無観客の時代は終わった…/原ゆみこのマドリッド

2021.08.25 19:30 Wed
「まだ順位云々、言っても仕方ないわよね」そんな風に私が密かに悔しさを噛みしめていたのは火曜日、リーガ開幕から2試合、同じ2連勝ながら、得失点差でセビージャがアトレティコの上、首位の座を占めているのに気がついた時のことでした。いやあ、何でそうなったのかというと、原因はマドリッドの弟分チームたちが至らなかったせいではあるんですけどね。一応、毎年、優勝争いのライバルであるお隣さんとバルサが2節で両者共に引分けて、勝ち点2差がついたというのは慰めになりますが、実は真夏の珍事はまだあったんですよ。

それはpichichi(ピチチ/得点王)争いで、2試合終えた時点でトップをコレア(アトレティコ)、ビニシウス(レアル・マドリー)、そしてラメラ(セビージャ)が3ゴールで並走。何せ、マドリッド勢の2人は昨季まで、決定力に大きな問題を抱えていて、シュート態勢に入った途端、私など、前もって溜息をついていたぐらいでしたからね。それが、どういう訳か、今季は撃てば必ずゴールに入るような気がする程、精度が向上。ブライアン・ヒルのトッテナム移籍に伴い、おまけのようにトレードで来たラメラに至ってはここ数年、1シーズン4、5得点というMFですから、とてもゴールを期待して、モンチ・スポーツディレクターも獲得した訳ではないと思いますが、メッシがPSGに移り、いよいよベンゼマの独壇場になると言われたピチチレースもこの先、どういう展開になるんでしょうかね。

ま、そんなことはともかく、この週末、2節でのマドリッド勢の様子がどうだったか、順番にお伝えしていくことにすると。土曜に先陣を切ったのは3年ぶりの1部復帰となったラージョで、レアル・ソシエダとアウェイで対戦。セビージャとの開幕戦でルカ・ジダンにスタメンを奪われ、その後、ルカがレッドカードで退場してしまったため、出場はしたとはいえ、正GKディミトリエフスキも危機感を持ったんでしょうか。この日は何度もparadon(パラドン/スーパーセーブ)を披露して、失点を防いでくれたんですが、後半23分にCBバリウのエリア内でのハンドから、PKスペシャリストのオジャルサバルにゴールを決められて、最後は1-0で連敗を喫してしまうことに。
それにしたって凄いのはユーロ2020、東京オリンピックのダブル出場組ながら、いまだにバケーションを取っておらず、昨季からずっとプレーしているオジャルサバルで、ええ、スペイン代表で梯子をした選手は6人いるんですけどね。東京から戻るやいなや、UEFAスーパーカップをプレーしたパウ・トーレス(ビジャレアル)は、別にトロフィーをチェルシーに奪われたショックのせいではありませんが、その直後から休暇入り。どちらの代表でも正GKを務めたウナイ・シモン(アスレティック)もようやく、今週から練習開始ですし、ペドリとエリック・ガルシア(バルサ)はリーガ2試合に出たところで2週間のお休みに。ダニ・オルモ(ライプツィヒ)もブンデスリーガでまだプレーしていないんですが、バルサがルイス・エンリケ監督に今回、2人のスペイン代表招集を遠慮してくれるよう頼んでいるのとは、あまりに対照的なんですよ。

実際、オジャルサバル自身、「休まなかったせいで今季の終盤には疲れを感じるかもしれないけど、ahora estoy bien y quiero seguir jugando y ayudando al equipo/アホラ・エストイ・ビエン・イ・キエロ・セギール・フガンドー・イ・アジュダンドー・アル・エキポ(今は体調いいし、プレーし続けてチームを助けたい)」と言っているんですが、この24才のFWはもしや鉄人?9月のW杯予選のため、この木曜に発表される招集リストに入る気も満々のようとはいえ、何かそこまでいくと、やりがい搾取もいいところのような気がしないでもありませんが…。
何にしろ、改装工事と芝の貼り替えの遅れにより、開催が危ぶまれたものの、今週日曜のグラナダ戦は予定通り、ファン待望のエスタディオ・バジェカスでやることになったため、ラージョにはそちらで1部復帰初白星を目指してもらいたいところですが、やっぱり、スタジアムに観客が入るっていいですよね。そう、続いて始まったのが、ワンダ・メトロポリターノでのアトレティコvsエルチェ戦で、この日は500日以上ぶりにファンが入場。7年ぶりとなるリーガ優勝で終わった昨季の戦いを1つも直に披露することができず、トロフィー授与式ですら、無観客だったため、この日の彼らは2万5000人のサポーターため、キックオフ前に貴重な戦利品を披露してくれることに。

2010年にキケ・サンチェス・フローレス監督のアシスタントとしてEL優勝を遂げ、近年の勝ち組アトレティコの礎を築いたエスクリバ監督も異存はなかったか、エルチェの選手たちにPasillo de campeones/パシージョ・デ・カンペオネス(チャンピオンの花道)で迎えられたアトレィコのメンバーはスタンドから、ファンの合唱するクラブ歌が聞こえてくるのも大きな励みになったはずですが、何せ、午後7時30分からの時間帯は暑くてねえ。前半39分にはようやく、初先発のデ・パウル(ウディネーゼから移籍)のスルーパスをGKカシージャがクリアできなかったのをコレアがちゃっかり利用。とても昨季後半のベティス戦、絶好機に勝ち越しゴールを決められず、泣きべそをかいていたのをシメオネ監督に慰めてもらった選手とは思えない落ち着きで右足の甲で蹴り入れて、先制点をゲットしてくれるのですから、ホント、自信とは恐ろしい。

ちなみにこの日のゴールはこれだけだったんですが、出場停止のエルモーソの代わりをコンドグビアが務めた3CB制も効いたか、シメオネ監督も後で「El Elche dominaba con poca profundidad/エル・エルチェ・ドミナバ・コン・ポカ・プロフンディダッド(エルチェはボールを支配していたが、奥行きのある攻撃はなかった)」と言っていた通り、相手にほとんどチャンスを与えることもなし。ただ、カラスコやヒメネスのシュートはあったものの、後半15分にはルイス・スアレスも入りながら、追加点が取れず、1点を守り抜く、淡々とした戦いをじっと見ている辛抱も、ファンにとってはいつぞやのデジャブだった?まあ、1-0でも勝てれば、結果オーライですよね。

まだ足慣らし中のルイス・スアレスもだんだん、エンジンが温まってくるはずですしね。ただ、そうなると、「Estoy jugando más adelante, cerca del área rival/エストイ・フガンドー・マス・アデランテ、セルカ・デル・アレア・リバル(より前で、敵エリア近くでプレーしている)。自分が一番快適で、チームをもっと助けられる思う場所でね」というコレアのポジションが変わってしまう可能性もあるのは何ですが、とりあえず、絶対補強ポイントだったFWが未到着の今はこれでいいかと。そうそう、ここ数日、候補ナンバーワンはオリンピック・ブラジル代表で金メダルを獲ったクーニャ(ヘルタ・ベルリン)となっていますが、ただグリーズマン(バルサ)、ラファ・ミール(昨季はウォルバーハンプトンからウエスカにレンタル、先日セビージャに入団)、ブラホビッチ(フィオレンティーナ)と盛り上がっては外されているだけに、土曜のビジャレアル戦までに決まるかどうかはわかりません。

そして試合後、私がワンダのコンフェレンスルームで、久方ぶりの記者在席会見を喜んでいたシメオネ監督のコメントを聞いている間に早くもアラバのスルーパスから、ベンゼマが敵エリアに持ち込み、ベイルがフィニッシュしてお隣さんがレバンテ戦で先制。大急ぎでメトロに乗り、自宅近くの駅を出た時点の後半再開早々にはロジェールが同点ゴールを挙げたとオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の実況で知り、これは面白くなりそうと近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に駆け込んだんですが、いやあ、お隣さんは予想以上の波乱万丈でしたね。ええ、12分には右側からのクロスをフリーだったカンパーニャがvolea(ボレア/ボレーシュート)、見事なgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決められて、今度はレバンテがリードしているんですから、ビックリしたの何のって。

すると即座にアンチェロッティ監督は先発したベイル、アザール、イスコを下げ、ビニシウス、ロドリゴ、アセンシオを投入。とりわけ、その日はケガでお休みしたモドリッチの代わりを務めていたイスコなど、いいプレーをしていたと聞いていたため、ちょっと不思議でしたが、これが実は決定的だったんですよ。というのも右SBをやっていたルーカス・バスケスが、ようやく昨季の負傷禍から立ち直った本職のカルバハルと代わった後の28分、彼の粘りの甲斐あって、自陣からボールを出したマドリーがカセミロ、ビニシウスと繋ぐ速攻で2点目をゲットできたから。これも以前なら、絶対に失敗していただろう敵GKと1対1のシュートを見事にビニシウスが決めたんですが、まだ続きがあるんです。

それはレバンテの選手交代で少々、集中力が途切れていた34分、バルディのFKを自分のところに落ちてくるとは思わなかったか、アラバが中途半端なヘッドで対応したところ、ボールがゴール前に。近場にいたロベール・ピエルに蹴り込まれ、これで3失点目となれば、GKクルトワの悔しさやいかに。残り時間も少なかったんですが、今季はマドリーのお家芸、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)を体現するセルヒオ・ラモス(契約満了でPSGに移籍)もいない中、チームをしょって立ったのは3年目のビニシウスでした。40分、CKから流れてきたボールを角度のないところからネットに突き刺し、再び同点ゴールを挙げているとなれば、もうこれは本物と言っていい?

おまけにその1分後には独走態勢に入ろうかというビニシウスを止めにGKアイトール・フェルナンデスがエリアから出て来たところ、ボールが手に当たり、一発レッドで退場するというハプニングまで発生。折しもレバンテは5人目の選手交代をした後だったため、「él se queda alguna vez después en los entrenamientos y le gusta ponerse de portero/エル・セ・ケダ・アルグーナ・ベス・デスプエス・エン・ロス・エントレナミエントス・イ・レ・グスタ・ポネールセ・デ・ポルテーロ(彼は時々、セッション後に残って、GK役をするのが好きだった)」(パコ・ロペス監督)というCBのベソがグローブをはめることになりましたが、残念ながら、マドリーはその腕前を試すまでには至りませんでしたっけ。

結局、そのまま3-3で引き分けたんですが、それでもアンチェロッティ監督は「En la segunda no entramos con buena actitud/エン・ラ・セグンダ・ノー・エントラモス・コン・ブエナ・アクティトゥッド(ウチは後半、いい心構えでピッチに入らなかった)」とカンカン。確かに失点は守備ミスからでもあるんですが、とはいえ、レバンテも一筋縄ではいかないチームですからね。今は早く気持ちを切り替えて、土曜のベティス戦の準備をするべきかと思いますが…いやあ、月曜にはエムバペに5度目の契約延長のオファーを蹴られたPSGが来年、タダで出て行かれるぐらいなら、この夏に売却する方に傾いているという報が。翌日にはマドリーが移籍金1憶6000万ユーロ(約206億円)のオファーを出したなんていうニュースも入ってきたため、もしや週末までに片が付くなんてこともあったりする?

うーん、移籍に関してはマスコミの言う通りには動かないことも多々あるため、私も状況の推移を見守るばかりですが、そのいい例が弟分ヘタフェのククレジャ。ええ、ミチェル監督はオリンピック参加後のバケーションを与えたと記者会見で言っていたにも関わらず、翌日には契約破棄金額の1800万ユーロ(約23億円)を払うブライトンへの移籍がほぼ決定という話に。そこで月曜のセビージャ戦でコリセウム・アルフォンソ・ペレスを訪れた際、顔馴染みの番記者に訊いてみたところ、「ミチェル監督も笑いながら言っていたし、会見にいた皆も嘘と知ってて笑っていた」って、まったくもう。

要はその日、ヘタフェ入団からたったの2日で後半頭にデビューしたチェコ代表のヤンクト(サンプドリアから移籍)が、やっぱりククレジャの代わりの選手だったということですが、こちらも1年半ぶりにスタンドに帰ってきた6300人のサポーターが応援していたんですけどね。それにはセビージャのロペテギ監督が、「hay que gritar un poco más porque ya hay gente/アイ・ケ・グリタル・ウン・ポコ・マス・ポルケ・ジャー・アイ・ヘンテ(もう人がいるから、前よりもっと怒鳴らないといけない)」という効果はあったものの、ゲームの方はなかなか、膠着状態を抜け出せず。

0-0のままだった後半41分、プレシーズンマッチでFKゴールを2、3本決めていたティモルが絶好の位置から、まさにFKを蹴るために入った時にはそれこそ、盛り上がったんですけどね。ロスタイム、ほとんど最後のプレーで、こちらも移籍ほやほやのラファ・ミールのシュートがゴールポストに弾かれた後、タイミング良く上がって来たラメラに決められて、ヘタフェは土壇場で0-1と負けてしまいましたっけ。

まあ、この日は4000人のファンが詰めかけたお隣さんのブタルケでも相手のブルゴスが前半、退場者を出しながら、2部の弟分レガネスは得点を挙げられず。帰りのメトロを降りてから、スコアレスドローで終わったのをラジオで知ったため、別にコリセウムに行ったのを後悔はしていないんですが、まずまずのスタートを切った兄貴分と比べて、ヘタフェ、ラージョの連敗発進は残念だったかと。おまけにミチェル監督のチームは日曜の次節、カンプ・ノウでバルサ戦に挑むとなると、もうそれだけで絶望的になってくるんですが、いえいえ、まだまだリーガは始まったばかり。勝ち点1だけのレガネスも柴崎岳選手が2試合共、先発していましたし、土曜には再び、ブタルケでのイビサ戦で今度こそ、ファンが1部昇格を具体的な目標として実感できるような戦いをしてくれるんじゃないでしょうか。

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