FWが沢山いたってゴールが入らなきゃ…/原ゆみこのマドリッド

2021.09.28 21:00 Tue
©Atlético de Madrid
「だからって、今更交換する訳にもいかないしねえ」そんな風に私が溜息をついていたのは日曜日、エスタディオ・バジェカスのプレスルームで会った顔見知りのイギリス人記者から、「グリーズマンじゃなくて、ファルカオをアトレティコは獲るべきだったな」と言われた時のことでした。いやあ、若さに目がくらんでしまうのは世の常で、要はサッカー界も同じなんですけどね。どちらもシメオネ監督の下で一世を風靡したストライカーとはいえ、今季、ラージョに入団したファルカオ(ガラタサライとの契約を解除)は35才。

3年ぶりにアトレティコに戻って来たグリーズマン(バルサからレンタル移籍)は30才となれば、何せ、昨季のリーガ優勝に大きく貢献したエースのルイス・スアレスも34才ですからね。前線コンビがあまりに熟年すぎるのもどうかとシメオネ監督が思っても当然なんですが、まさか、リーガ10試合も終わらないうちから、こうまで選択を誤った感が沸々と沸いてくるとは。いえ、シーズンはまだ序盤ですから、彼らが2位から4位に転落して、首位のお隣さんとの勝ち点差が3に開いてしまったぐらいで動じることはありませんよ。それよりショックだったのは7節終了後、すぐ下の5位にいるのが、まさにその弟分ラージョで、しかも勝ち点差が1しかないという現実だったんですが…。

とりあえず、どうしてそんなことになったのか、先週末のリーガ戦を振り返っていくことにすると。土曜午後2時のランチタイムにマドリッド勢の先陣を切ったアトレティコだったんですが、メンディソローサでのアラベス戦ではまたしても眠ったままピッチに出るという、タイトルを獲得できるようになる前のダメダメ時代から連綿と続く、しかも原因不明、よって解決策もない悪癖が発現。そう、前半4分、CKの守備でフェリペとサビッチが反応できず、ラガルディアにヘッドで先制点を奪われているんですから、もうこれは呪われているとしか言いようがない?
それでもこのところはリードされながら、お隣さんばりに土壇場のremontada(レモンターダ/逆転劇)で勝てた試合もあったため、私も希望は失っていなかったんですが、もしかして、シメオネ監督も一気呵成の交代策を過信しすぎていた?ええ、ほとんどチャンスもないまま、後半が始まると、13分にはトリッピアー、カラスコ、コンドグビアをコレア、クーニャ、ロディに、更に2分も置かないうちにエルモーソをエレーラに、その3分後にもマルコス・ジョレンテをベルサイコにと、あれよあれよという間に5人の枠を使い切ったんですが、気づきました?先発したルイス・スアレスとグリーズマンはそのままで、コレアとクーニャが加わって、残り30分のアトレティコは何と、FW4人体制だったんですよ。

とはいえ、船頭多くして船山に上るとはまさにこのことで、いえ、ここまで1つも勝ち点がないアラベスが大人数で自陣近くに密集して守っていたせいもあるんですけどね。スルーパスを通せる選手がいないアトレティコはボールを持ってもなかなかゴール前まで行けず、惜しかったチャンスもせいぜい、後半23分にコレアのシュートがGKパチェコに弾かれたぐらい。CKも8回程あったんですが、とにかく今季はセットプレーが攻守共に最低で、うーん、シメオネ監督も「No creo que sea por el sistema. Puede ser de concentración/ノー・クレオ・ケ・セサ・ポル・エル・システマ。プエデ・セル・デ・コンセントラシオン(システムの問題だとは思わない。集中力のせいかも)」と言っていたんですけどね。
マハダオンダ(マドリッド郊外)の練習場でセッションが公開されるのはいつも冒頭15分だけなので、確かなことは言えないものの、もっとセットプレーの鍛錬に時間を割けばいいのにと思ってしまう程、私もイライラさせられたんですが、結局、最後はGKオブラクの参加したFK攻撃も実らず、アトレティコは1-0で敗戦。その彼も「Tenemos que salir desde el primer segundo a mostrar que queremos ganar/テネモス・ケ・サリール・デスデ・エル・プリメール・セグンド・ア・モストラル・ケ・ケレモス・ガナール(1秒目から、勝ちたいという意志を示して、ピッチに出ないといけない)」と苦い顔で言っていたんですが、ホント、この悪癖、どうしたら直るんですかあ。

え、確かにこんなでは次のリーガ戦で日曜にレバンテに3-0と勝利、アンス・ファティの復帰もあって、息を吹き返したようなバルサを迎えるのも心配だけど、火曜午後9時(日本時間翌午前4時)に迫ったCLミラン戦の方がもっと不安じゃないかって?その通りで何せ、アトレティコはグループリーグ初戦でポルトとスコアレスドローでしたからね。相手もリバプールに3-2と負け、黒星発進しているため、勝ち点が必要なのは同じですが、イブラヒモビッチがまだ負傷中にも関わらず、週末にはスペツィアに1-2で勝って、セリエA2位と今季も好調みたいなんですよ。その上、会場となるサン・シーロは2016年CL決勝でレアル・マドリーに2014年のリスボン決勝同様、あと一息でトロフィーをさらわれた悲劇のスタジアム。

シメオネ監督も当時のことを思い出したくなかったか、月曜はマドリッドで練習してから、ミラノに移動するぐらいだったんですが、朗報はアラベス戦をベンチ見学したコケに加え、レマルも遠征メンバーに入ったこと。ビトリア(スペイン北部、アラベスのホームタウン)まで同行しながら、結局、TAD(スポーツ行政法廷)の一時停止処分が下りず、スタンド観戦となったジョアン・フェリックスも今度は出られますしね。欠けているのは4試合の出場停止処分2試合目となるサビッチだけですが、アトレティコのカンテラーノ(ユース出身選手)だったテオ・エルナンデスやお隣さんからレンタル移籍しているブライムもいるミランとの一戦、果たして勝つことはできるんでしょうか。

そして土曜の夜はサンティゴ・ベルナベウに向かった私でしたが、並行して改装工事もやっているとあって、まだキャパの30%ぐらいしか、観客は入れてないものの、もうソシオ(協賛会員)でなくてもチケットがオフィシャルサイトで買えるんですね。周辺にはスペイン語以外の言葉を話している観光客っぽいファンも大勢いて、かなりコロナ前の状態に近くなっていたんですが、セルタ戦、マジョルカ戦のようなgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を期待していた向きには残念な結果に。いえ、前節にはハットトリックで一躍脚光を浴びたアセンシオもトップ下で先発リピートしたんですけね。ただ、この日はベンゼマ、ビニシウスにあまり冴えが見られず、逆に本職でないバルベルデが右SBで入ったサイドから突破を許し、GKクルトワがダンジュマのシュートをparadon(パラドン/スーパーセーブ)で凌ぐことも。

おまけにマドリーが、「Era difícil quitarles el balón. Hemos fallado demasiados pases. A veces pasa/エラ・ディフィシル・キタールレス・エル・バロン。エモス・ファジャードー・デマシアドス・パセス。ア・ベセス・パサ(相手からボールを奪うのが難しかった。ウチはパスを失敗しすぎていたしね。時々、そういうことはあるよ)」(クルトワ)という状態だったせいで、ボールを長く持っていたビジャレアルが、いやあ、彼らはワンダ・メトロポリターノに来た時もそうだったんですけどね。最初から、ゆとりモードのサッカーを展開していたため、GKルリがゴールキックに手間取る度、スタンドからpito(ピト/ブーイング)が飛んでくることに。

ちなみに彼の日はロスタイムにサウール(現チェルシー)のロングパスをマンディがオウンゴールにしてくれて、アトレティコが土壇場で2-2に追いつき、私など、時間稼ぎまくりだったルリにバチが当たったと思ったものですが、この日は違いました。ええ、後半37分にイスコが至近距離からヘッドしたボールも見事に防がれ、そのまま試合は0-0で終わったんですが、エースのジェラール・モレノをケガで欠いているビジャレアルにしてみれば、美味しい勝ち点1だった?マドリーにしたって、アンチェロッティ監督も「No es un paso atrás, es un paso adelante porque seguimos líderes/ノー・エス・ウン・パソ・アトラス、エス・ウン・パソ・アデランテ・ポルケ・セギモス・リデレス(これは一歩後退ではなく前進だ。ウチは首位のままなんだから)」と言っていたように、アトレティコに代わって2位に浮上したレアル・ソシエダとも勝ち点差1ありますからね。

何より羨ましいのはこの火曜9時から、マドリーがCL2節でホームに迎えるのは初出場の新興チーム、モルドバのシェリフだということで、大体がして、2週間前の1節ではインテルに0-1と勝利と、スペイン勢5チーム中、唯一、白星をゲットした彼らですからね。となれば、2014年に待望のDecima(デシマ/CL10回目の優勝)をもたらしてくれたアンチェロッティ監督が、「tenemos más costumbre que otros en ganarla, tenemos una pequeña ventaja/テネモス・マス・コストクンブレ・ケ・オトロス・エン・ガナールラ、テネモス・ウナ・ペケーニャ・ベンタハ(他よりウチはCL優勝に慣れているから、小さなアドバンテージがある)」と楽観的なのも当然だった?

まあ、その後、2016、2017、2018年と3連覇したジダン監督の下、昨季のグループリーグではシャフタールに2敗、そのシャフタールを1節で2-0と破ったシェリフだけに決して油断はできないんですけどね。世間からは、今度はアザールが先発、もしかしたらベンゼマもヨビッチに代えて温存するかもといったローテーション案件の試合に見られているようですし、恥骨炎がようやく治って、ベンチ入りしたクロースが足慣らしをするにも丁度良さそうですが、どうなることやら。何はともあれ、リーガに続いて、いよいよCLがベルナベウに戻って来るのはファンにとって、嬉しいことではあります。

そして翌日曜はラージョvsカディス戦を見に行った私だったんですが、ここ2試合、途中出場でゴールを挙げていたファルカオがとうとう先発したんですよ。その効果は覿面で、いえ、ホームではグランダ戦4-0、ヘタフェ戦3-0とゴールづいていた彼らだったんですけどね。この日もデジャブのように、前半9分にはトレホがエリア内右奥から入れたラストパスから、ファルカオのシュートはGKレデスマに弾かれたものの、跳ねたボールをアルバロ・ガルシアが押し込んで先制。このリードは22分にFKから、ジョンソンが頭で送ったボールをハロヤンに決められて、長続きしなかったんですが、43分には真打が登場します!

もちろんそれはファルカオで、バリウのアシストをゴール前から流し込み、ラージョの勝ち越し点をゲット。ちょっともう、これで出場3試合3得点って、このペースで行ったら、あと31試合、34ゴールでピチチ(リーガ得点王)ゲットは間違いなし?体力温存のためか、後半19分にはエヌテカと交代していましたが、それでも終盤には惜しいヘッドを2度程、弾かれていたイシがとうとう、エリア外からのシュートを決めて、イラオラ監督のチームは3-1で快勝。ついに5位まで上がったとなれば、加入から5試合出場でゴールやアシストどころか、枠内シュートすら、1回もないグリーズマンとファルカオが比較されてしまうのも仕方なかったんですが…。

その脇で幸せなラージョとは真逆で、もうどうしたらいいのか、わからないぐらいの苦境に陥っている弟分がいるんですよ。それはヘタフェで、私もほっておけない気持ちがあって、バジェカから戻った足で近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に直行。ベティス戦の後半を見ていたんですが、すでに前半14分には4人で周りを囲みながら、フェキルからのパスをウィリアム・ホセに撃たれ、先制点を挙げられていてはねえ。ハーフタイム間際にはマクシモビッチが負傷で交代と、その日も不幸の種は尽きない彼らでしたが、まさか後半10分にはゴール前でクリアしたボールが味方に当たり、落ちた先にいたウィリアム・ホセに2点目も決められてしまうとは大殺界もここに極まれり。

実際、攻撃の方はエネス・ウナルのシュートも枠ギリギリで外れてしまうし、負傷から復帰組第1弾となったサンドロもGKクラウディオ・ブラボに弾かれ、一番のチャンスがフロレンティーノのミドルシュートが枠に当たったぐらいとなれば、今季はELとの両立を考えて編成されたペレグリーニ監督のチームに追いつくなんて夢のまた夢かと。そのまま2-0で済んだだけでも儲けものだったぐらいですが、3連敗ぐらいならまだ笑顔でいられたミチェル監督も7連敗ともなると、さすがに進退が危うくなってきましたからね。ただ、言い訳にはならないんですが、シーズン序盤のヘタフェにはバレンシア、セビージャ、バルサ、ラージョ、アトレティコ、ベティスと上位チームとばかり当たるというクジ運の悪さも。それだけにエルチェ戦で負けてしまったのが悔やんでも悔やみきれないかと。

次節、日曜も現在2位のレアル・ソシエダと当たるとなると、情けない兄貴分のせいで20チーム中、唯一、勝ち点0という汚名をヘタフェが返上するのは、10月の各国代表戦明けのレバンテ戦までお預けということになるかもしれませんが、まったく。土曜のオサスナ戦をウキウキして待っているラージョとは天と地の差ですが、実は最下位のドツボにはまっているのは2部の弟分、アルコルコンも同じ。嬉しいことに出足最悪だった柴崎岳選手のいるレガネスは最近、持ち直して、14位まで上昇、ペドロ・レオンの加入でパワーアップしたフエンラブラダは月曜に岡崎慎司選手のいるカルタヘナにも2-1で勝ち、9位とまずまずなんですが、とにかく今は不調のマドリッド勢2チームがいい方向に向かってくれることを祈るばかりです。

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