この先、忙しいのはマドリーだけ…/原ゆみこのマドリッド

2023.01.28 20:00 Sat
 退場を免れたセバージョス[写真=原ゆみこ]
退場を免れたセバージョス[写真=原ゆみこ]
「シーズン終わるまでが長いわよね」そんな風に私が溜息をついていたのは金曜日、凍りつくような前夜、家に着いたのは午前様だったにも関わらず、風邪を引かずに済んだことを喜びつつ、早く春が来ないかなとカレンダーを眺めていた時のことでした。だってえ、今季のリーガ最終節はW杯を挟んだせいで通常より少し遅れて6月4日の週末。EL決勝が5月31日、CL決勝が6月10日にあるとはいえ、CLグループリーグ最下位敗退により、昨年のうちにヨーロッパから完全撤退したアトレティコにはまったく関係ないんですよ。

唯一、5月6日の決勝まで楽しめる可能性のあったコパ・デル・レイですら消えてしまった今や、3回程のミッドウィーク開催節を除いて、週末だけリーガの試合をこなせばいい、ヘタフェやラージョら、弟分チームたちと同じ身分とは、もう世も末。それも現在、4位の彼らは5位のビジャレアルと同じ勝ち点、3位レアル・ソシエダには勝ち点7、2位レアル・マドリーには10、そして首位バルサには13の差があるとなれば、逆転優勝の掛け声など、まったく聞こえるはずもなく、あとはリーガの残り20試合でちまちま、CL出場圏を維持していくことくらいしか望めないんですが、何かこれ、シメオネ監督以前のアトレティコに戻っていない?
まあ、愚痴っていても仕方ないので、木曜の準々決勝コパダービーがどんな試合だったのか、お話ししていくことにすると、まだ少しは暖かかった昼間のうちに話題になっていたのは、その日の未明、バルデベバス(バラハス空港の近く)にあるお隣さんの練習場近くの高速道路に「Madrid odia al Real/マドリッド・オディア・アル・レアル(マドリッドはレアル・マドリーを憎んでいる)」という横断幕と共にビニシウスのユニを着せた首吊り人形が出現。アトレティコのウルトラグループによる人種差別主義的ヘイトクライムだとして、両クラブやサッカー協会、スポーツ関連のお役所などから非難されていたんですが、幸いなことに今回のダービーはサンティアゴ・ベルナベウでの開催でしたからね。

直前に300から500枚ぐらいに割り当てチケットが増えたとはいえ、その前のメトロポリターノでのダービーのように、ウルトラたちがビニシウスに向けて猿の鳴き真似をするような蛮行が試合で起きるとは考えにくかったんですが、ホント、こういうアトレティコファン全体を貶めるような行動は慎んでほしいかと。そしてキックオフの午後9時が近づくにつれ、気温はぐんぐん低下していき、いえ、大改装中で色んなところに隙間があるとはいえ、そそり立つスタンドで囲まれているベルナベウではブタルケやコリセウム・アルフォンソ・ペレス、エスタディオ・バジェカスのように吹きつける寒風にモロにさらされるということはないんですけどね。

それでも昨年11月のカディス戦に私が訪れて以来、77日が経過していたこの試合ではプレス席が更なる高みに移動。以前は中段にあったのが、エレベーターでなければ、とても辿り着けない8階層と、いえ、アトレティコファンが固まっていたfondo norte(フォンド・ノルテ/北側ゴール裏)の最上階、ビジターファン区画よりは弱冠、低いみたいでしたけどね。グラウンドの熱気を感じるにはあまりに遠い距離だったのもあり、早くもキックオフ前からホッカイロの封を開けてしまった私でしたが、米粒のように見える選手たちも手足がかじかんでいたのでしょうか。どちらも序盤は比較的、ゆったりプレーしていたよう。
そんな中、いきなり動きが生じたのは前半19分、コケが送ったループパスがマドリーDFラインの頭を越え、エリア内に駈け込んできたナウエル・モリーナがワンタッチで反対サイドへ送ったところ、モラタの一押しで先制ゴールが決まったから、ビックリしたの何のって。いやあ、最近はコパ16強対決のレバンテ(2部)戦、バジャドリー戦と2試合連続得点して、ゴール生産周期に入っていた彼でしたけどね。おかげでW杯のスペイン代表でもグループリーグ3試合で決めていたのを思い出した次第でしたが、当人は古巣であるベルナベウのファンから、「Morata, eres rata!/モラタ、エレス・ラタ(モラタ、お前はドブネズミ)」と心無いカンティコを歌われたのが悔しかったんでしょうか。ゴールを祝う中、自分の背中のネームの文字、MOを手で隠して、RATAだけにするという開き直りパフォーマンスも。

これはメトロポリターノに戻る度に同じカンティコを歌われてしまうGKクルトワに使えない手ですが、とにかく前半のマドリーは、ユニフォームを取り替えてプレーしているのかと思うぐらいにパスミスの多いことといったらもう。本気で勝ちたいなら、アトレティコもハーフタイムが来る前にあと2点ぐらい、取っておくべきだったんですよ。それがクロースのFKから、ミリトンがヘッドでゴールを狙うのでなく、クリアしてしまうというドッキリがあった後の32分、レマルのゴール前のキラーパスにモラタは一歩及ず、更に40分過ぎにメンディが負傷でピッチを出て、セバージョスが入るまでの空白の時間も利用できずと、0-1のまま、試合は折り返すことに。

そして激動の後半が始まったんですが、最初に起きた悲劇はまだ5分も経っていなかった頃、モラタが接触プレーでマドリー陣内に倒れたまま、しばらくほっておかれたんですが、どうやらこれが18分に彼が交代する原因となったよう。ええ、試合終了の笛と同時にピッチ中央まで出向き、ソト・グラド主審と会話していたシメオネ監督が、会見で「Ya pasó en San Sebastián y le dije si tenía algo contra Morata/ジャー・パソ・エン・サン・セバスティアン・イ・レ・ディヘ・シー・テニア・アルゴ・コントラ・モラタ(サン・セバスティアンのレアル・ソシエダ戦でもあったんだが、モラタに対して何か恨みでもあるのかと訊いた)。モラタは大袈裟に倒れると言っていたが、その打撲のせいで交代を余儀なくされた」と説明していたんですけどね。

ただ、そこでメンフィス・デパイを代わりのCFとして入れるのでなく、守備的なMFビッツェルを選択。リードしているのをいいことにアトレティコが得意の一歩後退モードに移行したのも、奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)の体現者、ロドリゴが投入されたマドリーを勢いづかせたのかもしれませんが、それも27分、自陣エリア前でレマルのヒザを蹴ったプレーにより、セバージョスに2枚目のイエローカードが出ていれば、どうなっていたことか。とはいえ、後でオブラクも「Eestamos acostumbrados a eso y es complicado/エスタモス・アコストクンブラードス・ア・エソ・イ・エス・コンプリカードー(ボクらはそういうのに慣れているけど、難しいよ)」と言っていたように、ホント、マドリーが不利になる判定が下ることって、ダービーで滅多にないんですよねえ。

結局、その時もらったペナルティエリア近くからのFKもグリーズマンがクルトワにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されてしまい、ここでも追加点が奪えず。それでもスコアが変わらないまま、後半30分も過ぎると、いい加減、震えがくるほど寒い今日ぐらい、これまでシメオネ監督下で戦った一発勝負のダービーで初めて延長戦が避けられるんじゃないかという期待が少しは沸いたんですが、とんでもない。34分にはアトレティコの選手4、5人をかわして、ロドリゴがエリア内からシュート。オブラクの手が届かず、同点に追いつかれてしまったから、さあ大変!

ええ、おかげでスタンドの大部分を占めるマドリーファンが昨季のCL決勝トーナメント、怒涛の3連続逆転劇を思い出して、イケイケで応援を始めたからですが、うーん、一応、そのまま90分は終えることができたんですけどね。ここでアトレティコのゲームメーカー、グリーズマンのガソリンが尽き、先日、正式にトップチームの選手となることが決定。未だに30番を着けているバルサのガビなどとは違い、登録枠に余裕があったか、24という立派な背番号をもらった19才のンテラーノ(Bチーム出身の選手)、バリオスと代わったのも攻撃面では痛かったんですけどね。何よりマズかったのは延長戦前半、7分にはビニシウス、9分にはメンディの交代から左SBをやっていたカマビンガにサビッチが乱暴なタックルをかまして、あっという間にイエローカード2枚で退場になってしまったこと。

すると14分、セバージョスと並んで最近、先発としても十分合格ラインの冴えを見せるようになってきたアセンシオがエリア内に切り込み、そのゴールと平行に送ったパスをそれまで何度もチャンスを逃していたベンゼマがあっさり決めてしまうのですから、まさにマドリーの逆転力たるや恐るべし。いやあ、延長戦後半にはすでにピッチに出ていたデパイ、そしてカラスコにも同点ゴールを決める機会はあったんですが、とりわけ後者、このシーズン後半、いい成績を残せば、夏には2000万ユーロ(約30億円)の買取オプションを持つバルサに移籍できるせいで力んだか、それとも絶対、アトレティコに残りたいという天邪鬼精神だったかはわかりませんが、とにかくシュート精度が悪くてねえ。

ロスタイム最後にはカウンターからビニシウスに3点目を奪われて、もう寒さに耐えるのにも限界という私に帰りがもっと遅くなるだけでなく、シメオネ監督時代のダービーで勝った試しがないPK戦という、更なる試練が課されることはありませんでしたが、いやあ。アンチェロッティ監督も「La segunda parte ha sido más un cambio mental que de estrategia/ラ・セグンダ・パルテ・ア・シードー・ウン・カンビオ・メンタル・ケ・デ・エストラテヒア(後半は戦術というより、メンタルの変化だった)。それにしたって、前半あれだけ悪いプレーをしていたチームがどうやったら後半、あんなに良くなるのか理解するのは難しい」と告白していたんですけどね。

これはもう、コパ16強対決ビジャレアル戦で前半2-0の負けを後半に3点入れて覆した時から、マドリーのお家芸、レモンターダのスイッチが入ったとしか言えないんですが、その試合、スタメンでプレーしながら、途中交代。監督を無視してベンチに座ったのを注意されていたロドリゴを見事に更生させたアンチェロッティ監督の手腕もさすがと言うしかない?ただ、大変なのは彼らにはこの先も1週間2試合のハードスケジュールが当分、続くことで、ええ、火曜にセビージャを延長戦で破ったオサスナ、ブライス・メンデスが前半に退場となったレアル・ソシエダに1-0で勝ったバルサ、そして同日、バレンシアを1-3で破ったアスレティックらが参加するコパ準決勝の抽選は月曜にあるんですけどね。

その前日、日曜午後9時(日本時間翌午前5時)からはまたベルナベウで、久保建英選手の古巣訪問は叶うものの、ダビド・シルバは負傷で来られないレアル・ソシエダ戦。来週木曜にはスペイン・スーパーカップで延期されていた17節のバレンシア戦、次の日曜にマジョルカ戦を済ませた後、サッカー協会がコパ準決勝1stレグに予定していた2月の第2週にはFIFAクラブW杯でモロッコに行かないといけないため、コパの試合は先送りする破目に。大体がして、こうも連戦が続くと、メンディのようにケガ人も増えるばかりで、何とか、チュアメニやアラバ、カルバハルらの回復が間に合ってくれるよう、今はアンチェロッティ監督も祈るしかないんじゃないでしょうか。

そしてコパで退場したサビッチのリーガでの出場停止が明けるアトレティコはこの週末、コパ準々決勝の勝ち組、オサスナと日曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)からエル・サダルで試合なんですが、4位維持のためには弟分たちの援護射撃を多いに期待したいところ。ヘタフェが土曜にホームに迎えるのは6位で勝ち点差3のベティスとあって、いえ、キケ・サンチェス・フローレス監督のチーム自体もリーガでここ3連敗と、いよいよ降格圏18位のバジャドリーと同じ勝ち点、ゴールアベレージ差だけで16位にいる状態なので、どうしても勝たないといけないんですけどね。

昨年、足首を手術して長期リハビリをしていたアランバリがチーム練習に戻ったという嬉しい知らせはあるものの、まだ試合に出られる訳ではなく、何とかエネス・ウナルやマジョラルが当たって、ゴール不足を解消できるといいんですが、こればっかりはねえ。ガチに降格圏入りしてしまうと、それこそ監督交代の事態にもなりかねないため、スペイン・スーパーカップ準決勝ではバルサに、コパ16強対決ではオサスナにPK戦で負けたベティスが最近、少々凹んでいるのを利用できるといいのですが。

一方、ラージョはここ2節、月曜試合となっていて、第1弾はラ・セラミカでのビジャレアル戦。5位のこの相手も同じ勝ち点のアトレティコが4位を死守するためには是非とも、イラオラ監督のチームに頑張ってもらわないといけないんですが、相手はコパに敗退したせいか、1月の移籍市場クローズが迫って、FW放出の動きが加速しているよう。もうダンジュマがトッテナムにレンタル移籍することが決まっていますし、ニコ・ジャクソンもメディカルチェックでOKが出れば、ボーツマス入りとなるとか。

まあ、ジョアン・フェリックス(チェルシーにレンタル)、クーニャ(ウォルバーハンプトン)が出て、来たのはデパイだけ。もう今季、ビッグマッチはないものの、ダービーではかなり前線の手駒が薄くなった気がしたアトレティコと比べると、まだELに残っているビジャレアルの動きは不可解ですが、9位のラージョもEL出場圏まで、あと勝ち点2差だけですからね。前節ではレアル・ソシエダに不覚を取ったとはいえ、昨季後半、いきなり不調に陥って、残留確定までの勝ち点を貯めるのに苦労した経験をリピートしないためにも前半戦最後となるこの試合、気持ちよく白星で終えてくれたらいいですよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。


NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly