1stレグには延長戦がないのが嬉しい…/原ゆみこのマドリッド

2023.05.12 19:30 Fri
横断幕と旗振りでファンはシティ戦に挑むマドリーを迎えた[写真=原ゆみこ]
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横断幕と旗振りでファンはシティ戦に挑むマドリーを迎えた[写真=原ゆみこ]
「ヘタフェには有難いことだけど」そんな風に私が複雑な心境になっていたのは木曜日、丁度、CL準決勝マンチェスター・シティ戦の狭間に当たる今週末のリーガ34節の兄弟分ダービーで、アンチェロッティ監督が大規模ローテーションを行うという記事をマルカ(スポーツ紙)で読んだ時のことでした。そう、ご存知の通り、マドリッドの弟分チームのヘタフェは未だ1部残留が決定しておらず。2節前にキケ・サンチェス・フローレス監督を解任して、ボルダラス監督を再招聘したところ、何とか前節のセルタ戦には勝利したものの、未だに降格圏の18位にいますからね。

救いとなるのは彼らが17位のバレンシアと同じ勝ち点、更に2ポイント差以内に14位以下、アルメリア、カディス、バジャドリーと4チームもあるため、いやまあ、普通のシーズンなら、もう1つの兄貴分のメトロポリターノと共にサンティアゴ・ベルナベウは最初から、勝ち点を勘定しない試合ではありますよ。とはいえ、レアル・マドリーのスタメンにマリアーノやアザール、バジェホ、オドリオソラ、GKルニンといった今季、数える程しか、プレーしていない選手たちが並んでいたら、もしかしてワンチャン狙えるかもと思ったから。

ただ、この土曜午後9時(日本時間翌午前4時)からのマドリー戦では、ボルダラス監督もエースのエネス・ウナルとダミアンを累積警告による出場停止で使うことができないんですけどね。よって、ゴールはRMカスティージャ出身で、トップチームでも何シーズンかプレーしたことのあるボルハ・マジョラルの古巣への恩返しや、キケ・サンチェス・フローレス監督には窓際に追いやられていたものの、セルタ戦で今季初先発。ボルダラス監督1期中の2018-19シーズンには5位でEL出場権を勝ち取ったチームの牽引役となり、スペイン代表にも招集されたマタらの肩に懸かってくることになりますが、え?
いくらリーガを諦めたマドリーといえど、負ければ、前節、お隣さんに奪われた2位との差が勝ち点1以上になるかもしれないのはともかく、翌日曜にエスパニョールとのカタルーニャダービーに挑む前から、バルサに優勝トロフィーを献上してやるのは悔しんじゃないかって?まあ、それはそうでしょうけど、彼らはシティ戦1stレグを1-1の引分けで終わり、来週水曜の2ndレグを前にアドバンテージを得られず。エティハド・スタジアムでの一発勝負となってしまったとなれば、3月のインターナショナルマッチデーのparon(パロン/リーガの停止期間)以降、スペインで唯一、週2試合ペースを延々と継続し、すでに8週目になろうかというチームですからね。30代のレギュラー選手も多々いますし、Decimoquinta(デシモキンタ/15回目のCL優勝のこと)及び2連覇達成の懸かったCL決勝進出に向けて必勝を期すためにはもう、この方法しかないのかも。

ま、そんなことはともかく、そのベルナベウでのシティ戦1stレグがどんな試合だったか、お話ししていくことにすると。さすが今季のCL戦、ホーム開催の最終戦とあって、火曜はいつにも増して、キックオフ1時間半前にスタジアム入りするマドリーのチームバスをお出迎えするファンも多かったようですが、何せ、現場で人込みに揉まれて立って待っているのも辛いですし、結局、いつバスが着くかわからなくてスマホ画面頼りになるのは同じですからね。今季は16強対決からやっているように、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)でカフェ・コン・レッチェ(カフェオレ)を飲みながら、その光景をレアル・マドリーTVの追っかけ生中継で見た後、私も試合に向かうことに。
メトロの中ではもう、シティファンのイギリス人たちが大声で気勢を上げていたんですが、CL決勝トーナメント恒例、fondo sur/フォンド・スール(南側ゴール裏席)に「El Rey y su Copa/エル・レイ・イ・ス・コパ(王とそのトロフィー)」と書かれた横断幕が現れ、うーん、もしや先日のお隣さんがメトロポリーノで祝ったクラブ創設120周年イベントのスタンド旗振り演出に触発されたんでしょうかね。この日はモザイクではなく、横断幕と色を合わせた白と紫の旗をファンが振って、入場する選手たちを迎えた後、前半30分ぐらいまではシティがほぼボールを独占。GKクルトワに止められたものの、デ・ブライネやロドリがシュートを放ち、fondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴール裏席)最上階右側に陣取る1800人のビジターファンを喜ばせたものでしたけどね。

ただ、これはマドリーの作戦のせいもあったようで、ポゼッションが30%程度しかなくても、「Ellos tocan, tocan, pero lo importante es cerrar bien los espacios entre líneas/エジョス・トカン、トカン、ペロ・ロ・インポルタンテ・エス・セラール・ビエン・ロス・エスパシオス・エントレ・リネアス(彼らはパスを回しまくっていたが、大事なのはライン間のスペースを閉じることだ)」(アンチェロッティ監督)という用心を怠らなかった彼らは失点には至らず。それどころか、36分にはカマビンガが自陣でボールを受け、敵陣を縫ってドリブル。エリア付近でビニシウスにパスしたところ、それを彼がエリア外からシュートして、golazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決めてしまったから、ビックリしたの何のって。

そのまま前半は1-0でマドリーがリードして終わり、後半になると攻守交替。「ウチはハーフタイムに幾つか訂正した。El míster ha dicho que tenemos que tener más balón y crear más/エル・ミステル・ア・ディッチョー・ケ・テネモス・ケ・テネール・マス・バロン・イ・クレアル・マス(監督がもっとボールを持って、もっとチャンスを作れと言った)から、それをやったんだ」(モドリッチ)という彼らが今度は敵エリアを囲む形になっていたんですが、ホント、サッカーって不思議ですよね。今にもマドリーの2点目が入るんじゃないかと思っていた22分、自陣近くでボールを取り戻したカマビンガのパスミスから、シティがギュンドガン、デ・ブライネと繋いで、こちらもエリア外からのシュートがGKクルトワを破ってしまうんですから、やってくれるじゃないですか。

いえまあ、実はこのゴールが決まる前のプレーでシティの選手のボールがサイドラインを完全に出ていたにも関わらず、プレーが続行。そのままゴールまで行っていれば、VAR(ビデオ審判)注進もあったかもしれないんですが、一旦、カマビンガが奪い返していたのが災いしたんでしょうか。それをアンチェロッティ監督が主審に抗議して、イエローカードをもらうという珍しいシーンも。そのままスコア1-1のままで試合は進行し、32分にはベンゼマのヘッドがGKエデルソンにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されるなんてこともあったものの、マドリーは最後まで勝ち越し点を奪うことは叶いません。

対するシティももう、これは昨季の準決勝2ndレグの後遺症としか言いようがないんですが、ええ、何せ後半45分、そしてロスタイムにロドリゴが決めた2発で追いつかれて延長戦に入り、ベンゼマのPKゴールで止めを刺されるという、常人には理解不能なマドリーの奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)の犠牲になったグアルディオラ監督ですからね。同点に追いついた後、再びボールポゼッションは取り戻したものの、ゆったりパスを回していることが多くなり、35分からはロドリゴからアセンシオ、クロースからチュアメニ、モドリッチからナチョとチームをリフレッシュさせたマドリーとは真逆で、まさか1人も選手交代せずに終わってしまうとは!

それもグアルディオラ監督によると、「ピッチにいる選手たちの方がボール保持してくれると思った。El Madrid tiene jugadores que hacen transiciones en carrera/エル・マドリッド・ティエネ・フガドーレス・ケ・アセン・トランシシオネス・エン・カレラ(マドリーには攻守の切り替えを走りながらできる選手がいる)。もし試合が行ったり来たりの展開になったら、ウチにはそのレベルで彼らのようにいい選手がいない」という理由だからだそうですが、はい。怖かったんですね、マドリーの高速カウンターが。今季、驚異の51得点を挙げているハーランドが見せ場を作れなかったことについては、「アラバとリュディガーがいつも近くにいて、彼にとっては簡単な試合じゃなかった」そうで、ええ、まさにその通り。

とりわけ出場停止のミリトンの代わりに入ったリュデシガーは秀逸で、ことごとくノルウェイ人大型FWへのボールを切っていたため、マドリーの2024年補強候補として取り沙汰されることの多い彼のゴールを見てみたかったというファンには残念な結果となりましたけどね。とはいえ、「A lo mejor en la vuelta que estamos en casa jugamos con más ritmo/ア・ロ・メホール・エン・ラ・ブエルタ・ケ・エスタモス・エン・カサ・フガモス・コン・マス・リトモ(ホームでプレーする2ndレグではもっと速いリズムでプレーした方がいいかもしれない)」(グアルディオラ監督)という、来週水曜のエティハドではまた違った展開になる可能性もなきにしろあらず。

何せ、モドリッチなども「Sigue la eliminatoria 50-50/シゲ・ラ・エリミナトリア・シンクエンタ・シンクエンタ(準決勝は5分5分のままだ)」と言っていたように、次の対戦の結果がそのまま勝敗に繋がりますからね。一応、マドリーは過去、1stレグを引分けたCL決勝トーナメント10試合中8試合で突破しているというデータもあるものの、シティはホームでのCL戦25試合負けなし。プレミアリーグでも10連勝中で今や、優勝まであと一歩という強さであることを考えると、決して楽観はできませんが、こればっかりはねえ。策士のアンチェロッティ監督なら、昨季のレモンターダラッシュを鑑みて、次はロドリゴを控えで終盤まで取っておくなんていう手もあるかもしれません。

まあ、そんなマドリーには週末のヘタフェ戦をゆったりプレーしてもらうとして、他のマドリッド勢の予定はどうなっているかというと。バルサに負けた後、また3連勝して、とうとう2位まで上がったアトレティコは日曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)からアウェイのエルチェ戦で、相手は前節にダントツ最下位での2部降格が確定。その状態で最後に地元のファンにいいところを見せようと、4-0で大勝した先日のラージョ戦のように頑張る恐れもあるかもしれませんが、シメオネ監督のチームもせめて、エスパニョールに勝たない限り、バルサはリーガ優勝できないぐらいの意地を示せればいいかと。

ただ、負傷欠場者の数はあまり変わらっておらず、いえ、前節のカディス戦で足首をネンザしたコレアは先週末、リーガがなかったおかげもあって、もうチーム練習に戻っているんですけどね。バルサ戦を最後に頸椎捻挫でずっとお休みしているGKオブラクは、ようやくここ最近になって、各紙の番記者も心配になったんでしょうか。どうやら彼の首の痛みは今になって始まったものではなく、ずっと悩まされている慢性の疾患だったという報道が。その原因もよくわからず、手術を勧める向きもあり、今季残り試合全てお休みするかもって、一体どうなっているのやら。

それでも控えのゲルビッチがしっかりやってくれていますし、サビッチ(足指骨折)、ジョレンテ(太もも肉離れ)、デンベレ(ふくらはぎのケガ)が欠けていても特に問題が起きていないのは幸いですが、これもヨーロッパから昨年のうちに完全撤退。コパ・デル・レイも準々決勝でお隣さん相手に敗退して、2月から週1試合ペースが続いているおかげかと思うと痛し痒しですからね。何はともあれ、もう今季は泣いても笑ってもあと5試合だけとなれば、毎回、ファンを笑顔にさせて、シーズンを終わってほしいですよね。

そしてもう1つの弟分ラージョは月曜、休養十分で6位のベティスとベニト・ビジャマリンで対戦するんですが、ホームではここ3連勝している彼らもアウェイでは2連敗中。一応、コパ王者がマドリーに決まったことで、コンフェレンスリーグ出場権がもらえる7位まではあと勝ち点1とはいえ、9位のラージョの上にはジローナとアスレティックがいるのも難点ですが、せっかく今週はイシも2028年まで契約を延長してくれたことですし、夢はあくまで大きく持たないと。

相手のベティスもすでに9差となってしまった、レアル・ソシエダの占める4位のCL出場圏末席到達は諦めて、EL出場圏を死守といったスタンスでしょうが、7位以下とは勝ち点5差あるのが油断に繋がってくれれば、イラオラ監督のチームが白星を掴むこともできる?何せ、木曜にはセビージャがEL準決勝ユベントス戦1stレグを最後の瞬間に追いつかれたものの、1-1の引分けという奮闘ぶり。来週木曜の2ndレグでは街中の注目を集めることがわかっているだけに、ベティスもその前にしっかり勝って、体面を保っておきたいところというのはちょっと、用心しないといけないですよね。

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