胃の痛くなる週末がやって来た…/原ゆみこのマドリッド

2021.05.08 17:00 Sat
「優勝した訳でもないのに、あんなに喜べるなんて凄い」そんな風に私が目を瞠っていたのは木曜日、EL準決勝2ndレグでビジャレアルがアーセナルとスコアレスドロー、先週の1stレグで2-1と勝っていたおかげで決勝の切符を勝ち取り、選手たちがエミレーツ・スタジアムのピッチで狂喜乱舞しているのを見た時のことでした。いやあ、2017-18シーズンにはアトレティコもアーセナルを破り、EL決勝に進出しているんですけどね。リヨンでオリンピック・マルセイユを倒して、3度目の戴冠となった時こそ、大騒ぎになっていましたが、準決勝2ndレグが行われたワンダ・メトロポリターノではそこまで派手には祝ってなかったかと。

まあ、一番の違いは2004年にUEFAカップでバレンシア、2006年はCLでアーセナル、2011年はELでポルト、2016年もELでリバプールと、これまで準決勝でことごとく負けていたビジャレアルにとって、初めてヨーロッパの大会の決勝に行けることになったという点ですけどね。逆に同日、ローマに2-3で負けたものの、1stレグで6-2と大勝していたのが吉と出て、ファイナリストとなったマンチェスター・ユナイテッドなどは昨季も準決勝まで進んで、最終的に王者となったセビージャに敗退。2017年にはモウリーニョ監督の下で優勝もしている、近年のEL強者ですし、とりわけ今季は32強対決でレアル・ソシエダを1stレグで0-4とボコボコにし、準々決勝でもグラナダに2試合共、2-0で勝つといったように、スペイン勢をカモにしてきたという経緯も。
それだけにセビージャで2014年から、前人未踏のEL3連覇を達成しているウナイ・エメリ監督をもってしても5月26日(水)、ポーランドのグダニスクで開催される決勝でマンチェスター・ユナイテッドを倒すというのは難しいんじゃないかと思いますが、さて。ちなみに会場のグダニスク・アレーナはスペインが黄金時代最後の優勝を遂げたユーロ2012でグループリーグをプレーしたスタジアムで、ビジャレアルのメンバーではアルビオルがイタリア、アイルランド、クロアチアとの3試合をベンチで見学。決勝トーナメントはずっと無観客だったものの、この大一番にはキャパの25%に当たる9500人が入れるということで、出場チームのファンにはそれぞれ2000枚ずつ、チケットが割り振られているんですが、ポーランド入国時にコロナワクチン接種証明書、もしくは48時間以内のPCR検査陰性証明書が必須と、もしやこれって、接種が猛スピードで進んでいるイギリス勢の方が有利?

それでも一生に一度の春のように盛り上がっているビジャレアル(スペイン南東部、バレンシアから1時間の町)から、万難を排して、応援に行くファンがいるのは間違いないかと思いますが、そういうのって、ちょっと羨ましい気も。何せ、その前日、CL準決勝2ndレグを終えたレアル・マドリーなど、同大会で13回も優勝していますからね。たとえ、イスタンブールでの決勝に進出が決まっていたとしても結構、選手たちやファンの反応はクールだったような気もしますが、今季はそれにすらあらず。ええ、スタンフォード・ブリッジではチェルシーに手も足も出ないどころか、敗退が決まった直後、アザールが2シーズン前、エメリ監督率いるアーセナルをEL決勝で4-1と破り、一緒にタイトルを獲った元同僚たちと笑いながら会話している映像が拡散して、顰蹙を買っている始末では…。

一応、その試合がどんなだったか、お話ししていくことにしましょうか。火曜のスペイン地方自治体選挙で立会人補欠に指名されていたマルセロは午前8時半に投票所に出頭したところ、正規の立会人が姿を見せず。あやうく投票時間中、拘束されそうなったものの、第2補欠だったマドリーファンのご婦人が交代を申し出てくれたため、無事にチームメートと同じ飛行機でロンドンに移動できることに。朝7時にPCR検査を受けたバルベルデも無事、2度目の陰性を出して、遠征に加わったんですが、どちらも先発ではありませんでした。予想されていた通り、ケガから復帰したばかりのセルヒオ・ラモスとメンディはスタメンに入ったんですが、一番のサプライズはビニシウスが右のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)として、プレーしていたこと。
うーん、ジダン監督も後で「Esta vez había que organizar el equipo de esta manera/エスタ・ベス・アビア・ケ・オルガニサール・エル・エキポ・デ・エスタ・マネラ(今回はこういう方法でチームを組まないといけなかった)。ビニシウスの得意なのは左サイドだが、右でもプレーできる」と言っていたんですけどね。ミリトン、ラモス、ナチョの3CB制で守備を強化したのと、アザールをどうしても使いたかったせいで、こんな形になってしまったようですが、まったく当たりませんでしたね。というのも1週間前のエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)での1stレグ同様、速攻カウンターに長けたチェルシーが序盤からGKクルトワに迫り、前半18分にはヴェルナーにシュートを決められていたから。

この時はオフサイドだったため、命拾いしたマドリーだったものの、ようやくベンゼマがGKメンディにparadon(パラドン/スーパーセブ)を強いたすぐ後の28分、今度はハヴァーツがvaselina(バセリーナ/ループシュート)。枠に弾かれたボールをヴェルルナーに誰もいないゴールへ頭で押し込まれてしまっては、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で応援していたファンたちが盛り下がってしまったのも当然だった?35分にもベンゼマのヘッドも弾かれてしまったマドリーは、慣れないポジションに全てが中途半端になってしまったビニシウスが、「監督から、やるべきことは聞いていたけど、no pude hacer tantas cosas buenas para el equipo/ノー・プデ・アセール・タンタス・コーサス・ブエナス・パラ・エル・エキポ(チームのためにそれ程、いいことはできなかった)」という状態でしたしね。決定機すら、あまり作れないとなれば、勝ち抜けに必要となった2点を取るなんて、絶対、ムリですって。

それこそ後半など、ハヴァーツ、チアゴ・シウバ、マウントらが次々とシュートを放ち、ゴールポストとクルトワの共闘で、「Retrasé el fracas/レトラセ・エル・フラカソ(敗北を遅らせた」(クルトワ)ものの、だんだん、その姿が私には逆転を目指して戦っていたアトレティコの16強対決2ndレグとかぶってきてねえ。前半のラモスに続いて、ナチョもイエローカードをもらったのを見て、退場者が出たらどうしようとか、セットプレー中にcodazo(コダソ/肘打ち)を見舞ったとされ、レッドカードを受けたサビッチなど、UEFAから来季のCL4試合出場停止処分を受けたんだぞとか、とりとめもなく思い出していたところ…。

止めはロスタイムではなく、40分にやって来ました。ええ、ヴェルナーから代わっていたプリシッチがゴール右前から落ち着いて出したラストパスをマウントが流し込んで、チェルシーが2点目をゲット。それでも奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)が売りのマドリーですから、最後の最後まではかない期待を抱いていたんですが、ダメでしたね。まったく存在感のなかったアザールをジダン監督がようやく見限り、43分に入ったマリアーノなど、ボールに触ったかどうかもわからないまま、試合は2-0で終了(総合スコア3-1)。ええ、マウントも「ウチは5点取っていてもおかしくなかった」と言っていたように、「ellos fueron mejores/エジョス・フエロン・メホーレス(相手の方が良かった)」(カセミロ)というのに誰も異議のない結末となりましたっけ。

まあ、おかげで私もアトレティコがダメダメだった訳ではなくて、トゥーヘル監督の指揮するチェルシーが異様に強かったんだと再確認することができたんですけどね。5月29日の決勝が2連勝でPSGを下したマンチェスター・シティとチェルシーのイギリス勢対決となり、渡航制限のあるトルコから、決勝会場がイギリス国内に変更になるかもしれないのはともかく、これでマドリーも全ての焦点をリーガに合わせてくるのは火を見るよりも明らか。そこで金曜には私も、まだ4チームに優勝の可能性がある中、いよいよバルサとの直接対決に挑むシメオネ監督のチームを偵察に、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場に行ってみたところ…。

いいニュースはヒメネス、ロディとケガをしていたメンバーもチームに合流し、土曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)からの試合には欠場者がいないこと。見学は開始から15分しかできないため、先発予定メンバーでのpartidillo(パルティディージョ/ミニゲーム)などがあったかどうかはわからないんですが、スポーツ紙の予想ではエルチェ戦での働きを認められたコンドグビアがスタメンリピートの可能性が高いとか。やはりメッシは怖いため、システムの方はまたサビッチ、ヒメネス(もしくはフェリペ)、エルモーソの3CB制が有力のようです。

攻撃陣では、シーズン後半戦はあまりゴール数が増えていないルイス・スアレスが昨季までの古巣に恩返しできるかどうかが気になるところ。そうなれば、これまでカンプ・ノウで勝ったことのないシメオネ監督も「Siempre hay una primera vez en la vida para todo/シエンプレ・アイ・ウナ・プリメーラ・ベス・エン・ラ・ビダ・パラ・トードー(どんなことでも常に人生では初めてということがある)」という言葉を実現できるかもしれません。練習場のスタンドに掲げられた横断幕に「Un gol en la memoria, otra gesta para la historia/ウン・ゴル・エン・ラ・メモリア、オトラ・ヘスタ・パラ・ラ・イストリア(記憶に残るゴール、ヒストリーのためにまた偉業を)」とあったように、2014年のリーガ優勝はゴディン(現カリアリ)のゴールでバルサと引分けて、カンプ・ノウで決まったことを思い起こせば、当時のメンバーはもうコケとヒメネスしかいないとはいえ、アトレティコもちょっとは強気になれるんじゃないでしょうか。

一方、バルサではグラナダ戦での退席処分でベンチ入り禁止2試合となったクーマン監督が、この対戦でも陣頭指揮は執れないんですが、「残り4試合全部に勝てば、優勝できるだろう」と当人は相変わらず楽観的。でもお、アトレティコはその通りなんですが、同じ勝ち点差2でつけていても、バルサはマドリーとの直接対決で負けているため、3位なんですよね。つまり、お隣さんも残り全勝した場合、1位はマドリーとなるんですが、もしかして、日曜午後9時(日本時間翌午前4時)にバルデベバス(バラハス空港の近く)に乗り込むセビージャに期待している?

いやあ、実はその、ロペテギ監督の率いるチームは今週の月曜のアスレティック戦、土壇場でウィリアムスにゴールを浴び、0-1と負けたため、首位との差が勝ち点6に拡大。クラブ史上2度目の優勝の夢が遠ざかってしまったショックをどう乗り越えるかといったところなんですが、正直、今季は延べ50人以上に及ぶ負傷禍に見舞われ、コロナ被害も多かったマドリーも主力の選手たちがかなり限界に近いですからね。金曜など、ラモス、バルベルデ、ビニシウスがジムに籠ってしまい、前者2人はチェルシー戦で復帰したばかりということもあって、不安が拭えませんが、こちらもCL敗退のショックから、いかに早く立ち直るかが、勝負のカギとなるかもしれません

そして弟分のヘタフェは土曜の午後2時(日本時間午後9時)から、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに最下位のエイバルを迎えるんですが、とりあえず、この試合に勝てば、ほぼ1部残留が確定しそうな感も。といっても相手は前節、アラベスにキケ・ガルシアのハットトリックで3-0と勝利し、ラストスパートで現在、勝ち点5ある残留ゾーンの17位との距離を覆そうと必死ですから、油断は禁物です。うーん、先週末はラ・セラミカでの試合に負け、木曜にはそれこそ、今季前半在籍していたビジャレアルがEL決勝進出で沸く姿を見ることになった久保建英選手など、今はちょっと身の振り方を誤ったかと少し、ブルーになっているかもしれませんけどね。ヘタフェが来季もマドリッドの兄貴分たちと肩を並べられるよう、力を貸すのも大事な仕事。出場時間が短くても何か、貢献できるといいですよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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