ビエン。ア・デシデイードー・エル・ティラール・エセ・ペナルティ(カルバハルはとても上手に蹴る。キッカーをやると彼自身が決めた)」と言っていたんですけどね。
ただ、このところのPK戦の黒歴史を反省して、彼らが真剣にPK練習をして挑んだかという点については諸説分かれるところで、ええ、「Ayer no ensayamos casi nada/アジェール・ノー・エンサジャモス・カシー・ナーダ(昨日はほとんど何も練習していない)。監督がPK戦の前にウチは勝つと言っていたからね」とアセンシオは証言しているんですけどね。当のデ・ラ・フエンテ監督は「Ayer lo trabajamos, y fue divertido y relajado/アジェール・ロ・トラバハモス、イ・フエ・ディベルティードー・イ・レラハードー(昨日のPK練習は楽しくて、リラックスしたものだった)」と言っていたため、もしかして普段、マドリーの緻密なトレーニング方法に慣れているアセンシオにとっては、何もやっていない部類に入った?
それはともかく、イタリア戦に続き、この決勝でもMVPに選ばれたロドリによると、キックオフ前には感動的なスピーチでチームメートを鼓舞したという、カルバハルのPKで4-5としたスペインはとうとう11年ぶりに戴冠を果たすことに。最初と最後のキッカーの奥さん同士が双子の姉妹で、2人が義兄弟というのも不思議な縁ですが、いやあ、何と言うか。試合中はまた、ボールを後ろで回しているだけのサッカーに戻ってしまった時間帯もありましたし、同日早い時間の3位決定戦でイタリアに2-3と負けたオランダですら、2点を取れたクロアチアから、最後までゴールを奪えないというのはねえ。
もちろん、またしても優勝を逃し、傷心のモドリッチの姿を見るのも辛かったんですが、こんなスペインでは短期決戦のネーションズリーグ・ファイナルフォーでは良くても、試合がもっと多いユーロやW杯ではとても通用しないかも。大体がして、このネーションズリーグ・ファイナルフォーの開催中、他の代表はユーロ2024予選を着々と進行中で、3月に彼らに2-0と勝ってグループ首位に立ったスコットランドとは勝ち点差が12に。消化試合が2つ少ないものの、2位ジョージア、3位ノウルェイとも1差の4位になっちゃいましたからね(本大会出場は2位以上)。それでも一応、ネーションズリーグのグループ1位のおかげで、プレーオフ出場権だけはあるんですが、もしそちらに出ることになると先日、来年3月の開催が華々しく発表されたブラジルとの親善試合をキャセルするしかなくなる?
ちなみに決勝後、スタジアムのピッチ、ロッカールーム、そしてロッテンルダムのホテルでも夜を徹してお祝いしていたチームは月曜にマドリッドに帰還。サルスエラ宮殿でフェリペ6世に優勝報告した後、ユーロやW杯優勝の時とは異なり、オープンデッキバスに乗ってのパレードはせず、夕方から市内にあるバスケットボールアリーナ兼催事場のウィシンク・センターで祝勝イベントを行ったんですが、いえ、私は参加を遠慮したんですけどね。というのも実際、開場から2時間ぐらいはコンサート状態で、とても人込みの中で立ち見する体力がなかっただけでなく、ようやくチームが到着して舞台に上がっていたのも30分ぐらいでしたからね。
ネット中継で見ていたのは正解でしたが、でもホセル、いくら月曜午前中にはレンタル移籍でのマドリー入団の公式発表があったからって、スペイン代表のお祝いの場で「Hala Madrid!/アラ・マドリー(マドリー万歳)」はないんじゃない?ただ1つ、そのイベントで残念だったのは場所がマドリッドだったせいか、最年少18才のガビ(バルサ)がマイクを握った時、「Puta Barca!/プータ・バルサ(バルサの淫売)」と野次が飛んだり、デ・ラ・フエンテ監督も「Calvo! Calvo!/カルボ(ハゲ)」とはやされたりしていたことですが、礼儀を知らないファンがいるのはどこも一緒ですからね。今はとにかく、過去の黄金期とは比べものにならなくても、少しだけ、スペインの自尊心を高めてくれた選手たちにはゆっくりバケーションを楽しんでもらいものです。
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