できれば勝って祝ってほしかった…/原ゆみこのマドリッド

2022.10.07 20:00 Fri
「全然、危機感ないかもしれない」そんな風に私が複雑な気持ちを抱いていたのは木曜日、シビタス・メトロポリターノの会見場でアトレティコ歴代最多試合出場選手となったコケの記念イベントを見ていた時のことでした。いやあ、確かにアデラルドが1970年代に作った553試合という記録を46年ぶりに更新したのは十分、賞賛に値しますし、スタジアムでの練習を済ませ、同席したチームメートやお祝いに駆けつけた関係者、招待客らで場内が満席になっていたのにはビックリさせられたんですけどね。

ただ、いつものプレゼンのように30分ぐらいで終わるだろうという、私の予想は見事に外れ、セレソ会長、ヒル・マリン筆頭株主、そして当のアデラルドの祝辞から始まって、キャプテンのヒメネス、オブラク、サビッチらも壇上に。続いてのビデオメッセージ第1弾では、ラウール・ガルシア(現オサスナ)、フィリペ・ルイス、ゴディン(ベレス・サルスフィールド)、チアゴ、マリオ・スアレス(ラージョ)、アルダ・トゥラン、アドリアン、ファルカオ(ラージョ)らが映った後、同じ2014年のリーガ優勝時のメンバーである、イベント出席組のガビ、ファンフランにもマイクが。
もちろんシメオネ監督も話しましたし、奥さんのベアトリスさん、長男のレオ君もパパにキャテンマークを手渡すために登壇。ビデオメッセージ第2弾では、ロドリ(現マンチェスター・シティ)、リュカ・エルナンデス(バイエルン)、デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)らのカンテラーノ(アトレティコB出身の選手)の後輩や何故か、ブスケツ、ジョルディ・アルバ、チャビ監督らバルサ連からもお祝いが届いていましたが、ダメですよ、過信しては。いくらスペイン代表のルイス・エンリケ監督も賞賛の言葉を贈ってくれたとはいえ、このままうっかり、アトレティコがCLグループリーグ敗退でもしようものなら、コケがW杯に呼ばれない可能性も出てくるのでは?

いやまあ、私がちょっと意地悪になっているのは、最後はカンテラの偉大な先輩、フェルナンド・トーレス(今はUEFAユースリーグに出場するフベニルの監督)の姿も見られたイベントが1時間半と長く、お昼のスポーツニュース(スペインでは午後3時過ぎに始まる)までに家に戻れなかったせいもありますけどね。それより何より、火曜のクラブ・ブルージュ戦の結果をすっかり忘れ、誰もがお祭り気分に浸っていたからでしょうか。

ええ、コケ当人からして、「アトレティコのハートが失われてしまったとは思わない。Hay que seguir estando juntos, no escuchar a los de fuera y no perder la unidad/アイ・ケ・セギール・エスタンドー・フントス、ノー・エスクチャール・ア・ロス・デ・フエラ・イ・ノー・ペルデル・ラ・ウニダッド(皆、一緒にい続けて、外の人の言うことは聞かないで、団結心を失わないようにしないと)」と何か、ちょっと反省に欠けているというか、状況がわかっていないというか…そう、まずはCL3節の話をしていかないと。
ブルージュでのその試合、またもバルサのインテル戦とかぶったため、行きつけのバル(スペインの喫茶店兼バー)の奥の団体客用スペースで見ていた私ですが、おそらく、最初にまた先発に戻ったグリーズマンやモラタのシュートがGKミニョレに弾かれてしまった辺りから、ケチがついていたんでしょうね。モラタも絶好のチャンスで決められず、いよいよ災難が訪れたのは前半33分、マルコス・ジョレンテが太ももを痛め、全治5週間の負傷で急遽、コレアに交代した後のことでした。そう、セビージャ戦に続き、この日もヒメネス、サビッチの両レギュラーCBが揃いながら、エリア内右奥へジュグラの侵入を許し、ゴール前にパスを入れられて、ソワーに先制点を決められてしまったから、ビックリしたの何のって。

おまけに昨季からケガの多いヒメネスが用心のため、コンドグビアに代わり、再びビッツェルがCBに回った後半はGKオブラクがジュグラのシュートをparadon(パラドン/スーパーセーブ)してスタート。いやあ、今季ジュピターリーグ(ベルギー1部)で6得点を挙げている、このバルサからレンタル移籍している選手の危険さは全員、わかっていたはずなんですけどね。まさか、17分にはニールセンにキープしてもらったボールを受け、エリア内からのシュートで2点目を奪われてしまうって、ちゃんと対策していたんですかあ?

かてて加えて、31分にはせっかく途中出場したクーニャがブキャナンに倒され、PKをゲットしたというのにグリーズマンがバーに当ててしまう始末。再び戻って来たボールを当人がゴールにしてもオフサイドで認められないとなると、バルサに強制買取オプション金額を4500万ユーロ(約64億円)から、2000万ユーロ(約29億円)へ値下げしてもらう交渉がまとまりつつあるとはいえ、もしや彼、時短勤務の方がチームの役に立ったりする?実際、計20本もシュートを放ちながら、最後はジョアン・フェリックスのFKもコレアもミニョレに防がれ、そのまま2-0で負けてしまったのには、2017-18シーズン、CLグループリーグを3位敗退することになったカラバフ(アゼルバイジャンのチームと2引分けした)の悪夢を思い出したファンも多いかと。

うーん、実を言うと昨季もアトレティコはグループリーグの3、4節で連敗。その相手、リバプールが6試合全勝してくれたおかげで、勝ち点がたった7でも2位で決勝トーナメントに行けたんですけどね。ここまで3連勝とはいえ、いくら何でもブルージュにクロップ監督のチームと同じ結果を要求するのは酷というものでしょう。大体がして、3節までの1勝2敗のアトレティコの勝ち点は昨季より1つ少ない3ポイントだけ。となると、今は同じ勝ち点で団子になっている、5節のシャビ・アロソンソ監督が就任したばかりのレバークーゼン戦、奇しくもリピートとなる最終節、アウェイでのポルト戦だけでなく、「Hay que ganar los tres que quedan para estar en octavos/アイ・ケ・ガナール・ロス・トレス・ケ・ケダン・パラ・エスタル・エン・オクタボス(16強対決に進むには残り3試合に勝たないといけない)」(コケ)?

何故か、シメオネ監督は「Todavía queda mucha Champions por jugar, hay que tener tranquilidad/トダビア・ケダ・ムーチャ・チャンピオンズ・ポル・フガール、アイ・ケ・テネール・トランキリダッド(まだプレーするCL戦は沢山あるし、平静を保つべき」と楽観的だったんですけどね。11月にW杯がある今季はCLグループリーグもスピード開催で、来週水曜にはブルージュがメトロポリターノに来訪。その前には土曜の午後4時15分(日本時間午後11時15分)から、レンタル移籍中のカンテラーノ、リケルメが来季はトップチームに残れるよう、アピールしようと張り切っているジローナとの一戦もありますし、それこそCL出場圏の4位まで勝ち点差2、首位とは6差の5位にいるアトレティコには呑気に記念イベントなんてやっているヒマはないはずだったんですが…。

それとは好対照だったのは翌水曜、サンティアゴ・ベルナベウでシャフタール戦に挑んだお隣さんで、いえまあ、ウクライナが戦争中という事情があって、前日に私が見に行ったヨビチェビッチ監督の記者会見も母国のメディアはTV局2社程度。おまけにそのクロアチア人監督は10代の頃、レアル・マドリーB(現在はRMカスティージャ)で5年もプレーしていたため、スペイン語がペラペラなんですよ。おかげで質問もほとんどスペインメディアからばかりとなり、2月のロシアによる侵攻勃発後、チームを離れた大量のブラジル人選手たちに代わり、いきなり牽引役に出世した21才のムトリクだけが同席しながら、カヤの外といった感じで気の毒だったんですけどね。

それでも試合当日は200人ぐらい、ビジターファンがいたようですが、この日のレアル・マドリーは、「La semana que viene queremos otra victoria y clasificarnos/ラ・セマーナ・ケ・ビエネ・ケレモス・オトラ・ビクトリア・イ・クラシフィカールノス(来週も勝って、決勝トーナメント進出を決めたかった)」(クロース)という、CLにさっさと決着をつけて、W杯までリーガに専念するという目標に黙々と邁進。早くも前半13分にはロドリゴが先制点を挙げると、28分にはビニシウスも決めて、2点をリードすることに。ただ、そのせいでちょっと油断したか、39分にはミハイリチェンコのクロスをズブコフがエリア内でアクロバティックなvolea(ボレア/ループシュート)。これが坐骨神経痛でお休みしたクルトワに代わり、ゴールを守っていた同胞、GKルニンを破り、1点差でハーフタイムを迎えます。

そこでアンチェロッティ監督は、「Bajamos un poco la intensidad y di un golpe de atención en el descanso/バハモス・ウン・ポコ・ラ・インテンシダッド・イ・ディ・ウン・ゴルペ・デ・アテンシオン・エン・エル・デスカンソ(ウチはちょっとプレーの強度が下がっていたから、ハーフタイムに注意するよう喝を入れた)」そうなんですが、後半も攻めまくりながら、意外にもマドリーの追加点は生まれず。ビニシウスだけで9本もシュートしながら、チーム全員では枠内14本、枠外22本と計36回も撃って、2点にしかならないとはまったく、ツイていない。

え、火曜の試合前日記者会見では、チャビ監督の「Champions no siempre la gana el mejor/チャンピオンズ・ノー・シエンプレ・ラ・ガナ・エル・メホール(CLはいつもいい方のチームが勝つとは限らない)」という発言に対して返答。「Ahí los pequeños detalles importan. No es suerte o mala suerte/アイー・ロス・ペケーニョス・デタジェス・インポルタン。ノー・エス・スエルテ・オ・マラ・スエルテ(大事なのは小さなディテール。運がいいとか、悪いとかではない)」と話していたアンチェロッティ監督だったけど、「Hay días así, el balón no quiere entrar/アイ・ディアス・アシー、エル・バロン・ノー・キエレ・エントラール(ボールがゴールに入りたがらない。そんな日もある)」(クロース)試合でも2点を挙げて、勝ってしまうんだから、マドリーは運のいい方じゃないかって?

まあ、撃っても撃っても1点も取れない、どこそのチームの例もあるため、それはそうなんですが、ちょっと心配なのは負傷から回復してから、まだゴール力が戻ってきていないベンゼマ。この日もチャンスは何度もありながら、狙いが逸れたり、タイミングが悪かったりと、得点を挙げることはできなかったんですが、まあ、その間も若いブラジル人FWコンビが頑張ってくれていますからね。来週火曜はシャフタールの今季CL用ホーム、ポーランドのワルシャワに向かう彼らですが、ウクライナ人選手が主体となった相手にはイージーなパスミスなど、未熟なところが大いに伺われたため、アトレティコ、バルサ、セビージャと苦戦中のスペイン勢を尻目に、4連勝でグループ突破を決めるのに問題はないかと。

そんなマドリーは今週末、土曜午後9時(日本時間翌午前4時)から、コリセウム・アルフォンソ・ペレスでの兄弟分ダービーに挑むことになりますが、リーガの方では前節オサスナ戦でのドローで今季初めて勝ち点を落とし、バルサにゴールアベレージ差で奪われた首位の奪還が目標に。アンチェロッティ監督のローテーション計画もあり、シャフタール戦をベンチで見学したモドリッチは先発できそうですが、クルトワはその1週間後となるクラシコ(伝統の一戦、バルサ戦のこと)出場を目指してリハビリ中。先週土曜にハムストリングスを痛めたセバージョスなど、全治5週間でW杯前の試合全てに出られない恐れもあるというのはホント、気の毒ですよね。

一方、前節のバジャドリー戦で負け、上昇気流に乗りかけていたところで足元をすくわれたヘタフェはマクシモビッチ、アランバリ、セアオネのMF3人が負傷中。代わりに出場停止だったルイス・ミジャが戻って来ますが、最近はとんと、マドリーに勝った記憶がなくてねえ。古巣への恩返しがしたいボルハ・マジョラルは頑張ってくれると思いますが、今は14位とはいえ、降格圏との差はまだ勝ち点3しかないため、キケ・サンチェス・フローレス監督もまずはしっかり守って、スコアレスドローでもいいぐらいの気持ちかもしれません。

そして月曜に後半ロスタイムのウナイ・ロペスのgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)で劇的な勝利を挙げ、最下位エルチェのフランシスコ監督を解任に追いやったラージョも土曜にアルメリア戦となるんですが、またしても相手が降格圏18位のチームとはもしかして、稼ぎ時が来た?何せ、今は10位にいる彼らですが、来季のヨーロッパの大会出場圏の7位までたった勝ち点3しかありませんからね。昨季のようにシーズン後半、あまり勝てなくなる危険に備えて、なるたけ早く貯金を増やしてほしいものですが、やはりミッドウィークも忙しい兄貴分たちに比べると、週1試合ペースが続く弟分たちは楽でいいですよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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