強いスペインが戻って来た…/原ゆみこのマドリッド

2021.07.01 19:00 Thu
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「確かにアンチェロッティ監督は嬉しいかも」そんな風に私が納得していたのは火曜日、ユーロ2020の16強対決で敗退となったため、7月19日にはベンゼマ、バラン(フランス)、モドリッチ(クロアチア)、クロース(ドイツ)、ベイル(ウェールズ)、アラバ(オーストリア)ら、大量6人がレアル・マドリーのプレシーズン練習に合流できるはずと聞いた時のことでした。いやあ、5日にバルデベバス(バラハス空港の近く)でスタートするお隣さんから2日遅れ、7日にマハダオンダ(マドリッド近郊)に集まるアトレティコもベルサイコ(クロアチア)とジョアン・フェリックス(ポルトガル)が早めに戻って来られるんですけどね。契約が残り1年の前者はプレー時間を増やすための移籍を考慮中ですし、後者に至っては、この木曜に足首の手術をして、そのリバビリに1カ月は必要なのだとか。

スポーツ紙などの情報によると、ジョアンがケガしたのは昨年のCLグループリーグ、バイエルン戦でのことで、それ以来、ずっとだましだましでプレー。おかげでアトレティコがリーガ優勝を争っていた昨季終盤、ピッチに入ってもほとんど貢献できなかっただけでなく、このユーロでもグループリーグ中、待てど暮らせど、出番がなかったんですよ。ようやく16強対決ベルギー戦の後半10分に姿を現したと思いきや、チームは前半42分にトルガン・アザール(ドルトムント)が決めた1点を最後まで返せず、そのまま1-0で敗退しちゃいましたからね。それならいっそ、ユーロなど行かずに手術しておけば良かったんじゃないかとも思ったりもするんですが、まあ、その辺は選手の考え方次第。

実際、準々決勝に勝ち上がったベルギーにしても負傷続きのシーズンを過ごしてきたトルガンの兄、エデン・アザールがグループリーグ3試合目にやっと先発出場できるようになったものの、そのポルトガル戦で太もも裏を負傷して交代。オーストリアを延長戦で2-1と破ったイタリアと戦う金曜の試合に間に合うかどうか。いや、ムリして間に合わせてもまた、マドリーでの活動再開に支障が出る状態にならないか、心配されていたりもするんですが、こちらの代表にはアトレティコのカラスコはともかく、GKクルトワもいますからね。アンチェロッティ監督的には母国の勝利はもちろん、ベルギーにはそろそろユーロを切り上げてほしいと願っていても決して責められないかもしれません。
え、それより、ルイス・エンリケ監督が「Hasta ahora es el mejor partido de la Eurocopa/アスタ・アオラ・エス・エル・メホール・パルティードー・デ・ラ・エウロコパ(ここまでのユーロで最高の試合)」と自画自賛していたスペインの16強対決、クロアチア戦がどうだったかの方が気になるって?そうですね、土曜にはイタリア、ウェールズに0-4と大勝したデンマーク、日曜にはベルギー、オランダに0-2で勝利して波乱を起こしたチェコが準々決勝進出を決めた後、月曜にコペンハーゲンのパルケン・スタジアムでプレーした彼らは0-5のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利したグループリーグ最終節スロバキア戦から、前線のジュラール・モレノ(ビジャレアル)をフェラン・トーレス(マンチェスター・シテイ)に、左SBのジョルディ・アルバ(バルサ)をガヤ(バレンシア)に変更してスタート。

序盤からボールを支配して、積極的に攻めていたんですが、コケ(アトレティコ)やモラタ(ユベントス)のシュートが決まらなかった後、前半20分、信じられないことが起こったんですよ。ペドリ(バルサ)が50m程の距離からバックパスを蹴ったところ、それを何と、周りに敵もいないのにGKウナイ・シモン(アスレティック)がコントロールに失敗。そのままボールがゴールに入り、クロアチアの先制点になってしまうって、狐につままれるとはまさにこのこと?うーん、試合の後、このシーンをビデオで6、7回見直したという当人も「説明できない。太陽が目に入った訳でもなくて、ただ逃してしまって…Es un accidente/エス・ウン・アクシデンテ(あれは事故だよ)」と言っていた程ですからね。一般のファンには何が何だか、わからなかったのは当然だったかと。
実際、これにはピッチにいるチームメートたちまで混乱していたようで、そこからのスペインはプレーの速度がトロトロに。とりわけラポール(マンチェスター・シテイ)らDF陣など、どこにパスを出していいかもわからないようでしたが、転機がやって来たのは38分。ガヤのシュートはGKリバコビッチ(ディナモ・ザグレブ)に弾かれたものの、こぼれたゴールをサラビア(PSG)が拾って決めてくれたから、スタンドで応援していた1700人のスペイン人ファンもどんなに喜んだことか。おかげで1-1と同点に追いついてハーフタイムに入れたため、今回のユーロでは控えに回っているGKデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)やルイス・エンリケ監督の助言を受けて、ウナイ・シモンも落ち着いて後半を迎えられたようです。

すると再開12分、フェランのアシストでアスピリクエタ(チェルシー)がヘッドを決めて勝ち越し点が入り、32分にもガヤがケガして手当を受けているのに皆が気を取られている隙に、エリック・ガルシア(マンチェスター・シテイからバルサに移籍)から代わっていたパウ・トーレス(ビジャレアル)が素早くFKでリスタート。そのロングボールを追ったフェランが3点目を奪った時には勝負あったと私も思ったんですが、いやあ、本当にサッカーはわからない。まさか、40分になってから、モドリッチが意地を見せ、エリア内での混戦を引き起こすとは。ええ、ブドミル(オサスナ)のシュートはアスピリクエタに当たって外れたものの、オルシッチ(ディナモ・ザグレブ)の方はゴールラインを割ってからのクリアだったと判定され、スコアは2-3に。それでもあとちょっとだけ、守り切れば良かったんですが、今度はロスタイムの47分、オルシッチのクロスをパサリッチ(アタランタ)にヘッドで入れられ、土壇場で延長戦に持ち込まれてしまうとはホント、どうしたらいいものやら。

というのも前回の国際メジャー大会、2018年のW杯16強対決でスペインはロシアと1-1で延長戦に入り、PK戦でコケとイアゴ・アスパス(セルタ)が失敗して、3-4で敗退しているから。それ以上にグループリーグでジェラール・モレノとモラタがPKを決められなかったスペインは、ここ5回続けて失敗中ですからね。最近は「Todos los días ensayamos los penaltis/トードス・ロス・ディアス・エンサジャモス・ロス・ペナルティス(毎日、PKを練習している)」(コケ)らしいとはいえ、それでもルイス・エンリケ監督の選ぶキッカーはジェラール・モレノ、モラタ、ブスケツ(バルサ)、コケの順番などという話を聞くと、不安が抑えられなかったりするんですが、大丈夫。最悪の試練に入る前に彼らは決着をつけることができたんです!

そう、延長戦前半5分にはクラマリッチ(ホッフェンハイム)の至近距離シュートをウナイ・シモンがparadon(パラドン/スーパーセーブ)、とても同じ試合で大ポカを犯したとは思えない冷静さでチームを救った後の10分、途中出場のダニ・オルモ(ライプツィヒ)が右から上げたクロスをエリア内で受けたのはモラタ。こちらもセビージャ(スペイン南部)のカルトゥーハで行われたグループリーグで何度もチャンスをムダにした際、本来、味方であるスペイン人ファンからpito(ピト/ブーイング)を浴び、挙句の果てにSNSや電話で奥さんや子供に対する暴言、脅迫などを受けていたとは思えない落ち着きでトラップすると、左足で勝ち越しゴールを決めているんですから、ルイス・エンリケ監督がずっと使い続けているのには理由があった?

いやまあ、彼が時たま、凄い活躍をするのは、2019-20シーズンのCL16強対決リバプール戦2ndレグの延長戦でアトレティコに2-3の勝利を与えるゴールを決めるのを見ていたため、私も知っていましたけどね。ただ、その際にケガしたモラタは直後、リーガもCLもコロナ禍で中断。スペイン全土がconfinamiento(コンフィナミエント/外出禁止)になってしまったため、自宅で1人、リハビリをするという可哀そうな目に遭っただけでなく、再開後のCL準々決勝ライプツィヒ戦で控えだったのが気に入らず、ユベントス行きに繋がったという経緯がありましたからね。

それだけにあまり私も好感は持てないんですが、過去は過去。13分にもモラタが敵陣で奪ったボールをキッカケにオルモが繋ぎ、最後はオジャルサバル(レアル・ソシエダ)が決めて、5点目をゲットとなれば、もう大船に乗った気でいていい?相手は8000人ものサポーターにスタンドから後押しされていたものの、「延長戦で2度のチャンスに決められなくて、その後、no tuvimos fuerzas para regresar al partido/ノー・トゥビモス・フエルサス・パラ・レグレサール・アル・パルティードー(ウチは試合に戻る力が残っていなかった)」(モドリッチ)というクロアチアの反撃を後半も抑え、スペインが3-5で勝ち抜けとなりましたっけ。

「モラタはこれ以上やれることはないという程のことをしてくれた。守備に攻撃にフィジカル的に…lo ha hecho todo/ロー・ア・エッチョー・トードー(全てをやってくれた)」とルイス・エンリケ監督から、お褒めの言葉をもらっていた当人も幸い、今回はケガをしませんでしたしね。「Estoy muerto, estoy deseando llegar al vestuario y meterme en hielo/エストイ・ムエルトー、エストイ・デセアンドー・ジェガール・アル・ベストゥアリオ・イ・メテールメ・エン・イエロ(死ぬ程疲れてて、とにかくロッカールームに行って氷につかりたい)」(モラタ)だけだったのは、まだ先もあることですし、本当に良かったんじゃないでしょうか。

そして月曜は夜の時間帯でも熱戦が繰り広げられ、うーん、序盤にセフェロビッチ(ベンフィカ)のゴールで先制されながら、フランスは後半、ベンゼマの2得点で逆転。更にボグバ(マンチェスター・ユナイテッド)のgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)で3-1としながら、まるでスペインを真似するが如く、残り10分で再びセフェロビッチ、更にガブラノビッチ(ディナモ・ザグレブ)にも決められて、3-3でスイスに延長戦に持ち込ませる必要もなかったかとは思うんですけどね。ただ、こちらは延長戦でゴールが入らず、PK戦に突入。まさかスイスが5人成功した後、最後にエムバペ(PSG)がGKゾマー(ボルシア・メンヘングラッドバッハ)に止められて、2018年W杯王者が16強対決で姿を消すとは意外も意外だったかと。

おかげでスペインの準々決勝の相手はスイスとなったんですが、何せ、ここ2試合連続の5ゴールで今大会11得点とした彼らはいきなり、歴代最多得点記録チームになってしまいましたからね。イングランドがドイツを0-2で倒し、ウクライナがスウェーデンに1-2で競り勝って、ベスト8が出揃った翌日にはサンクトペテルブルクに移動し、ペトロフスキ・スタジアム(ゼニトの旧ホーム)で練習を始めた選手たちも大いに自信をつけているかと。ちなみにクロアチア戦でケガをしたガヤも水曜には全体練習に戻り、ルイス・エンリケ監督は負傷者なしで金曜午後6時(日本時間翌午前1時)からの試合に挑めるのに対して、ペトコビッチ監督のチームは中盤の要のシャカが累積警告で出場停止。

今のところ、グループリーグが行われたセビージャ以外ではあまり、スペインではいつものユーロの盛り上がりが見られず、マドリッドも静かなもんですが、何せ最後に優勝した2012年以来の準々決勝進出ですからね。その後の3大会での早期敗退のせいか、コロナ感染予防のためか、パブリックビューイングの噂すらないとはいえ、さすがに準決勝ぐらいまで行けば、市内でもファンが集まったりするんじゃないでしょうかね。

え、それにしたって、クロアチア戦が終わるのを待って、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が火曜に発表した東京オリンピックメンバーには驚かされなかったかって?その通りで何と、現在ユーロに参加中の6人、ウナイ・シモン、エリック・ガリシア、パウ・トーレス、ペドリ、オジャルサバル、オルモが名前を連ねているって、ちょっとお、彼らは一体、いつバケーションを取ったらいい?オリンピック代表チームは水曜にはもう、マドリッドに集合しており、デ・ラ・フエンテ監督は「Espero que se incorporen el día 12 después de ganar la final/エスペリ・ケ・セ・インコルポレン・エル・ディア・ドセ・デスプエス・デ・ガナール・ラ・フィナル(決勝に勝った後、12日に合流してくれることを願っている)」と言っていましたが、え、それって、ユーロが終わり次第、駆けつけろってことじゃないですか。

それこそリーグ終了後、CLやELの決勝があって、1週間の休みも取れていないパウやエリック・ガリシアなど、あまりにこき使われすぎじゃないかと思いますが、逆に18才と若すぎるペドリもそんなに過重労働させていいものかどうか。まあ、このオリンピック出場権を勝ち取った2019年U21ユーロ優勝メンバーにはクラブが参加を許可してくれないフェラン、ロドリ(マンチェスター・シテイ)、ファビアン・ルイス(ナポリ)、ボルハ・マジョラル(ローマ)などもいて、政府により、強制派遣となるスペイン国内クラブを中心に先月開催の2021年U21ユーロメンバーからもククレジャ(ヘタフェ)やミンゲサ(バルサ)、プアド(エスパニョール)など、元気いっぱいな11人が招集。オーバーエイジ枠ではユーロに参加していないアセンシオ(マドリー)、セバージョス(アーセナルへのレンタル移籍からマドリーに復帰)、ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)もいますけどね。

チームの予定の方も見ておくと、水曜午後には日本にちょっとだけ暑さが似ているベニドロム(スペイン南東部)に移動、そちらで練習した後、13日には日本に向かい、神戸で親善試合。17日にはグループリーグ初戦のある札幌入りして、22日にエジプト戦、25日にオーストラリア戦、28日のアルゼンチン戦だけが埼玉で、もし決勝まで進んだから、終わるのは8月7日ですから、両大会出場の選手たちはどうやっても14日の週末から始まるリーガ開幕には間に合わないことになりますが…彼ら自身も「A mi me da igual quedarme sin vacaciones por ir a los Juegos de Tokyo/ア・ミー・メ・ダ・イグアル・ケダールメ・シン・バカシオネス・ポル・イル・ア・ロス・フエゴス・デ・トキオ(日本でのオリンピックに行くためにバケーションがなくなっても気にならない)」(オジャルサバル)と言っているため、別にいいんですかね。

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