ようやくスタジアムに人が戻った…/原ゆみこのマドリッド

2021.06.06 22:45 Sun
「応援できてもファンにはゴールは入れられないのよね」そんな風に私が達観していたのは土曜日、マドリッド勢弟分同士のプレーオフ準決勝ガチンコ対決の2ndレグではブタルケに1500人が入れると読んだ時のことでした。いやあ、昨年6月に再開して以来、今季になってもずっと無観客試合が続いていたスペインリーガですが、5月半ばから、とうとう1部2部でもコロナ感染者の少ない州のスタジアムでファンの入場が解禁に。残念ながら、基準に達しなかったマドリッドは対象とならず、通常シーズンは無観客のまま終えたんですが、この1部昇格プレーオフではファンの入場が認められ、日曜開催となるレガネスなど、ファンの復帰に備えるプロモビデオまで作成する余裕があったんですけどね。

おまけにインターネットで予約を受け付け、abonado(アボナードー/年間チケット購入者)歴の長い順に割り当てたチケットは無料と至れり尽くせりだったんですが、いえ、大体がして、先週、ブタルケではコパ・デ・レイナ決勝のバルサvsレバンテ戦(4-2)が開催され、それも含めて女子の試合は今季ずっとキャパ制限ありの有観客。よって、その日も3000人以上のファンを迎えていたため、シートなどはもうキレいになっていたと思うんですけどね。ただ、いくらラージョのイラオラ監督が「今はホームチームのアドバンテージが本当にある。満員でなくても、無人のスタンドから、200人、300人のファンがいるようになるのは…La diferencia es muy grande/ラ・ディフェレンシア・エス・ムイ・グランデ(違いはとても大きい)」と言っていたとはいえ、レガネスが1stレグの差を覆すのはほとんど奇跡に近いのでは?
とりあえず、まずは木曜にエスタディオ・バジェカスであった1stレグがどんな試合だったか、お伝えしていくことにすると、実はマドリッド当局が有観客を許可したのは当日のお昼頃で、それからラージョは大急ぎでチケットのオンライン販売を開始。ところが準備の時間があまりに短かったためか、3、4時間程の受付時間中にシステムが不具合を起こし、カードで25ユーロ(約3500円)のチケット代を払い込んだものの、確認メイルが届かないファンが続出したんですよ。私は早めにスタジアムに入っていたため、数十人のファンが列を作っているところしか見ていないんですが、キックオフ時刻間際にはもう大騒ぎになっていたようで、最後は皆、hoja de reclamacion/オハ・デ・レクラマシオン(クレーム用紙)に記入させられて、座席指定もなしで、874人のチケット購入者たちが、解放された正面スタンドになだれ込んでくることに。

もうこうなると、数席おきに座るソーシャルディスタンスも何もあったもんじゃありませんが、大丈夫。まだパラパラ人が入って来ていた前半は両チームとも慎重というか、不活発というか、スコアも0-0で終わります。でもねえ、最初は昨年3月8日のエルチェ戦以来の来場で、どこかぎこちなかったファンの応援がようやく、足並み揃ってきた後半30分近く、一気にラージョが畳みかけてきたから、ビックリしたの何のって。ええ、まずはイシのクロスをアルバロがゴール前から決めて先制すると、その3分後には途中出場していたベベがエリア前からシュートを撃って、2点目をゲット。それだけでもレガネスには大痛手でしたが、まさかロスタイムにもベベが接触プレーにより、肩を痛めたにも関わらず、根性で蹴った直接FKをGKリエスゴが弾ききれず、3点目を奪われているって、ファンの応援はそこまで影響ある?

実際、久々の有観客試合とあって、この日はスタジアムDJのゴールアナウンスも1点目、2点目はタイミングが何だか変で、3点目になって、ようやくちゃんと音楽とも合うようになった感じだったんですが、まったくねえ。シーズン最終節ではサラゴサに0-5とgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らわし、決定力が格段に改善されたかのように見えたのも空しく、前日の準決勝ジローナvsアルメリア戦同様、レガネスも1stレグで3-0という、かなり決定的に近い敗北を喫してしまうとは。
うーん、アシエル・ガリターノ監督は「Si ellos han podido marcar tres goles en 90 minutos, ¿por qué no nosotros?/シー・エジョス・アン・ポディードー・マルカル・トレス・ゴーレス・エン・ノベンタ・ミヌートス、ポル・ケ・ノー・ノソトロス(相手が90分で3ゴール入れられたのなら、何故、ウチにできないことがある?)」と言っていましたけどね。おまけに日本人ファンにとってはショックなことに、肉離れから回復して、先週末のサラゴサ戦で途中出場した柴崎岳選手はこの日、ベンチにも入っておらず。「いい感触じゃなかった」とガリターノ監督は説明していたんですが、どうやら日曜午後9時(日本時間翌午前4時)からの2ndレグにも出場できないよう。

せっかくのレガネスファンの前で初めてプレーを披露できるチャンスだっただけに、きっと当人も残念に思っているはずですが、こればっかりはねえ。ラージョの方もベベが出場できそうにありませんが、土曜にはやはり、1stレグの3点差を引っくり返せず、スコアレスドローでアルメリアが敗退。13日と20日に行われるプレーオフ決勝はジローナとラージョの対戦になりそうな気配ですが、一寸先が読めないのがサッカーですからね。総合スコアで同点となった場合、延長戦はあっても、PK戦にはならず、リーガを上位で終えたレガネスが勝ち抜けるという規則も今季はあるようですし、果たしてブタルケでの決戦がどうなるのか、私も結末を見届けに行くつもりです。

え、それで金曜にはワンダ・メトロポリターノでも待望の有観客試合があったんだろうって?その通りで、いやあ、事前にお許しが出たのはキャパ30%の2万人だったんですが、30ユーロ(約4000円)からという、スペイン代表戦にしては高額なチケットが仇となったんですかねえ。表向きは当局から、1万5000人にするようにと言われたからだそうですが、もしや完売できずに観客の人数を減らした?ワンダはバジェカスより、ずっとスタンドが広いおかげもあって、私も左右に2シートずつ、空席のある状態で密を気にすることなく、コーナー寄りのピッチに近い位置で観戦できたんですが、普段、座っている3階のプレス席とは臨場感が雲泥の差。

折しも前日にはスロベニアでU21ユーロ準決勝を戦ったスペインがクエンカ(アルメリア)のオウンゴールでポルトガルに0-1と負け、奇しくも兄貴分が2016年最後のユーロ王者に親善試合でリベンジに挑むのをこんなかぶりつきで見られるのかとワクワクしたんですが、まあ、現実はそう甘くないですよね。ご当地選手のコケが蹴りに来るだろうと楽しみにしていたCKは当人が先発しなかったため、代わりにサラビア(PSG)やチアゴ・アルカンタラ(リバプール)が担当しているし、スタメンだったマルコス・ジョレンテも右SBに任命されて、前半は対角線上の遥か彼方でプレー。ポルトガルでもジョアン・フェリックスは前線左サイドと全然、アトレティコの選手たちが自分のいる側に現れないんですから、まったくツイていない。そこへクリスチアーノ・ロナウド(ユベントス)へのpito(ピト/ブーイング)ばかりが耳についた45分間、両者無得点で終わってしまっては、やはりまだ、久々の応援に慣れていなかったファンたちが盛り上がるキッカケを掴めないのも仕方なかった?

それも22分、CKからフォンテ(リール)のヘッドによるゴールがファールで認められなかったための不幸中の幸いの結果だったんですが、ジョアンがポテ(スポルティングCP)に代わった後半もゴールは双方、遠かったですねえ。スペインはモラタ(ユベントス)、フェラン・トーレス(マンチェスター・シティ)、サラビアと前線のシュート精度が悪く、ロナウドも先日、レアル・マドリーの指揮官に復帰したアンチェロッティ監督が「クリスチアーノはキャリアの末期にあるのかと記者に尋ねられた時、そうだと言ったよ。何せ、今季はたった35ゴールしか入れてなくて、リズムが落ちているからね」と話していたのは単なるジョークですが、1対1になれる絶好機でボールコントロールに失敗してシュートできないとか、確かに往年の迫力はなかったかと。

結局、サラ(リーガで最多得点を挙げたスペイン人選手)のジェラール・モレノ(ビジャレアル)は終盤、入ったものの、ユーロではスタメンと予想されているダニ・オルモ(ライプツィヒ)には出番がなく、ロスタイム、最後のシュートもモラタがゴールバーに当ててしまい、そのまま試合は0-0で終了。いやあ、その際、親善なのにファンたちが「Echale huevos/エチャレ・ウエボス(根性見せろ)」と歌っていると思いきや、メロディが同じなだけで、「Morata qué malo eres/モラタ・ケ・マロ・エレス(モラタ、お前は何て下手なんだ)」と言っていたとは、いやはや。うーん、確かにアトレティコ時代にもここぞというシーンで彼がシュートを外してしまうことに頭にきていたファンがいるのも想像に難くないですが、それはダメですよ。

ルイス・エンリケ監督も「90分プレーした後、40メートル走って、GKもかわしたのに、枠に当てるという不運に見舞われた。Es para levantarse y ponerse a aplaudir/エス・パラ・レバンタールセ・イ・ポネールセ・ア・アプラウディル(これは立ち上がって拍手するべきところ)」と苦言を呈していましたが、ま、そういうのもスタンドが埋まったことによる諸刃の剣。ファンにも結構なお代を払って来たのにゴールが生まれず、歓喜を爆発させる機会がなかったフラストレーションがあったかもしれませんしね。多分、セビージャ(スペイン南部)のカルトゥーハでプレーするユーロのグループリーグでは皆、一体となって、スペインを応援してくれるはずなので、大丈夫だと思いますが、代表戦でまでゴール日照りを見せられたのは私もちょっと残念でしたっけ。

そして翌土曜には控え選手中心の練習をラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設でやった後、選手たちは日曜夜までオフに。一応、コロナ感染予防のバブル方式で合宿しているんですが、家族との面会などはできるようです。次は火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)から、ブタルケでリトアニアとの親善試合が組まれているんですが、ポルトガル戦で代表デビュー。後半34分にディエゴ・ジョレンテ(リーズ)に代わるなど、ケガが心配されていた、このユーロのためにスペイン国籍を取ったフランス人のラポール(マンチェスター・シティ)も「Llevaba tiempo sin jugar y he pedido el cambio por precaución/ジェババ・ティエンポー・シン・フガール・イ・エ・ペディードー・エル・カンビオ・ポル・プレカウシオン(しばらくプレーしていなくて、用心のために交代を頼んだ)」とのことで、問題はないのは朗報だったかと。

その他、金曜の試合には調整が間に合わなかったアダマ・トラオレ(ウォルバーハンプトン)も次は出られそうですし、とりあえず、リトアニア戦には快勝して、本番を迎えてほしいところ。ちなみにラポールの交代要請のため、ピッチに入るのを見送られたGKロベルト・サンチェス(ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン)とここ7試合、デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)を差し置いて、先発を務めているGKウナイ・シモン(アスレティック)はオリンピック代表候補にもなれる年齢で、U21ユーロが早く終わったデ・フエンテ監督は大人のユーロでプレーしなかった方を日本での戦いに呼ぶ意向とか。いやあ、こうも大会が多いとバケーションを取りっぱぐれる選手が出てきそうで、ちょっと心配ですね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している

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