マドリーCLダービーはなくなった…/原ゆみこのマドリッド

2022.04.15 21:00 Fri
「何度もリベンジができていいわよね」そんな風に私が溜息をついていたのは木曜日、CL準々決勝も終わり、準決勝の試合日程を見ていた時のことでした。いやあ、先に結果を言ってしまうと、スペイン勢3チームで4強に残ったのは2つだけなんですけどね。面白い巡り合わせなのはレアル・マドリーで、準々決勝では昨季のCL準決勝で総合スコア3-1と負け、後に王者となるチェルシーを撃破。準決勝で当たるマンチェスター・シティとも2年前、コロナ禍による中断をはさんだ準々決勝を戦い、2試合とも1-2で負けて敗退しているんですが、今回の4月26日、5月4日の再戦では、グアルディオラ監督の2年連続CL決勝進出の野望を阻むことができるかもしれないから。

まあ、それも水曜にシティの前に涙を飲んだお隣さんの奮闘ぶりを見れば、かなり実現可能に思えたりするんですが、何せ、マドリーはここ12年でCL準決勝に10回も進出していますからね。うち準決勝を突破した4回は優勝しているってことは、このラウンドが事実上の決勝とも言えなくもないんですが、とりあえず、まずは火曜のチェルシー戦2ndレグ、こんなことがあっていいのかと、呆気に取られるばかりの彼らの試合ぶりを振り返ってみることにすると。
その日は折しもCL16強対決マンチェスター・ユナイテッド戦2ndレグでの勝利に味を占め、同じ街でのシティ戦1stレグでも瓜二つのスケジュールを組みながら、1-0で敗戦。打って変わって、今度はワンダ・メトロポリターノでの前日練習と記者会見をシメオネ監督が午前中に変更したため、私もそちらを見学に行った後、夜にサンティアゴ・ベルナベウに向かうことに。1stレグで1-3と余裕のあるスコアで先勝していながら、かなりの人数のマドリーファンたちがスタジアム入りするチームバスをお出迎えしていたのはちょっと、驚きだったかと。

私が着いた時にもウルトラ(過激なファンのグループ)の溜まる脇道では16強対決PSG戦2ndレグの時同様、bengala(ベンガラ/発煙筒)の煙が上がっていましたが、この日もまた、いつもと反対側の1階奥の席に座らされたのが運の尽き。楽しみにしていたモザイクと「No juguemos con el Rey/ノー・フゲモス・コン・エル・レイ(王と遊ぶな)」と書かれた垂れ幕も天井が邪魔して見ることができず、ロンドンから大挙してやって来たチェルシー応援団のいるfondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴーール裏)の4階席も当然、視界には入らなかったんですが、開始から、後半30分ぐらいまでは大いに盛り上がっていたものと推測できます。

だってえ、試合前のトウーヘル監督の「1stレグの結果を引っくり返すのはほとんどムリ」という言葉をまさか、素直に信じてしまったんでしょうか。「No teníamos el hambre de ir a marcar porque no lo necesitábamos/ノー・テネモス・エル・アンブレ・デ・イル・ア・マルカル・ポルケ・ノー・ロ・ネセシタバモス(ウチは得点しようという飢餓感が欠けていた。その必要がなかったからね)」とアンチェロッティ監督も後で言っていたマドリーは前半、エティハッド・スタジアムでのアトレティコのように専守防衛だったんですよ。
そこへ付け込んだのが、スタンフォード・ブリッジでの対戦から、アスピリクエタ、クリステンセン、ジョルジーニョ、プリシッチの4人をミケル・アロンソ、ロフタス=チーク、コバチッチ、ヴェルナーに代え、守備ラインも5人から4人にして、キックオフ早々から積極的に攻めてきたチェルシーで、何と15分にはもうエリア内でリバウンドしたボールをマウントがゴールに。それでもまだ1点差あったため、マドリーがノンビリ構えていたところ、後半7分にはCKから、リュディガーがヘッドで2点目をゲット。いくら、「Hemos sufrido en balón parado porque no teníamos a Militao/エモス・ペルディードー・バロン・パラードー・ポルケ・ノー・テニアモス・ア・ミリタオ(セットプレーに苦しんだのはミリトンがいなかったから)」(アンチェロッティ監督)という事情があったとはいえ、負傷明けのメンディのミスもかなり酷く、私もだんだん不安になってきたところ…。

更に17分にはミケル・アロンソが放ったシュートがカルバハルに1度は防がれたものの、2度目のシュートでゴールを割ったんですが、幸い、ここではVAR(ビデオ審判)が味方。跳ね返りのボールが手に当たっていたことが発覚し、事なきを得たんですが、このままではprorroga(プロロガ/延長戦)になってしまうという恐れが、とにかく延長戦に持ち込まないといけないという、切実な思いに変わったのは29分のことでした。ええ、今度はコバチッチが入れたスルーパスをヴェルナーがカセミロ、カルバハルをかわして決めたんですが、え、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)って、マドリーの伝統お家芸じゃなかった?

はい、その通りです。総合スコアでリードされたアンチェロッティ監督は即座にメンディ、カセミロをマルセロ、ロドリゴに交代。すでにクロースに代わり、チームのフィジカル増強のため、カマビンガもピッチに入っていたんですが、34分、GKクルトワがハヴァーツのヘッドをparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いだ後、試合をイーブンに戻すゴールを生み出したのはベテランと若手の共同作業でした。ええ、その日はあまりいけていないとオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の解説者などに言われていた36才、モドリッチがエリア内に送ったパスを21才のロドリゴが撃ち込んで、これが延長戦へのパスポートになってくれたから、どんなに場内が沸いたことか。

いえ、チェルシーにもヴェルナーから代わったプリシッチが後半週前に再逆転するチャンスがあったんですけどね。おまけにマドリーはナチョがこむら返りを起こし、ルーカス・バスケスが入ったため、カルバハルが急造CBを務めるという緊急事態になっていたんですが、「El ADN de este club es ir hasta el final/エル・アーデー・エネ・デ・エステ・クルブ・エス・イル・アスタ・エル・フィナル(このクラブのDNAは最後までやり通すこと)」(ナチョ)というか、要はやっぱり、彼らは逆境になると燃えるんですよ。延長戦前半6分にはとうとう主役が登場。ビニシウスがエリア内右奥から上げたクロスにベンゼマが頭で合わせ、勝ち抜けに繋がる2点目を入れているって、こんな劇的な展開があっていい?

トゥーヘル監督も最後の手段として、延長戦後半からジョルジーニョとサウールを投入したんですが、もう焼石に水でした。結局、試合はチェルシーが2-3で勝ったものの、「una derrota que sabe muy dulce/ウナ・デロータ・ケ・サベ・ムイ・ドゥルセ(とても甘い味のする敗北)」(モドリッチ)というマドリーが総合スコア5-4で準決勝に進出。いやもう、アンチェロッティ監督も「El 0-3 nos ha liberado y ha salido la magia de este estadio/エル・セロ・トレス・ノス・ア・リベラードー・イ・ア・サリードー・ラ・マヒア・デ・エステ・エスタディオ(0-3でウチは解放されて、このスタジアムのマジックが発動した)」を言っていたように、選手たちが本気になったのも、ベルナベウの応援が盛り上がったのも、崖っぷちに追い詰められてから。本来なら、0-0や0-1といったスコアですんなり勝ち抜けていても良かったはずですが、おかげでスタジアムを満員したマドリーファンもチケット代の元は取れたと満足して帰宅できたのは良かったかと。

そんな彼らはもう、リーガ優勝のカウントダウンに入っていて、2位のバルサが全勝してもあと勝ち点13を貯めればいいんですが、その第一歩となるこの日曜午後9時(日本時間翌午前4時)から、サンチェス・ピスファンを訪れるセビージャ戦前にはちょっと問題が発生。というのもメンディが太もものケガを再発、彼と交代で入ったマルセロも負傷して、それぞれ全治2週間、1週間と本職左SBが不在になってしまったから。いえ、ナチョと試合終盤、足を引きずっていたベンゼマは木曜には回復しているんですけどね。

セバージョスがコロナ陽性になってしまったのも延長戦の後、疲れているであろう中盤の選手たちのローテーションに支障が出そうですし、すでにEL16強対決で敗退している相手はミッドウィークの試合もなく、休養十分。ここ4試合の3分け1敗で、マドリーを追い越す可能性はほぼなくなったとはいえ、前節はグラナダに4-2で勝利と、CL出場権死守の姿勢を示していますし、先週は弟分のヘタフェを2-0と苦もなく捻ったマドリーとはいえ、この試合はそう簡単にはいかないかと。

ちなみにそのヘタフェと土曜に当たるのが、スペイン勢第2のCL準決勝進出チーム、ビジャレアルなんですが、あんな調子でしたから、火曜は私もベルナベウの試合が終わってから、アリアンツ・アレナでの偉業を知ることに。大体がして、1stレグであの天下のバイエルンに1-0で勝っただけでもビックリだったのに、2ndレグではレバンドフスキに先制されながら、終盤にチュクワゼが同点ゴール。総合スコア2-1で勝ち抜けて16年ぶりの大舞台を踏むことになるとは!

もうこうなると、16強対決ではユベントスも破っている彼らですから、リバプールとの準決勝もどうなるか、まったく予想が立たないんですが、ただその分、リーガの方が疎かになっているのも確か。今は7位のコンフェレンスリーグ(今季から始まったUEFAの第3の大会)出場圏にいるんですが、EL出場圏とは勝ち点8、CL出場圏とは同11となると、エメリ監督もCL優勝で来季も出場権を得るのが一番手っ取り早いと、本気で思っているかも。

それだけに今、同じ土曜にアラベス戦を控える13位の弟分仲間、ラージョ同様、14位で降格圏まで勝ち点4、残留確定に向けて前進したいヘタフェにとっては大チャンスとなりますが、え?マドリッドでのもう1つのCL準々決勝2ndレグ、シティ戦の話を私が避けていないかって?いやあ、それがちょっと早めにワンダに行ったところ、辺りが開けているせいもあってか、周囲にチームバスのお出迎えに集結したサポーターが溢れていたのには度肝を抜かれたんですけどね。

エティハッド・スタジアムでアトレティコファンの数人がナチス風敬礼をしていたとして、試合開始48時間前になって、5000人分の区画を部分閉鎖というUEFAの処分も当日、CAS(国際スポーツ法廷)から一時停止命令を勝ち取ったため、スタンド3面を彩るモザイクに穴が開くこともなし。「Orgullo, Pasion, Sentimiento/ オルグージョ、パシオン、センティミエントー(誇り、情熱、感情)」という横断幕が掲げられる中、場内が一体になって、チームを後押ししていたのにはいつも通り、圧倒されたものですが、いや、だからって、審判たちがアップに出て来た時や、アトレティコファンの間ではお馴染みのCLアンセムへのpito(ピト/ブーイング)をあれだけ大音響で飛ばしては逆に弊害を招かない?

それはともかく、前半は1stレグの5-5-0程、極端ではありませんが、5-4-1で守っていたアトレティコでしたが、計画通り、いよいよ彼らが攻勢に出たのは後半になってから。すると、あら不思議、「Nos han metido atrás. Nos hemos olvidado de jugar/ノス・アン・メティードー・アトラス。ノス・エモス・オルビダードー・デ・フガール(ウチは後ろに押し込まれて、プレーするのを忘れてしまった)」(グアルディオラ監督)状態になったんですよ。

グリーズマン、ロディ、ジョアン・フェリックス、マルコス・ジョレンテと次々と得点を狙ったものの、ゴールには至らなかったため、後半25分にはカラスコ、コレア、デ・パウルがピッチへ。これでますます劣勢になった時でした。あのシティが「Otro fútbol/オトロ・フトボル(もう1つのサッカー)」を選んだのは。それは何かと言うと、事あるごとに選手がピッチで倒れたり、ゴールキックやスローインを遅らせる時間稼ぎで、え、それって、ワンダを訪れるリーガ下位チームの専売特許じゃない?でもねえ、最後に自分で自分の首を絞めたのもアトレティコ自身だったんです。

ええ、前半12分には早くも全力でフォーデンに体当たり。頭に包帯を巻いてプレーしていた相手から、フェリペが再度、タックルでボールをクリアするついでに足を蹴って、両チームの選手入り乱れてのtangana(タンガナ/小競り合い)が発生したから、さあ大変!更にサビッチなど、ピッチ内で倒れているフォーデンを外に押し出したり、グリーリッシュの髪を引っ張ったりと火に油を注いでいるんですから、まさに「Al City le ha venido bien porque se perdió tiempo/アル・シティ・レ・ア・ベニードー・ビエン・ポルケ・セ・ペルディオ・ティエンポ(時間を潰せて、シティには好都合だった)」(オブラク)?

これで44分にフェリペが2枚目のイエローカードをもらい、退場となった後も11分間のロスタイム、ルイス・スアレスやクーニャも加わって、最後まで延長戦に入るためのゴールを求めた彼らですが、試合はそのまま0-0で終了。総合スコア1-0で敗退することになったんですが、それでもファンはスタンドを動かず、チームに延々とカンティコを贈って、その努力を称えていたのもアトレティコならではの恒例行事だったかと。もちろん、私も感動はするんですが、後でその時、スタジアム内に通じる階段で、サビッチとベルサイコがシティ勢といがみ合い、警官隊まで介入したなんて聞かされると、またUEFAの処分が増えるんじゃないかと心配になりますって。

そして記者会見ではグアルディオラ監督とシメオネ監督の舌戦が続き、1stレグの後、「5-5-0のチームを攻めるのは、先史時代から難しい」という発言をした前者は、「Yo nunca he criticado el juego del Atlético/ジョ・ヌンカ・エ・クリティカードー・エル・フエゴ・デル・アトレティコ(アトレティコのプレーを自分は決して批判したことはない)」とバッくれ、後者は「語彙の広い者は頭が良くて、相手を軽蔑しながら賞賛する。Pero no somos tan tontos los que quizá tenemos menos léxico/ペロ・ノー・ソモス・タン・トントス・ロス・ケ・キサ・テネモス・メノス・レキシコ(だが、ウチの語彙は多くないが、それ程、愚かではない)」って、やっぱり、この2人は相いれないよう。

この敗退に関しては、もう終わったことですし、あれこれ言っても仕方ないんですけどね。一番の疑問はプレミアリーグの首位チームに前代未聞の時間稼ぎをさせるまで、追い詰めることができるアトレティコなのに、シメオネ監督が180分の対戦中、45分しか、自分たちの攻撃力を信用しなかったのは何故か。選手たちの集中力か、体力か、原因はわかりませんが、1stレグから攻めていれば、結果は違っていたかも。何にしろ、今となっては、日曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)からのエスパニョール戦でリーガ4位の座を守ることに専念するしかないですよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly