選手だって回復する時間はほしいだろうに…/原ゆみこのマドリッド

2022.11.04 21:00 Fri
©Atlético de Madrid
「何だか全然、いい予感がしない」そんな風に私が不安になっていたのは月曜日、アトレティコが珍しくCLアウェイ戦前日練習を相手のスタジアムではなく、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でやると聞いて、見学に行った時のことでした。いやあ、その日はセッションの場所もミニスタジアムではなく、グラウンドに向かう敷地内の道を辿っている途中など、チームメートが練習を開始したばかりなのを尻目にモラタがスタッフに付き添われ、ロッカールームに帰っていくところにバッタリ遭遇。やはり、カディス戦で踏まれた足の痛みや腫れが引かず、ポルト戦には出られないんだろうと絶望したせいもあるんですけどね。

唯一、外部からも見られる角グラウンドでのセッションにいた選手も何だかヤケに少なくて、フィールドプレーヤーはカテンラーノ(アトレティコBの選手)の助っ人を入れても16人程。ええ、筋肉系の負傷のリハビリ中のコケ、レマルはもちろん、レイニウドも疲れが溜ってジム籠り、土曜の試合後半に交代したコンドグビアは隣のグラウンドで別調整ともう、全週2試合ペースだった10月の連戦による選手たちの疲労蓄積による身体トラブルも今ここに極まれりといった感じだったんですよ。それでもいい結果が出ていれば、まだ救われるものの、彼らはここ2試合、CLレバークーゼン戦、カディス戦と後半ロスタイムで最悪な経験をリピート。
こうなると、火曜午後6時45分(日本時間翌午前2時45分)からのCLグループリーグ最終節、ポルト戦に勝って、少なくとも3位で来年ELをプレーできる権利を掴めるかどうかも定かではありませんが、こんな大事な試合前なのに練習場の柵に応援メッセージを書いた横断幕一つなかったのはもしや、ファンからも見放された?いやまあ、この日はpuente(プエンテ/連休)の最中とあって、マドリッドを離れているファンも多かったのかもしれませんしね。

実際、カディス戦の後、「hay que ajustar esa ansia que tenemos por querer ganar /アイ・ケ・アフスタール・エサ・アンシア・ケ・テネモス・ポル・ケレール・ガナール(勝ちたい思いから生まれる焦りをコントロールしないといけない)」と選手たちのメンタル面を心配していたシメオネ監督も彼らにゆとりを与えたかったんでしょう。練習メニューもロンド(輪になって中の選手がボールを奪うゲーム)を形を変えて幾つかやった後、ミニゴールを使ったシュート、2人組でヘッドでのパス交換から、最後はvolea(ボレア/ボレーシュート)という、かなり遊びの要素が入ったものでしたし、仮想スタメンの予行演習もなし。

夕方、練習場から出るバラハス空港行きのチームバスに、「Kondogbia y Álvaro querían estar y pidieron venir/コンドギビア・イ・アルバロ・ケリアン・エスタル・イ・ピディエロン・ベニール(コンドグビアとモラタはチームと一緒にいたくて、遠征参加を頼んだ)」(シメオネ監督)という2名とレイニウドも乗っていたのは朗報でしたけどね。すでに1週間程、セッションに参加しているマルコス・ジョレンテが招集されていないのはもうW杯も近いため、ケガの再発を恐れているのかもしれません。
え、それでこの1週間で2度目の悲劇となった、そのカディス戦というのはどういう試合だったのかって?うーん、確かに開始27秒、エムバイエのロングパスをエスピーナがエリア近くで受け、そのラストパスをボンゴンダに決められて、いきなり先制点を奪われたのも目が点だったんですけどね。そこへ6分にはモラタがエムバイエにエリア内で足を踏まれながら、PKももらえず、10分にはクーニャに交代という、ダブルパンチを受けたんですが、30分にはそのエムバイエもケガでチュストと代わっているため、その辺は因果応報だったかと。

前半ロスタイムのソブリーノの1対1のシュートはGKオブラクがparadon(パラドン/スーパーセーブ)してくれたため、1-0のまま、後半が始まったんですが、どうやら最近のコレアはシュートが決まらない病が再発してしまったことが発覚。そこでシメオネ監督も15分には彼と、レバークーゼン戦のラストプレーだったPKを敵GKに弾かれ、グループリーグ敗退の戦犯に最も近い存在となってしまいながら、立ち直りを期待して、その日も先発に入ったカラスコをグリーズマンとジョアン・フェリックスに交代。前者は疲労蓄積を考慮してのローテーションによる控えスタートだったんですが、ここ8試合、すっかりベンチ観戦の常連と化していた後者にとっては、クーニャが早く出たおかげで順番が繰り上がったのがモチベーションになった?

いえ、ジョアンが主役となったのは36分、再びエスピーノがラストパスを送り、今度はアレックス・フェルナンデスにカディスの2点目を決められた後だったんですけどね。近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)でTV観戦していた私もアトレティコのあまりのザル守備ぶりに絶望しきっていた40分、CKからのボールを彼がジャンピングボレーでシュートしたところ、クリアしようと足を出したルイス・エルナンデスのおかげでゴールになったんですよ!おまけにその4分後にも彼がエリア前から撃ち込んで、あっという間に同点にしてしまった日には、どうしてこれまで違いを際立たせるプレーを見せてくれなかったのか、疑問に思ったのは私だけではなかったかと。

加えて、ロスタイムにはジョアンのヘッドが惜しくも外れ、土壇場の逆転勝利を夢見たファンも多かったはずですが、ただ、それもレバークーゼン戦同様、期待を持たせて絶望のどん底に突き落とされる布石だったよう。この日はラストプレーでカディスのカウンターを喰らい、アレホがエリア外右から入れたクロスから、ゴール左前に詰めていたソブリーノが勝ち越しゴールをゲット。「No lo sé ni con qué ha metido el gol/ノー・ロ・セ・ニ・コン・ケ・ア・メティードー・エル・ゴル(どこでゴールを入れたのかもわからない)」(ソブリーノ)と胸だか、お腹だかで押し込んだようですが、VAR(ビデオ審判)からケチがつくこともなく、アトレティコは3-2で負けてしまいましたっけ。

え、降格圏19位のカディスは1週間前、エスタディオ・バジェカスで弟分のラージョに5-1のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らっていなかったかって?その通りなんですが、実はイラオラ監督のチームは現在、絶好調のようで、アトレティコの次の時間帯にはサンチェス・ピスファンでアルバロ・ガルシアのゴールで0-1と勝利。いくら相手のセビージャが火曜にCL敗退、EL転戦が決定したばかりで、「El equipo estuvo desconectado/エル・エキポ・エストゥーボ・デスコネクタードー(チームはスイッチが切れていた)」(サンパオリ監督)状態だったとしても、司令塔のトレホを出場停止で、ファルカオを負傷で欠きながら、何とかしてしまったとなると、もしや次節の兄弟分ダービーで対戦するレアル・マドリーも舐めてかからない方がいい?

というのは土曜の夜の試合ではバルサこそ、後半ロスタイムに頼みの綱のレバンドフスキが決めて、バレンシアに0-1と辛勝したものの、カディスにしろ、ラージョにしろ、対戦相手がミッドウィークにCLをこなしている間もじっくり調整。敵の欠点を研究する時間がたっぷりあったからですが、日曜のサンティアゴ・ベルナベウでもまさにそれが再現されることに。ええ、連戦続きのマドリーもチュアメニが当日、筋肉痛で急遽欠場、W杯がだんだん近づいているのもあって、まだベンゼマは調整中と逆境はあったかと思いますが、実際、相手のジローナは降格圏にいたチームですからね。

それがまさか、ミチェル監督が練りに練った隙のない守備態勢を破れず、前半はロドリゴのシュートがボールポストを直撃したぐらい。ジローナもヤンヘル・エレーラがゴールバーに弾かれているため、まさに拮抗していたんですが、ようやく後半25分にはバルベルデのアシストでビニシウスが先制ゴールを挙げてくれたとなれば、スタンドのファンも安心したかと。ただ、惜しむらくはその1分後、カマビンガから代わったアセンシオの強烈な一撃がGKガッサニガに弾かれてしまったことですが、この日のマドリーはツキもなかったんでしょう。

そう、30分にジローナはエースのストゥアーニを入れていたんですが、その直後にあったCKをクリアしたプレーにVAR振り返り注進が入り、アセンシオの腕がボールに触れていたことが発覚。最近は何だか、PKを弾かれるシーンばかり見ているような気がした私でしたが、ストゥアーニが外すことはなく、ジローナが同点に追いつきます。うーん、このペナルティ判定はかなり物議を醸していて、試合後は珍しく、アンチェロッティ監督まで「アセンシオと話したが、ボールは胸に当たったと言っていた。Se lo han inventando/セ・ロ・アン・インベンタードー(ハンドを作り出したんだ)」と批判。

とはいえ、いくらアセンシオが主審に「Dime dónde pongo la mano/ディメ・ドンデ・ポンゴ・ラ・マノ(どこに手を置いときゃいいのか、言ってくれ)」とかみついても、肩より上がった腕にボールが当たれば、ペナルティとされても仕方ないですからね。要は得意の根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)で勝ち越し点を奪えなかった彼らが悪いんですが、え?43分にロドリゴがゴール前から、3度トライして、ようやくボールがゴールに入りながら、得点にならなかったのはどうしてなのかって?

それは、後でクルトワも「Si como portero tiene la mano encima del balon, nadie puede tocar/シー・コモ・ポルテーロ・ティエネ・ラ・マノ・エンシーマ・デル・バロン・ナディエ・プエデ・トカール(GKがボールの上に手を置いていたら、誰も触ることはできない)」と言っていたんですが、ガッサニガはロドリゴの最初のシュートを弾き、2度目を弾いた後には地面にあるボールを片手でキープ。その状態でまたロドリゴが蹴ったため、ファールを取られたのだとか。こちらもロスタイムは9分と長かったため、またドラマが見られるのではないかとファンも期待していたものの、クロースが2枚目のイエローカードをもらい、プロとして740試合目で初めて退場処分を喰らったぐらいで、そのまま試合は1-1で終了です。

まあ、この日はVAR運が悪かったのはともかく、アンチェロッティ監督も「あまりに試合が多すぎて、最高のレベルのプレーをしているとは言えない。No hay tiempo de recuperar 100% física y mentalmente/ノー・アイ・ティエンポー・デ・レクペラール・シエントー・ポル・シエン・フィシカ・イ・メンタルメンテ(フィジカル、メンタル的に100%回復する時間がないからね)」と言っていたように、もうホント、この週2試合ペースは選手たちにはたまったもんじゃなし。さすがのマドリーにもその影響はあって、先週は火曜のCLライプツィヒ戦で今季初黒星を喫したのに続いて、リーガで2度目の引分けという結果になってしまいましたが、それでも彼らの状況は他のCL出場スペイン勢からすれば、まったく羨ましい限りかと。

だってえ、リーガは2位バルサと差が勝ち点1に縮まってしまったとはいえ、まだ首位のままですし、来年、CL決勝トーナメントが待っているのは彼らだけなんですよ。いえ、まだ水曜午後6時45分からのグループリーグ最終節、すでに4位敗退が確定しているセルティックをサンティアゴ・ベルナベウに迎える一戦では、こちらも勝ち点差1に迫った2位のライプツィヒがシャフタールに勝っても大丈夫なように、勝利を目指さないといけないんですけどね。ベンゼマとチュアメニが出場できるかもまだわからないんですが、敗退決定後の消化試合のためにチェコまでビクトリア・プルゼニ戦に出向かないといけないバルサやマンチェスター・シティのホームに乗り込まないといけないセビージャ、そしてEL行きを懸けてポルトに行くお隣さんに比べれば、まさに天と地の差ですって。

そしてまたしても月曜にプレーしたヘタフェはここ5試合、白星がなかったものの、最下位のエルチェを後半9分、アレニャのクロスをエネス・ウナルが決めて、0-1で下すことに。うーん、32分にはアマビが2枚目のイエローカードをもらって、1人少なくなったり、残り2分にはそのウナルがハンドでPKを献上。同点に追いつかれるピンチもあったんですけどね。上手くいっていないチームの常というか、ボジェの蹴ったPKはGKダビド・ソリアがコースを読んでセーブしてくれたため、降格圏と勝ち点1差の17位だったのがジャンプアップして、14位まで上昇。

あとはこの土曜、奇妙な縁でマドリッド勢3連戦となるカディスをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎える試合で弟分仲間に倣うことができれば、落ち着いてW杯のparon(パロン/中断期間)に入れそうですが、さて。ちなみにヘタフェは先週、アランバリとアンヘレリがそれぞれ、足首、頬骨の手術をして、すでにリーガ再開まで欠場することが決定。兄貴分のような地獄の連戦ではなくても今週末、そしてミッドウィーク開催の14節、そしてコパ・デル・レイ1回戦のある来週はW杯に出場する各国代表に招集されない選手にとって、最後の踏ん張りどころとなりそうですね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly