誰かさんへの期待は簡単に裏切られる…/原ゆみこのマドリッド

2022.08.24 20:35 Wed
「まだ心配するには及ばないと思うけど」そんな風に私が不安を振り払っていたのは火曜日、リーガが2節終わったところで仲良く揃って、勝ち点0のマドリッド勢がいることに気がついた時のことでした。いやあ、ヘタフェも2部の弟分レガネスも昨季はシーズンスタートから不調が続き、ヘタフェは8節になって、ようやく勝ち点1獲得となったミチェル監督をキケ・サンチェス・フローレス監督に交代。レガネスも13節にはアシエル・ガリターノ監督からナフティ監督に代わり、ゆっくりながら軌道修正して、最後は残留を達成することができたんですけどね(それぞれ15位と12位)。

どちらも同じ轍は踏まないと誓っていたはずですが、ナフティ監督がレバンテ(今季から2部)に行ってしまい、ビジャレアルのウナイ・エメリ監督のアシスタントを務めていたイディアケス監督を招聘したレガネスはアラベスとの開幕戦に続き、柴崎岳選手がいなかった日曜にはオビエドにも1-0で負け、更にアビレスがピッチに入ってすぐ退場になるという不運も。2部には連敗しているチームが4つもあるとはいえ、次もアウェイのルーゴ戦の彼らが今季初勝ち点を取れるかどうか、微妙なところなんですよね。
ヘタフェの方もまあ、天敵の兄貴分、アトレティコに初戦で3-0とやられてしまったのは仕方ないところもあるんですが、連続しての月曜試合では前半、アンヘレリが一発レッドで退場。そこから昇格組のジローナに3点リードを許し、終盤にエネス・ウナルが名誉の1点を返すだけに留まったとなれば、カディスと一緒に2連敗スタートで、早々と最下位に落ちてしまったのも仕方ないんですが、え?ようやくプレシーズンから頭痛の種だったゴール日照りだけは終わらせたんだから、次節は守備を頑張って、1-0で勝てばいいんじゃないかって?

うーん、それができればいいんですが、この日曜にコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎える相手は2連勝中のビジャレアルですからね。まあ、何が大変なのかは身近な誰かさんに訊いてみればわかりますが、とりあえず、マドリッドの兄貴分たちの試合がどうだったか、お伝えしていかないと。ちなみに金曜には一足早く、もう1つの弟分、ラージョが2週連続のバルセロナ遠征でエスパニョールを0-2と見事に下しているんですが、イラオラ監督のチームがカンプ・ノウでのスコアレスドローに加えて勝ち点4といい感じなのはともかく、翌日から始まった今季のabono(アボノ/年間指定席)のカード引き渡しが大混乱。

応対窓口が2つしかないせいで、連日、エスタディオ・バジェカスに長い行列ができ、今週末土曜のマジョルカ戦までに捌けるかどうかというのが目下の課題なんですが、マドリッド勢の2試合目、さすが昨季の2冠王者。主力選手の電撃移籍など、まったく影響しないところを見せてくれたのがレアル・マドリーだったんですよ。そう、土曜にバライドスでセルタと対戦した彼らは、カセミロがマンチェスター・ユナイテッドに河岸を変えることが前日に正式決定。しかも折り悪く、クロースも風邪により遠征に帯同できずと、アンチェロッティ監督のチームの中盤に世間も注目してのキックオフとなったんですが…。
いやあ、全然大丈夫でしたね。この日はモドリッチが辛勝した初戦、アルメリアとの試合で批判された若いチュアメニとカマビンガを率いることになったんですが、早くも開始10分にはCKから、チュアメニのシュートをクリアしたボールがタピアの腕に当たり、主審がVAR(ビデオ審判)のモニターを見てペナルティを宣告。ベンゼマがPKをあっさり決めて、先制点を奪ったマドリーだったんですが、逆に14分にはパシエンシアと空中戦になったミリトンの腕に相手のヘッドしたボールが当たり、こちらもペナルティに。セルタも定番、イアゴ・アスパスがPKを決め、すぐ同点に追いついたんですが、42分、36才のモドリッチが後輩たちに手本を見せてくれたんです!

というのも、エリア前を左から右へ角度を探しながら動いた彼が撃ったシュートが見事なgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)となったから。後で「Su gol ha cambiado el partido/ス・ゴル・ア・カンビアドー・エル・パルティードー(あのゴールが試合を変えた)。それまでは拮抗していて、ウチは苦労していたからね」とアンチェロッティ監督も認めていたんですが、まさに「Es inmortal/エス・インモルタル(彼は不死身だ)」(アンチェロッティ監督)とは至言だったかと。

そして後半も11分にはモドリッチが自陣から出したスルーパスを追ったビニシウスが敵エリア内まで到達し、GKマルチェシンをかわしてチームの3点目を挙げると、21分にも再びマドリーのカウンターが炸裂。今度は左側から、ビニシウスがラストパスを送り、いえ、標的だったベンゼマは運悪く、転んでしまったんですけどね。その脇から、脱兎のようにバルベルデが駆けつけ、「Lo he buscado muchísimoロ・エ・ブスカードー・ムチシモ(ずっとゴールを探していたんだ)」という彼のシュートがとうとう決まったんですから、メデタイじゃないですか。

だってえ、今季、最初の公式戦だったUEFAスーパーカップやリーガ開幕戦でもアンチェロッティ監督がお気に入りの4-3-3を4-4-2に変更するまでして、先発に抜擢。「Valverde no es un extremo y tiene otras condiciones/バルベルデ・ノー・エス・ウン・エクストレーモ・イ・ティエネ・オトラス・コンディシオネス(バルベルデはウィングではないが、他の特性を持っている)」(アンチェロッティ監督)と言っていた当人はもう何度もシュートを撃っていて、チームの誰より多いんじゃないかと思った程でしたが、残念ながら、これまで得点を挙げることはできず。

バルベルデも「時にゴールを求めれば求めるほど悪くなって、cada pelota que te cae la quieres rematar como sea/カーダ・ペロータ・ケ・テ・カエ・ラ・キエレス・レマタル・コモ・セア(自分のところに来る全てのボールをどんな形でもシュートしたくなるんだ)」と言っていたように、私もそのうち、何でもかんでも撃てばいいってもんじゃないという注意が、スタッフやチームメートから入るんじゃないかと心配していたぐらいでしたからね。それでもゴールになれば丸く収まるのがサッカーですし、おかげでセルタが「Tras el 1-4, no veía la manera de cambiar el resultado/トラス・エル・ウノ・クアトロ、ノー・ベイア・ラ・マネラ・デ・カンビアール・エル・レスルタードー(1-4になった後は結果を変える方法が見つからなかった)」(コウデ監督)となってくれたとなれば、もう勝負は決まりですって。

え、この日はチュアメニもアンチェロッティ監督から、「Hoy ha jugado bien, ha hecho lo que muestra en los entrenamientos/オイ・ア・フガードー・ビエン、ア・ヘッチョー・ロ・ケ・ムエストラ・エン・ロス・エントレナミエントス(今日はいいプレーをした。練習で見せていることをやれていた)」と合格点をもらい、ひとまず中盤の危機は回避したようなマドリーだったけど、元々、セルタは8年半も負けていない相手。それを考えれば、もっとチャンスを活用すべき選手もいたんだろうって?そうですね、終盤41分にベンゼマは自分が受けたペナルティだったにも関わらず、この試合2本目のPKキッカーを途中出場のアザールにお任せ。復活のシーズンにすることを誓っているチームのフランス語会話仲間に華を持たせてあげようとしたんですが、マルチェシンに弾かれてしまってはねえ。

先発が予想されていたセバージョスもここ2試合同様、終盤に入っただけでしたし、ようやく今季デビューとなったアセンシオも10分しかプレー時間がなかったというのは先行きの厳しさを伺わされますが、さあて。この勝利で開幕2連勝としたマドリーは気分良く帰京すると、週明けの月曜にはまだ、サンティアゴ・ベルナベウが絶賛改装工事中で9月3日の4節ベティス戦まで使えないため、バルデベバス(バラハス空港の近く)の練習施設でカセミロ送別のイベントをバスケットボールチームの練習用体育館で実施。サッカーチームのプレスルームがあるのとは離れた建物だからか、会見に駆けつけた記者たちは涙混じりにお別れの挨拶をする当人を部屋に置かれた複数の画面で見るしかできなかったんですけどね。

これではやっぱり家でレアル・マドリーTV(スペインではネットだけでなく、オープンチャンネルでTVでも映る)の生中継を見ているのと同じかもと、久々にバルデベバスに行ってみた私もちょっとガッカリだったんですが、記念品の授与や在籍中に獲得した18個のトロフィーとの記念撮影を終え、プレスルームに出て来た時にはもうカセミロも完全に笑顔。「Si fuera por dinero me hubiera ido hace cuatro años/シー・フエラ・ポル・ディーネロ・メ・ウビエラ・イドー・アセ・クアトロ・アーニョス(お金のためだったら、4年前に去っていただろう)」という彼の今回のマンU移籍の動機は昨季のCL優勝の後、「tenía la sensación de que estaba terminando mi ciclo/テニア・ラ・センサシオン・デ・ケ・エスタバ・テルミナンドー・ミ・シクロ(自分のサイクルが終わりつつある感覚があった)」からなのだとか。

まあ、2012年の20才の時にマドリーに入り、ポルトへのレンタル移籍なんかもあったものの、10年も経てば、新天地で新たな挑戦をしたくなるのもわかりますけどね。幸いセルタ戦ではボランチの後継者に事欠かないことがわかったため、施設の出入り口でカセミロの車を待っていたファンたちからもひどい言葉はなかったようですが、そのまま彼は飛行機に乗って、マンチェスターに直行。夜にはオールド・トラフォードでリバプールに2-1と勝ち、プレミアリーグ今季初勝利をマンUが挙げるのを観戦していたんですが…あちらはクリスチアーノ・ロナウドが残留するのか未だ定かではありませんし、今季の彼らはELに出場するため、近々、CL優勝5回の記録を当人が伸ばせるかどうかはちょっと不明です。

え、前日の日曜にはアトレティコもホーム開幕戦を迎えていなかったかって?いやあ、また猛暑がぶり返したマドリッドで午後7時30分はかなりヤバい暑さだったんですが、プレシーズンから快進撃を続けるチームを応援しようと、ファンたちは張り切ってシビタス・メトロポリターノに来場。それが蓋を開けてみれば、お寒い内容の試合で、いえ、これまで17回も対戦して、エメリ監督がシメオネ監督に勝ったことがないせいか、序盤からノロノロ、時間稼ぎモードだったビジャレアルのせいでもあるんですけどね。ユベントスとの親善試合でハットトリック、開幕ヘタフェ戦で2ゴールを挙げたモラタも開始早々、シュートしていたんですが、GKルリに止められてしまった上、オフサイドというのが凶兆だったか、更に3本撃っても前半はまったくゴールが入らず。

そこで後半17分にはまずはマルコス・ジョレンテとレマルをグリーズマンとデ・パウルに、25分にはモラタとジョアン・フェリックスの先発FWコンビをコレアとクーニャにと、シメオネ監督も今季自慢の厚い選手層からフレッシュな人材を投入したんですが、最悪ですよね。「一見しただけで明らかな試合だった。Aburrido, táctico y se veía que el que se equivocaba perdía/アブリードー、タクティコ・イ・セ・ベイア・ケ・エル・ケ・セ・エキボカバ・ペルディア(退屈で戦術的で、ミスを犯した方が負けるという)」とは試合後のシメオネ監督の弁ですが、まさに28分、新加入のナウエルがやらかしてしまったんです!

ええ、ビジャレアルのCKをエリアからクリアした後、戻って来たボールをまた蹴り返そうとして失敗、それがコケの横をすり抜けて、エリア内にいたジェレミ・ピノに渡ってしまったから、さあ大変!そのシュートが決まり、ビジャレアルが先制したんですが、更に間の悪いことにその直後にはサビッチが左太ももを痛めて、ヒメネスに代わることに。残り時間、必死で同点を目指したアトレティコでしたが、クーニャのヘッドはバーに拒まれ、続いてヘッドしたカラスコも奇跡的にルリに掻き出されて、得点にはなりません。そうこうするうちに45分が過ぎ、5分という長いロスタイムに入ってみれば、ナウエルがバエナの頭をはたいてレッドカードをゲット。

最後は全員攻撃中のアトレティコに対し、3度目の正直となったビジャレアルのカウンターアタックが成功し、ジェラール・モレノに追加点を奪われて、0-2で終わったんですが、まったく。その2点目のゴールの時、当人のお祝いが挑発的と思われて、騒ぎが起こったのはともかく、ひどいのは試合後の方で、ピッチで練習している控え選手たちに罵声を浴びせるファンがいたこと。いやまあ、プレシーズンから期待させて、待望のホームデビュー戦でこの有り様というのはいかにもアトレティコらしいと私など、もう達観しているんですけどね。

だからって、それにエルモーソが言い返し、警備員やスタッフらが駆けつけて、スタンドから彼を引きはがす騒ぎになっているのもどうかと。その間、「En ningún momento hemos estado a gusto」/エン・ニングン・モメントー・エモス・エスタードー・ア・グストー(いい感じでいられた時間がまったくなかった)。試合中は何も起きなかったんだから、ミスのせいで罰を受けたよ」と、今季最初の言い訳会見する破目になったキャプテンのコケも気の毒でしたが、まあ、こんな日もありますって。実際、まだ2試合消化しただけですし、サビッチの全治1カ月のケガでビッツェルの本職ボランチ復帰が遠のき、ナウエルの出場停止でまた、ジョレンテが右SBに戻ってしまうかもしれませんが、来週月曜のバレンシア戦で彼らが名誉挽回してくれるのを、ファンも今は信じるしかありませんよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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