まずは監督が動いた…/原ゆみこのマドリッド

2021.05.29 19:00 Sat
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「ちょっと時間かかるのかもね」そんな風に私が達観していたのは金曜日、ジダン監督が来季続投しない旨の発表があってから、刻々と後継候補の名前が変わっていくのに気づいた時のことでした。いやあ、先週末の土曜、アトレティコのリーガ優勝が決まり、レアル・マドリーが今季、無冠で終わることになったすぐ後には辞任宣言があるんじゃないかと言われていながら、結局、クラブの公告が出たのは木曜と少し間が空いたんですけどね。丁度、前日まで、候補一番手に挙げられていたアッレグリ監督がユベントスに戻ることが決まり、いきなりポッチェティーノ監督が浮上してきたところ、これも翌日になると、まだPSGとの契約が1年残っているのが障害に。

その間、2番手として、インテルを退団したコンテ監督、3番手以降に今季はRMカスティージャ(マドリーの2番目のチーム)を2部昇格プレーオフまで導いて、準決勝敗退してしまったラウール監督、同様にレアル・ソシエダBを率いて、こちらは見事、2部昇格を果たしたシャビ・アロンソ監督と名前は挙がっているんですが、若い2人にはまだ1部チームでの経験がないということで、あまりオッズは高くないよう。アラバ(バイエルンを契約満了で退団)の加入はさくさく発表されたものの、後任監督の方はすぐには決まらなさそうですが、対照的に変わり身の早さを見せてくれたのがマドリッドの弟分のヘタフェでした。

ええ、こちらは水曜にボルダラス監督のお別れ会見があり、彼はチームが2部にいた時に赴任し、そのシーズン中に1部復帰を達成。そこから4シーズン、今季こそ、あと1試合を残してようやく残留決定という苦しい戦いを余儀なくされたものの、2年前にはリーガ5位となり、昨季はEL32強対決でアヤックスを破る波乱を起こすことに。コロナによる中断をはさんだ後は16強対決でインテルに敗れて敗退、リーガも最終節でグラナダにEL出場枠を奪われるという残念な結果になってしまいましたが、満は持したか、いよいよ、格上のチームにチャレンジする時が来たようです。
それも「Todavía no hay nada cerrado definitivamente/トダビア・ノー・アイ・ナーダ・セラードー・デフィニティバメンテ(まだ何も完璧に決まったことはない)」と当人が会見で言いながら、翌日にはもう、メスタジャでプレゼン。「Vengo a intentar mejorar al Valencia/ベンゴ・ア・インテンタール・メホラル・アル・バレンシア(私はバレンシアをより良くするために来た)」と抱負を述べていましたが、いえいえ、ヘタフェだって負けていませんよ。

そう、アンヘル・トーレス会長は来週月曜頃までには後任をと言っていたんですが、もう翌日には2009年から11年までヘタフェを率いていたミチェル監督の復帰を発表。いやあ、最初に赴任したのはシーズン途中の4月で、RMカスティージャの監督を辞めた後、マドリーの役職からも離れ、フリーだった頃にはよくコリセウム・アルフォンソ・ペレスの側にある練習場に当時、在籍した息子のアドリアン(現サラゴサ)を見に来ていたため、チームの不調の折り、会長から、ビクトル・ムニョス監督の後任をやらないかと声が掛かったなんて話もあったんですけどね。
そのシーズンは17位で1部残留を果たし、翌年は6位となって、クラブを2度目のEL出場に導いてくれた監督ですし、その後もオリンピアコス、オリンピック・マルセイユ、マラガなどで経験を積んできましたからね。結構、期待できるんじゃないかと思いますが、何より、当人は「El Getafe siempre ha sido un equipo que ha jugado bien/エル・ヘタフェ・シエンプレ・ア・シードー・ウン・エキポ・ケ・ア・フガードー・ビエン(ヘタフェは常にいいプレーをするチームだった)。ボルダラス、シュステル、キケ・サンチェス・フローレス、ラウドルップ、私の下でさえもね」と言っていたものの、おそらく、1部でのここ4シーズン、しょっちゅう誰かがピッチに倒れているのがコリセウム・アルフォンソ・ペレスの日常。少なくとも20チーム中、どこよりファール数が多いという悪評は払拭できるのでは?

加えて、まだコロナもクラブの規制もほとんどなかった頃、私がよく見学に行っていた時代のミチェル監督のチームは練習時間も1時間程と、毎日3時間、みっちりトレーニングしていたボルダラス監督時代より、楽になりますしね。そしたら久保建英選手ももう1年、レンタル移籍を検討してもいい気になってくれる?一方でバレンシアへ行ったボルダラス監督も今は嬉しいでしょうが、何せ、あちらは昨季、フェラン・トーレス、パレホ、コケラン、ロドリゴ、チェリシェフ、ガメイロ、マンガラ、コンドグビアら、大量15選手を放出しながら、補強をしてもらえず、ハビ・ガルシア監督が10月には1度辞意を表明するという、訳ありのチームですからね。

その時は契約破棄金の300万ユーロ(約4億円)が払えず、残留したものの、最後は5月に伝家の宝刀、クラブ職員のボロ氏が7回目の代理監督出動となって、ようやく13位で終了。この夏もそんなに新戦力は来なさそうですが、え、今週は河岸を変えて大成功した選手を見ることができじゃないかって?その通りで、この水曜にはEL決勝があったんですが、バレンシアから移籍したパレホとコケランがいるビジャレアルがマンチェスター・ユナイテッドに勝っちゃったんですよ。何せ、相手は32強対決でレアル・ソシエダ、準々決勝ではグラナダを共に総合スコア0-4で下して、スペイン勢の天敵になっていましたからね。私もあまり期待はしていなかったものの、一応、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に足を運んだところ…。

いやあ、さすがセビージャ時代、前人未踏のEL3連覇を達成したウナイ・エメリ監督と言いますか、彼らはプレミアリーグ2位の強豪相手に先制点を許さず。それどころか、前半29分にはパレホの蹴ったFKを今季のサラ(スペイン人選手の中でのリーガ得点王)であるジェラール・モレノが押し込んで、ゴールを奪ってしまったから、ビックリしたの何のって。ただ、そのリードは後半10分、CKから始まったプレーでラッシュフォードのシュートがペドラサに当たり、こぼれたボールをカバーニに決められて、水の泡となってしまいましたが、やっぱりこの決勝はファンの入場が認められたのが大きかった?ロイグ会長こそ、コロナ感染後、PCR検査陰性となってからまだ日が浅いという理由でUEFAに門前払いされ、即日、グダニスク(ポーランド)からUターンしていたものの、初の決勝出場に張り切って応援に駆けつけた2100人の黄色をまとったサポーターがスタンドから大声援。

そのおかげもあったか、後半の残りを無得点で凌ぐと、延長戦でも耐えて、とうとうPK戦に突入したのはいいんですが、いやあ、凄いもん見ちゃいましたよ。だってえ、先行のビジャレアルがジェラール・モレノ、ラバ、パコ・アルカセル、アルベルト・モレノ、パレホの5人が成功した後、それまでマタ、テレス、ブルーノ・フェルナンデス、ラッシュフォードが入れていたマンチェスター・ユナイテッドも5人目カバーニがしっかり決めて、勝負はサドンデスに。ここまでは監督に選ばれた信頼できるキッカーだったため、理解はできるとはいえ、その後もモイ・ゴメス、「Desde infantiles no tiraba un penalti/デスデ・インガンティレス・ノー・ティラバ・ウン・ペナルティ(年少チームの時からPKは蹴っていない)」アルビオル、コケラン、マリオ・ガスパル、パウ・トーレス、そしてGKルリまで、延長戦後半終了時に出ていた11人全員が成功しているんですよ。

同時に相手もフレジ、ジェームス、ショー、トゥアンゼベ、リンデロフと皆ゴールで、いよいよ最後はGKデ・ヘアの番。その時はもし、これで決まらなかった、次は控え選手が蹴るのだろうかとか、選手が尽きたら、コーチングスタッフが蹴るんだろうかとか、何せ、こんな延々と続くPK戦、初めて見ましたからね。かなり混乱していた私だったんですが、正解は「Estaba preparado por si marcaba De Gea y me tocaba volver a tirar/エスタバ・プレパラードー・ポル・シー・マルカバ・デ・ヘア・イ・メ・トカバ・ボルベル・ア・ティラール(デ・ヘアが決めた時に備えて、もう1回、蹴る準備をしていた)」(ジェラール・モレノ)。

そう、最初のキッカーに戻るはずだったんですが、大丈夫。「生まれて初めてPKを蹴ったよ。Pensé pegarle fuerte y que entre/ペンセ・ペガールレ・フエルテ・イ・ケ・エントレ(強く蹴ることと決めることだけ考えてた)」というルリがチームの11本目を決めた後、GKデ・ヘアのPKを弾いてくれたため、ビジャレアルがEL初優勝を遂げることに。いやあ、先日、スペインの警戒事態が終了し、バルの営業時間が24時まで伸びていたおかげもあって、私も最後まで時計を気にせず、見られたのも嬉しかったんですけどね。ちょっと心配なのは、ここ5年間、40本PKを撃たれて1本も止めていないデ・ヘアの立場で、スールシャール監督も前日練習ではPK戦の際にGKをディーン・ヘンダーソンに代えることも検討したそうですが、まさか蹴る方で失敗されてはねえ。

大体がして、アトレティコ系の選手はPK戦にツキがなく、2016年ミラノでのCL決勝では5人目にファンフランがゴールポストに当てて、優勝をお隣さんに譲ったり、2020年のスペイン・スーパーカップ決勝でもサウール、トマス(現アーセナル)が立て続けに失敗。マドリーに4-1でPK戦に負けていたり、そういえば、来週月曜にラス・ロサス(マドリッド郊外)のサッカー協会施設で始まるスペイン代表合宿で元同僚のデ・ヘアと再会するコケも2018年W杯16強対決ロシア戦のPK戦ではイアゴ・アスパス(セルタ)と共に失敗し、スペインの早期敗退の原因を作っていたりしますからね。その辺を思うと、「今年はPK練習をしなかった。Ha sido increíble y maravilloso que todos marquen/ア・シードー・インクレイブレ・イ・マラビジョーソス・ケ・トードス・マルケン(全員がゴールにするなんて信じられないし、素晴らしいことだ)」という、自身4度目のEL戴冠をしたエメリ監督の言葉ももっともだったかと。

ついでに言えば、翌日、ビジャレアル(スペイン西南部の町)に帰還したチームはオープンデッキバスに乗って、市内を祝勝パレードしていたのに、どうしてアトレティコはリーガ優勝でさせてもらえなかったのかとか、小さな文句はあるんですけどね。何にしろ、これで最終節ではマドリーに土壇場逆転負けを喰らい、7位でコンフェレンス・リーグ(来季から始まるUEFA第3の大会)に出場するはずだったビジャレアルも晴れてCL出場が決定。スペインはCLに5チーム参戦となり、コンフェレンス・リーグに行くパイオニアはなくなりましたっけ。

まあ、そんなこんなでこの先は土曜に、やはりスペイン代表ユーロ組であるマンチェスター・シティのロドリ、チアゴ・アルカンタラ、エリック・ガルシア、ラポール、チェルシーのアスピリクエタが出場するCL決勝があったりするんですが、要はイングランド勢同士の対戦ですからね。ジュラール・モレノ、パウ・トーレスとデ・ヘアのように吉凶、大きく分かれて、代表に来るのもちょっと何ですが、中にはジュレミー・ピノとフェル・ニーニョのようにグダニスクからマドリッドに直行。祝賀行事をスルーして、スペインU21代表に合流しないといけなかった気の毒な選手も。

ちなみにこちらは来週月曜から、ハンガリー・スロンベニア共催ユーロの決勝トーナメントがあり、3月にグループリーグを突破したスペインはマリボルで準々決勝クロアチア戦をプレーすることになっています。水曜にはコロナ陽性を出したモンカジョラ(オサスナ)に代わり、シーズン終盤、ジダン監督に頼りにされたRMカスティージャのブランコが追加招集されたため、ようやくマドリーの選手が弟分の方とはいえ、6月のスペイン代表に名前を連ねることができたのは良かったかと。U21ユーロは3日に準決勝、6日に決勝と進んでいくんですが、11日に開幕する大人のユーロ2020前には、A代表も4日にワンダ・メトロポリターノでポルトガル戦、8日にはブタルケでリトアニア戦と親善試合を開催。リーガは最後まで無観客だったマドリッドながら、キャパ30%の観客の入場が認められたのは、ファンにとって、いいニュースですよね。

え、それより今週末はいよいよリーガ2部にも決着がつくんだろうって?その通りで、日曜午後9時からの統合時間帯では8試合が開催。すでに1、2位で1部直接昇格するのはエスパニョールとマジョルカに決まっているんですが、3位から6位のプレーオフ出場はレガネス、アルメリア、ジローナが確定しているものの、順位は動く可能性があります。最後の一席はラージョとスポルティングの争いで、うーん、両者の差は勝ち点2あって、一応、マドリッドの弟分の方が有利ではあるんですけどね。ラージョの相手のルーゴは残留が懸かっていて、スポルティングの相手はプレーオフ組のアルメリアという辺りがちょっと、気にはなるところでしょうか。

ちなみに最近、イラオラ監督は正GKディミトリエフスキがプレーオフ時にユーロ初出場のマケドニア代表に招集されるのを見越して、ルカ・ジダンを使っているんですが、もしかしたら、エスタディオ・バジェカスに息子の勇姿を見に、ジダン監督が現れるなんてこともある?何せ、前回、マドリー監督を辞任した後の夏は、ラージョ・マハダオンダ(当時は2部、ラージョ・バジェカーノと兄弟関係ではない)でプレーする長男エンツォを見に、レガネスとのプレシーズンマッチ観戦に来ていたなんてこともありましたからね。当人が最後にマスコミに捕らえたのはバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場に私物回収と挨拶に訪れた水曜でしたが、今回はお別れ会見もありませんでしたし、何か妙に呆気なく去ってしまったと思うのは私だけでしょうか。

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