リーガ優勝は決まったけど…/原ゆみこのマドリッド

2023.05.17 10:30 Wed
Getty Images
「タイミング的には今で良かったのかもね」そんな風に私が達観していたのは月曜日、前夜にはバルサがエスパニョールに2-4の勝利で自力優勝を決め、TVやスポーツ紙がその話題一色になっているのを見た時のことでした。いえ、オープンデッキバスに乗って、バルセロナ市内を巡る優勝パレードは一足早く、全勝でリーガ優勝を決めていた女子チームと合同で月曜夕方に行われたんですけどね。RCDEスタジアムでの試合が終わり、選手たちがピッチで手を繋いで輪になって祝っていたところ、スタンドからエスパニョールのウルトラ(過激なファン)が大挙して乱入。

バルサ勢は脱兎のごとくロッカールームに逃げ帰らないといけなかったなんてこともあったせいで、報道映像や記事が増えてしまった面はあったものの、だってえ、この水曜には永遠のライバルの2年連続CL決勝進出が決まるかもしれないんですよ。そうなれば、世間の注目も6月10日にイスタンブールで開かれる試合をプレーするレアル・マドリーの方に移ってしまいますし、となると準決勝がまだ五分五分で、決勝行きが宙ぶらりんな先週末はまたとないチャンスだった?ただし、それでもアンチェロッティ監督のチームはリーガで最低限の責任は果たしたことを言っておかないと。

そう、先週火曜のCL準決勝マンチェスター・シティ戦1stレグで1-1と引分けた彼らは土曜日、弟分ヘタフェとの兄弟分ダービーを再びサンティアゴ・ベルナベウで迎えたんですが、本心を言えば、オール控え選手プラス、RMカスティージャで挑みたいのを我慢して、スタメンにGKクルトワ、カマビンガ、ミリトン、バルベルデのレギュラー4人を起用。ベンゼマ、ロドリゴ、アラバ、カルバハルこそ、休養で招集外となりましたけどね。キックオフ前、ヘタフェの選手たちが作るPasillo de campeon/パシージョ・デ・カンペオン(チャンピオンを称える花道)を通って入場した後、先のコパ・デル・レイ決勝でオサスナを倒してゲットしたトロフィーを披露する際にはベンチスタートのモドリッチもちゃんとユニを着て、ナチョと一緒に登場しています。
そのモドリッチ、そしてクロース、ビニシウスも途中出場していますから、まさしく「Jugar con fuego... siempre se juega en este trabajo/フガール・コン・フエゴ…シエンプレ・セ・フエガ・エン・エステ・トラバッホ(火遊び…常にこの仕事ではそれをしないといけない)」(アンチェロッティ監督)だった訳ですが、え?ローテーションなら、1部残留が懸かっているボルダラス監督だってやっていたじゃないかって?まあ、そうなんですが、ヘタフェには前節、6試合ぶりに勝利したセルタ戦でエースのエネス・ウナルとダミアンが累積警告となり、その日は出場停止という逆境が。

更にアランバリも負傷で使えず、CBのジェネをボランチとして配置、守備を強化しつつ、ボルハ・マジョラル、マタ、ポルトゥのFWトリオでワンチャンを狙ったんですが、そこは「Son jugadores del Real Madrid por algo, que no están para rellenar/ソン・フガドーレス・デル・レアル・マドリッド・ポル・アルゴ、ケ・ノー・エスタン・パラ・レジェナル(何かの理由があって、彼らもレアル・マドリーの選手たちだ。ただ隙間を埋めるためだけじゃない)」(ボルダラス監督)というのもごもっとも。いえ、もちろん最後がいつか思い出せない程、久々の先発出場となったアザールや後半途中に入ったマリアーノが何かした訳ではないんですけどね。
試合開始初っ端にはマクシモビッチがシュートを撃ち、スタンドをヒヤリとさせたヘタフェが以降、大したことができないでいる間、マドリーは0-0のまま迎えた後半頭から、負傷が治り、2カ月ぶりで先発していたメンディをクロースと交代。16分にもモドリッチとビニシウスを入れたのと対照的に、スコアレスドローで勝ち点1を稼げれば御の字だったヘタフェは20分、3人の先発FWを下げることに。ラタサも負傷でおらず、ベンチに残っていた唯一のアタッカー、ムニルは入ったものの、残りはアルゴビア、アンギレリらのMFとDF増強で更なる守備強化を図ったものの、25分、アセンシオにやられてしまったんですよ。

そう、リーガでベンゼマ、ビニシウスに次ぐ8得点を記録している彼がエリア前から得意のzurdazo(スルダソ/左足のシュート)を放ち、そのボールがマクシモビッチの胸に当たるという不運もあって、GKダビド・ソリアが破られてしまったから、ビジター席を満員にして応援していたヘタフェファンもたまったもんじゃありません。何せ、ボルダラス監督が「Nos ha faltado el remate/ノス・ア・ファルタードー・エル・レマテ(ウチはシュートが欠けていた)」と言うまでもなく、今季の彼らはゴール日照りに苦しめられていますからね。そこへ頼みの綱のウナルもいなくてはとても同点など望めず、リードされた後もほとんどマドリーに自陣エリア付近に押し込まれたまま、ビニシウスのゴールはオフサイドで認められなかったため、1-0の最少得点差負けで終わることになりましたっけ。

え、それにしても後半39分、アセンシオが場内の拍手を浴びながら、ベンチに向かって歩いて来る間にファン・イグレシアスに足をかけられたカマビンガが左ヒザの痛みを訴え、交代を要請。急遽、彼がオドリオソラと代わることになった時はドキリとしなかったかって?そうですね、最近は左SBでもボランチでもいい働きをしている選手なだけに、記者会見でアンチェロッティ監督が「Es sólo un golpe. ¡Tiene 20 años, se va a recuperar muy pronto!/エス・ソロ・ウン・ゴルペ。ティエネ・ベインテ・アーニョス、セ・バ・ア・レクペラール・ムイ・プロントー(ただの打撲だ。彼は20才だから、すぐ治るだろう)」と言った後も3度程、当人の状態に関する質問が出るぐらいだったんですけどね。

実際、日曜の検査で軽傷ということが判明し、月曜にはもうバルデベバス(バラハス空港の近く)のグラウンドで練習する姿が見られたため、一安心となりましたが、まあ、日曜にはデ・ブライネやグリーリッシュ、ジョン・ストーンズ、ベルナルド・シウバらを温存しながら、ギュンドガンの2発とハーランドの今季52得点目によりエバートンに0-3と快勝。プレミアリーグ優勝まであと一息としたものの、その試合の終盤にはロドリが違和感を覚えて交代したため、グァルディオラ監督がマドリー戦までには回復すると説明しなければならなかったなんてこともありましたからね。

どちらの国のマスコミも水曜午後9時(日本時間翌午前4時)から、エティハド・スタジアムで行われるCL準決勝2ndレグを前にナーバスなっているということでしょうが、月曜に出たマドリーの招集リストにはトップチーム全員の名前が。対ハーランド要員のリュデガーもベンチ観戦で体力温存できましたし、まだもう1人の先発CBはアラバかミリトンかといった些細な疑問はあるとはいえ、マドリーファンも2000人程、応援に行くそうですしね。アウェイのハンデに臆せず、またCL最強チームであるところを示して、6月にはシベレス広場でバルサに負けない派手な祝賀セモニーを開いてほしいものです。

一方、ベルナベウで勝ち点を取れないのは織り込み済みだったヘタフェは、この土曜のエルチェ戦を「Es una final. Es ganar o ganar y así lo sabemos todos/エス・ウナ・フィナル。エス・ガナール・オ・ガナール・イ・アシー・ロ・サベモス・トードス(決勝だ。勝つしかないと皆もわかっている)」(ボルダラス監督)と位置付けていたんですが、まあ相手は前節、すでに2部降格がダントツ最下位で決定していますからね。ボルダラス流回帰で今度はマタが出場停止となるものの、先週末はカディスがマジョルカに、バジャドリーもEL準決勝1stレグでユベントスと1-1で分け、木曜の2ndレグを今か今かと待っているセビージャに負けたため、18位のままだったヘタフェとすぐ上の彼らの差は勝ち点1に留まることに。

クラブもコリセウム・アルフォンソ・ペレスを満員にしようと、週明けにはアボナードー(年間指定席保持者)1人につき1枚5ユーロ(約800円)の激安チケットを売り出したところ、月曜午後にはもう完売。ファンのエルチェ戦に懸ける期待もかなり大きいんですが、そんな中、引分けてあげられなかったマドリーに続いて、もう1つの兄貴分、アトレティコも日曜の試合で水を差すような真似をするとはこれ如何に!

そう、W杯後の再開リーガでどこよりいい成績を残し、コパ決勝のparon(パロン/リーガの停止期間)前も3試合で13点も取って3連勝していたアトレティコだったんですが、中10日、うち3日間は完全休業としたせいで、選手たちがもう夏のバケーションに入ったと勘違いしてしまったんでしょうかね。先週は一旦、気温が下がったマドリッドと違い、マルティネス・バレロが真夏日だったのも影響したか、もう2部のチームであるエルチェに気合で負けて、1点も奪えないとは一体、どういうことでしょう。それどころか、前半41分にはラウタロのスローインをGKゲルビッチがパンチングミス。フィデルにvolea(ボレア/ボレーシュート)で先制点を奪われているのですから、呆れて物も言えませんって。

1-0で始まった後半は9分にはレマルがケガでコレアと代わるというアクシデントがあったものの、16分にデ・パウルとエルモーソをバリオスとレギロンに代え、DF4人制に変えてもまったく効果は現れず、何より最悪だったのはモラタが撃っても撃ってもゴールが入らない病を再発してしまったこと。ええ、開始早々にもヘッドをGKバディアに弾かれていた彼は後半もシュートを相手の正面に蹴ってしまうわ、ロスタイムなど、ゴール前からのヘッドまで外してしまう有り様なんですよ。最後はシメオネ監督がアトレティコB(RFEF2部/実質4部)のエース、カルロス・マルティンまで投入していたのを見れば、その絶望度の高さがわかるかと。

うーん、勝ち続けていた時はあまり気にならなかったんですが、もう頚椎間板ヘルニアのGKオブラクが4試合も不在で、メンフィス・デパイやマルコス・ジョレンテもリハビリ中ですしね。加えて足指骨折のサビッチも長期離脱中と負傷欠場者が多いツケがモロに現れた感じでしたが、結局、アトレティコは1-0で敗戦。エルチェに「Uno de los partidos más completos de principio a fin/ア・シードー・ウノ・デ・ロス・パルティードス・マス・コンプレトス・デ・プリンシピオ・ア・フィン(最初から最後まで一番、完璧な試合の1つ)」(ベッカセセ監督)を贈ってしまったんですが、え、彼らは前回のホームゲームでもマドリッドの弟分、ラージョに4-0と大勝していなかったかって?

まあ、そうなんですが、あの試合、イラオラ監督のチームは前半途中にCBルジューヌがレッドカードで退場という悲劇に見舞われていますからね。アトレティコにも前半終盤のセットプレーでGKバディアにヒメネスが押し倒されながら、PKをもらえなかったという不運はありましたが、33節で今季初めてもらったPKが2試合続けてもらえると思える方がどうかしていますって。おかげでまたお隣さんに抜かれ、3位に後退。4位以内確定にもあと勝ち点1が足りないため、シメオネ監督も「Solo pensamos en clasificarnos para la Champions/ソロ・ペンサモス・エン・クラシフィカルノス・パラ・ラ・チャンピオンズ(ウチはCL出場圏入りすることだけを考えている)」とまた、お決まりのスタンスに戻っていましたしね。

とにかく今、やってほしいのは休み呆けでいきなりダメダメになってしまった選手たちを再び公式戦モードに戻すことですが、まったくクラブも何を考えているんだか、この土曜にはメトロポリターノにファンを招いて、公開練習をやるのだとか。日曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)からのオサスナ戦も恒例のEl Dia de Ninos/エル・ディア・デ・ニーニョス(子供の日)に設定して、試合前はスタジアム周辺でアクティビティを楽しむことができるようですが、いや、これじゃ、選手たちのバケーション気分が続くばかりじゃない?

その相手のオサスナもコパ決勝に負けてヘコんでいるかと思えば、先週末はアルメリアに3-1で勝って、立ち直っていますし、何より彼らはコンフェレンスリーグ出場圏を目指しているラージョのライバルでもありますからね。月曜試合ではまたアウェイでベティスに3-1で負け、順位こそ、11位に下がってしまった弟分ですが、7位のジローナと勝ち点差2だけなら、まだ諦めるのは早い?そんなラージョには日曜の次節、エスタディオ・バジェカスにエスパニョールを迎え、19位で残留争いの末端にいる相手を叩いて、弟分仲間のヘタフェを援護射撃するという役目もありますしね。同じことはやはり日曜にバレンシアを迎えるマドリーにも言えるんですが…アトレティコの下剋上2位も懸かっているため、そこはちょっと微妙なところでしょうか。

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