今になって専守防衛の意味がわかった…/原ゆみこのマドリッド

2022.04.29 21:30 Fri
©Atlético de Madrid
「シベレス広場に行くんだ」そんな風に私が驚いていたのは木曜日、この週末土曜のエスパニョール戦でレアル・マドリーのリーガ優勝が決まった際にはサンティアゴ・ベルナベウでトロフィー授与されて、そのまま、恒例のお祝いスポットにチーム全員で向かうと大手スポーツ紙で読んだ時のことでした。いやあ、確かに2年ぶりの王者復帰ですし、当時はジダン監督もコロナ規制により、無観客のエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)で胴上げされただけと、ファンと一緒のお祝いなど、望むべくもなかったんですけどね。

すでに屋外、屋内共にマスク着用義務がなくなった今となれば、それこそ大手を振って、シベレス広場に10万人でも20万人でもファンを集めることは可能なんですが、彼らの場合、来週水曜にはCL準決勝マンチェスター・シティ戦2ndレグが到来。先週土曜にコパ・デル・レイ優勝を果たしたベティスが今週もずっとお祝い行事を重ねているのとは違って、とりあえず、リーガは簡素に祝うだけとありましたが、ということは後日、サンティアゴ・ベルナベウのピッチに特設ステージを設けて、大々的な祝賀イベントを開催する?

それもシティ戦の結果次第で盛り上がり方がかなり違うような気がしますが、まずはイロイロ考えることが多かったCL準決勝1stレグがどうだったか、振り返っていくことにすると。これがまた、何とも皮肉なことに火曜はマドリッドがドシャ降りの雨の中、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に私が辿り着いてみると、マンチェスターはカラリと晴天。エティハッド・スタジアムのスタンド全面が白と水色の旗で彩られているのをキレいでいいなと思っているうちに試合が始まったんですが、え、これ、本当にマンチェスター・シティ?
だってえ、4月上旬にアトレティコが準決勝1stレグを戦った時とは全然、違うんですよ。鬼のような速攻で開始2分にはマフレズが挙げたクロスをデ・ブライネがヘッドで決めて、いきなり先制点を取っているかと思えば、11分にも今度はデ・ブライネのクロスをアラバがゴール前でクリアできず、ガブリエウ・ジェズスが2点目をゲット。実際、こんな早い時間から、2-0とリードされてしまうと、大抵のチームなら、シュンとしてしまうものですが、でもそこは逆境に強いマドリーです。

ええ、33分にはモドリッチが果敢に敵から奪ったボールをメンディが上げると、ベンゼマがvolea(ボレア・ボレーシュート)を決めて、点差を縮めてくれます。オープンな展開はこの後も続き、うーん、シティは負傷明け初戦だった右SBストーンズが36分に本職でないフェナンジーニョに交代、マドリーも超特急で間に合わせたアラバがハーフタイムでナチョに代わらざるを得なかったのも響いたんですかね。後半早々にもマフレズのシュートがゴールポストを直撃、続いたフォーデンの一撃はカルバハルに当たって、ピンチを逃れるなんてこともあったんですが、再度、フォーデンが放った8分のヘッドまでは防ぐことはできず。
実はこの時、同国人の先輩フェルナンジーニョのマークを怠り、クロスを上げさせたビニシウスがアンチェロッティ監督に怒られていたんですが、逆にそれで当人も発奮したんでしょうか。その2分後にはメンディの出したボールを追って、エリア内にドリブルして入った彼がゴールを決め、これでまた、点差は1に戻ることに。ただ、ツイていなかったのは後半29分、クロースがエリア前でジンチェンコを倒し、審判がファールの笛を吹くのを皆が待っていたところ、空気を読まない選手が約1名。ええ、ボールを拾ったベルナルド・シウバが撃ったシュートがゴールに入り、ファールはなかったことにされているんですから、たまったもんじゃありません。

さすが4-2ともなると、かなり決勝進出が難しくなった気がしたんですが、大丈夫。38分にはクロースのFKをクリアしようとしたラポールの腕にボールが当たり、マドリーはハンドによるPKを獲得。折りしもリーガ前節のオサスナ戦では2本連続、PKを自分の左側に蹴って、GKセルヒオ・エレーラに弾かれていたベンゼマですが、この日は中央を狙って見事に成功です。ええ、「Ha entrenado un poco esta semana, pero no sabía dónde lo tiraría/ア・エントレナードー・ウン・ポコ・エンタ・セマーナ、ペロ・ノー・サビア・ドンデ・ロ・ティラリア(今週は少し練習していたが、どこに蹴るかは知らなかった)」というアンチェロッティ監督もビックリのパネンカ風PKで3点目を取ってくれたとなれば、もう根性のremontada(レモンターダ/逆転突破)のお膳立ては揃った?

何せ、今季のCLでは16強対決でPSGに1-0と負けた後、ベルナベウでも1点先行されながら、ベンゼマのハットトリックで引っくり返し、準々決勝チェルシー戦に至っては、1stレグに再びベンゼマの3得点で1-3と勝利しながら、2ndレグでは0-3と逆転される始末。とことん追い詰められてから、延長戦でドラマチックに2-3として勝ち抜けるなど、伝統のお家芸をあますとこなく披露している彼らですからね。

となれば、4-3の負けを逆転するなどお茶の子さいさい?ピッチインタビューで、「ベルナベウではnecesitamos a la afición como nunca y vamos a hacer una cosa mágica que es ganar/ネセシタモス・ア・ラ・アフィシオン・コモ・ヌンカ・イ・バモス・ア・アセール・ウナ・コーサ・マヒカ・ケ・エス・ガナール(今までにない程にファンの力が必要だ。それでウチは勝つというマジカルなことをするだろう)」とベンゼマが言っているのを聞いた時にはまた、この人、ハットトリックするつもりじゃと、私もビビッたもんでしたが…。

え、このガードなしの撃ち合いを見て、シティ戦1stレグでシメオネ監督が臆面もなく、5-5-0で守り倒した理由がようやくわかったんじゃないかって?そうですね、アトレティコにはベンゼマはいませんし、デ・ブライネに決められた1点ですら、2ndレグで返せなかったことを考えると、4点も取られた日には目も当てられないところでしたが、実は水曜にマンチェスターから程近い、アンフィールドでリバプールと準決勝1stレグを戦ったビジャレアルも似たような作戦を展開。

「Hoy era resistir defensivamente todo lo que podíamos para tener opciones en el segundo partido/オイ・エラ・レシスティル・デフェンシバメンテ・トードー・ロ・ケ・ポディアモス・パラ・テネール・オプシオネス・エン・エル・セグンド・パルティードー(今日は2ndレグでオプションを持つため、できる限りの守備をして耐える日だった)」とエメリ監督も言っていた通り、一方的に攻めてくる相手に対して、彼らのシュートはたったの1本。エティハッドでは1回も撃たなかったアトレティコより、ちょっとマシといった程度ですが、もしや後半にはエストゥピナンの足でヘンダーソンのクロスの軌道が変わり、GKルリが弾ききれずに先制点、その2分後にはサラーのスルーパスから、マネに2点目を決められて、2-0で負けてしまったのは5-5-0の陣形を取らなかったせい?

いえ、それはもちろん冗談ですが、彼らの場合はジェラール・モレノが先週ミッドウィークのヘタフェ戦で負傷。この試合には間に合わず、それこそ16強対決ユベントス戦、準々決勝バイエルン戦突破の原動力となったエースが来週火曜、ラ・セラミカでの2ndレグで復帰してくれることに全てを懸けるしかなかったんですが、いやあ。私が覚えている初戦ホームで2-0と勝利した後、アウェイで3-0と逆転されたケースは、クリスチアーノ・ロナウドにハットトリックを決められて、ユベントスの前に敗退したアトレティコしかありませんからね。

いくらジェラール・モレノが優秀なFWで、ラ・セラミカではアンフィールドの3000人から、応援してくれるファンが2万人に増えるとしても、ロナウドに匹敵する活躍ができるのか、ちょっと疑問ですが、対照的なのは逆転慣れしているマドリー。ええ、「Si en la vuelta defendemos mejor, ganamos/シー・エン・ラ・ブエルダ・デフェンデモス・メホール、ガナモス(2ndレグでもっとよく守れば勝てる)。今日のようでは敗退するだろう」とアンチェロッティ監督も言っていたように、決勝進出の鍵はゴールを奪うより、奪われないことの方にあるよう。

まあ、エティハッドではカセミロがいなかったというのもありますしね。グアルディオラ監督も「Si jugamos como en la segunda parte contra el Atlético no tendremos opciones/シー・フガモス・コモ・エン・ラ・セグンダ・パルテ・コントラ・エル・アトレティコ・ノー・テンドレモス・オプシオネス(アトレティコ戦後半のようにプレーすれば、ウチに勝ち抜けるオプションはないだろう)」と話していましたし、今回は最終奥義、時間稼ぎを使うことはないと思いますが、マドリーも2度あることは3度あると、過信しすぎないことが大事かと。

それもあってか、土曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)からのエスパニョール戦ではアンチェロッティ監督も大々的なローテーションをする予定なんですが、木曜のバルデベバス(バラハス空港の近く)でのセッションではチーム練習に半分くらい加わったカセミロはまだ、出場は控える様子。むしろ、心配なのは再度、右太ももを痛めたアラバで、こちらはシティ戦2ndレグも難しいと言われていますが,こんな時に限って、ナチョとミリトンが出場停止とは!よって、CBコンビはバジェホと誰か、カンテラーノ(RMカスティージャの選手)という組み合わせになりそうですが、すでに1部残留がほぼ決まっているエスパニョールなら、それでも引分けるぐらい、訳はない?

相手のゴール稼ぎ頭、RdT(ラウール・デ・トマス)も「Todo lo que no sea perder, es bueno/トードー・ロ・ケ・ノー・セア・ペルデル、エス・ブエノ(負ける以外は何でもいい)」と言っていましたしね。一応、中盤から上にはセバージョス、イスコ、ベイル、マリアーノといった人員もいるため、得点はできるかと思いますが、何より、ここでマドリーに優勝を決めてもらわないと、お隣さんが困っちゃうんですよ。というのも同日は午後9時(日本時間翌午前4時)から、サン・マメスでアスレティックと対戦するアトレティコなんですが、まだCL出場圏4位以上が確定しておらず。

大体がして、彼らはここ5試合、エスパニョール戦でカラスコが挙げた2ゴールしか、得点がないという日照り状態な上、相手もベティスがコパに優勝した後、リーガ7位に回る、ちょっと今はELなのか、コンフェレンスリーグ出場権なのか、定かではないんですが、ヨーロッパの大会に滑り込むチャンスを虎視眈々と狙っている8位ですからね。かなり厳しい戦いになるのは確実で、これでもし、マドリーがエスパニョールに負け、日曜にバルサがマジョルカ戦、次週土曜のベティス戦にも勝利して、優勝決定がマドリーダービーの日までもつれ込んだりすると、キックオフ前にpasillos de campeones/パシージョス・デ・カンペオネス(チャンピオンの花道)を作ってあげて、勝ち点3をお礼にもらうという、アトレティコの目論見が狂ってしまうかも。

それでも月曜には現在、アトレティコと勝ち点4差で5位につけるベティスをヘタフェがコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えるため、最悪、前節セルタ戦に勝利したおかげで、残留決定まであと一歩と迫った弟分の援護射撃を期待するということになりますが、さあて。一方、バルセロナでエスパニョール、バルサに2連勝して勝ち点40となり、ほぼ上がりとなったラージョは日曜にレアル・ソシエダ戦。今年になってまだ、チームと勝利のお祝いを一緒にしていないエスタディオ・バジェカスのファンのために頑張るのはもちろん、勝ち差6の6位の相手を兄貴分から、もう少し遠ざけてくれたらと願うのは自分勝手すぎますかね。

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