白星スタートは意外とハードルが高かった…/原ゆみこのマドリッド

2021.08.17 21:00 Tue
©Atlético de Madrid
「これは今季も兄貴分には頭が上がらないわね」そんな風に私が首を振っていたのは月曜日、週末の開幕戦、マドリッド勢の試合結果を振り返っていた時のことでした。いやあ、1部に4チーム、2部にも3チームとラ・リーガのクラブが沢山あるマドリッドだけに、いつになるかわからないですが、コロナ禍が収まって、昔のように気軽に旅行ができるようになった暁には、日本のサッカーファンに短期間集中観戦の地として、是非とも訪問をお勧めしたいんですけどね。といってもさすがに私も全試合を追う余裕はないんですが、ちょっとショックだったのは7チーム中、初戦に勝てたのはレアル・マドリーとアトレティコだけだったこと。

ええ、来季こそ、1部勢の一員に戻るべく、志高くスタートしたレガネスは土曜にレアル・ソシエダBがトップチームの軒先を借り、レアル・アレナに3000人のファンを入れてプレーした試合で1-0の敗北。柴崎岳選手もフル出場したものの、後半12分にカリカブルに決められた1点を返せず、シャビ・アロンソ監督が2部デビュー戦を勝利で飾ったんですけどね。やはりアウェイ開幕だった、こちらは2部生活12年の老舗、アルコルコンもポンフェラディーナにPKの1点で最少得点差負けしていますし、マドリッド勢で唯一、ホームスタートとなり、エスタディオ・フェルナンド・トーレスに1200人の観客が入ったフェンラブラダも昨季、エイバルで乾貴士選手と共に2部降格を経験したペドロ・レオンを迎えてパワーアップしていたものの、一旦はテネリフェに1-1と追いつきながら、後半ロスタイムに勝ち越し点を奪われるという悲しい結果になりましたっけ。
一方、1部勢の方も金曜に弟分のヘタフェがメスタジャでバレンシアに1-0で負けるという悔しい思いをしているんですが、いえ、温厚なミチェル監督ですから、大っぴらに抗議はしていませんけどね。失点のキッカケとなったジェネがチェリシェフをエリア内で倒したペナルティも怪しげなら、後半、カバコがマキシ・ゴメスに乱暴なタックルを見舞ったとして、レッドカードをもらったプレーも実はよく見ると、ファールを受けていたのはカバコの方だったなんてオチも。何にしろ、両チーム合わせてイエローカード7枚、退場者2名というのはいただけませんが、ピッチに倒れている選手が多かったのは、やっぱりバレンシアに昨季までヘタフェを指揮していたボルダラス監督が移ったせいなんでしょうかね。

そして土曜にはいよいよ、マドリーがメンディソローサで今季デビューをしたんですが、こちらは景気が良かったですよ。前半こそ、昨季3人目の指揮官として、アラベスを1部残留に導いたカジェハ監督の下、しっかり守る相手のゴールをこじ開けることができなかった彼らですが、おそらくここまではこの夏、プレシーズンマッチにまだ1試合も出ていなかったベンゼマの準備運動時間。後半に入ってすぐの3分には、ベイルが左から入れたクロスをルーカス・バスケスがエリア内右から送り、アザールがtaconazo(タコナソ/ヒールキック)で繋いだボールをシュートして先制点を取ってくれるのですから、今シーズンもマドリーのゴールゲッターは彼一択?

でもそれだけじゃなかったんです。一旦、エンジンのかかった彼らは止まらず、11分にはCKから始まったプレーでモドリッチがゴール前にクロス。そのボールを敵DFに先んじて蹴り込んだのはナチョで、ええ、彼もセルヒロ・ラモス(契約満了でPSGに移籍)とバラン(マンチェスター・ユナイテッドに移籍)が去った今、押しも押されぬレギュラーCBですからね。当人は変わらず、「Yo como todos los años trabajo para tener mis partidos, mis minutos/ジョ・コモ・トードス・ロス・アーニョス・トラバッホ・パラ・テネール・ミス・パルティードス、ミス・ミヌートス(ボクは毎年のように自分の試合、出場時間を手に入れるために努力するだけだよ)」と控えめでしたが、やはりコンビを組むミリトンはまだ23才の若輩。
17分に自陣から爆走したバルベルデのラストパスを受け、ベンゼマが2回目のトライで自身2本目、チームの3点目を決めた後、エリア前で彼がグイデッティを逃したため、それを止めようとしたGKクルトワがペナルティを犯す破目に。ホセルのPKゴールでアラベスにかすかな期待を抱かせているようでは、まだまだ。カンテラ(ユース組織)からマドリー一筋のナチョがいよいよ、リーダーシップを発揮するチャンスかと思いますが、アンチェロッティ監督によると、「él es un defensa pesimista/エル・エス・ウン・デフェンサ・ペシミスタ(彼は悲観主義者のDF)」なんだそう。そのココロは「常に何か悪いことが起きると考えていて、だから90分間、ずっと集中していられる」というんですが、なるほどねえ。

とはいえ、1点は返されたものの、敵にそれ以上の余力はないと見たか、マドリーはこの後、すぐアザールをビニシウスに、ベイルをロドリゴに代えて、BBH前線を解体。この日の出来を見る限り、負傷せず、やる気があれば、移籍金1憶ユーロ(約130億円)コンビが優先されるのは当然ですから、若いブラジル人FWたちも必死になりましたかね。ロスタイム3分にはその日、左SBとして、マドリーデビューを果たしたアラバ(契約満了でバイエルンから移籍)が上げたクロスを何と、ビニシウスがゴール前でヘッドして4点目をゲットとは、いいアピールができたじゃないですか。

実際、後でアンチェロティ監督も「Yo le he dicho que para marcar goles tiene que dar un toque o dos/ジョ・レ・エ・ディッチョー・ケ・パラ・マルカル・ゴーレス・ティエネ・ケ・ダル・ウン・トケ・オ・ドス(ゴールを入れるにはワンタッチかツータッチでやらないといけないと彼に言った)。4回も5回も触って決めるのは難しいからね」と、当人にアドバイスしていたことを打ち明けていましたけどね。どうやら今季はビニシウスがゴール近くに来た時、どうせ決まらないと目をそらしてはいけない?まあ、ちょっと期待した原太一選手のアラベスデビューもなかった、この1-4勝利のヒーローは議論の余地なく、「Es un jugador al que llamarle delantero me parece poco/エス・ウン・フガドール・アル・ケ・ジャマールレ・デランテーロ・メ・パレセ・ポコ(FWと言うだけではあまりに足りない)」(アンチェロッティ監督)ベンゼマですが、今週末土曜のレバンテ戦でも当たってくれるといいですよね。

え、それで昨季のリーガチャンピオンの初陣はどうだったのかって?いやあ、日曜午後のマドリッドは気温40℃越えと、冷房の効いたバル(スペインの喫茶店兼バー)に駆け込んで、私もようやく息を吹き返したんですが、ビゴ(スペイン北西部)は28℃ほど。涼しくていいわねと思ったのは単なる自分の勘違いで、海辺の彼の地では湿度が高く、それはそれで辛かったようですが、いやあ、アトレティコにもいたんですよ。長年、決定力の低さにファンに溜息をつかせながら、いきなりストライカーとしての資質が開花した選手が。

それはコレアで、先日、最後のプレシーズンマッチ、フェイエノールト戦でも同点ゴールを決めていたんですけどね。前半23分、レマルが敵DF陣をすり抜けて出したパスを受けると、エリア前からいとも簡単に蹴ったボールが先制点になっているから、ビックリしたの何のって。でもそれで終わりじゃないんです。1点リードして後半に入ったアトレティコは11分、何とも不本意なことにマルコス・ジョレンテがイアゴ・アスパスのシュートを防いだ際にハンドがあったとして、ペナルティを取られてしまうことに。大体がして、自身の胸に当たってから、腕に流れたボールで、「El otro día estuvimos reunidos dos horas con los árbitros/エル・オトロ・ディア・エストゥビモス・レウニードス・ドス・オラス・コン・ロス・アルビトロス(先日は2時間、審判とミィーティングを持った)」(シメオネ監督)際には意図的でなければ、ハンドにならないと説明されていたんですけどね。

おまけに前日もマドリーのルーカス・バスケスが似たような形でボールが腕に当たり、お咎めなしだったため、目の前にいたアスパスでさえ、「Marcos me decía que no y confíe en él hasta que el árbitro decidió que era penalty/マルコス・メ・デシア・ケ・ノー・イ・コンフィエ・エン・エル・アスタ・エル・アルビトロ・デシディオ・ケ・エラ・ペナルティ(マルコスが違うと言ったから、審判がペナルティを宣告するまで、それを信じていた)」ほどだったんですが、うーん。どうやら今季もmano(マノ/ハンド)に関するジャッジに一貫性がないのは変わらない?結局、アスパスがPKを蹴ることになり、GKオブラクもこの夏のユーロやオリンピックでPK戦を沢山、見る機会があったからですかね。彼にしては珍しく、大きな身振り手振りでキッカーを攪乱しようとしたんですが、セルタの同点ゴールを防ぐことはできませんでしたっけ。

でも大丈夫。というのも18分には、この夏はずっと移籍希望をクラブに伝えながら、オファーがないせいで居残っているサウールが自身の市場価値を高めたかったか、それとも腰を据えて、今季は再び、アトレティコに貢献できる選手になる決意を固めたのか、本音のところはわからないんですけどね。ボールを持って上がると、敵エリア付近から横30メートルにもなろうかという長いパスを出し、これがセルタの選手にカットされることなく、反対サイドのコレアに届いてしまったんですよ。もうこうなると、「今、自分はより前の方、敵エリアにずっと近いところでプレーしていて、そのおかげさ。監督とチームメートから信頼されているし、saben que siempre lo doy todo en el campo/サベン・ケ・シエンプレ・ロ・ドイ・トードー・エン・エル・カンポ(彼らはボクが常にピッチで全力を尽くしていることを知っている)」というコレアを止められる者はなし。

この試合、自身2点目、スコアを1-2にするゴールを決めた後、プレシーズン練習合流最終組だったのを慮って、シメオネ監督は彼をお役御免に。コケ、レマルと一緒にルイス・スアレス、トリッピアー、そしてデ・パウル(ウディネーゼから移籍)を投入したんですが、34分のアスパスのシュートは幸運なことにネット脇へ。そのまますんなり終わってほしかったんですが、困りましたね。7分と表示されたロスタイムには、フェイエノールト戦のリピート案件がもう1つ発生。いえ、今回、カラスコはルイス・スアレスからのスルーパスを受け、GKディトゥロに弾かれただけで関係ないですよ。ただ、そのパスを出した後、スアレスがウーゴ・マジョに2度も蹴られて転倒し、それをキッカケに両チームの選手たちが集まって、tangana(タンガナ/小競り合い)が始まったから、さあ大変!

うーん、スアレス自身は1度立ち上がって、審判に近づいてから、また地面に座り込んでしまうという状態だったため、争いに加わっていないんですけどね。人垣の真ん中にいたエルモーソがアスパスに目を指で突かれ、ますますエキサイト。最後はマジョと一緒に退場させられていましたが、まったく。そういえば、先日、マハダオンダ(マドリッド近郊)での練習中、シメオネ監督がセッションを止めて、「Somos el campeón, va a salir a mordernos el culo/ソモス・エル・カンペオン、バ・ア・サリール・ア・モルデルノス・エル・クロ(我々は王者だから、相手は尻に噛みつくつもりでかかってくるぞ)」とチームに喝を入れていたそうですが、でもお。エルモーソは日曜のエルチェ戦、待望のワンダ・メトロポリターノでの有観客試合に出場停止になりますし、できれば毎試合、レッドカードを受けるのは控えてほしいかと。

まあ、最後はタイムが100分を越えるまでプレーすることになったものの、そのまま1-2で試合は終わり、お隣さんと並んでアトレティコは白星スタート。おかげで次の時間帯、メッシ(契約満了でPSGに移籍)の退団後の初試合でバルサがトップチームの方のレアル・ソシエダにカンプ・ノウで4-2と勝利したと聞いても平静でいられたんですが、1部の厳しい洗礼を受けたのが日曜最後にセビージャ戦に挑んだラージョ。サンチェス・ピスファンでは、イラオラ監督が今季の正GK候補として、ジダン監督の次男、ルカを先発に抜擢していたんですが、前半18分、まさかエリア内に入って来たイドリシの胴に手をかけて、引き倒してしまうとは、いやあ、大胆ですねえ。

即レッドカードが出て、ここでルカは退場。PKの方はGKディミトリエフスキが対応することになりましたが、エンネシシリは失敗せず、あまりに早い時間から10人になったラージョには反撃の手立てもあまりなかったよう。更に前後半に1本ずつ、ラメラ(トッテナムから移籍)にゴールを決められて、最後は3-0の完敗です。何せ、ラージョも兄貴分マドリーのサンティアゴ・ベルナベウ同様、ホームのエスタディオ・バジェカスが改修中で、2節もレアル・アレナでのアウェイ戦ですからね。レガネスの轍を踏まないのは当然として、早く今季最初の勝ち点3をゲットして、1部やっていける自信をつけてくれればいいのですが、さて。ちなみに弟分仲間、ヘタフェは次節、コリセウム・アルフォンソ・ペレスにセビージャを迎えますが、果たしてラージョのリベンジを果たすことはできるのでしょうか。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している

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