W杯前にネガティブな印象は残したくない…/原ゆみこのマドリッド

2022.09.26 20:00 Mon
©︎RFEF
「いきなりFinal(フィナル/決勝)が来ちゃったわね」そんな風に私が当惑していたのは日曜日、ヨーロッパ以外の代表がW杯前、最後の親善試合で調整しているせいでしょうか。わりと世間も生温かい目で見ていたネーションズリーグだったんですが、スペインはスイスに負けて首位陥落。来年6月開催のファイナルフォーに2大会連続で出場する夢はまだ、最終節でポルトガルに勝てば叶うものの、そのお隣さん代表には2012年ユーロでPK戦勝利した以外、ここ6試合、5分け1敗と白星がないのを知った時のことでした。

うーん、確かに先週月曜に始まったラス・ロサス(マドリッド近郊)での合宿は火水木とずっと午前セッションだけで、午後はスポンサーイベントやメディア対応に明け暮れるという、結構、呑気なものだったようですけどね。6月のネーションズリーグ4試合を2勝2分けで済ませ、2位ポルトガルとは勝ち点差1で夏休みとなったスペインには、土曜の試合でスイスに勝って、ポルトガルがチェコに負ければ、最終節を残して首位突破が決まる可能性もあったんですよ。私も観戦に行ったマラガ(地中海沿岸のビーチリゾート)での4節チェコ戦など、いい勝ち方をして終わっていたため、もしやバーゼルでのスイス戦はサラビア(当時はPSGからのレンタルでスポルティングCPでプレー)のゴール1点だけの辛勝だったことも忘れていた?
まあ、とりあえず、そのサラゴサで行われたスイス戦の様子から、お話ししていくことにすると、スペイン代表がラ・ロマレダ(2部サラゴサのホーム)を訪れるのは19年ぶりとあって、現地のファンもスタンドを満員にして応援してくれたんですが、ルイス・エンリケ監督はスタメンからサプライズを用意。ええ、前線3FWのうち、フェラン・トーレス(バルサ)とサラビアは順当だったんですが、まさかアセンシオ(レアル・マドリー)がfalso nueve(ファルソ・ヌエベ/シャドーCF)として入るとは、直前のマドリーダービーでも先発落ちしていたモラタ(アトレティコ)にはダブルショックだったかも。

しかもその3人共、今季は所属クラブであまりプレーしていないというのは最初から懸念だったんですが、ブスケツ、ペドリ、ガビのバルサトリオで万全だったはずの中盤もこの日は、「He visto a muchos jugadores en la primera parte que han estado más imprecisos que nunca/エ・ビストー・ア・ムーチョス・フガドーレス・エン・ラ・プリメーラ・パルテ・ケ・アン・エスタードー・マス・インプレシソス・ケ・ヌンカ(前半は多くの選手が今までにない程、不正確なプレーをしていた)」(ルイス・エンリケ監督)ため、ボールは持っていても、なかなかシュートまで辿りつかず。そんな状況を利用して、先手を取ったのはスイスでした。

そう、21分にCKのチャンスを得た彼らは、うーん、バルガス(アウグスブルク)が蹴る前から、ジョルディ・アルバ(バルサ)とビドマー(マインツ)が自分の前で争っていたため、アスピリクエタ(チェルシー)がマーク対象のアカンジ(マンチェスター・シティ)に近づけなかったのが悪かったんですかね。見事にそのアカンジがヘッドを決め、先制点を奪われてしまったから、さあ大変!かといって、急にスペインのプレーが改善することもなく、サラビアのシュート2本がGKゾマー(メンヘングラッドバッハ)にセーブされたぐらいで前半は終了することに。
でも大丈夫、ロッカールームで気合を入れたスペインは後半9分、アセンシオがセンター近くで受けたボールを持って上がり、何人もの敵をかわしながら、フリーで左サイドからエリアに入ってきたジョルディ・アルバ(バルサ)にラストパス。そのシュートが同点ゴールとなり、クラブでの控え選手を信用したルイス・エンリケ監督の面目も立ったかと思われたんですが、いえいえ、とんでもない。いやあ、今回はサッカー協会施設での練習で秘密兵器がお目見え。選手たちがインナービブスの背中に入れた機器のスピーカーから、グラウンドを見下ろす物見台から指揮するルイス・エンリケ監督の声を聞くという、画期的な手法を導入したスペインだったんですけどね。

どうやらセットプレーでは実施していなかったか、同点にしてから、たったの3分、スイスが蹴ったCKをまたしてもアカンジがヘッド。今度は直接、ゴールには向かわなかったものの、エンボロ(モナコ)にシュートされ、再び1点リードされてしまったとなれば、これは大問題ですよ。2カ月先にはW杯も控えていますし、「No somos el equipo más alto del mundo/ノー・ソモス・エル・エキポ・マス・アルト・デル・ムンド(ウチは世界一、背の高いチームではない)けど、だからって、もっと上手く守れない訳じゃない」とアスピリクエタも言っていたように守備力向上はマストかと。

そこで何とか点を取るべく、18分にはルイス・エンリケ監督が前線を総取っ替え。ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)に加え、初招集のボルハ・マジョラル(ベティス)、ニコ・ウィリアムス(アスレティック)がデビューとなったんですが、ちなみに20才のニコの兄、28才のイニャキも前日、ル・アーブル(フランス)でのブラジル戦でガーナ代表デビュー。あちらも3-0で負けていたんですが、このままいくと、W杯での兄弟対決が見られたりする?ただ、ニコの方はジェラール・モレノ(ビジャレアル)、オジャルサバル(レアル・ソシエダ)らのケガが治り、アンス・ファティ(バルサ)などの調子も上がってきたら、カタールでの大会に呼ばれない可能性もあるんですが、まあ今は、それは置いておいて。

更には24分にもペドリをマルコス・ジョレンテ(アトレティコ)に、最後は41分、アスピリクエタをカルロス・ソレル(PSG)に代え、またジョレンテが右SBもできるマルチぶりを発揮することになったんですが…ダメでした。そのままスイスは1-2で逃げ切り、スペインの地で10試合目にして初白星となる、「W杯に向けて士気を高める歴史的な勝利」(ヤキン監督)を挙げられてしまうことに。いやあ、何せ同時刻開催だったチェコvsポルトガル戦ではアウェイチームがダルロット(マンチェスター・ユナイテッド)の2発とブルーノ・フェルナンデス(同)、ジオゴ・ジョタ(リバプール)のゴールで0-4と大勝。

おかげでスイスも最下位を脱出し、ネーションズリーグ・リーグAからBへの降格を避けるには、火曜の最終節でチェコに負けさえしなければいいことになりましたしね。W杯に出られないイタリアに負けて、早々とネーションリーグ・リーグB行きが決まったイングランドのような思いはしないで済みそうですが、逆に追い込まれてしまったのはスペイン。というのもポルトガルに勝ち点差2のビハインドとなり、火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からのブラガでの試合に、「Tenemos que ir a Portugal a ganar/テネモス・ケ・イル・ア・ポルトガル・ア・ガナール(勝つためにポルトガルに行かないといけない)」(パウ・トーレス/ビジャレアル)ことになってしまったから。

え、そのチェコ戦で敵GKのパンチが顔に当たり、鼻を痛めたクリスチアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)は出られないかもしれないんだろうって?そうなんですが、その試合も彼は最後までプレーしていましたし、2019年、最初のファイナルフォーで優勝したネーションズリーグとなれば、当人も愛着があるでしょうからね。多分、出場するんじゃないかと思いますが、何にしてもスペインのゴール不足体質を早急に治さないことにはねえ。

おそらく今度こそ、「Morata no ha jugado porque quería ver a los otros/モラタ・ノー・ア・フガードー・ポルケ・ケリア・ベル・ア・ロス・オトロス(他の選手を見たかったから、モラタはプレーしなかった)」と、スイス戦後にルイス・エンリケ監督が言っていた彼が先発しそうな気がしますが、さて。土曜の深夜にマドリッドに戻ったチームは日曜にラス・ロサスでリハビリセッションをした後、もう月曜には移動。あまりに存在感が薄くて、誰もマドリーダービー後に話題にすることのなかったせいもありますが、実はその試合でケガをして、チェコ戦を休んだジョアン・フェリックスも回復するようなので、ポルトガルvsスペイン決戦では、アトレティコのFW同士がしのぎを削ることになるかもしれません。

そしてその間、マドリッドのクラブたちはどうしていたのかというと、2部のレガネスこそ、土曜にウエスカ戦をプレーして、柴崎岳選手を始め、代表に招集された3人の主力の不在も影響したか、1-0で負けていたんですけどね。1部チームはこの週末、ほとんどが練習はお休み。というか、兄貴分2チームは各国代表に多くの選手が参加しているため、金曜まで少人数のセッションを続けていたんですが、3人ぐらいしかいない弟分のヘタフェが先週は月水木の3日間しか、練習していないのはちょっと解せないかと。丁度、前節、降格圏脱出に成功したキケ・サンチェス・フローレス監督のチームにはここで手を緩めず、土曜のバジャドリー戦を目指して、ハードトレーニングに励んでもらいたいものですが、この週末にはトルコ代表のルクセンブルク戦でエネス・ウナルが背中を痛め、早退してきたという心配なニュースも。

その一方でラージョは木曜に昨季RFEF1部に降格したフエンラブラダとエスタディオ・フェルナンド・トーレスで親善試合をしていたんですが、ファルカオ(コロンビア)やカメージョ(スペインU21)ら、出向組がいたせいでしょうかね。控え選手中心でプレーして、1-0と負けてしまったのはともかく、ファンが期待していたRdT(ラウール・デ・トマス)のデビューもならず。どうやら、エスパニョールから移籍してくる前から患っていた太もものケガがまだ治っていないようで、イラオラ監督が「Está lejillos de poder estar todavía al ritmo de sus compañeros/エスタ・レヒージョス・デ・ポデール・エスタル・トダビア・アル・リトモ・デ・スス・コンパニェロス(チームメートのリズムに合わせるにはまだ程遠い)」と説明していましたっけ。

何にしろ、夏の市場が閉じた後の移籍だったため、来年1月まで選手登録もできない彼ですしね。W杯開催中のparon(パロン/リーガの休止期間)には代表選手の少ないクラブ同士で親善試合をする計画もあるようなので、それまでにしっかり調子を整えてくれればいいかと。ラージョは次のリーガ戦が週明け月曜のエルチェ戦となるため、代表のお勤めから帰って来る選手たちにも準備の時間が十分あるのは有難いところです。

そして朗報があったのはアトレティコで、いえ、シビタス・メトロポリターノでのダービーで起きたゴタゴタ、ビニシウスへの人種差別的なカンティコやピッチへの物の投げ込みなど、違反行為をした輩を見つけるラ・リーガやクラブの調査はまだ続行中なんですけどね。先週の練習ではサビッチがようやくマハダオンダ(マドリッド近郊)のグラウンドに復帰。ヒメネスとレマルはまだなんですが、土曜のセビージャ戦まではミッドウィーク丸々あるため、まだ希望を失くすには早い?どうやら、この夏、ドルトムントから移籍して以来、ずっとCBをやっているビッツェルが参加中のベルギー代表で、「中盤でプレーする方が好き」と本音を漏らしていたようですし、レアル・マドリー戦で退場したエルモーソが出場停止となる次節はともかく、シメオネ監督も早く本職のボランチに彼を戻してあげられるといいですよね。

そうそう、そのベルギー代表は日曜のネーションズリーグ最終節オランダ戦に1-0で負け、2大会連続となるファイナルフォー出場権は獲れなかったんですが、おかげでビッツェル、カラスコ、そしてお隣さんのクルトワ、アザールも週明けには所属クラブに戻れることに。同様にデンマークに2-0と負けながら、ダビド・アラバとモドリッチのキャプテン対決となったオーストリアがクロアチアに1-3で負けたため、Bリーグ降格を免れたフランスからもグリーズマン、そしてカマビンガ、メンディも解放されるんですが、良かったですよね。ベンゼマがリハビリを完璧に終わらせるため、フランス代表に行かない選択をした折に最悪の結果にならなくて。

その彼とルーカス・バスケスがまだグラウンドに姿を現さないバルデベバス(バラハス空港の近く)でマドリーは先週、RMカスティージャ(RFEF1部)と合同でセッションをしていたんですが、その一方でサンティアゴ・ベルナベウではピッチの芝の貼り替えが木曜にスタート。4節にベティスを迎える前にスタジアム内を試合に使えるように用意した時に植えた芝が暑さのせいで、あっという間に劣化してしまったためですが、何せ、この先、11月9日にリーガが止まるまで、CLもあるマドリーは計12試合、ホームゲームも7試合ありますからね。

その後はまた、全面改装工事に戻るんですが、開幕から8試合全勝という好調をこの先も維持するには、ピッチをいい状態にしておくにこしたことはありませんって。ちなみにマドリッドではこの日曜から、いきなり気温が20℃以下に急降下。夜は10℃近くにまでなるため、私も長袖や靴下を探してバタバタしていたんですが…きっとこれなら、芝もあまりダメージを受けないんじゃないでしょうか。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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