まさかこんなに勝てないとは…/原ゆみこのマドリッド

2022.06.09 21:10 Thu
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「今年は昇格プレーオフがないから余裕なのね」そんな風に私が頷いていたのは火曜日、マドリッド勢弟分のラージョがプレシーズン開始を7月8日に設定したという記事を読んだ時のことでした。いやあ、ヨーロッパ各地ではネーションズリーグの代表戦が行われる中、スペインのリーガ2部ではいまだに来季1部に上がる3チーム目を決めるためのプレーオフが続行中。昨季など、ラージョとレガネスが準決勝で骨肉の争いを繰り広げたりしたんですけが、残念なことに今年はマドリッド勢2部のアルコルコンとフエンラブラダが相次いで降格の憂き目に。

柴崎岳選手のいるレガネスだけは昨年中にアシエル・ガリターノ監督をナフティ監督に代えたのが功を奏して、12位で残留することができたんですが、プレーオフ圏の6位には勝ち点差14と遥か及ばず。先日はそのナフティ監督が続投せず、昨季はビジャレアルでウナイ・エメリ監督の下でアシスタントコーチを務めていたイディアケス監督が就任することがひっそり発表されていたりするんですが、大体がして今、レガネスはアメリカ資本の企業に売却交渉の真っ最中ですからね。
本決まりすると、来季のチーム編成もどうなるのか、ちょっとわからなくなるんですが、その脇で粛々と続いていたプレーオフ準決勝では、ラス・パルマスとのカナリア諸島勢対決で2連勝したテネリフェ、1stレグでエイバルに0-1と負けたのを2ndレグで0-2と引っくり返したジローナが決勝に進出。とりわけ後者はここ2年連続、それぞれ決勝でエルチェ、ラージョに負け、あと一歩のところで涙を飲んでいるだけに、土曜の1stレグ、その1週間後となる19日の2ndレグに向けて、ラージョのレジェンドであるミチェル監督も相当、気合が入っているかと。

実際、そこからバケーションに入って、8月12日の新シーズン開幕に準備を間に合わせるとなると、本当に休んでいる時間がないんですが、それ以外のチームは各国代表に駆り出されている選手たちですら、今年はW杯が11月になったため、今週末頃までにはお勤めも終了。プレシーズン開始まで1カ月近く休めるからでしょうかね。6人がレンタル移籍を終え、8人が他チームへのレンタルから帰って来る予定だけはわかるものの、今のところ、まだラージョには補強選手が1人も到着せずと、結構、フロントも呑気に構えているようですが、まあヘタフェ同様、彼らは大手クラブの構想外になった選手など、掘り出しモノを待っているところがありますからね。

その一方で兄貴分たちもレアル・マドリーこそ、自由契約でCBリュディガー(チェルシーから移籍)が入団することが発表されましたが、ベンゼマとエムバペ(PSG)がフランス代表で勧誘合戦を繰り広げているというチュアメニ(モナコ)は移籍秒読みと言われながら、まだ正式発表はなし。アトレティコなどに至っては、火曜にこのところ、ローリングストーンズやアレハンドロ・サンツなどが立て続けに公演して、完全にコンサート会場と化しているワンダ・メトロポリターノのオフィスやミュージアムでルイス・スアレスのお別れセレモニーが内輪で行われたぐらいなんですよ。
あとはカルロス・ソレル(バレンシア)、RdT(ラウール・デ・トマス/エスパニョール)、サラビア(昨季はPSGからレンタルでスポルティングCPに移籍)と、スペイン代表にいる選手たちが番記者の思いつきのように日替わりで補強候補に挙がってくるようではまったく、信頼が置けず。確実なのは1年間のロンドン生活を終え、サウール(チェルシーにレンタル移籍)が戻って来る程度で、同様に2年ぶりにユベントスから帰還するモラタが残るのかどうかを含め、新シーズンの陣容はまだわからないんですが、そんな中、ウルグアイ代表のアメリカ戦でまた、ヒメネスがケガをしたなんて聞くと、とにかく代表選手たちにはプレシーズン開始に間に合う程度の不具合しか起きてほしくないと願うばかりかと。

まあ、そんなことはともかく、今はスペイン代表のネーションズリーグ2節がどうだったのか、お伝えしていかないと。実を言うと、日曜のチェコ戦は丁度、キックオフ前に全仏テニスのローランギャロス決勝でラファ・ナダルがプレー。足の痛みに苦しみながらもカスパー・ルードを破り、先日は大会の合間を縫って、スタッド・ド・フランスまでCL決勝リバプール戦の応援に駆けつける程、大好きなマドリーと並ぶ、Decimocuarto/デシモクアルト(14回目のローランギャロス優勝のこと)を達成していたため、よっぽどのことがない限り、翌日のスポーツ紙の表紙は彼が飾ることはわかっていたんですけどね。

それがまさか、ナダルのおかげで世間の目が逸れた幸運を喜ぶような試合になってしまうとは一体、誰に予想できた?ええ、1-1で引き分けた初戦のポルトガル戦から8人もスタメンを変えて、プラハのシノボ・スタジアム(スラビア・プラハのホーム)でのチェコ戦に挑んだルイス・エンリケ監督のチームは前半4分、早くも敵のカウンターを喰らい、センター右からのスルーパスに抜け出したクフタ(ロコモティブ・モスクワ)がエリア内までドリブル。最後はペセク(スパルタ・プラハ)に送って、そのシュートがあっさり決まってしまったから、ビックリしたの何のって。

その後は延々とボールを独占し、自陣にチェコを閉じ込めていたスペインでしたが、もうお約束ですよね。彼らが5人DF体制に手こずるのは。ルイス・エンリケ監督は「No recuerdo un equipo que nos haya defendido de una manera tan agresiva/ノー・レクエルドー・ウン・エキポ・ケ・ノス・アヤ・デフェンディードー・デ・ウナ・マネラ・タン・アグレシーバ(あれ程、アグレシッブな形で守備をするチームは思い出せない)」と言っていましたが、私だって、敵のブロックを取り囲み、彼らが外側でパスを回しているばかりの風景を何度見せられたか、思い出せませんってば。

ただ、この日のチェコには早い時間から、負傷者が出るという逆境があって、24分には左のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)のツェルニー(ヤブロネツ)がヤンクト(ヘタフェ)に交代。おまけに昨年末、肩の脱臼で長期離脱した後、戻って来たシーズン終盤もあまりキケ・サンチェス・フローレス監督には使われなかったサイドアタッカーも41分にはサラビアと激突して、プレー続行が不可能に。うーん、そこでシルハビ監督がハーフタイムまで数的劣勢を耐えることにしたのも裏目に出てしまったんでしょうかね。

前半ロスタイム3分にはロドリ(マンチェスター・シティ)がエリア前でキープしたボールをもらったガビ(バルサ)が撃ち込み、その日はベンチ外となっていたクラブの先輩、アンス・ファティの17才311日のスペイン代表最年少ゴール記録を更新する、17才304日の初ゴールで同点にしてくれるんですから、空恐ろしいっちゃありません。おかげで試合は1-1のイーブンで折り返すことになったんですが…。

後半頭からはサラビアに代えて、フェラン・トーレス(バルサ)が入ったスペインだったんですが、ほとんど展開は変わらず、8分にはまた、DF陣がクフタに裏を取られ、GKウナイ・シモン(アスレティック)と1対1でのシュートを撃たれる有り様。この時は幸い外れてくれたんですが、16分にはロドリ、RdT、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)から、一気にブスケツ(バルサ)、アセンシオ(マドリー)、モラタと投入しても、「Es difícil de atacar y no hemos estado inspirados/エス・デフィシル・デ・アタカル・イ・ノー・エモス・エスタードー・インスピラードス(攻撃するのが難しくて、ウチにはインスピレーションもなかった)」(ルイス・エンリケ監督)ではねえ。

折しも来年にはマドリーとの契約が切れるため、更新あるいは高値をつけてくれるクラブのオファーをゲットしたいアセンシオ渾身のシュートもゴールポストに嫌われてしまったのは残念でしたが、それより許せないのは22分。チェルニー(トゥエンテ)のスルーパスに抜け出したクフタが今度は自分でvaselina(バセリーナ/ループシュート)を放ち、ウナイ・シモンの頭を越したボールがチェコの2点目となった日には、え?先日のポルトガル戦でも終盤、オルタ(スポルティング・ブラガ)に同点ゴールを決められるなど、今回のスペイン守備陣はかなりザル度が高くないかって?

いやあ、初戦はアスピリクエタ(チェルシー)、パウ・トーレス(ビジャレアル)、ディエゴ・ジョレンテ(リーズ)、ジョルディ・アルバ(バルサ)で、この日はカルバハル(マドリー)、イニゴ・マルティネス(アスレティック)、エリック・ガルシア(バルサ)、ミケル・アロンソ(チェルシー)とメンツはまったく違うんですけどね。どうやらチーム全体の守備システムのずれがあるようで、ルイス・エンリケ監督も「Tememos cosas que mejorar, yo el primero/テネモス・コーサス・ケ・メホラル、ジョー・エル・プリメーロ(私を筆頭に、改善しないといけないことがある)」と反省していましたが、こんな状態が続けば、いよいよ9月の代表戦ではセルヒオ・ラモス(PSG)やピケ(バルサ)の復帰もありうる?

何せ、最近のスペインは有り余るゴール力を誇っている訳でもありませんからね。フェランのヘッドが惜しくもポストをかすめ、後半26分にはコケ(アトレティコ)がクラブの同僚のマルコス・ジョレンテに代わり、5人の交代枠を使い切っても一向に得点が入らなかったため、私も敗戦を覚悟しかけたんですが…45分、短いCKから、アセンシオが上げたクロスをイニゴ・マルティネスがヘッド。これがボールバーに当たり、落ちたのがゴール内だったとVAR(ビデオ審判)が認めてくれたんですから、有難いじゃないですか。

とはいえ、奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)体質なのはチームにアセンシオとカルバハルしかいませんでしたからね。マドリーのCL決勝進出を牽引したベンゼマ、ビニシウス、ロドリゴ、モドリッチらは他国の代表でお勤め中となれば、そのまま、2-2の引分けで終わってしまったのも仕方ないんですが、この2試合でスペインはたったの勝ち点2を貯めただけ。同時刻、スイス戦をプレーしていたポルトガルが、今度は先発したクリスチアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)の2発を始め、カルバーリョ(ベティス)、カンセロ(マンチェスター・シティ)のゴールで4-0と大勝し、一気に首位にまで昇ったのを見ると、ちょっと焦りを感じてしますのは私だけではない?

結局、80%という高いボールポゼッションにも関わらず、スピーディなパス回しができずに敵陣を崩せなかったスペインはその日はプラハに連泊。翌日はチーム全員で恒例の外食ランチをした後、次の試合の地、スイスのジュネーブに向かったんですが、初戦でもチェコに2-1と負け、勝ち点0で最下位となったスイスも同じ、相手にボールを持たせて閉じこもる戦法を取るのは火を見るよりも明らかですからね。いくら1、2位との差が勝ち点2で、1勝すれば、かなりパノラマが変わるとはいえ、果たして、長いシーズンを終え、疲れている選手たちにどこまで期待できるのやら。

火曜にセルベッテの練習場で調整したチームはスタッド・ド・ジュネーブ(セルベッテのホーム)での前日セッションの後、木曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)から、3節をプレーしますが、今週になってもフランスとクロアチア、ドイツとイングランドが1-1で引分けるなど、このネーションズリーグはいわゆる強豪の代表が苦戦。それだけ実力が拮抗しているとも言えますが、やっぱり、W杯がまだ遠い先なのに、気楽だったはずの親善試合が公式戦に変わり、2週間で4試合もこなさないといけないのは皆、辛いのかもしれませんね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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