久々に凄い逆転劇を見た…/原ゆみこのマドリッド

2022.03.11 19:00 Fri
Getty Images
「まったく何しに来たんでしょうね」そんな風に私が呆れていたのは木曜日、先行開催されたEL16強対決ベティスvsフランクフルト戦1stレグの後、コスティッチと鎌田大地選手のゴールで1-2とチームが先勝したのを祝うドイツ人のウルトラ(過激なファン)たちと、木曜の同セビージャvsウェストハム戦のために前夜から、セビージャ(スペイン南部の都市)入り。サンチェス・ピスファンではムニルのゴールで1-0と負けて、悔しい思いをすることになるイギリス人ウルトラが大乱闘となり、被害を受けた付近の商業施設の惨状をお昼のニュースで見た時のことでした。
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いやあ、昨季などはコロナ流行による規制もあって、ビジターチームファンはほとんど観戦できなかったんですけどね。それが最近はかなり自由になったため、以前のように大挙して応援に来るのはいいものの、どうしてわざわざ、よその国で騒ぎを起こす?ちなみにその水曜はCL16強対決レアル・マドリーvsPSG戦2ndレグもあったため、マドリッド市内にもかなりの数のフランス人ファンの姿が。今季はリーグ1の試合でウルトラたちが起こす事件のニュースが多かったせいもあり、警戒はされていたんですが、幸い1800人と言われたPSGファンが原因の騒ぎはなかったよう。というか、マドリーファンの群衆に紛れてしまったというか、パリでの1stレグで1-0と負けていたチームを後押ししようと、午後7時にサンティアゴ・ベルナベウ脇のロータリーにホームサポーターが大量に集結。行こうかどうか迷った挙句、止めたのは先見の明があったと私が思ったのは、いえ、映像で見ると、bengala(ベンガラ/発煙筒)も豊富に焚かれ、凄い盛り上がりぶりだったのがわかるんですけど。
それがキックオフ40分ぐらい前に着いた時ですら、スタジアム周辺が満員電車並みに混雑していて、前日、PSGの練習を見に行った時との落差に驚かされたんですが、そうですよねえ。コロナ禍のせいですっかり忘れていましたが、CL決勝トーナメントの夜はチームもファンも全身全霊を込めて張り切る晴れ舞台。おまけに下手したら、今季のヨーロッパの試合がその日で終わってしまうかもしれないとなれば、マドリーサポーターたちが詰めかけたのも当然だったんですが…。

その人込みを何とか突破して、普段とは違うバックスタンド側に新しくできた仮設プレスボックスに着いた私でしたが、いやあ、やられましたね。位置が1階の奥だったため、ピッチを見るのに支障はないものの、上のスタンドが天井のように覆いかぶさって、大一番の日に必ずお目見えする横断幕など、下部の「Somos los reyes de europa/ソモス・ロス・レジェス・デ・エウロッパ(我々はヨーロッパの王だ)」しか、視界に入らず。全体の写真も撮れないのはともかく、スコアボードも見えないって、あ、何かエスタディオ・バジェカスに似ているかも。
そして予想通り、リーガ戦とはまったく違う熱いファンの応援が飛ぶ中、キックオフとなったんですが、うーん、最初の15分ぐらいまではそこそこ、攻めていたマドリーだったんですけどね。時間が経過するにつれ、ボールを握っているのがPSGの方になり、すでにシュート2本を撃っていたエムバペが34分にはとうとう、ゴールラインを割ったんですが、これはオフサイドで認められないことに。ホッとしたのも束の間で、39分にはカルバハルのボールロストから、ネイマールが自陣から大きくパスを出したのを追って、エムバペが疾走。最後はアラバも止められず、GKクルトワを破ってしまったから、さあ大変!

だってえ、これでマドリーは0-2での負けを引っくり返さないといけなくなったんですよ。ハーフタイムにも交代はなく、後半も序盤はPSGのペースだったため、オンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の解説者など、「ここはベイルを入れるとか、思い切った手を打たないと」なんて言い出す始末で、私もこのままではそのうち、スタンドからpito(ピト/ブーイング)が飛ぶかもと、ヒヤヒヤしていたものですが、大丈夫。12分に超特急でハムストリングの負傷を治してスタメン入りしたクロース、そしてアセンシオがカマビンガとロドリゴに代わった4分後、とうとう反撃が始まったんです!

キッカケはバックパスを受けたGKドンナルンマがベンゼマに詰められて、ボールをゴールの反対側にいたビニシウスに出したことで、いえ、このプレーに関しては、「No es un error, es presión/ノー・エス・ウン・エロール、エス・プレシオン(ミスじゃなくて、プレスをかけたんだ)」(ベンゼマ)という意見と、「No es un error del portero, es falta/ノー・エス・ウン・エリール・デル・ポルテーロ、エス・ウナ・ファルタ(GKのミスじゃない。あれはファールだ)」(ポチェッティーノ監督)という意見に分かれるんですけどね。結果的にゴールと認められたため、元々、得点が入ってから、声量が大きくなる傾向のあるマドリーファンたちのテンションも一気に上がることに。

すると次は31分、モドリッチのスルーパスを受けたビニシウスはエリア内で守るPSGのDF陣に塞がれて、撃てなかったものの、ボールを36才の大先輩に戻して大正解。ええ、今度はパスがベンゼマに届き、エースがエリア内から決めて、総合スコア2-2のイーブンにしてくれるんですから、有難いっちゃありません。途端に頭に”prorroga(プロロガ/延長戦)”の文字がよぎった私だったんですが、もうどうなってるんですかねえ、このチームは。PSGのキックオフでゲームが再開されたかと思えば、ロドリゴの奪ったボールがビニシウスに繋がり、それをエリア内でマルキーニョスがクリアしたところ、駆けつけてきたベンゼマがまたゴールって、え、ハットトリックでremontada(レモンターダ/逆転劇)達成ですかあ?

いやもう、クリスチアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)がいなくても、その日はスタンド観戦だったセルヒオ・ラモス(PSG)がいなくても、こうも手際良く逆転するのを見せつけられると、本当に根性のレモンターダはマドリーのDNAに刻まれているんだなあと実感せざるを得ませんが、おかげでスタンドのファンたちも大歓喜。「Los últimos 30 minutos sólo había un equipo en el campo/ロス・ウルティモス・トレインタ・ミヌートス・ソロ・アビア・ウン・エキポ・エン・エル・カンポ(ラスト30分間は1つのチームしか、ピッチにいなかった)」とアンチェロッティ監督も言っていたように、残りの時間も余裕で過ごしたマドリーは無事に準々決勝進出を決めることができましたっけ(総合スコア3-2)。

え、この結末なら、来季はマドリー入り確実と言われているエムバペも2試合2ゴールで自身の株を大きく上げつつ、ベルナベウのファンの恨みを買うこともなしに終わって、良かったじゃないかって?まあ、その通りですが、バルサ時代は憎っくき敵役だったメッシやネイマールに全然、昔の面影がなかったのはちょっと寂しい気も。もちろん、スタジアムを出た後も大勢のファンが歌いながら歩いている光景など、滅多にないことですし、少なくともマドリッドで1試合は4月にもCL戦が見られることになったのは嬉しいんですが、でもやっぱり気になってしまうんですよね。来週火曜にはアトレレティコファンたちも同じように笑顔でいられるのかが。

実際、今週はマドリーの他、バイエルン(ザルツブルクに総合スコア8-2で勝利)、リバプール(インテルに同2-1)、マンチェスター・シティ(スポルティングCPに同5-0)と次々、準々決勝進出チームが決定。この様子だと、たとえ、ワンダ・メトロポリターノでの1stレグを1-1で引き分けたアトレティコがオールド・トラフォードで勝ち抜けたとしても、厳しい未来しか待っていない気はするんですけどね。それはまだ捕らぬ狸の皮算用としても、その前に金曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのカディスとのリーガ戦が控えている彼らは今週もまた、負傷者を増やしているんですから、たまったものじゃありませんって。

それは月曜のマハダオンダ(マドリッド近郊)での練習でケガしたレマルで、いえ、サビッチとコケは今回、復帰したんですけどね。クーニャ、ヴァス、コンドグビア、コレア、エルモーソ、ベルサイコらがまだリハビリ中で、とうとうトップチームのフィールドプレーヤーが14人になってしまったとなれば、シメオネ監督もさぞや頭が痛いのでは?ただ前節、CL出場圏4位を取り戻したベティス戦で2ゴールを挙げたジョアン・フェリックスを筆頭に、「Es real que el espíritu del equipo en estos partidos ha mejorado/エス・レアル・ケ・エル・エスピリトゥ・デル・エキポ・エン・エストス・パルティードス・ア・メホラードー(ここ数試合、チームのスピリットが改善したのは本当だ)。以前より、ずっと戦闘的で、プレーに強度があって、スピードもある」とシメオネ監督も言っていた通り、現在のアトレティコは3連勝中。

相手のカディスも前節はマドリッドの弟分、ラージョに2-0と勝利し、18位ながら、降格圏脱出まであと勝ち点1と迫っているだけに決して油断はできませんけどね。とにかく今は最下位のレバンテにホームで0-1と負けた後、ヒル・マリン筆頭株主に来季CLに出場できないと大幅減俸、人員整理もあると脅されてようやく、生まれた危機感を選手たちが忘れず、しっかり順位固めに励んでほしいところかと。ちなみにマンチェスター・ユナイテッド戦での復帰を目指すコレアがいないこの試合の前線はジョアンとグリーズマンになる予定。優勝した昨季に比べると、至らないところが多い彼らですが、少なくとも得点数だけはお隣りさんの56点に次ぐ、リーガ2位の50点と多いため、きっとカディス戦でもゴールは期待できるんじゃないでしょうか。

そしてマドリッド勢の試合日程がバラけている今節は土曜にもう1つの弟分、ヘタフェがコリセウム・アルフォンソ・ペレスでバレンシアと対戦。メスタジャではミチェル監督の下、シーズン開幕戦で顔を合わせ、PKによる1-0負けだったんですが、今回はキケ・サンチェス・フローレス監督、ボルダラス監督揃って古巣対決となるのは興味深いかも。何せ、アスレティックを破って、コパ・デル・レイ決勝進出を決めたバレンシアは前節もグラナダに3-1で勝利と勢いづいていますからね。かといって、EL出場圏まで勝ち点差8の9位から、そうそう簡単に上昇できるとも思えませんが、対するヘタフェはここ4試合白星なしと残留確定へ足踏み中。

また降格圏まで勝ち点3と縮まってしまいましたし、早めに流れを変えて、来季も1部のカードをコリセウムで見るのを楽しみにしているファンを安心させてあげたいところですが、え、もっと深刻なスランプに陥っているマドリッド勢が他にもいないかって?いやあ、確かに日曜にエスタディオ・バジェカスにセビージャを迎えるラージョは今年になって、リーガ8試合で1勝もできず、しかも7連敗中と悲惨なんですけどね。それでも気を散らせる要因だったコパも準決勝でベティスに負けてなくなりましたし、相手は木曜のELで疲れているはずですからね。一応、イラオラ監督のチームは降格圏まで勝ち点7あるため、今は得意のホームゲームで残留に必要なあと9ポイント余りを着実に積み上げていくことが肝心かと。

そしてここ数日はCL逆転突破の余韻に浸っているであろうマドリーは月曜午後9時から、アウェーでマジョルカ戦となりますが、こちらの相手も降格圏まで勝ち点2差の崖っぷちチーム。前節にはバライドスで3点も取りながら、セルタに4-3と競り負けるというショックも受けていますが、いくら2位セビージャと8差になったとはいえ、まだマドリーも気を緩めない方がいいかと。CLでは出場停止だったカセミロとメンディが復帰するこの試合の後、その翌週の20日にはクラシコ(伝統の一戦、バルサ戦のこと)も控えていますし、せっかく盛り上がった雰囲気に水を差さない試合をしてくれるといいんですが。


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